番外編4:あり得ない物語の主人公
これにて三文小説の幕引きです。
夕日の映える街角の街頭に
吹き抜ける晩夏の風がやけに冷たい。
小径を歩くと野球少年が庭で素振りをしている音。
子どもが笑いあい帰路を急ぐ音。
他愛もない夫婦話譚の音。
港が凪ぎ、風がそよぐ音。
晩鐘の音。
懐かしく心地のよい音。音。
そんな音の見える午後6時前の夕日のみえる窓辺。
藍色の哀愁に塗れた愛を逆撫でに
するかのように今日の夜が東からやってくる。
乱文焦らし書かれた答に目を向けず
単純明快な問いにまだ迷っているふり。
体躯の錆は既に剥がれないものになっているし、感傷ほど傷に触るものはないと
今更ながら悟り語る。
虚偽は嫌いだけど、真実は面白くない。
日常を裏返しても日常しかなかったから、
誰かを演じて人のふり。
揺蕩う言葉を呑み込んで
残った処遇の羅列と配偶者。
献身。
誰かが教えてくれるずっとずっと前から
知ってた気がする。
憧憬とかそういうのは年老いてやっと
気づけるものなのだと、
過ぎきってしまった時の果てにあったものは
孤独と哀愁だけだったなんて、
宣う相手もいないのだけど。
僕も歳をとった。
もう孫は6歳になる。
娘は…僕より先に逝ってしまった
四年前の事だ。
愛した妻もとうの昔に先立った。
僕も、そろそろだとは思っている。
あぁ、あなたとの約束を
あなたは覚えているだろうか…?
ーどんなに歳をとっても、大きくなって、成人して、やがておじいさんになっても…あなたの事をきっと忘れません。もし、あなたが約束を覚えていてくれたなら、その時は、また会いましょう。ー
僕は覚えてますよ。
大きくなって、別の方と所帯を持って娘ができて、やがて孫もできた。
幸せだった。何一つ思い残すことは
ないと思った。
だけど、故に辛かった。
あなたを置いて一人幸せを手にするのが。
あなたを置いて一人で老いてゆくのが。
だからかもしれない。
妻と娘に先立たれ
喪失感の波に苛まれ
心が壊れそうになる。
きっと罰なのだ。
あなたを置いて一人幸せになった
僕への贖罪なのだ。
時々、僕はこの世界に必要なのか
と思うことがある。
恥ずかしい話、こんな老害既に社会のお荷物になっていることなど、とうの昔に自負している。
だが、自害するつもりはない。
生きることが社会のお荷物なるのなら、なってやる。
老害だろうがなんだっていい。
それが僕の性だ。
何十年も昔、
冬服の友人に会ってから
そう生きるようなった。
彼は今もあの寒空の駅にいるのだろうか
一人で老いることなく
全てから隔絶されたあの場所に
願うことならもう一度、彼に会いたい。
僕の唯一無二と云える友人に
彼は僕のことなど
きっと忘れてしまっているだろう。
『過去に囚われるな』と人は云うけれど
あの一夏の、いや正確には一夏では
ないのだけど、
あの体験が僕の中では一生なのだ。
…老人はおもむろに引き出しから
手帳を取り出す。…
ーHeld der unwahrscheinliche Geschichteー
…あり得ない物語の主人公か…
『彼に返さないとな…』
手帳を捲りながら耽っていると
『おじいちゃん!あそぼ!!』
『マイちゃん…』
『おじいちゃんなにみてるの?』
『これはね、神様が落とした
大切な物なんだ。』
『かみさま?かみさまって
ほんとーにいるの?』
『うんうん、いるとも。』
『おじいちゃんはあったことあるの⁉︎』
『あぁ、あるとも…』
『すごい!すごい!ねー!ねー!
かみさまってどんなひと?』
『そうだねー…気難しくて、ちょっぴり
ズボラだけど、とても優しくて誰よりも僕たちのことを知っていて、誰よりも僕たちの
ことを知らない、そんな誰よりも
人間らしい人…かな…?』
『ん〜!むずかしくてわかんないよ〜!』
『そうだね、
マイちゃんにはちょっと難しい話かもね…』
『じゃあ、そのほんだいじなんだ〜』
『手帳って云うんだよ。』
『かみさまの?
じゃあかえしてあげないとね!』
『うん…そうだね…でも、
もうおじいちゃんは神様に会えそうもない、だからマイちゃん…』
『ん…?なーにー?おじいちゃん』
『これをマイちゃんに
あげようと思うんだ。』
『えっ⁉︎でもそれかみさまのでしょ⁉︎
だめだよ!』
『そう、神様の手帳だ。だからもし、
これから先、マイちゃんが神様に会う日が来たら手帳を渡してほしいんだ。いいかい?いつも、肌身離さず持っておくんだ。きっと神様が守ってくれるから…』
『うん!わかった!かみさまにかえして
あげればいいんだね!!』
『マイちゃんはいい子だ…』
『えへへへ〜』
『そうだ、甘酒でも作ろう、
マイちゃん好きだろ…?』
『うん!だいすき!ありがとう!
ユウおじいちゃんもだいすき!』
誰かが言った。
この世界は、神様とか云う何かが書き連ねた三文小説そのものだ。
故にいつ終わりが来るかなんてのは神様とやらのご機嫌次第ってこと。
なら今はこの暖かくて心地のいいこの時間が永遠に続けばいいなとただ思うばかり。
番外編も含めて『re:born』っと云う作品は
終了です!!!
何故番外編でマイちゃんを登場させたか
何故色々な謎を残して終わらせたのか
それは察して頂けると幸いです!!
ともあれ!本当にここまで付き合って
下さった方々には感謝してもしきれません!
本当にありがとうございました!!!




