第47話 宴
「ふぅ・・・英雄・・・か」
シオンが目を覚ました日夜、シオンは一人湯船に浸かりながら、先程セネルから伝えられたことを考えていた。
「そこまで言われるのは筋違いのような気がするけど・・・」
クラーケンの触手を三人で二本切り落とし、撃退するのがやっとだったのだ。倒した訳ではない。
シオンが一人でそんなことを考えていると
「シオーン!」
フィーが飛んできた。
「どうしたの?」
フィーは先にリィナとレィナの時に一緒にお風呂に入っていたので、ここに来たことに疑問に思った。
「シオンと話したいことがあるの」
フィーはいつもと違い少し真剣な顔をしていた。
「何?」
シオンもそんなフィーに対して、真面目に聞く体制を取った。
「その前にちょっと触ってもいいかな?」
「ん?構わないけど」
「ありがと」
シオンの許可を取り、フィーは半分霊体化しシオンの胸の辺りに手を当てた。
「フィー?」
シオンは自分の中にフィーに覗き込まれている感覚がした。
「シオン、これわかる?」
フィーはシオンの中にある謎のマナに意識を向け聞いてきた。
「・・・なんだろう」
シオンは集中してフィーが意識している物を見つけ、疑問に思った。
「これね、シオンが寝ているときからあるの。害は無さそうだから放っておいたけど」
「こんなの前からあったけな?」
シオンは思い出そうとするが、心当たりは無い。
「前にシオンの中を覗いた時にはなかったよ」
「いつ覗いたの?」
「それはシオンが寝ている時に・・・はっ!」
フィーは勝手に覗いていたことを、ばらしていまった。
「まぁ、今後も覗いてもいいけど許可は欲しいかな」
「・・・はい、ごめんなさい」
「心配して見てくれてるからいいけどね。でも妖精族ってそんな能力あったっけ?」
シオンは他人のマナを勝手に覗ける妖精族なんて聞いたことがなかった。
「ん~?私は出来るよ?」
「・・・ま、いいか。とりあえずこのマナは違和感も感じないから大丈夫だと思う」
「それならいいけど」
フィーはシオンが大丈夫なら、大丈夫と思うことにした。
「もうすぐ上がるから、二人の方へ行ってていいよ」
「うん、わかった」
フィーはそう言って戻って行った。
「・・・うん、大丈夫だ。違和感というより安心感のほうが・・・」
シオンはフィーが教えてくれた謎のマナについて安心感の方が大きいような気がした。
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「さぁ!皆の者!この度アルマポールトは壊滅の危機を迎えようとしていた。しかし、この三人の若者達により最悪の魔物であるクラーケンを退けた!」
『おおおおぉおーーー!!』
クラークが港に設けた台の上で演説をしていた。
「不幸にもその戦いで二人が負傷したが、回復したため今回、感謝の心を込めて宴を開かせてもらうことにした!」
クラークの演説は続く。
「では、紹介しよう!シオン殿、リィナ殿、レィナ殿だ!!」
クラークの言葉でシオン達は舞台に上がった。
『うおおおぉぉぉぉーー!!』
上がった時に歓声が巻き起こった。
「ありがとーー!」
「お前らは英雄だーー!」
あちこちからそんな声が上がった。
「けっこう照れるね」
「確かにこれは照れますね」
「あははは・・・」
三人は以前の学校での出来事のようだと思った。
「では!始めるとしよう!グラスを持ってくれ!」
クラークは皆が飲み物を持ったか見渡した。
「それでは、乾杯!」
『乾杯!!』
こうして昼からの宴は始まった。
「シオン君、今回は本当にありがとう。改めてお礼を言わせてくれ」
「いえ、こちらもご心配お掛けしたようで」
クラークは何度もシオンにお礼を言っている。
「リィナさんもレィナさんも本当にありがとう」
「「いえ」」
二人にもお礼を言いまくっていた。
いつのまにか周りにもシオン達にお礼を言おうと人が集まりだしていた。
「お前さん達!ありがとな!」
「グリフォンも討伐したって話だし、本当に強いんだな!」
男性陣からは三人の強さについて話しかけて来ているので、心境的にはまだ楽だった。しかし
「あのシオン様って二人とはどうゆう関係なんですか?」
「付き合っているのですか?」
女性陣からはなぜかシオンとリィナ、レィナの関係を聞く人が多かった。
少し人が空いたときにシオンがリィナとレィナに聞きてみると
「恐らくシオン君を狙っているんだと思うよ」
「シオン君ほど強ければ色々稼ぎが出来ると考えているのでしょう」
「それにかっこいい方だしね」
「ですね」
「・・・・・・・」
二人からそう聞かされ狙われているのだと思うと、少し女性が怖くなった。
「でも、そんな心配はしないでいいよ」
「先程の女性達には私たちが婚約していると伝えましたから」
「そうなんだ」
どうやら釘を打っていたようだ。シオンはほっとした。
「シオン!この料理おいしいよ」
シオンの前で人から見えないようにして、フィーが魚料理を食べていた。
「うん、本当に美味しいね」
シオンも味わって食べる。
「気に入って貰えてよかった」
そう言いながらやって来たのは漁師さん達だった。
「こいつは漁師飯といって、漁師がよく作る海鮮料理なんだ」
「漁師ではないと作れないもの何ですか?」
話を聞いていたレィナが質問した。
「いや、料理だったら誰でも出来る。だが、これには水揚げしたばかりの新鮮な魚介が必要なんだ」
「だから、漁師がよく作るというわけですか」
「そうゆうこった」
その話を聞いたレィナはシオンに無言で目を見つめ、お願いしてきた。
内容は新鮮な魚介をたくさん買って異空間袋に保存して、というところだろう。
シオンも無言で頷いた。
「作り方って教えて貰ってもいいですか?」
「ああ、結構豪快なところもあるが、それで良ければいいぞ」
シオンは作り方を伝授してもらうことになった。
「やっぱこの町の料理は旨いな!」
「お、バルトさん!いつこっちに?」
「今朝着いたばっかだ。それよりこの宴はなんなのだ?」
「ああ、入り口やこの港をみればわかると思うが、魔物の襲撃があってな」
人混みの中からそんな会話が聞こえてきたのだが、シオンとリィナ、レィナはどこかで聞いた声のような気がした。
「ねぇ、何かすごく聞き覚えがある声がしたような気が」
「シオン君も?」
「実は私も・・・」
「その魔物の中にクラーケンていう化け物がいてよ。そいつを撃退してくれた英雄達にお礼を兼ねた宴なんだ」
「なるほど。その英雄というのはどいつなんだ?一目見てみたいからな」
「それなら向こうにいると思うぞ」
「わかった。感謝する」
そう言ってバルトという人物がシオン達の方へやって来た。
「「「・・・・・・・・」」」
「どうしたの?」
シオンとリィナ、レィナは絶句してバルトと呼ばれた人物を見ていた。フィーは三人が固まってしまったので不思議そうに聞いてきた。
「お!シオンにリィナとレィナじゃないか!やっぱりお前達だったか!」
バルトはそう言いながら寄ってきた。
「お?シオン君たちの知り合いかい?」
冒険者達がバルトと知り合いだと確認してくる。
「「な!何やっているんですか!?父上!?」」
「・・・やっぱりそうか」
リィナとレィナは声を上げ、シオンは何か納得した。
目の前にいるのは王都アルマブルクにいるはずのアルバルト国王なのだ。
しかし、頭にバンダナを巻き、服装も荒くれの戦士のような恰好をしている。
「アル」
「今は冒険者のバルトだぞ。そのような名前ではない」
シオンはアルバルトさんと呼ぼうとしたが、途中で遮られてしまった。
「・・・バルトさんはどうしてここに?」
シオンは呆れながら質問をした。
「うむ、お前達をここに向かわせたのは我だからな。いたら様子を見ようと来たのだ」
「そ、そうですか」
シオンはただの親ばかだと思った。
「シオン君、あのね、父上には昔から放浪癖があって」
「でも、こんなことしているとは思っていなかったですね」
二人は何処かに出かけているのは知っていたが、何をしているかまでは知らなかったのだ。
「それにしてもお前らクラーケンを撃退するなんてすごいではないか」
先程の町の人々から聞いたのか、興奮しながら話してきた。
「けっこう危なかったんだからね」
「そうですよ。シオン君がいなかったら、私死んでいたかもしれないのですから」
「そうなのか?」
アルバルト、いやバルトがシオンを見ながら聞いてくる。
「僕がなんとか助け出しましたが、結構ぎりぎりでした」
シオンはあの時、無理に無理を重ねて助け出したのだ。
「そうだよ。あの時のシオン君すごかったけど苦しそうだった」
その場で唯一シオンの姿を見ていたリィナが悲しそうな顔で話してきた。
「そうなのか・・・。それは悪いことを言ったな」
流石にその話で盛り上がるのは悪いと感じたらしい。
「まぁ、なんとかなりましたから大丈夫ですよ」
「いや、よくレィナを助けてくれた。ありがとう」
バルトは頭を下げてシオンにお礼を言った。
この後もバルトを交え、夜まで騒ぎは続いた。
シオンはまだ本調子ではないとのことで、少し早めに切り上げ休むことにしたが、遠くから宴でにぎわう人々の声が届くのであった。