第99話 バレスの町での攻防
「だいぶ!近付いてっ!来たかな?」
「だな!もう町の入口が!見えるはずだ」
シオンとエストが先頭を走り、放出系の精霊魔法を極力控え、身体強化を掛けて剣だけで戦っていた。
「エリーちゃん、大丈夫?」
「きつくなったら言ってくださいね」
「は、はい!」
リィナとレィナはエリーを中心に身体強化して、シオンとエストの後ろを走っていた。
リィナとレィナは前を走る二人の撃ち漏らしを精霊魔法で撃退していた。
エリーは元々の身体能力が低いので、走りながらの精霊魔法は難しいらしく、身体強化で皆に付いていくのがやっとの状態なのだ。
「そこの影に一回止まるぞ!」
エストが向かった先には町の壊されていない外壁だ。
周りには魔物の姿は一部崩れている場所があり、影になっていた。
一行はそこへ駆けこんだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「エリー、大丈夫か?」
「はぁ・・・はい、なんとか」
エリーは肩で息をしながらエストに返事を返す。
「それにしても思ったより魔物が少ないね」
「ですね。もっと多くの魔物がいると思っていたのですが」
リィナとレィナが話していると
「・・・あれって魔物の死骸?」
シオンが町の中を覗き込んでいた。
「・・・そうっぽいな」
シオンが見ていた方向をエストも見る。
「え?なんで魔物の死骸が町中にあるの?」
「・・・リィナ、そこだけではないみたいです。ほら、あっちにも同じようなのがあります」
レィナが言うように街中には魔物の死骸の山が幾つも転がっていた。
「確かに結構な数が死んでいるな」
「・・・よく見ると傷があるものとないものがある」
シオンが観察してそこに気付いた。
「衰弱死と殺された死体ってこと?」
レィナがそれっぽい死に方を言った。
「・・・その可能性はあるのか。でも、こちらとしては好都合だね」
シオンもリィナの意見には同意する部分もあった。
それにこれだけの数の魔物が死んでいるのなら、相手の戦力が減っているということなのだから。
「よし、一気に攻めるぞ」
エストが気合を入れたその時
「誰かそこにいるのか?」
突然野太い声が響いてきた。
影から声がした方を覗き見ると、小太りした人間がこちらに向かって浮いて移動をしてきていた。
「ねぇ、あれってあいつじゃない?」
「でも肌の色が違いますよ」
「・・・いや、あいつだ。ギリアムだ」
リィナとレィナ、そしてシオンは人間だった時のギリアムとアルマポールトで一度会ったことがあった。そして、その後、魔人化して消息不明になっていたはずだった。
「まさかあいつがバレスを?」
しかし、シオンはそのことに疑問に思った。
ギリアムは腐っても貿易に携わっていた人間だ。
そんな人間がこんなことをするとは考えづらかった。
「ねぇ、確かあいつが魔人化した時って・・・」
「っ!皆!散開!!」
リィナの言葉でシオンはそんな命令を出した。
その直後、周りの瓦礫からオオカミや熊の魔物が襲い掛かってきた。
散開したことで囲まれることは防げたが、シオン達はそれぞれ魔物と対峙することになる。
「やはりいたか。ん?お前達はいつかのガキ共じゃないか!」
ギリアムがシオン達を見つけるとそう叫んできた。
どうやらギリアムもシオン達のことを覚えていたようだ。
「お前達の所為で私の計画は邪魔されたんだからな。楽に死ねるとは思うなよ!!」
ギリアムはシオンとリィナとレィナに向かって魔物を仕向けさせた。
「っち!やっぱりこいつが魔物を操っている!」
シオンは魔物の攻撃を避け、切り伏せながら叫んだ。
「見たいっ!ですね!」
「でも!これくらいじゃ!」
リィナとレィナも華麗に避けながら魔物を討伐していく。
「はっ!」
シオンは風を纏った剣を地面に叩きつけると、暴風が前方へ魔物を切り刻みながら突き抜けていった。
「燃えちゃえ!」
リィナは短剣を地面に突き立て魔物達の地面の下から炎が噴き出した。
「砕けなさい!」
レィナが放つ水の矢に当たった魔物達は凍てつき、その場で砕け散っていく。
「くそ!!何なのだ!!貴様ら!!!」
ギリアムは魔物を多数同時に操っている。
例え、近場から集めた即席の魔物だとしても普通の冒険者ならとっくに殺し終えているはずなのに、シオン達は数をものとせずに対処していく。
「くそ!!・・・・ん?」
ギリアムが地団駄を踏み始めた時、視界の端にエリーの姿が映った。
「あの弱そうなガキを先にやれ!!」
ギリアムは魔物にエリーを狙うように仕向けた。
「っ!・・・えい!!」
エリーは最初は驚いたものの、地面に手を叩きつけると岩の槍がエリーの周りから突き出て来た。
近付こうとした魔物はその岩の槍に串刺しにされていく。
「妹に手を出すな!」
エストは隙を付き、ギリアムの背後に肉薄していた。
「はっ!」
エストが剣をギリアムの首目掛けて振るった。
しかし
キン!!
「その程度の剣では私に届かんぞ?」
ギリアムはエストの剣を避けることなく瘴気で受け止めていた。
「っ!!」
エストは咄嗟にバックステップで離れると、横からオオカミの魔物が襲い掛かってきた。
エストは魔物の攻撃を避けたが、魔物も直ぐに追撃を仕掛けようとすぐに方向転換してくる。
「させない!」
エリーの言葉と共にエストの前の地面が隆起して壁となった。
そこに魔物がぶつかる音が響く。
「吹き飛べ!!」
エストはエリーの創った壁に剣を突き刺す。
すると、壁が前方に瓦礫となって襲いかかった。
ぶつかった魔物は吹き飛び、瓦礫はギリアムに向かって吸い込まれる。しかし
「その程度か!」
ギリアムが腕を横に一閃振るうと瘴気が鞭のようにしなり、瓦礫を全てはたき落とす。
「これならどうかな?」
突然、ギリアムの上から炎球が複数襲いかかってくる。
「その程度の炎なぞっ!なにっ!?」
ギリアムは魔人となり、瘴気を操れるようになってから、魔法や魔物の攻撃は瘴気で無効化できることを知った。
しかし、リィナの放った魔法の炎球は無効化できなかった。
そのことからある一つの事を思い出す。
「貴様、巫女とやらだな!!」
ギリアムは攻撃を受け火傷を負った左手を押さえながら叫んだ。
ベッフェルからかつての魔人を封印した巫女の話を聞いたことがある。
それが、以前会った子供が巫女だとは思わなかったのだ。
「なら、私も本気を出すとしようか!!」
巫女の攻撃は防げない。
そう理解したギリアムはベッフェルから託されたものを使うことを決める。
「来い!黒龍よ!!」
ギリアムが叫ぶと辺り一面に巨大な影が映る。
シオン達が空を見上げると、巨大な黒龍がこちらを見ていた。
「し、シオン君・・・ヤバイかも」
「わわ、私もあれは・・・」
リィナとレィナが黒龍のあまりの大きさに戦意喪失しそうになっていた。
シオンは向こうが攻撃に映る前に一撃を入れようと、黒龍の周りにマナを集中させていた。
「撃ち抜け!!」
シオンが叫ぶと黒龍の周りに青白い雷が発生し、中心にいる黒龍を目掛けて襲いかかった。
『グゴオォォオオーー!!!』
黒龍は苦しそうな声を上げる。
しかし、黒龍はその雷の中から抜け出し、地上に降りてきた。
そして、今の攻撃を放ったシオンを睨み付けてきた。
「流石に倒せないか」
シオンは黒龍を倒すことが出来たとしても、その後の戦いに使うマナが残っているか不安だった。
だから、今の一撃にかけたのだが、黒龍を倒すには至らなかった。
シオンの傍には戦意喪失気味のリィナとレィナが寄り添い、エストとエリーも黒龍が放つ気迫に圧されていた。
「この程度か!この黒龍を倒さない限り貴様らはここで終わりだ!」
ギリアムは勝ちを確信したのか上機嫌だ。
「リィナ!レィナ!しっかりして!」
「「っ!」」
シオンの言葉に二人は気合いを入れようとする。しかし
『グオォオォォォ!!』
黒龍は咆哮をあげる。
その衝撃に皆は更に圧され気味になる。
咆哮をあげた後、黒龍は前足を地面に突き刺し、鉤爪で瓦礫を飛ばしてきた。
「ぐっ!」
シオンが障壁を張るが、耐えることができずに、瓦礫と一緒に吹き飛ばされてしまう。
シオンは何とか受け身を取るが、あちらこちらに打撲や傷がついていた。
周りには吹き飛ばされた時に逸れてしまったのか、リィナとレィナも苦しそうに立ち上がろうとしていた。
「いった・・・」
「こんな・・・ところで」
それを見ていたギリアムは黒龍にある命令を下した。
「先程私に火傷を負わせた罰だ。黒龍、あのガキを燃やせ」
ギリアムはリィナを指差し言った。
黒龍は命令に従い、リィナの方を向き、息を吸い込んだ。
「くそ!リィナ!」
シオンは痛む身体に鞭を打ってリィナの方へ行こうとする。
「はぁ・・・くっ、リィナ!逃げて!」
レィナは自分の傷を治癒しながら叫ぶ。
「っ!こんなところで死ねないの!!」
リィナはレィナの言うことを聞かずに座り込んだまま、手を前に突き出し、マナを収束させる。
「いっけーー!!」
痛みに耐えてリィナは巨大な炎球を黒龍に向かって放った。
その時、黒龍も黒炎のブレスをリィナに向かって吐いた。
リィナの炎球は黒炎のブレスに飲み込まれ、ブレスがリィナに迫ろうとしていた。
「私達を忘れるな!!」
エストの声と共にリィナがその場から忽然と姿を消す。
「なんだと!?」
ブレスはリィナがいた場所を通過し、町を破壊しながら外の砂漠へと流れていった。
「ノーム!お願い!!」
(任せて!)
エリーが両手を空へ向けると、先程の黒龍が放った瓦礫が数十個も宙に浮き始めた。
「えい!」
エリーが両手を振るとその瓦礫が黒龍目掛けて飛んで行った。
『グガァ!!』
瓦礫の幾つかが黒龍の顔に直撃し苦しみの声を上げる。
次の瞬間、黒龍が顔を隠すように身体を回転させた。
その勢いに乗った尻尾がエストとエリーのいる所を薙ぎ払おうとしてくる。
「降りるぞ!エリー!」
「はい!」
そう言った瞬間、先程のリィナと同様に二人は姿を消した。
いや、地面が陥没して薙ぎ払いを避けたのだ。
「リィナ!大丈夫!」
自分とシオンの最低限の治療を終えたレィナがリィナが落とされた穴に飛び込む。
「だ、大丈夫だよ」
リィナは打ち身が酷く、体を動かすのに苦労していた。
「今治しますから」
レィナは直ぐに治癒魔法を発動させる。
「やっぱレィナの魔法は暖かいね」
「それより黒龍をどうにかしないとあの男を倒せません」
「だよね・・・。黒龍をシオン君も入れてエスト君とエリーちゃんで抑えられるかな?」
「ですね・・・。治癒終わりました」
「ありがと」
二人は直ぐに穴から顔を出し、周りの状況を確認する。
「エスト!」
「わかっている!」
シオンが黒龍の鈎爪の振り下ろしを避け、鈎爪を追うように剣を高速で後ろから叩きつける。
鈎爪はそのまま地面を抉るように叩きつけられる。
その直後の僅かな隙にエストが黒龍の首を狙って剣を一閃させる。
キン!!
「ちっ!鱗が堅すぎる!」
そう言った時には黒龍が噛みつこうと口を開けていた。
ゴン!
『グガァ!!」
そこへ頭上からエリーが放った岩が口を閉ざすように当たる。
「エリー!砂嵐行くよ!」
「わかりました!」
シオンはエリーの近くに跳ぶ。エストもその言葉を聞いて黒龍から距離を取る。
「「せーの!」」
シオンとエリーが声を合わせて複合精霊魔法を放つ。
本来は双子であるリィナとレィナの様に波長みたいのが合わないと、精霊魔法とはいえ相殺してしまう。
だが、以前はシオンとレィナで複合精霊魔法を放ったことがあった。
この時はお互いに共有する時間が長くなり、好き合っているからこそできたものと考えていた。
今回はシオンとエリーで複合精霊魔法を放った。
これはエリーとの練習でシオンが発見したことなのだが、シオンは純粋過ぎるマナのため、他のマナに影響されやすい特質がある。
影響されてしまったマナ、つまりその人のマナと同質に染まってしまったマナとその人自身のマナで精霊魔法を放てば、波長があってしまうのだ。
結果、シオンは複合精霊魔法が誰とでも合わせられてしまうことが判明したのだ。
ただ、複合精霊魔法を放つにはその相手との相性もある。
エリーはシオンに好意を寄せているので、すぐに複合精霊魔法は成功したのだ。
今回、シオンとエリーが放った複合精霊魔法で現れたのは巨大な黒い竜巻だ。
黒龍はその竜巻を両手の鈎爪で抑えようとする。
ザザザァバキバキバキ!!
『グガァァァァァァ!!!!』
最初に何かを削るような音がした後、爪や鱗が次々と剥がれ、竜巻に飛ばされて粉末になっていく。
この竜巻は細かい金属の粉をエリーが集め、シオンの竜巻に上手く乗せた複合精霊魔法だ。
竜巻の中に細かい金属の粉が入ることで、竜巻で高速に加速した金属の粉が触れた物を削ってしまうのだ。
黒龍はその金属の粉に爪や鱗が削られ、脆くなり、剥がれてしまったのだ。
黒龍は翼で暴風を無理やり起こし、翼がボロボロになりながらも複合精霊魔法を相殺した。
今の攻撃で黒龍は両手と翼をほぼ失った。
このまま勝てると思ったその時
ゴオオォォォ!!
「「っ!!」」
黒龍の口からため時間無しで巨大な黒炎の球を出してきた。
シオンとエリーは勝てると少し油断していたため障壁が間に合うかわからない。
「間に合え!!」
シオンがそう言いつつも間に合わないと思った。
そして、シオンの目の前は次の瞬間、青白い炎に埋め尽くされた。
「「・・・・・え?」」
シオンとエリーの前には一人の男が青白い炎を纏った大剣を振り切った状態で立っていた。
「詰めが甘いぜ、シオン!!」
大剣を持った男、カイはシオンに向けてそう言った。




