*重なり合う点
朝──
「え~? モデルガンを取りに行けってぇ?」
朝食を終えたナユタが、同じく食べ終わって小学校に行く合間にテレビゲームをしているアユタに声を上げる。
「いいじゃん。どうせ暇なんでしょ」
「生意気な……」
就職先も決まらずに暇ですよ~だ。ナユタは弟の背中に舌を出した。
好きで暇してるんじゃないんだもん、この就職難にあたしだって必死なんだぞ……と心の中で叫びながら駅に向かう。
閑静な住宅街の朝は通勤の男女が多く、時折すれ違う見知った顔の人々に軽い挨拶を交わしながら少女は朝の空気を味わっていた。
「!」
公園近くにさしかかったとき──ちらりと目の前に見覚えのある姿が視界に入り、慌てて公園に方向転換した。
「やば……」
会いたくない相手に会う処だった。
高校の頃に、別のクラスにいた男子生徒がしつこくアプローチしてきて煩わしかったのを思い出す。
「おい」
「!?」
後ろから呼び止められてビクリと体が強ばった。嫌だな~、という顔をしてゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、髪を金髪に染めた男。迷彩のチノパンを履き、ガムを噛みつつナユタを見下ろす。
「おまえ、いまオレ見て逃げた?」
「え、ううん。そんなことないよ」
引きつる笑顔で応える。
それが気に入らなかったのか、男は舌打ちしてナユタを殴りつけた。
「……っいた」
「おまえ、ずっと断ってたよな」
当り前じゃない、タイプじゃないんだもの……左頬を押さえて男を見やり、視線を伏せた。
彼女の中には誰も入り込めないほどに、とある人物が大きく心を占めている。こんな男に書き換えられるほど甘くはない。
「ムカツク」
男はナユタの視線に苛立ち、その腕を強く掴んで公園の奥に引きずっていった。
「ちょっ!? なにするのよ」
「うるせぇよ」
「だっ……誰か……」
ナユタは怖くなって声を振り絞った。
「声出すとまた殴るぜ」
その言葉に喉が詰まり、何をされるのか解らない不安に足が震える。
「! いた……」
公園の奥まで連れて行かれ、大きな木に叩きつけるように離された。
下品に見下ろしてくる男の目が気持ち悪い。逃げられないように腕を掴まれて、ますます男の口元が下品に歪んでいった。
「抵抗すんなよ」
胸元のボタンに手が伸ばされる。
「!? イヤ……っ」
蹴り飛ばしてやろうかと思った刹那──
「止めておけ」
「あぁ?」
背後から静かに放たれた言葉に、男は邪魔をされて腹が立ったのか、その顔は醜く歪んでいた。男の名は神崎と言い、182㎝の長身を活かしてえげつない事もやってきた。
初めからそんなに格好良くも無いけど……とナユタは心の中でつぶやく。
神崎は鬱陶しそうに振り向き、発した相手を睨み付けた。
「邪魔すんなよ。いいところなのによ」
「……!?」
ナユタは、神崎の肩越しに見えた姿に目を疑った。
「!」
相手も彼女を見て眉をひそめる。
「なんだぁ? 外人か。ここは日本だぜ」
「女性には優しくするものだ」
感情の起伏がまるで無い物言いに、神崎はさらに顔を歪めた。
「ぶっ飛ばされたいか!?」
すごんで掴みかかろうとした手をすっと掴まれ、素早く背中に回された。
「いててててっ」
「乱暴はいかん」
「ベリル!?」
再確認して声を上げたナユタに神崎は、
「知り合いなのか」と自分よりも背の低い外国人を睨み付けた。





