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そして、祝言が始まった。
「月島夏菜と蓮アドルフの婚礼の儀とする」
二人で、金屏風の前に座って、参列者の方々に見守られて盃を交わす。
アドルフは、袴を着て座っている。
「いや~、でも、かわいらしい嫁さんですね」
「夏菜は、かわいいだろ」
「そうだな、かわいい子だな」
夏菜は、おとなしく、頬を染めて座っている。
みんな、食事を食べて祝言は、一度終わった。
「アドルフ、ぼろが出なかったかしら?」
夏菜がそういった時の姿は、頬紅を塗って、おしろいを少しはたいて、口紅を軽く塗っている。アドルフにとっても化粧をした夏菜は初めてみる物だった。
「ねえ、アドルフ」
「ごめん、夏菜ちゃんが、きれいになっちゃったから、どうしていいのかわからなくなってしまった」
アドルフは、顔を抑えてそう言った。
「そ、そんなに変わったかしら?」
「女の子は、化粧すると変わるんだね」
夏菜を抱き寄せてそう言った。
「アドルフ、第二部の、宴もがんばりましょうね」
夏菜は、妙に気合が入っていた。
「もしかして、明姫の事を心配しているの?」
「今、会いに行ってくる」
明姫の元へ行くと、輝太郎が来ていた。
「女狐に、憑かれていた姿とまるで違うな、驚いた」
少し嫌味にそう言う輝太郎がいた。
(大丈夫かしら?)
夏菜は、ふすまに張り付いて訊いていた。
「輝助を殺したのは、あんたなんだ。いくら、きつねがやった事でも、私は、許さん。でも、生まれる子供には、罪は無い、かわいがってやる」
「よろしくお願いします」
明姫は頭を下げた。その瞬間、おもわず、戸を開けて。
「待ってください、輝太郎様、明姫は、無罪なんです。自分の容姿に自信が持てず、きつねを頼ったのは、いけない事です。でも、だれしも弱い部分に付け込まれることはあると思います。明姫も変わろうとしているんです。その姿を宴で見せます。だから、許してあげてください」
「この弱そうな嬢ちゃんが、何かできるなんて思えんな」
「できます。見ていてください」
夏菜は、強気でそう言った。
「夏菜ちゃんの頼みじゃ、仕方ないな、宴、楽しみにしているぞ」
輝太郎は、笑いながらそう言った。
「明姫、大丈夫ですか?」
「夏菜、あんな風にたんかを切っちゃって、輝太郎様に嫌われたりしたらどうするつもりだったの?」
「どうするも、こうするも、明姫の事で頭がいっぱいでしたわ」
夏菜は、へへへと頭に手をやる。
「夏菜は、強いな、成功するかもわからないものに賭けるなんて」
「私は、信じているから」
夏菜は、笑顔でそう言った。
「まあ、夏菜ったら」
明姫が微笑む。
〇 ◎ 〇
そして、宴の時間が来た。辺りの男達は、酒を飲み、ぐでんぐでんに酔っぱらっていた。夏菜は、酒は、あまり好きじゃないので、少しだけにした。
「めでたいね~、おかわり」
「アドルフも飲めよ~」
と絡んでいる酔っ払い達もいたが、宴は、酒の席なので、普通の事である。
「夏菜ちゃんは、ちっこいからお酒ダメかな?」
などと、冗談なのかけなしているのかわからない事を言われるので、困ってしまう。
酒に席を盛り上げるお座敷芸、その一つが明姫の琴である。
中盤になり、明姫の出番がやってきた。
「明姫って、きつね憑きの?」
「ひっこめ、ブス」
やはり、罵倒されている。それでも、明姫は前を向き、琴を奏でた。
コロテンシャン テンシャン コロテンシャンとむずかしい曲を弾いて行く。
辺りの人達は、酒を飲む手を止めて聞き入った。
「すげ~」
誰かがそう言った。終わるころには。
「明姫すげーじゃん」
「明姫、明姫」
応援されるまでになっていた。明姫は、微笑み、裏へ戻った。
「輝太郎様、見ましたか? あれが明姫の覚悟ですよ」
「すごかった。本当にあの弱気だった女がやったのか? 確かにきつねに勝つことが出来たのかもしれないな」
輝太郎は、酒を飲んでそう言った。
「女の強い、輝希国は、安泰だな」
大笑いしてそう言った。
その夜、夏菜は、アドルフと一緒にいた。月が輝く空の下、二人並んで縁側に座っていた。
「明姫、すごかったでしょう」
「うん、すごかった」
アドルフは、夏菜を抱き寄せた。
「ねえ、夏菜、俺、気が強くて、しっかり者で、少しおてんば。そんな、マイプチプリンセスと結婚出来て最高に幸せだよ」
「その、マイって何なの?」
「俺のって事」
優しく頭をなでられる。
「私、アドルフのプリンセスなの?」
「うん、正しくは、プチプリンセス」
アドルフとキスを交わした。
後に、明姫には、かわいい女の子が生まれ、姫としてかわいがられた。
夏菜は、最終的には、五人の子供を育てる、肝っ玉母さんになっていた。
それでも、夏菜と明姫の友情は続き、時々、アドルフがやきもちを妬いては、娘と息子に呆れられていた。
輝希国は、安泰を保ち、女が強い国として、有名になっていた。
(了)




