211話 遺跡を発見する
「あっちで氷漬けになっている魔物って、たぶん黒氷狼の上位種よね? 氷魔法が一切効かないはずなのに、なんで凍っているの?!」
「そんなこと、俺にもわからねえよ!」
「どれも出会ったらすぐに逃げなきゃいけない強さの魔物ばかりだが、俺たちが視認する前に氷漬けにされちまってるからな……」
既に、すっかりこの異常な状況に慣れてしまった〈烈剣〉の面々とは対照的に、今目の前で起こっていることに愕然としている冒険者たちのそばでは、彼らに守られて進むサナクが、先頭に立って道案内をするトトスに感動していた。
「この使い魔は、小さくてかわいらしいのに、素晴らしい能力を持っているでありますね! 一度も迷わずに進めるのは、魔力感知の他に空間把握能力を持っているからでしょうか? いや、それだけでは、今目の前で起こっている奇跡の説明がつきません。うむむむ、一体どうすれば、このような特殊能力を持つ使い魔が創り出せるのでありますか!?」
好奇心で目を爛々とさせた彼が、トトスを凝視している姿は、小動物を捕食しようとしている猫のようにしか見えず、かなり心臓に悪い。
目的地に着くまでの間、そんな光景をずっと後ろから見ていたしずくとネリネは、妙な不安に駆られて胸をドキドキさせていた。
その後も、一行は何度か休憩を挟みながら迷路を進んだ。
そんな彼らの目の前に、迷宮の壁に半ば飲み込まれた遺跡の入口が姿を現したのは、それから約一時間後のことだった。
「何の苦労もなく、あっさり到着したでありますね。強制転移された時は、魔物に出会う度に死にかけていたのが嘘のようでありますよ」
そうつぶやいて、サナクが遺跡を眺めるのに夢中になりはじめた隙に、しずくは急いでトトスを両手ですくい上げると、そっとコサギのかばんに入れた。
もちろん、道案内のお礼用に作った特製カレーパンを渡しておくことも忘れない。大喜びで受け取ったトトスは早速、はむはむとパンを頬張っていた。
『どうやら、この周辺には魔物がいないようね。遺跡に設置されていた結界石が、まだ生きているのかもしれないわ』
コサギの言葉を裏付けるように、マスターも「遺跡の中に魔物の気配はない」と断言する。
周囲を警戒しながら、あちこちが壊れた遺跡に近づき、特に罠などがないことをマスターが確かめると、しずくはようやく安心して息を吐いた。
先程まで、かばんの中でカレーパンを味わっていたトトスは、今は満腹になって、くうくうすぴすぴと、健やかな寝息を立てている。
周囲や遺跡の中が安全であることをコサギが告げると、トトスは〈薄暮の星〉と共に喜び勇んで中へと入っていった。
他の冒険者たちや〈烈剣〉の面々に続いて、しずくたちも遺跡の中に入る。
「この遺跡は神殿みたいきゅるね」
「でも、あちこち崩れちゃってるみたいだね」
「おそらく、迷宮に飲み込まれた時に破壊されてしまったのでしょう」
神殿は全て白っぽい石で作られており、天井はさほど高くないが、どの柱や壁にも、細かな装飾が施されている。おそらく、以前は目を奪われる程に美しい神殿だったのだろうが、今は至る所に破壊や崩落の跡があり、かつての美しさは見る影もない。
(この神殿を作った人たちが、今の状態を知ったら、きっと悲しむだろうな)
周囲を見渡しながらしみじみとそう思いつつ、しずくはさらに奥へと歩みを進めた。




