第9話 初夜?
シオン達は宿屋に着くと、馬を脇の動物小屋に繋ぎ、宿屋の扉を開けた。
「部屋を二つ取りたいのだが」
アルバルトは宿屋の主人にそう言うと
「何人部屋にしましょう?」
と聞いてきた。
シオンは男4人に、女2人なので4人部屋と2人部屋を頼むのかと思っていると
「3人部屋は二つあるか?」
と聞いた。宿屋の主人は
「ウチは2人部屋と4人部屋意外だと大部屋が一つあるだけですよ。どうします?」
「ふむ・・・二人部屋に3人泊まることは可能か?」
「へい、少し手狭になり、ベッド二つしかないですが可能ですよ」
「そうか。なら、2人部屋と4人部屋を一室ずつ頼む。できるだけ部屋は近いと助かるが」
「わかりやした。それなら2階の廊下の1番奥の左右の部屋はどうです?右側が2人部屋、左側が4人部屋になっております。どうでしょう?」
「ではそれを頼もう」
「お食事はどうします?」
「食事はこちらで用意するので問題はない。厨房をできたら借りたいのだが」
「それは問題ありません。勝手に使ってくだせい」
「了解した。お前たち。部屋に行くぞ」
アルバルトはそう言い2階の一番奥を目指す。
「アルバルトさん、さっきなんで2人部屋に3人泊まれるか聞いたのですか?」
さきほどの会話で疑問に思ったことを聞くと
「決まっているではないか、お前たち3人と我々で分けるためではないか」
「我々っていうのは?」
「もちろん我とユーグスとカイルだが?」
シオンは男部屋に入っていなかった。
「僕もそちらではないのですか?人数的にはそちらに泊まれると思うのですが」
「何を言っておるのだ?お前たちは婚約者同士だろう?一つの部屋で寝食するのは当然だろう?」
「え~・・・」
「嫌なのか?」
「嫌ってわけではないですが・・・」
「ならいいではないか」
アルバルトの中では同棲は決定事項らしくなっている。
(そういえばこんな状況なのに二人はやけに静かだなぁ)
とシオンは思い二人の方を見て見ると
「「ぽーーーー・・・」」
顔を真っ赤にして呆然としていた。
「旅立ち初日から・・・・」
「シオン君と・・・」
それから10数秒経って二人再起動するのであった。
因みになんで同じ3人同士なのに4人部屋を選んだかと少し文句を言おうしたら
「女と狭いベッドで寝るのはいいが、男同士だとむさくるしくなるだろうが!」
と怒鳴られてしまった。
なんか納得がいかない・・・。そっちに混ぜてくれてもいいじゃん。
そんなこんなでリィナとレィナの3人で一緒の部屋で寝る羽目になってしまったシオンは、今後もこの生活が続くかもしれないのなら、慣れておこうと心の中で諦めるのであった。
「シオン君・・・あの・・・」
「どうやって・・・寝ます?ベッドが二つしか・・・」
「僕は床で寝てもいいけ」
「「それはダメ!!」」
言っている途中で止められてしまった。
「だだだから、そのね?」
「ベッドを・・・その・・繋げて・・・一緒に寝ません?」
二人は顔を赤くしながらそう提案してきた。
「その・・・二人はいいの?」
「私たちは・・・まぁ・・・大丈夫・・・」
「恥ずかしいですけど・・・その・・・寝るだけでしたら・・・」
そして結局、ベッドを動かし繫げて3人で寝ることになった。
寝間着に着替えた二人は顔を赤くしてベッドの上に座っていた。もちろん着替えの時は見ないようにお互い背を向けていた。リィナの寝間着は薄いオレンジ色のワンピースだ。丈は少し短めで太ももが見えている。レィナの寝間着もリィナの寝間着の色違いの薄い水色をしている。胸の方も寝間着なだけあってゆったりしているため、胸の谷間が少し見えている。そんな二人を見てシオンは硬直していた。
(こんな可愛い子たちとこんな薄着で一緒に寝るのか?いや、眠れるのか?)
シオンはそんなことを考えていた。
そんなシオンに
「「ほら、こっち」」
二人はベッドの真ん中を空けてシオンをそこに呼ぼうとした。
シオンは二人に言われるがまま、二人の間に座った。
「とりあえず今日は」
「この配置で寝ましょう?」
二人にそういわれシオンはただ頷くだけであった。
3人は座ったまま今日あった出来事についていろいろ話していた。
「そういえば、アレティア様にもらった武器で質問なんだけど」
「ん?何?」
「シオン君の剣はわかるのですけど」
「なんで私が短剣で」
「私が短杖なんでしょう?」
「・・・恐らくだけど、二人の太陽と月のマナの特性からかもしれない」
「「特性?」」
「そう。太陽のマナは聖なる炎で敵を浄化するイメージがある。そして、月のマナは仲間を聖なる光で癒すイメージがある。というか里の森での瘴気の魔物と戦った時にそう思ったんだけどね」
「「たしかに・・・」」
「で、リィナは近接での戦闘はあんまりやっていないし、武器に関してもそこまで扱えるわけでない。けど、太陽のマナで攻撃役するときは前衛もやらなければならないことがあるかもしれない。そう考えると、非力な女性でも扱いやすい短剣にしたんだと思う。逆に癒しである月のマナは、太陽は攻撃のマナだとしたら、補助・回復に回ることが多くなるのかな?あの瘴気の魔物の動きを止めた氷のような魔法や、母さんを治癒した魔法みたいな、ね」
「確かに私は近接の戦闘はやったことないかな。でもこれからは少しはやっていけないのかな?」
「そうだね、旅するとなると体術も身に着けて損はないからね。レィナにもだけど身体強化の方と併用に体術は教えてあげるよ」
「そうね・・・。私も補助・回復だからと言って動けないのは嫌ですし・・・」
「そういうことだから二人とも、いや、僕自身も含め明日からも頑張ろう」
「「うん」」
そう言って3人は横になるのだった。
しかし、シオンにとっての戦いはここからだった。
最初は3人寄り添っていると言っても、腕が少し触れるかどうかだったのだが、リィナとレィナは寝た後にシオンの腕と足に抱き付くようにして絡めてきたのだ。
(ううーー・・・いい匂いはするし・・・柔らかいし・・・)
「ん・・」
「ふふ・・・」
二人はシオンに抱き付いた状態で熟睡してしまっている。しかも幸せそうに寝ているので起こすのが躊躇われた。
(このまま頑張って寝るしかないのかなぁ・・・はぁ・・・眠れるのかな・・・)
こうしてシオンの長い長い夜は更けていった。
翌朝、リィナとレィナはほぼ同時に起きた。
「「っ!!」」
シオンに抱き付いた状態で寝ていることに気付き顔を赤くした。
「私たち・・・もしかして・・・」
「一晩中抱き付いていた・・・?」
二人して顔を赤らめたままぶつぶつと呟いていた。
それから暫くして、シオンが目を覚ますと両腕両足は解放されていることに気付き、体を起こした。
(二人とも先に起きたのかな?)
そう思い目を擦りながら部屋を見渡すと
「!!」
「「え?」」
二人は確かに先に起きていた。
シオンが寝ている間に着替えてしまおうと寝間着を脱ぎ、白い下着を下にしか身に着けていない状態だった。二人は上の白い下着を手に持っている状態。
だからシオンの方を振り向いた時は隠すことをしていなかったので、型崩れをしていない胸の綺麗な膨らみも、ピンク色をした先端部分もシオンの視覚に入ってしまった。
「ご!ごめ!!」
シオンは慌てて目を逸らした。
「「・・・・・・・」」
でも二人からの反応は無く
「えーと・・・リィナ?レィナ?」
シオンが顔を背けたまま二人を名前で呼ぶと
「「ごごごごめんなさい!」」
と叫んだ。
「その・・あの・・・・ね?」
「シオン君まだ寝てたから・・・・その・・・」
「そうなの!先に着替えちゃおうと思って」
「そうなんです。別にやましいことをしていたわけではなくてですね!」
二人は見られたことに関してではなく、変な行為をしようとしていたのかと思われたと勘違いしていたらしい。
「二人ともいいから早く服を着てくれ!視線に困る!」
「「・・・あ!」」
二人は隠すことを忘れ抗議していることに気付き、顔を真っ赤にしながら、いそいそとシオンの後ろで着替えるのであった。
(はぁ・・・朝からすごいものを見てしまった・・・)
「おう、お前たちおはようさん!」
「「おはようございます」」
部屋を出るとアルバルトと騎士二人も丁度部屋を出てきたところだった。
「・・・おはようございます」
「「父上、おはようございます・・・」」
シオンはやや疲れた顔で、リィナとレィナは顔を伏せながら挨拶した。
「・・・まさか・・・お前たち・・・やってしまったのか?」
そんな3人の様子を見て、父親としてそう聞かざる得なかった。
「「「やっていません!!」」」
3人の声が朝の宿屋の廊下に響き渡るのであった。
「そのですね・・・朝トラブルが起きたといいますか・・・」
「トラブル?」
シオンが曖昧な説明していると
「シオン君は悪くないです」
「そうなの!シオン君は・・・その・・・被害者というか・・・」
「私たちの配慮が少し足りなかっただけですので・・・」
二人は顔を赤くしながら説明をした。
その説明でアルバルトは何かを察したらしい。
「シオン、そそっかしい娘たちで悪かったな・・・」
「いえ、その・・・そんなところも可愛いですから・・・」
「そう言ってくれると助かる・・・」
(本当に朝から疲れた)
シオンはそう思わずいられなかった。
その後、朝食をカイルが作り、4人部屋の方で皆揃って食べることになった。
「カイルさんは料理できるのですね」
シオンは感心してそう言うと
「ええ、まぁ・・・騎士なんかやっていますが、実家は料理店を経営しているものでして」
意外な事実だった。
「そうなんですね。それならこの味も納得いきます」
「そうだろう、我とは遠縁だが、王都でも結構大きな料理店で有名な店なのだ。カイルはそこの第2子に当たる。さすが料理店の息子なだけあって、騎士の中でも料理は確実にトップだろうな」
「恐縮です」
カイルは親戚とはいえ、国王である人から褒められ嬉しそうにした。
「朝食を食べ終わったら準備して出発するからそのつもりでな」
「「「わかりました」」」
アルバルトの言葉に3人で返事をした。
朝食を食べ終わり、一旦部屋に戻って、荷物を持ち準備するシオンたち。
「ねぇ・・・シオン君、ちょっといい?」
「なに、リィナ?」
「今日はその・・・私も前衛に出てみたいんだけどいいかな?」
「え?今日?」
「うん、今日」
突然の申し出に困ってしまったシオン。
「んーー・・・午前中は移動しながら身体強化と体術を少しは教えるけど・・・午後僕がサポートする形でいいならやってみる?」
シオンは危険が無いように配慮した案を伝えると
「うん、それでいい!」
と二つ返事で了承した。
「でシオン君、私はリィナのサポートを徹底してやってみてもいいですか?」
「ん?サポート?」
「そうです、昨日はシオン君が戦いやすいように足止めとか牽制していましたけど、今日はリィナ中心にそれをやってみたいんです」
「なるほど・・・なら僕は二人が危なくなりそうだったら手を出す形にした方がいいかな?」
「「お願い(します)」」
そうして今日の特訓内容も決まって、宿屋を出発をするのであった。