第63話 毒の治療
集落への魔物の襲撃は止まり、人々は喜びで賑わっていた。
「死者が出なくて本当に良かったです」
「そうだね。後はリシア達が戻ってくるのを待つだけかな」
レィナとシオンが話し合っていた。
運がいいことに、魔物の襲撃による被害は集落の外周付近の損壊と怪我人程度で済んだのだった。
「3人は大丈夫かな?」
「あいつらなら大丈夫だろ」
シオンが少し不安そうにしていると、カイが大丈夫と励ましてきた。
カイは蝙蝠の瘴魔は毒液にさえ気を付けていれば、そこまで苦戦はしないだろうと考えていたのだ。
「フレンさんの様子はどうですか?」
「うん。顔色も良くなってきたから大丈夫ね。後は安静にしていれば」
ユンクは隣で眠るフレンを見て微笑んだ。
ユンクは長の家に着くなり、フレンの側を離れずに看病していた。
バン!!
突然、長の家の扉が開いた。
「レィナ!リシアを見てやってくれ!!」
「リシアちゃんが・・・リシアちゃんが・・・」
外から血相を変えたフィルジアが飛び込んできた。後ろから息を切らせたルシルもいる。
そして、フィルジアに抱えられたリシアの姿に、中にいたものは息を飲んだ。
「り、リシア!!」
シオンは血相を変えて、リシアの顔を覗き込んだ。リシアは気を失っているらしく、返事がなかった。顔色も青白くてただことではないことは直ぐにわかった。
「と、とりあえずこっちへ!」
「あ、ああ」
ユンクは慌てて敷布を用意し、フィルジアは床に敷かれた布へとリシアを寝かせた。
「すぐに診ます!」
レィナはリシアの様態を見始めた。
「フィルジアさん!リシアはどうしたんです!?」
「倒したと思って油断したところに毒液の攻撃が当たってしまったんだ」
問い詰めるシオンを落ち着かせながら説明した。
「シオン君!一緒に診てもらってもいいですか!毒の浄化が!」
レィナは瘴気の浄化と傷の治療はやったことがあるが、毒の治療はやったことがないのだ。
「わかった!」
シオンもリシアの横に来て、診始めた。
「レィナ、マナを通じて解毒を教えるから、瘴気の浄化に集中して」
「わかりました!」
シオンが毒を浄化しようとしたら、瘴気に阻まれて浄化が出来なかったのだ。だから、レィナに瘴気の浄化をさせながら、シオンの毒の浄化の真似をしてもらうことにした。
二人で暫くの間、リシアに治癒魔法を掛け続ける。
だが、なかなか毒の浄化が上手く進まない。
「毒液が付着している服を脱がした方がいいじゃないかしら」
横で見ていたユンクが言った。
リシアの左肩部分は服が破れ、その周囲もぼろぼろになり、服も変色していた。
「そうですね。男性陣は出ていってください。シオン君はそのままでいいですから」
シオンが出て行ったら解毒が出来なくなるので、致し方なかった。
男性陣が出て行った後、リシアの上の服を脱がした。白く綺麗な素肌が肩から首や胸の辺りまで広がっていた。
「レィナ、患部に直接さっきの解毒の精霊魔法を当てて」
「わかりました」
レィナは肩や首、胸と黒く染まっている部分に解毒の精霊魔法とを掛けていく。
シオンもレィナの手に合わせ、補助を行っている。
徐々に黒く染まった部分は薄くなり、本来の色に戻っていく。
シオンはリシアの体内のマナや魔力の流れを感じ取り、毒が残っていないか確かめる。
「シオン君、どう?」
「うん、大丈夫そうだ」
「よかったー」
先程まで苦しそうだった息も落ち着いていた。
「とりあえずこの服を着させてあげて」
ルシルがリシアの荷物から服を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
シオンは受け取り、レィナと一緒に着させていく。
「シオン君、なんか変態さんみたいだよ」
その光景を見ていたリィナがそんな事を言った。
「義妹だから変な意識はしてないからね!」
「シオン君、そう言うと逆に怪しくなりますよ?」
「うっ」
レィナから指摘されて黙ってしまった。
「とりあえず、他の男性陣を呼んできましょうか」
ユンクが立ち上がり、外へと呼びにいった。
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「もう大丈夫なのか?」
男性陣が戻って来て、フィルジアが容態を聞いてきた。
「はい、毒も瘴気も浄化しました。今はまだ寝ていますが、このまま安静にしていれば回復すると思います」
シオンはリシアの状態を説明した。
「そうか。それは良かった」
フィルジアは安堵の息をついた。
「そっちのフレンはどうなんだ?」
カイが寝ているフレンを見て聞いた。
「最初よりは安定していますよ。さっき少し身動ぎしたので、もう少ししたら目を覚ますじゃないかと」
フレンを診ていたユンクが言った。
「そいつは良かった」
カイは嬉しいそうに笑った。
「で、いろいろあった様じゃが、そろそろ教えてはもらえんかの?」
今まで経緯を見ていた長のラングが声を掛けてきた。
それから、皆で入り口にいたゴーレムや地下深くで見た祭壇や神殿といった遺跡、そこに現れた巨大な黒い大蛇や魔神ベッフェル等のことを話した。
「そうか・・・、巨大な大蛇か・・・。のぅ、ユンク。その大蛇に何か感じたか?」
ラングはユンクに何かを確認するように質問した。
「・・・・・・白霊・・様かと思われます」
ユンクは言いづらそうに言った。
「・・・やはりそうか」
「長は何かを感じ取っていたのですか?」
ユンクはラングが何かを知っていたような素振りを見せたので聞き返した。
「そんな気がしただけじゃがの」
「何か他にあるのではないですか」
ユンクはまだ何かあるのではないかと考えていた。
「フレンにも確認したいことがある。この話はフレンが目を覚ましてから、皆に話そう」
ラングはフレンが起きてから話すと言ってきた。
「・・・わかりました」
ユンクは今はそれで納得した。
ユンクはフレンを自宅へと運ぶというので、シオンは運ぶのを手伝っていた。リシアはフィルジアが貸してもらっている小屋まで運んでくれている。
「シオン、ありがとう」
ユンクはシオンの隣を歩きお礼を言ってきた。
「来たばっかりなのにこんな面倒なことに巻き込んじゃって」
ユンクは肩を落とした。
「僕達は魔人の手がかりを探しに来たから、丁度良かったといえば丁度よかったけどね」
「そうだよ。いきなり情報というより本人がいたしね」
「そうですよ。気にしないでください」
後ろを歩くリィナとレィナからも気にしないでと声が掛かった。
「皆さん、ありがとう」
ユンクは改めてお礼を言った。
そのまま話しながら歩き、ユンクの家に到着した。ユンクの家は襲撃の被害は出ていなかった。
シオンはフレンをベッドに寝かせてリビングに戻った。
「皆さんは今日どうします?」
ユンクは今日どこに泊まるか聞いてきた。
「僕は今日リシアが気になるから向こうで寝るよ」
「私達はユンクさん一人だと大変かもしれないので、こっちに泊まります」
「え?いいのですか?3人で寝ると昨日聞いていたような・・・」
「うん。今日ぐらいはリシアちゃんにシオン君を貸そうかなって」
リィナとレィナはシオンがリシアのことを大切にしていることを知っているので、今日は我慢しようと二人で決めていた。
「二人とも、ありがとう」
シオンも二人の優しさが嬉しく、お礼を言った。
「だから」
「今日は最後に」
「っ!」
そう言って二人はシオンの両腕にぎゅっといつも以上に密着して来た。そして離れ際にシオンの頬にキスをして二人は離れた。
「うん!これで充電完了!」
「シオン君、おやすみなさい」
二人はそう言って当てられた部屋に顔を赤くしながら入っていった。
「ふふふ、本当にラブラブですね」
ユンクがそんな3人のやり取りを見て笑った。
「僕としては突然で頭が付いていけない時があるけどね」
シオンも照れ隠しで笑いながら答えた。
「じゃあ、シオン。今日はありがとう。おやすみなさい」
「こちらこそありがとう、おやすみ」
シオンはこうしてユンクの家を後にした。
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「お邪魔します」
シオンはカイ達が貸してもらっている小屋に来た。
「おっす、シオン」
「シオン、リシアは向こうの部屋で寝かしてあるぞ。今はルシルが近くで見てくれている」
小屋に入るなり、カイとフィルジアが出迎えてくれる。
小屋といっても3つ小部屋があり、それなりに広い。男女に別れて泊まっているようだ。
「フィルジアさん、ありがとうございます」
「それぐらいいいさ。それよりすまなかった。リシアを危険な目に遭わせてしまって。取り返しのつかないことになるところだった」
フィルジアは自分がいながらあの蝙蝠の瘴魔の最後の一撃を防げなかったことを謝ってきた。
「いえ、フィルジアさんが急いで運んでくれたので助かりましたから、逆に僕が感謝しなきゃですよ」
シオンも戦いとは危険と隣り合わせなのはわかっている。リシアも同じはずだ。今回はリシアが最後の最後で油断したと言ってもいいのだ。
「そう言ってもらえると助かる」
フィルジアは顔を上げて言ってきた。
「僕はリシアの様子を見に行ってきますね」
「ああ、そうしてやってくれ」
シオンはリシアの部屋へと向かった。
「失礼します」
「あら、シオンさん。いらっしゃい」
ルシルがベッドで寝ているリシアの傍の椅子に座っていた。
「ルシルさんもありがとうございます」
「いいわよ、これくらいなら。それとシオンさん、ごめんなさい」
ルシルは座ったまま頭を下げてきた。ルシルは部屋着なのかゆったりとした服を着ていた。座ったまま前かがみになると、大きな胸の谷間が見えてしまった。
「えっと・・・何がでしょうか?」
シオンは何に対して謝られているのか分からなかった。
「その・・・リシアちゃんを勝手に里から連れ出してしまって」
どうやらリシアを里から連れてきたことを言っているようだ。
「連れてこなければ、こんな目に遭わせずにすんだと思うと・・・」
ルシルは表情を暗くし下げた。
「ルシルさん、付いて行きたいってリシアが言ったんじゃないですか?」
「・・・どうしてそう思ったの?」
シオンはそんな予感がしていた。
「いえ、リシアならそう言って無理して付いて来たと思っただけですよ」
「まぁ・・・。シオン君の言う通りだけど・・・ね」
ルシルはまだ表情が暗かった。
「ルシルさんが面倒見てくれたんですよね?同じ女性として」
旅は大変なものだ。時には男女なんて関係なくなるときもある。リシアは自分達より一つ年下なだけに、より甘い部分があるだろう。恐らくルシルがそんなリシアの面倒を見てくれていたから、より一層にシオンに申し訳なく思ったのだろう。
「ルシルさん、リシアの夢を叶えてくれてありがとうございます。リシアは外の世界を見てみたいと昔言っていたんですよ」
「そうなんですか」
「そんな世界をカイさん、フィルジアさん、ルシルさんと一緒に見れたんですから、嬉しいはずです」
シオンはルシルの表情が少し明るくなったのが見えた。
「シオン君、ありがとね」
そう言ってルシルは立ち上がり背伸びをした。
「私はもう一つの部屋で寝るわね。リシアちゃんのこと頼むわね」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そしてこの部屋にリシアとシオンの二人だけになる。
「リシア・・・」
シオンはルシルが座っていた椅子に座り、リシアの頭を優しく撫でた。そして夜は更けていった。




