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密かに侯爵家乗っ取りを企む伯爵令嬢は、公爵令息と政略結婚する羽目になる  作者: 綴喜
一通りの流れスキャンダルから王女の結婚まで
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王太子の訪問=ジェイクの私室

 ジェイクのことを家族や同級生が口を揃えて『生真面目』だというが、本人はそう思っていない。ただの他称である。自分はもっと情熱的で思いもよらぬことが出来る男だと幼い時から思っていた。


 王城に自分専用の部屋がある。ただの侯爵令息のジェイクには有り得ない話だった。それがエリーゼ王女殿下と城下のカフェで偶然に出会い、恋をしたことで仮住まいとはいえ部屋を頂いている。ジェイクは王女の相手として注目されたための措置だったが、公爵令息にもない待遇に心は弾んでいた。


 それでも四家の話し合いでジェイクには心配が生まれた。

 父から受け継ぐ予定のサミュエルの土地のことしか知らないのに、南の領地などどうすれば良いのか。これはきっと王家がどうにかしてくれる。王女を困窮させることは無いはずだ。

 それよりもまだ幼い弟に領地を継げる力があるのか、自分が継いだ方が両親もサミュエルの領民も安心するのではないか。自分が王女に選ばれたことで残してしまうサミュエル領のことが心配だった。勉強などできる訳もなく、ソファーで悩んでいるとノックの音が聞こえた。

 食事の時間にはまだ早く、エリーゼ王女とは二人で会うことを許されていない。何の用かと緩慢にドアを開けると、そこにはエリーゼの兄がいた。上の、王太子のである。

 さすがに慌てて頭を下げると、王太子はジェイクの肩をポンポンと叩き入横をすり抜けてジェイクの部屋に入った。もちろん一人ではなく、後ろには護衛の騎士がいてジェイクは睨まれた。

「ちょっとお邪魔するよ。結婚式まではこちらで暮らすんだろ?生憎私にはあまり暇が無くてね。遅くなったが、妹が選んだ青年にご挨拶をしに来たんだ。」

 王太子は優雅にソファーに座ると、仏頂面の護衛はドアの前に立ちジェイクに王太子の元に行くように視線を投げた。ジェイクが王太子との対面に心臓をバクバクさせながら向かいに座ると、王太子がニコリと笑うのでぎこちなく笑顔を見せた。

「エリーゼの兄だ。妹が迷惑をかけるね。これから面倒をよろしく頼むよ。南の領地も君の父上の領地とは違って苦労することも多いだろうが、こちらも助力はするし契約書も用意した。王太子の私とジェイク君の契約だ。熟考して、サインしてくれたまえ。確認が終わるまでこのまま待つから。」

 エリーゼ似の王太子はジェイクにとって雲の上の存在で、その方が自分の名前を呼んだ。浮かれたジェイクはサインをして丁重に王太子にお渡しした。ちなみにまだ陛下にも王妃にも名前はおろか声を掛けられたことも無い。

「お待たせしました、王太子殿下。わざわざお越しいただき、ありがとうございます。」

「おや?」

 すぐさま書面を返された王太子は意外そうにジェイクを見た後、笑みを深くして書類を騎士に手渡した。

「君は生真面目だと聞いていたけど、どうやら違うようだね。」

 王太子の言葉にジェイクの心は天まで昇った。

「私もそう思っております。周りが言うだけなのです。」

 ジェイクが意気込んで言葉を返すと、クスクスと王太子に笑われる。エリーゼそっくりな笑みに、ジェイクの口元が緩んだ。

「あ、そろそろ時間だ。悪いが失礼するよ。結婚式には参加しようと思っているから、よろしくね。」

 もう少しお話しすれば味方になってくれる。両親よりも強く、陛下にも意見していただける。そう思った途端に王太子に腰を上げられてジェイクは戸惑った。が、王太子は忙しいのだろう。王太子は見送りはいらないと扉の前で手を振ると、そのまま出て行かれた。

 次にお会いした時にエリーゼについてお話しすればいい。厳しい家庭教師が付けられ、せっかく通った学園も退学になることをジェイクはまだ知らない。


===

「ねぇ、あいつ君の顔見たよね?アリー、今日も廊下を綺麗にしてくれてありがとう。」

「見ましたね。」

 王太子は廊下を悠然と歩きながら使用人に手を振り、後ろに控える騎士に問いかける。騎士は慣れた様子で即答する。基本的に是しかないような質問をすることを王太子は好む。それをすぐに返すと王太子は機嫌が良くなる。

「だよね。けど反応しなかった。ジョン、メアリーは元気かい?」

「私の結婚パーティー来てたんですけどね。」

 騎士のため息の間も足は止まらず、王太子は執務室へ向かった。向かう間に王太子は出会う使用人や騎士には次々に声をかける。顔を覚えるのが異常に得意な王太子は人の機微にも聡い。スパイにもすぐ気付く稀有な男である。

「ローズの付き添いの記憶なんて、無いんでしょうね。」

「頭の中身無さそうだからな。」

 騎士はローガン。辺境伯の三男だ。つまりローズの従兄弟でジェイクにとっては王家に繋がるツテにもなる存在のはずだった。

「親戚になる男の顔は覚えなきゃダメだよね?王太子の護衛なのに?あいつ、すごいね。」

王太子がご機嫌になる一方で、ローガンは従姉妹の元婚約者を公に睨むようになれたことを密かに噛み締めた。

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