番外編3-1
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桜太の番外編です。
春になり、あと数週間で、俺は大学二年生になる。
まもなく春休みが終わる今日は、年に一回の華道家としてのイベントだ。
俺の家は華道家の家元で、俺はその家の一人息子だ。重責を感じながら、俺は和室に入る。
花を前に、心を落ち着かせようとする。
最近、邪念が多くて、集中できない。
俺の集中力を妨げる悩みは二つある。
一つは愛と季々のことだ。
冬に二人は彼氏が出来た。
愛は高校時代から知り合いの夏川海斗と、季々は大学で有名な冬木雪之助と付き合い始めた。
それは、良いことだ。
俺としても、友人が幸せになることは嬉しい。
しかし問題は彼女達の隙の多さと彼氏側の嫉妬深さだ。俺は思い出し、溜息をつきそうになった。
大学一年の夏休み、俺は愛達の水着選びに付き合わされた。
それを愛から聞いた海斗は、俺を呼び出し、肩を強めに叩いて、耳元でぼそっと牽制の言葉を言った。
この前は、講義が休講になり、季々と食堂で時間を潰していたら、目の笑ってない笑顔の雪之助と一緒にご飯を食べることになった。
毎回、凄まれる身にもなってほしい。
これが悩みの一つだ。
そして、二つ目は。
俺はなんとか、無事にイベントを終え、家の中庭でぼうっとしていた。すると、こちらに駆けてくる音と声が聞こえた。
「桜太!」
そして、すぐ後ろから衝撃を受ける。
思い切り抱きつかれたのだ。
俺の悩みの二つ目は、この彼女だ。
シャルロッテ・アーベル。ドイツ人だ。
学園祭で俺は華道のイベントに参加した。
そこで、華道に惚れ込んだシャルロッテに懐かれてしまったのだ。
事あるごとに、シャルロッテは俺につきまとってくる。
「ロッテ…頼むから、もう少し大人しくしてくれ」
「えー、だって桜太を見かけたんだもん。和室に佇む着物姿の桜太、超格好いい!」
俺の頭に頬ずりをした。
見た目は良いのに、中身は残念だ。
面倒なやつに見つかってしまった、とうんざりする。
日本文化をこよなく愛するシャルロッテに好感を抱いた両親は、彼女が家に出入りするのを黙認している。
日本文化を愛するシャルロッテは、華道を始め、着物や和食、日舞…様々な日本の物が大好きだ。
この前の休みに、寺に連れて行ったら、終始騒ぎまくり、警備員に注意される始末だった。
俺はシャルロッテを茶室に連れて行く。
彼女は興奮しながら、座布団に座る。
茶を点てる時と花を生ける時のシャルロッテは比較的大人しい。
今はまだ客人が家にいる為、大人しくしてもらわないと困ると思い、連れてきた。
シャルロッテはぎこちない作法で茶を飲む。
ほっ、と息を吐くシャルロッテ。
「桜太の手は魔法使いの手だね」
シャルロッテは急にそんなことを言い出す。
疑問を投げかけると、無邪気な笑みを返された。
「桜太はお花をより綺麗にする魔法もかけれるし、お茶をこんなに美味しく点てることも出来るもの」
桜太の魔法を身近で見れるなんて、私ったら恵まれているわ、と何故か得意げにシャルロッテは言う。
そんなシャルロッテに苦笑いをしながら、茶室に射し込む春の暖かな陽射しを感じていた。
「いつも日本文化を教えてもらっているお礼に今度はプレッツェルを作って持っていくわね」
シャルロッテは来週、5日間ドイツに戻るらしい。母に本場のプレッツェルの作り方を教えてもらうんだ、と躍起になっていた。
シャルロッテの家は、パン屋だ。
惣菜パンを興味津々になって、口にしていたのは記憶に新しい。
しばらく、シャルロッテから解放されると思うと、安堵の息が漏れる。
そんな俺を見て、シャルロッテは不満げに頬を膨らませるのだった。
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