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第82話 鉄郎の遺志と倉稲の秘密

「ふんふんふん~♪」


 鼻歌を歌いながら、巻物の紐を解いていくコン。

 よく見ると、巻物の表題には見事な草書体で「倉稲乃歴史」と書かれている。

 表装は若草色でいい感じに色あせており、博物館に展示されている古文書みたいだ。


「ふふ、良い趣であろう?」


 丸テーブルの上に少しずつ巻物を広げていくコン。


「これが神託の巻物か……ワタシも初めて見るな」


 猫マークの入ったコーヒーカップを手に、巻物を覗き込む萌香。

 ヤマタノオロチは倒され、この階層のモンスターが復活するまで半日は掛かる。


 戦い終えた俺たちは、折り畳みテーブルと椅子をバックパックから取り出すと、休憩モードに突入していた。


「うっ、古文なんて読めないよぉ」

「ふふん、礼奈ちゃん余裕だし! ありおりはべりいまそかるぃ~!」

「……なんかダメそう」

「なにおう!」


 荷物からティラミス(リバイバルブーム)を取り出し、パクつき始めた理沙礼奈姉妹もすっかりリラックスモードだ。


「こ、これは! 原初のダンジョンたる倉稲洞穴の記録ですか!?」


 そんな中、巻物の序章を目にしたレラが驚きの声を上げる。


「うむ、だんじょんの萌芽ほうがについても書かれておるぞ!」


 コンも狐耳と尻尾を立てている。書かれている情報に興奮しているみたいだ。


「私たちダンジョン付喪神は原初のダンジョンが出来、しばらくの時を経て現界し始めましたので。あずかり知らぬことです」


「ご、ごくっ……」


 息を呑む俺たちの前で、巻物が紐解かれていく。


 ぱああっ

「む、これは!?」


 次の瞬間、コンが身に着けた巫女服の胸元がまばゆく光る。

 しゅるっ

 コンが胸元を緩めると、いつもコンが身に着けている勾玉があしらわれた首飾り。

 その勾玉の一つが光を放っており、コンがそいつを指でつまむと、フライパンに落としたバターの様に溶けた。


 キイイインッ

 溶けた光は、テーブルの上に広げられた巻物と一体になり空中に浮かんだ。


 ヴンッ


 一気に巻物が引き出され、幅一メートルほどの幕状になると、その中に光の像が浮かんだ。


「すごっ! 映像が出て来たよ! これってDVD画質かな?」

「いやいや、ハイビジョン画質っしょ」


 歓声を上げる理沙礼奈姉妹。順調に会話の内容が現代に近づいていているようだ。

 ……DVDがすでに30年近く現役であることにビビるが。


「……これは、倉稲ダンジョンの空撮映像か? かなり昔のモノのようだが」


 萌香の言う通り、映像の画質はそれなりに綺麗だがモノクロである。

 今と同じく、紙垂の掛けられた倉稲ダンジョンの入り口。

 だが、周囲にある屋敷の壁は真新しく、配電用の電線が今より格段に少ない。


「ふむ……信託の巻物に封じられた記憶が、勾玉を触媒に自動絵巻と化したのか?」


 ばっ


 コンが右手を振ると、映像に色が付いた。


「す、すごい!」


 途端に現実感が増す。青葉萌ゆる霊峰倉稲岳。

 青空の青が今より深い。倉稲地区に広がる農地が今より格段に広く……昔の映像であることが改めてわかる。


『ふむ、見ておるか? 統二よ』


 なんと、映像からじいちゃんの肉声が流れ始めた。


『よくぞここまでたどり着いた。さすが我が孫じゃな』


 久々に聞くじいちゃんの声に思わずしんみり……していたら、どこぞの魔王みたいなことを言い出した。

 こういう悪戯好きな所もじいちゃんらしい。


『いにしえの盟約に基づき、倉稲ダンジョンの付喪神にこの記録を託す。万一にも篤の奴に知られる訳にはいかんからな』


 なんと、この神託の巻物は、じいちゃんの仕込みらしい。

 倉稲ダンジョンの付喪神……つまりコンに託していたという事だ。

 確かに、倉稲ダンジョンを枯れたGランクダンジョンと侮り、俺に押し付けてきた篤さんがこの仕込みに気付くはずがない……とはいえ。


「……条件が複雑すぎるぞじいちゃん」


 コンが現界したこと、コンの神様レベル……そのほかにもいろいろな条件がありそうだ。

 我が祖父の事ながら少し呆れてしまう。

 そんな俺に構わず、映像の中でじいちゃんの語りは続く。


『終戦の日、倉稲村に出現した原初のダンジョン……ワシは何故ダンジョンが最初にこの地に出現したのか。長年研究を続けていた』

『倉稲の地は千年ほど前。後年【神の火】と呼ばれる隕石の落着により生み出された』


 どどどどどどっ


 映像が逆回しになり、倉稲地区の姿が険しい山に変化する。


 カッ!


 そこに一つ時の光が降りてきて、巨大な爆発を起こした。


『倉稲盆地を形成した隕石の大きさは、かの恐竜を滅ぼすきっかけになった隕石に匹敵したという。だが』


 全てを呑み込むかと思われた爆発は急速に小さくなり、空中に舞い上がった光の筋が豪快に弾ける。


 ぱあんっ


 数百、数千条に分かれた光は、流星の様に日本各地に降り注いでいく。

 爆発の後には、直径10キロメートルほどのクレーター状の盆地が残された。


『倉稲の地を手始めに、ダンジョンの萌芽があらゆるところに埋め込まれた。そして人々はその地に社を建立し、社は人の願いや想いを貯めこんでいった』


 映像が早送りされる。

 最初は何もなかった倉稲地区にが開墾され、どんどん建物が増えていく。


 ぎゅううんっ


 映像が大きくズームアウトし、グー○ルアースの様に日本列島が映し出される。

 鎌倉時代、室町時代、江戸時代……明治、大正。時代が下るにつれ、どんどん発展していく。


『じゃが、先の戦争で日本は大きなダメージを受けた』


 ドドドドドッ


 世界中を巻き込んだ二度の世界大戦。

 その末期に日本全土は苛烈な空襲を受け、都市のことごとくは焦土と化した。


『ここに至り、日本の神々は人々を救おうとした……とワシは考えている』


 ブンッ


 映像が屋敷の中庭に切り替わる。ぽっかりと口を開けた倉稲ダンジョンの入り口。


「うむ、うむうむ! 色々と思い出してきたぞっ!」


 ばばっ


 その時、コンが椅子から降りて地面に仁王立ちした。


「鉄郎は、神託の巻物が開封されると同時に、わらわの記憶が戻るようにしていたようじゃ」


「マジか……」


 じいちゃんはどこまで準備していたんだ? 探索者の始祖にして、頂点。そんな祖父の存在を改めて意識する。


 ごごごごごっ


 コンの琥珀色の頭髪が大きく広がり、僅か身長が伸びていく。


 ふぁさっ


 尻尾が三本に増え、コンの相貌がらんらんと光を放つ。


「鉄郎の推測した通りじゃ。各地に蒔かれただんじょんの萌芽は、千年の時を経て困窮した日ノ本の民に加護を届けるための依り代として使われることになったのじゃ!」


 80年の時を経て明かされるダンジョン発生の秘密……。

 何よりじいちゃんが鍛えた倉稲ダンジョンの付喪神様が語るのだ。

 圧倒的な説得力がそこにはあった。


「そして、アマテラスより遣わされしだんじょんの使者が……わらわたちだんじょん付喪神なのじゃっ!!」


 そうしてコンは両手を広げ……とびっきりのドヤ顔を浮かべるのだった。

書籍版の発売まであと一週間!


専門店や大型書店では統二たちのドタバタ日常を収録した特典SSも付きます。

是非予約してくださいね。

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