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そのうち、えんだんの日が来た。
「今日は、えんだんって言う物をするんでしょう?」
「ええっと、そうですよ、夏菜様、今回会う人は、夏菜様の将来の旦那様になる方ですよ、良い印象を持たせてくださいね」
「? なんで? だんなになる人には、イタズラしては行けないの? 一緒に遊んでも行けないの?」
「もちろんです」
花は、いつも以上に高級な白い着物を持って来てそう言う。その着物は、たくさんの色の花模様があった。小物は、金色の物が多い、何より、動きづらそうだ。
「これ、着るの?」
夏菜の頭の中では、動きづらい着物は、着物の中でも、最も嫌いな物で、いやだ、いやだ、と思っていた。
「夏菜様、逃げないで下さいね」
花は、怖い笑顔を浮べ、夏菜の肩をがっちりつかんだ。
(怖い!)
夏菜は、しぶしぶ着物を着せられた。
「今日は、城から出ては、いけませんよ」
「は~い」
しばらく大人しくして、縁側で赤トンボが飛ぶのを見ていた。
(ここで、じっとしていたら、お琴や舞の稽古をさせられるんじゃないかな、こっそり逃げよう)
庭には、逃げ道があった。それは、庭師の出入り口だ。夏菜は、こっそり、庭から出ることに成功した。しかし、花革国は、森ばかり、動きやすい恰好ならいくらでも楽しめる、だが、今日は、動きづらい着物だ。
(どうしよう)
夏菜は、しばらく森を歩いた。今日の下駄は、特に歩きづらいと思っていた。
そこで、チーチーと鳴く鳥がいた。
「鳥さん、こんにちは」
よく見ると、木の上で、子供にエサをあげているようだ。茶色い羽の大きな母鳥と、まだ、羽の生えそろっていない雛鳥がいた。
「そうか、巣があったのね」
喜んで、見つめていると、雛鳥が、落ちて来た。
(受け取らなくちゃ)
体は反応した。けれど、着物が邪魔をして、動けなかった。
(雛が死んじゃう!)
そう思って、目を開けると、チーチーと声が目の前でする。
「危なっかしいな」
雛を受け取ったのは、金髪で黒い目をしていて、鼻筋がすっとしている。見たこともない位ステキな男の子だった。
「大丈夫? ちゃんと捕まえたから」
ニコリと笑い、夏菜を見つめる。
「あっ、あの~」
「ん? ああ、今、巣に戻すから」
美しい金髪の男の子は、何もなかったかのように笑い、迷わず木を登った。夏菜の様に素早く。
「はい、もう落ちないでね」
雛を巣に戻すと、また、夏菜の前に戻ってきた。
「これでいいね」
「うん」
夏菜は、頬が熱くなるのを感じた。心臓がドキドキ高鳴っていた。
(なんてきれいな髪なんだろう)
みとれていると。
「どうしたの?」
「あの~、きれいな髪ね、私、とっても気に入ったわ」
すると、金髪の男の子は、目を見開き。
「そう? そんなに良い物じゃないんだけど」
「そんなことない、ステキよ、今まで、私が見て来た人の髪の色で一番きれいな色をしているわ」
夏菜は、いつの間にかムキになっている自分に驚いた。
「ありがとう、君は、いい子なんだね」
金髪の男の子は、いつの間にか目の前からいなくなっていた。
(妖精って奴かな?)
心がこんなに乱されるのは、初めての事なので、戸惑った。
〇 ◎ 〇
夕焼けが照るころ、城に着いた。
「夏菜様、また、逃げ出したのですか?」
「うん」
「今日は、えんだんがあったのに、絶対破談だ」
「そうなると、お父さんもお母さんも困るの?」
「ああ」
父は不機嫌そうにそう言った。
「ごめんなさい」
夏菜は、虚ろな表情でそう言うと、大人しく部屋に入って行った。
(今日あった事は、誰にも言わないの、私だけの秘密、そうしないとあの妖精さんは、二度と出てきてくれないわ)
ワクワクした心でそう思った。
(あの森には、妖精がいるのよ)
寝間着に着がえさせられ、お月さまに向かってこう言った。
「また、妖精さんに会わせてね」
夏菜は、そのまま眠りについた。