その25
「双子の獣人め、これでとどめだ! え~いっ! ええ~いっ!」
敬太は拳を握りしめると、かなり高い空中から地面へ頭から突っ込むように急降下していきます。そして、うつ伏せに折り重なる双子の獣人に向かって強烈な拳を放ちました。
「どうだ! ぼくが放った石化破砕拳の威力は!」
敬太の拳が双獣雷の背中を突いた瞬間、双子の獣人の体は双獣炎を含めて少しずつ石化していきました。凄まじい拳の威力は、完全に石化した双獣雷と双獣炎を2体まとめて突きぬくほどです。
敬太が突きぬいた双子の獣人の大きな穴からは、数多くのひび割れが全身に拡がっています。そのひび割れは、次第に大量の細かい砂へと変わっていきました。
けれども、敬太が戦うべき相手はまだもう1人います。敬太は、右ひざを押さえて立ち上がろうとする力獣のほうへ振り向きました。
「力獣め、まだぼくと戦う気か!」
「く、くそっ……。今度会ったときには、おめえを叩きのめして地獄の底へ落としてやるからな……」
力獣は敬太へ恨みつらみを言うと、痛みが治まらない右膝を引きずりながら去っていきました。これを見た敬太は、盛兵衛たちのいる家のほうへ振り向きました。
「ワンべえくん! ゆう蔵くん! 獣人たちをやっつけたからもう大丈夫だよ!」
敬太はいつもの明るい笑顔に戻ると、ワンべえたちに早く伝えようと大声を上げて呼びました。すると、天狗の隠れ蓑からワンべえが現れると4本足で駆け出しながら敬太に飛びつきました。
「敬太くんが無事なのが何よりもうれしいワン! ペロペロペロペロペロペロペロ~ッ」
「もうっ、ワンべえくんになめなめされたらくすぐったいよ」
ワンべえのなめなめ攻撃に、さすがの敬太も思わず笑い声を上げています。この声につられて、ゆう蔵も手足を使って歩きながら敬太に近づこうとします。
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
「ゆう蔵くんも泣き声を上げないでよくがんばったね」
敬太は、そばへやってきたゆう蔵をやさしく抱き上げています。ゆう蔵は、手足を動かしながら大喜びの表情を見せています。
「もう獣人たちもいなくなったことだし、あの2人にも早く伝えようよ!」
敬太たちは、急いで家の出入り口へやってきました。引戸を開けて板の間へ上がると、敬太は悪い獣人たちを撃退したことを牙吉としのに伝えました。
「ぼくが、この手で獣人たちをやっつけたからもう大丈夫だよ! ワンべえくんもゆう蔵くんもいっしょに戦ってくれたよ!」
「こんなに小さい子供があんなに恐ろしい獣人を撃退するとは……。敬太は本当に大したものだぜ」
牙吉が掛けた言葉を聞いて、敬太は両腕に力こぶを入れる仕草を獣人の夫婦の前で見せています。それは、敬太が力強さと元気さを両方持っていることを示すものです。
一方、しのは敬太の体があざだらけになっているのを心配そうに見つめています。しかし、敬太はそんなことを気にするそぶりを見せることはありません。
「力獣も双子の獣人も本当に強くて、何回も地面に叩きつけられちゃったの。それでも、ぼくはワンべえくんやゆう蔵くんといっしょに立ち向かったよ!」
最後まで戦った敬太の姿を通して、獣人の夫婦は改めて勇気を持つことの大切さを感じました。そして、敬太と同様に獣人たちに立ち向かったワンべえとゆう蔵にも目を向けています。
「それはそうと、ゆう蔵が戦いに巻き込まれなかったというのが不思議なんだが……」
「ゆう蔵くんも、双子の獣人と戦うときに元気なおならとうんちを顔に命中させる大活躍を見せたよ!」
「キャッキャッ、キャッキャッキャッ」
敬太は、いっしょに戦ったゆう蔵の活躍ぶりを獣人の夫婦の前で言いました。これを聞いたしのは、ゆう蔵をやさしく抱き上げました。
「あれだけ恐い相手に立ち向かうなんて……。ゆう蔵は赤ちゃんながら本当に立派だわ」
しのは、獣人の赤ちゃんのあどけない笑顔をやさしい眼差しで見つめています。牙吉としのにとっても、恐ろしい獣人の追手の脅威がなくなったことへの安心感が表情からもうかがえます。
そんなとき、敬太のお腹から再びあの音が鳴り始めました。
「ギュルギュルル、ギュルルゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ……」
「敬太くん、急にお腹を押さえているけど……」
「う、うんちがもれそう……」
敬太はうんちを必死にガマンしながら、板の間でジタバタしています。その間にも、ガマンの限界は少しずつ近づいています。
しかも、敬太がガマンしているのはうんちだけではありません。
「お、おしっこも……。ガマンできない……」
敬太は赤い腹掛けの下を両手で押さえると、あわてた様子で土間へ飛び降りました。そして、急いで引戸を開けてから駆け足で外へ出ました。
わき目を振らずに走り出そうとする敬太ですが、外へ出た途端に左足をつまずいて思わず尻餅をついてしまいました。
そのとき、敬太は元気いっぱいのおならを3回も続けて鳴り響かせました。その音は、家から出てきた盛兵衛たちの耳にも入るほどのでっかい音です。
「プウウウッ! プウウウウウウウウウウウッ! プウウウウウウウウウウウウ~ッ!」
敬太の様子を見ようとやってきた盛兵衛たちの目に入ったのは、敬太が見事にやってしまった大失敗の数々です。
「でへへ、おしっこもうんちもこんなにいっぱいもらしちゃった」
敬太が尻餅をついた地面には、おしっこをもらしたときの水たまりができていました。さらに、その水たまりの中にはでっかくて元気なうんちがあります。
「はっはっは! 敬太くんはおねしょだけでなくおもらしも相変わらずすごいなあ」
「おしっこだって、うんちだって、子供ならいっぱい出るのが当たり前だもん!」
どんなに大失敗しても、敬太は明るい笑顔を絶やすことはありません。なぜなら、おしっこやうんちは敬太がいつも元気である何よりの証拠だからです。
「敬太はおねしょのみならず、こんなに盛大におもらしするとは大したものだ」
「あれだけ強いところがあっても、こういったかわいいところがあるんだね」
「ずっとガマンしようとしたけど、途中でこけておもらしをいっぱいしちゃったよ」
敬太のおもらしは、獣人の夫婦にも見られてしまいました。それでも、敬太は気にするそぶりを見せないで堂々と仁王立ちしています。
そこへやってきたのは、木ぐわを持ってきた盛兵衛です。盛兵衛は、おしっこでぬれた地面の上にある大きなうんちを木ぐわですくい上げました。
「敬太くんのうんちはいつもでっかいから、イモ畑の肥やしとしてぴったりじゃ」
敬太がいつもでっかいうんちが出るのは、毎日のように大きなイモを数多く食べているおかげです。大きなイモは、敬太の力強さと元気さを作り出す食べ物です。
力獣や双子の獣人と激しい戦いを繰り広げた敬太ですが、それよりも強い獣人がいつ現れてもおかしくありません。
「大きなイモをたくさん食べて、悪い獣人たちをやっつけるようにがんばるからね!」
敬太は悪い獣人たちをやっつける力強さを持つ一方で、おねしょやおもらしの大失敗という7歳児の男の子らしいかわいいところも持っています。いつも元気で明るい敬太の姿に、周りの大人たちも目を細めています。




