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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第8章 敬太くんと獣人の赤ちゃん

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その26

 悪い獣人たちを敬太が撃退したおかげで、村人たちはいつものにぎやかさを取り戻しています。


 盛兵衛とおひさの家の近くにある原っぱでは、村の子供たちが集まって相撲大会を行っています。土俵の上では、岩五郎と勘太がふんどし姿で見合っています。


「はっけよい、のこった!」


 岩五郎は勘太のふんどしをつかむと、土俵の外へ出そうと寄り切ろうとします。一方、勘太のほうは足が土俵から出ないように必死に歯を食いしばっています。


「これでどうだ! おりゃあっ!」

「わわわっ! 土俵の外へ出てしまった」


 岩五郎は、自らの左腕を伸ばして勘太の胸を強く押しました。土俵際で耐えていた勘太ですが、岩五郎の押し出しに思わず尻餅をついてしまいました。


 この様子を見ていた村人たちは、次の取り組みに岩五郎と対戦する相手について、いろんなことを話しています。


「やっぱり、村の子供相撲の横綱は他の子供たちと違うなあ」

「でも、今年はどうかなあ。赤い腹掛けをつけた敬太という小さい子供が凄まじい強さを持っているみたいだし」

「あんな小さい体で、おれたちが手を出せなかった恐ろしい獣人たちの連中をやっつけたからなあ」


 子供相撲の横綱である岩五郎がこれから対戦するのは、腹掛け1枚で土俵に入った敬太です。岩五郎にとっては、敬太に相撲で負けたときのことがまだ頭の中に残っています。


「岩五郎くん、お互いにがんばろうね! だって、大好きなお相撲だもん!」

「敬太! この前は油断していたけど、今度は絶対負けないからな!」


 いつも元気で明るい敬太を前に、岩五郎は早くもムキになっています。土俵に入って見合ってからも、敬太と岩五郎の対照的な顔つきは変わりません。


「はっけよい、のこった」


 岩五郎は、大きな体を生かして敬太を押し出そうとします。しかし、相手は相撲が大の得意である敬太です。


「うぐぐぐぐっ! 何度押してもビクともしない……」


 毎日のように相撲の稽古を続ける敬太の前では、岩五郎の力で押す技は全く通用しません。この様子を見た敬太は、岩五郎のふんどしをつかんだままで一気に後ろへ投げ飛ばしました。


「い、いててててっ……。この前よりもさらに強くなっているなんて……」


 岩五郎は、敬太にあっけなく土をつけられてくやしさをにじませています。一方、子供相撲の新しい横綱となった敬太は、土俵の周りで見ている村人たちの前で力こぶを見せています。


 すると、村人の1人がふんどし姿になって土俵へ上がると、敬太に向かって声を掛けました。


「あんたの力だと、子供相手じゃもったいないだろう。わしら大人たちを相手に、どのくらいの力があるのか見たいものじゃ」


 その言葉に、敬太もすぐに応じることにしました。敬太の凄まじい力は、恐ろしい獣人たちだって投げ飛ばすほどの威力があります。


 けれども、村人たちの多くは敬太がどのくらいの力があるかまだ分かりません。


「子供相撲の横綱といえども、大人相手ではやっぱり荷が重いかな」

「それはまだ分からないぞ。小さい子供と思ってなめてかかったら、強烈なしっぺ返しを食らうかもしれないぞ」


 村人たちが敬太のことについて話し合っている中、土俵には図体の大きい男が敬太の前と向かい合っています。


「はっけよい、のこった」


 行司の掛け声に合わせて、敬太と大きい男は正面からぶつかっていきます。その瞬間、敬太の力いっぱいの強い押しで大きい男はあっという間に土俵の外に出されました。


 尻餅をついた大きい男は、小さい子供に負けてくやしい表情をにじませています。対照的に、赤い腹掛け姿の敬太はみんなの前で明るい笑顔を見せています。


「おおっ! ちびっ子が大人相手に圧倒するとは!」

「敬太という子がどこまでやれるか楽しみになってきたぞ」


 その間も、敬太はふんどし姿の大人たちを相手に次々と勝ち続けました。大人たちが本気を出しても、敬太の力技の前にあっけなく倒されてしまいました。


「敬太くん、がんばれ!」「絶対負けたらいけないぞ」

「ぼくたちも応援しているからね!」


 敬太は、いつもいっしょに遊ぶ子供たちからの声援を受けて次の相手を迎えます。その相手は、敬太たちによって助け出された獣人の牙吉です。


 牙吉を前にして、敬太は自信満々で取組に臨もうとしています。相手の牙吉のほうも、敬太と相撲で対戦することに何かの縁を感じています。


「敬太には何かとお世話になっているけど、土俵の上では獣人としての意地を見せてもらうぜ」

「大好きなお相撲だもん! 絶対に負けないようにがんばるぞ!」


 土俵で見合っている敬太と牙吉は、自分の力を相手に見せつけようと真剣です。そして、行司から掛け声が掛かると2人はお互いに正面から向かって行きました。


「ぐぐぐぐぐっ……。あれだけ押しても、なぜビクともしないのか」

「いつもお相撲の稽古を欠かさずにやっているもん! えいえいえ~いっ!」


 敬太は、力強い押しで牙吉を一気に土俵際まで押しだそうとします。しかし、牙吉もここで負けるわけにはいきません。


「こ、これでどうだ! おりゃあっ!」


 牙吉は腰を落とした状態で、自分の体をひねって敬太を土俵の外へ出そうと試みます。こうした中、敬太は土俵から出ないように両足を踏んばっています。


「これでどうだ! えいっ! えいっ! え~いっ!」

「わっ! わわわわわわわ~っ!」


 敬太は、てっぽうの稽古で鍛えた強烈な突きを牙吉に食らわせ続けました。あまりの凄まじさに、牙吉はなすすべもなく土俵の外へ出されてしまいました。


 思わず尻餅をついた牙吉は、敬太の小さな体から繰り出す強さに感心するしか他はありません。そんな牙吉に手を差し出したのは、自分と取組を行った敬太です。


「土俵での牙吉さんは本当にすごかったよ! ぼくも牙吉さんの技に思わず土俵の外へ出てしまいそうになったよ!」

「敬太くん、おれの力を認めてくれるとは……。うううっ、うううううっ……」


 敬太は、いつもの明るい笑顔で牙吉へのやさしさを見せています。その姿に、牙吉は思わず涙を流しています。


「牙吉さん、ぼくがこの村を離れてもずっと忘れないからね」


 敬太と牙吉は、お互いに手を握りしめました。それは、獣人の血を引いた2人が信頼していることを示すものです。


「敬太くん、おめでとう!」「敬太くん、横綱! 横綱!」

「小さい子供なのに、大人相手であっても本当に強いとはすごいなあ!」


 この村の横綱になった敬太に、子供からも大人からも大きな拍手が沸き起こりました。その中には、敬太がお世話になっている盛兵衛とおひさの姿も見えます。隣には、ゆう蔵を抱いているしのが座っています。


 敬太は、盛兵衛たちに向かって土俵の上でピョンピョン跳ねながら喜んでいます。これを見た盛兵衛たちは、あるものを両手で持ちながらそれに応えています。


「はっはっは、敬太の元気は相変わらずすごいなあ。村の横綱になったことだし、本当に大したものじゃ」

「敬太くん、横綱になっておめでとう! 横綱としての力強さも、お布団への大きなおねしょも、敬太くんにとって元気な子供である立派な証拠だものね」


 盛兵衛は敬太がおねしょした赤い腹掛けを、おひさは敬太のおねしょ布団をそれぞれ持っています。相撲で見せた力強さと同様に、おねしょの大失敗も敬太の元気さが十分に伝わるものです。


「でへへ、今日も元気いっぱいのおねしょをやっちゃった」


 お布団へのおねしょが村人たちに知れ渡ったことに、敬太は顔を赤らめながら照れ笑いを見せています。立派に描かれた大きなおねしょは、水の夢やおしっこの夢をいつも見る敬太ならではです。


 そんな敬太を見て、村の子供たちが次々と土俵に上がってきました。子供たちは、人間であろうと獣人であろうと敬太のことが大好きです。


「敬太くんがいないと寂しいよ……」「いっしょにいようよ!」

「じゅっといっちょ(ずっといっしょ)! じゅっといっちょ!」


 子供たちは、敬太ともうすぐ分かれなければならないのでとても寂しそうです。でも、敬太のほうも自分のお父さんとお母さんを早く探さなければなりません。


「みんなといっしょにいたいのは。ぼくも同じだよ。でも……」


 敬太は、子供たちの顔を見て思わず涙が流れそうになりました。頭の中では、村でのいろんな思い出が浮かび上がっています。


「大好きな子供たちと遊んだり、家でのお手伝いをしたり……。みんなと別れるのは寂しいけど……」


 もちろん、力獣をはじめとする獣人たちとの激しい戦いや、毎日のように繰り返す大失敗の数々も敬太にとってはいい思い出です。


 そんな敬太は、右目から流れている涙をすぐに手でぬぐいました。村の横綱になった以上、みんなの前で涙をあまり見せたくありません。


「でへへ、みんなの前で涙を流したらいけないね」


 赤い腹掛けをつけた小さくてかわいい横綱の姿に、村の子供たちは敬太のそばから離れようとはしません。


 盛兵衛もおひさも、大好きな子供たちに囲まれている敬太のうれしい姿に目を細めています。すると、隣で見ているしのが何かを探しているようなしぐさを見せています。


 この様子に、おひさはしのに声を掛けました。


「どうしたの?」

「ゆう蔵が急にいなくなったの。さっきまで抱いていたはずなのに……」


 しのは、ゆう蔵を探そうと村人たちの間をかき分けて土俵のほうへ行こうとします。そのとき、今まで見たこともない光景にしのは思わず見入っています。


「ついに2本足で歩けるようになったんだ……」


 土俵のそばには、ゆう蔵が2本足でよちよち歩きをしています。今まで4本足で歩いていたゆう蔵にとって、それは大きな成長である証拠です。


 敬太は、土俵によちよちと入ってきたゆう蔵のそばへ行きました。そこで腹掛けをつけた獣人の赤ちゃんを抱き上げると、敬太は別れを惜しむようにやさしい笑顔を見せています。


「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」


 ゆう蔵の笑顔を見ることができるのもあとわずかです。敬太は、うれしそうに喜ぶゆう蔵の顔を見つめています。


 土俵のそばには、牙吉としのがゆう蔵を待ち構えるように手を振っています。敬太は、両手で抱いているゆう蔵をしのに手渡しました。


「敬太が遠くへ行っても、今まで受けた恩は決して忘れないから」

「いつもお世話してくれて本当にありがとうね。ゆう蔵も、敬太くんを見てとても喜んでいるわ」


 獣人の夫婦の言葉に、敬太は元気な声でこう答えました。


「みんなと別れるのはつらいけど、これからもこの村のことは忘れないからね! だって、ここにいる村人は人間も獣人もみんなやさしいんだもん!」


 そのとき、土俵にいる子供たちが敬太に声を掛けてきました。


「敬太! はやくこっちへきて!」「早くちて(早くきて)! 早くちて!」


 子供たちが敬太を呼んだのは、村の横綱として胴上げをするためです。敬太は、ワンべえといっしょに土俵の中央へやってきました。


 すると、敬太は子供たちによって真上へ持ち上げられました。大きい子供も小さい子供も、別れを惜しむかのように一斉に胴上げをし始めました。


「いち! に! さん……」


 敬太は、子供たちに胴上げされては何度も飛び上がっています。しかし、朝ご飯でイモをたくさん食べすぎた敬太は、緊張がゆるんで思わずでっかい音が鳴り響きました。


「プウウウウウッ! プウウウウウッ! プウウウウウウウウウウウウウウウ~ッ!」


 敬太は、空に浮いたままで見事に大きなおならを3回も続けて出てしまいました。そのとき、胴上げしていたはずの子供たちが土俵の外で出ていることに気づきました。


「うわっ! わわわわわわわわあ~っ!」


 空中から一気に落下した敬太ですが、軽い身のこなしで両手を土俵の上について逆立ちの状態で着地しました。


 しかし、ワンべえは逆立ちになったままの敬太を見ながら、どうしても気になるところがあって仕方がありません。


「敬太くん、腹掛けがめくれているワン」

「でへへ、おちんちんが丸見えに……。プウウウウッ! プウウウウウウウウ~ッ!」

「元気なのはいいけど、敬太くんのおならはとてもくさくてたまらないワン……」


 敬太は逆立ちのままで続けざまにおならが出て、思わず照れ笑いを見せています。おねしょもおならも、敬太にとっての大失敗は子供らしい元気さにあふれるものです。


 こうして、力強さも子供らしさも村人たちに見せた敬太は、お父さんとお母さんを探すために穂代村を後にしました。敬太は、ワンべえといっしょに険しい山道をはだしで元気よく歩き続けています。


 けれども、その先に待ち構える最大の敵の恐ろしさを敬太たちはまだ知るよしもありません。

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