*予兆
「どういう事だ」
<いやホントごめん……>
青年は、かかってきた電話に眉をひそめる。
ここはアメリカ合衆国のニューヨーク州にある街、その一角のオープンカフェだ。州の中心都市ではないため、人混みはさほどなく高い建造物も多くはない。
足音と車の走る音とエンジン音が、まるでその街の音楽のようにむしろ心地よくもさえあった。
その角を曲がれば危険地帯だという境界線は、観光客には何1つとして知り得ない。そんな国だ。
青年は携帯を手に溜息を吐き、コーヒーを傾ける。
金のショートヘアに整った顔立ちと、映えるエメラルドの瞳。年齢の頃は25歳ほどだろうか。ソフトデニムのジーンズに、前開きの半袖シャツを合わせた恰好だ。中には黒のボディスーツを着ている。
スラリとした小柄な体型から、彼が傭兵であると容易に想像は出来ない。
<すまないが回収に行ってくれないか>
「GPSはどうした」
<どうも故障したみたいで発信が無いんだよ>
すまなそうな声に再び溜息を漏らす。
青年の名はベリル・レジデント。その世界ではかなり名の知れた傭兵だ。
電話の相手は、傭兵たちに様々なアイテムを卸している会社の広報課に所属している男性で、どうやらちょっとしたミスをしたらしい。
<こっちからもあんたの顔見知り送って探すからさ>
「どの店なのかも解らんのか」
<いくつかあって、バラバラに配送されたみたいなんだ>
「まったく」
ベリルは呆れて肩を落とし、通話を切って携帯をバックポケットに仕舞う。
「日本か……」
3度目の溜息と共に発した。