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《獣人のこども》おねしょ敬太くんの大ぼうけん  作者: ケンタシノリ
第6章 敬太くんとお寺の大家族

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その7

 おせいたちがいるお寺の庫裏からは、にぎやかな声が聞こえてきました。


 「晩ご飯ができたから、みんなも私のところに早く集まってね!」

 「わ~い、晩ご飯! 晩ご飯!」「今日は何かなあ?」


 囲炉裏の周りには、小さな男の子たちが次々と集まってきました。もちろん、敬太も晩ご飯を食べるのを楽しみにしています。


 「敬太くんはご飯ではなく、こっちのほうが食べたいんだね。敬太くんのために、塩ゆでした大きな親イモを持ってきたわよ」

 「おっかあ、どうもありがとう! ちゃんと残さないで食べるからね!」


 おせいは、敬太のところに親イモが3つも入った木の平べったい皿を持ってきました。これを見た敬太は、大好きなイモを食べることができることに大喜びです。他の男の子たちのところにも、おせいが木の器にご飯をついだのを次々と持ってきました。器に盛られたご飯には、アワやヒエといった雑穀が多く入っています。


 おせいは、晩ご飯を用意するのは人間の子供に対してだけではありません。子犬のワンべえに対しても、おせいはちゃんと晩ご飯を用意しています。


 「そうそう、ワンべえにも晩ご飯を用意しないとね。大きな親イモを持ってきたけど、食べることができるかな?」

 「これだけあったらお腹いっぱい食べることができるワン! おっかあ、どうもありがとうワン!」


 ワンべえはおせいに感謝の言葉を述べると、おせいが持ってきた親イモにさっそくほおばるように食べ始めました。


 そして、ニンジンと長ネギが入った味噌汁をみんなのところへ持ってくると、いよいよ晩ご飯の時間です。


 「それじゃあ、いただきますと言おうかな」

 「おっかあ、いただきます!」


 おせいの合図に合わせて、敬太たちは「いただきます」と言ってから晩ご飯を食べ始めました。敬太は、目の前にある大好きな親イモに手を伸ばしました。


 「おっかあ、この親イモはとっても食べごたえがあっておいしいよ!」

 「ふふふ、敬太くんは大きな口を開けておいしそうにおイモを食べているね」


 敬太は、大きな口で親イモをほおばるようにして食べています。この様子を見たおせいも、おいしそうに食べている敬太の笑顔に目を細めています。


 他の男の子たちも、器に盛られたご飯を食べながら味噌汁をすすっています。雑穀が多く入っているご飯も、男の子たちはおいしそうに食べています。


 「おっかあが作ってくれるご飯、とってもおいしいよ」

 「みんな、私を気遣ってくれてありがとうね。村から持ってきたお米を少しでも長く使わないといけないからね」


 おせいたちは、村からこのお寺へ逃げてきたときにお米を4俵(約240kg)持ってきました。おせいたちがいるお寺の隣には、広い畑でみんなが食べるためのサトイモや野菜を多く栽培しています。


 しかし、肝心の田んぼはどこにも見当たりません。田んぼが見当たらないのは元々荒れ地だったことに加えて、水はけが良くて田んぼに適さない土地だからです。そのため、おせいたちが暮らしていた矢林村のようにお米を作ることができません。


 それ故に、おせいは俵に詰めているお米を使うのを必要最小限に抑えるとともに、ご飯を炊くときにはアワやヒエ、キビといった雑穀を入れるのが基本となっています。そのため、男の子たちが食べているご飯の中身は、お米が3に対して雑穀が7いう割合となっています。


 男の子たちは、おせいが口で言わなくてもそういう事情を察知しているので、ご飯を1粒も残さないように最後まで食べ続けています。しかし、おせいは男の子たちの味噌汁が入っていた器を見てちょっと首を傾げています。


 「あらあら、また残しているわ。どうしてなのかなあ?」


 おせいは、男の子たちの味噌汁の器の中身を見ました。すると、全部食べたのは敬太と菜八の2人だけで、残りの男の子たちはニンジンや長ネギを全部またはどちらか一方を残しています。


 「みんな、野菜をちゃんと食べないと栄養にならないわよ」

 「おっかあ、それは分かっているけど…」

 「ぼく、ニンジンが嫌いなの。だってとっても苦いもん!」

 「ニンジンもネギも大嫌いだもん! 大嫌いだもん」


 おせいは、男の子たちに何とか野菜を食べてほしいと促しています。しかし、男の子たちはニンジンの苦さや長ネギのにおいが嫌いということもあり、なかなか野菜に手をつけようとしません。


 この様子を見た敬太は、とっさに元気な声でこう言い出しました。


 「おっかあ、ぼくはニンジンも長ネギも大好きだから全部食べてもいいかな?」

 「敬太くんがそこまで言うのなら、男の子たちが残した野菜を食べてもいいわよ」

 「うわ~い! おっかあ、ありがとう!」


 敬太は、男の子たちが残した野菜を食べてもいいのかをおせいに聞いてみました。おせいも敬太の言葉を聞いて、このまま残したものを捨てるのはもったいないのではと考えています。そう考えると、敬太が食べたいと言ってくれたことに、おせい自身もうれしさを隠せない様子です。


 おせいは、男の子たちが残した野菜を敬太の味噌汁が入っていた器に全部入れました。すると、敬太はおせいから渡された器を持つと、ニンジンや長ネギをおいしそうに口にしながら食べています。


 「ニンジンも長ネギもとってもおいしいぞ!」

 「敬太くんは、残さずに何でも食べてくれるからうれしいわ」


 敬太は、器に入っていた野菜を1つも残さずに食べたことを元気な声で言いました。その声を聞いたおせいは、好き嫌いをしないで残さずに食べる敬太の姿に目を細めました。


 一方、男の子たちのほうは、敬太がおいしそうに食べる姿を見ながら複雑な心境を見せています。


 「敬太くんはぼくが嫌いなニンジンやネギをおいしそうに食べているけど、どうしてなのかなあ?」

 「でも、ニンジンだけは絶対に食べたくないなあ…」


 男の子たちにとっても、本当は敬太みたいに何でも食べられるようになりたいのが本望です。それでも、なかなか口にすることができないのは、ニンジンの苦さや長ネギの独特のにおいへの抵抗があるからです。


 そして、小さい男の子たちが苦手とする食べ物は他にもあります。それは、敬太が主食として食べているあの食べ物です。


 「敬太くん、ご飯よりもイモを食べるほうがおいしいの?」

 「ご飯を食べるのも大好きだよ! でも、こんなにでっかいイモをたくさん食べるのも大好き! こんなにおいしいのに、みんなはどうして食べないの?」

 「ぼ、ぼくはご飯を食べるのが大好きだし…」「ぼくもご飯のほうがいいなあ…」


 男の子たちは、敬太だけがご飯を食べないで大きな親イモを大きな口を開けて食べていることに不思議な目つきで見ています。でも、敬太にとってはご飯であろうと、イモであろうと おいしそうに食べるのが当たり前となっています。


 それ故に、敬太がイモを食べているときに、それに見向きもしないでご飯を食べ続けていたこと男の子たちのことが気になりました。


 敬太は、どうしてイモを食べないのか男の子たちに聞いてみました。すると、男の子たちはイモが嫌いとかは一切言わずに、雑穀が多く入ってもご飯を食べるほうがいいと小声で答えました。


 男の子たちがイモのことを一切言わなかったのは、友達になったばかりの敬太にイモが大嫌いと言うのが気まずいのではという精一杯の配慮があったかもしれません。そうした男の子たちの気持ちは、親イモを食べ続ける敬太にも伝わっているようです。


 そうするうちに、敬太は出された晩ご飯を残さないで全部食べ終えました。


 「おっかあ、ごちそうさま!」「ごちそうさま!」

 「敬太くん、晩ご飯を全部食べてくれた本当にありがとうね」


 おせいは、敬太のおかげで残したものを捨てることなく全部食べてくれたことに感謝しています。でも、敬太にとっては、普段から出された食事を残さないで何でも食べるのが当たり前なのです。


 そのとき、敬太は晩ご飯をお腹いっぱい食べて満足したのか、思わずお腹に力を入れてしまいました。


 「プウッ! ププウッ! プウウッ! ププウウウッ! プウウウウウウウ~ッ!」

 「敬太くん、おならがいっぱい出ちゃったの?」「わ~い! でっかいおならだ!」


 敬太は、みんなの前で元気いっぱいのおならを5回も続けて出てしまいました。親イモをたくさん食べた敬太にとって、元気な子供のシンボルであるでっかい音のおならが出るのです。男の子たちも、元気が有り余るほどのおならをしちゃった敬太を見て、笑顔を見せながら喜んでいます。


 「ふふふ、敬太くんはお腹の調子がいいから、こんなに元気なおならがいっぱい出てしまったんだね」

 「でへへ、これだけ大きなイモをいっぱい食べたら、明日もでっかくて元気なうんちが出るのが楽しみだぞ! 元気なうんちが出たら、おっかあにも見せてあげるよ!」

 「敬太くんは、相変わらず元気いっぱいだね。この調子なら、マムシを噛まれて大ケガしているところもすぐに治るわ」


 敬太がおならやうんちがいっぱい出るのは、それだけお腹の調子がいい証拠です。おせいも、敬太のあり余るほどの元気さにやさしい眼差しで見つめています。



 それから数日が経過したある日の朝のことです。


 敬太は、いつものように何かを見せようとおせいを呼びました。よく見ると、敬太の赤い腹掛けは下の部分がぬれています。


 「おっかあ、ここを見て見て! 今日もこんなにでっかいのをしちゃったよ!」

 「ふふふ、敬太くんは今日も見事なおねしょをお布団にやっちゃったみたいだね」


 敬太は、7歳になった今でも相変わらず毎日のようにでっかいおねしょをしてしまいます。それでも、敬太はおねしょしちゃったお布団をおせいに見せることで、今日も元気いっぱいであることをアピールしています。


 敬太のおねしょ布団を見たおせいも、今日も敬太が元気であることに安心している様子です。お布団に描かれたでっかいおねしょは、敬太が元気な子供である立派な証拠といえるものです。


 「これからも、でっかいおねしょをしちゃったお布団をおっかあに見せてあげるよ!」

 「ふふふ、元気なおねしょは敬太くんにとって当たり前のことだもんね」


 敬太は元気な笑顔を見せながら、おねしょ布団の上で堂々と立っています。これを見たおせいは、おねしょをしても敬太が元気いっぱいであることにやさしい表情で見つめています。


 そして、おせいは大ケガをしていた敬太の両足が治っているのか聞いてみました。


 「そうそう、マムシに噛まれた足のほうはどうかな?」

 「もうほとんど痛くないから、包帯を外してもいいでしょ」

 「それじゃあ、今から包帯を外すからここから動かないでね」


 敬太は早く包帯を外して、みんなと同じように動き回りたがっています。おせいは、敬太の右足と左足に3か所巻かれている包帯をすぐに外しました。すると、マムシに噛まれた両足の傷口はほとんど無くなりました。


 「あれだけマムシに噛まれたのに、傷口がこんなに早く治るなんてすごいわ!」

 「おっかあ、ありがとう! これからみんなといっしょに畑へ行ってもいいかな」

 「ふふふ、敬太くんは早く自分の手で畑仕事をしたいとか、牛助くんとお相撲がしたいとか言っていたからね」


 敬太は、マムシに噛まれたことによる瀕死ひんしの重傷から見事に完治したのがとてもうれしそうです。これからは何も気にせずに駆け回ることができるので、敬太はあまりのうれしさに足をピョンピョン飛び跳ねています。


 おせいも、早く外へ出たがっている敬太の姿にやさしい笑顔で見つめています。なぜなら、敬太は大好きなサトイモの掘り出しと牛助とのお相撲を心待ちにしているからです。


 すると、敬太のそばに菜八と居六、紺次郎が次々とやってきました。菜八たちは、敬太がやってしまった大きなおねしょのお布団を見ています。


 「敬太くん、今日もおねしょしちゃったの?」「わあっ、大きなおねしょだ」

 「でへへ、お布団にでっかくて元気なおねしょをしちゃったよ!」


 敬太が毎日のようにお布団におねしょをするのは、庫裏の板の間でいっしょに寝ている男の子たちもよく知っています。それでも、どんなにおねしょしても元気いっぱいの敬太の姿に、菜八たちは笑顔を見せながら接しています。


 そこへ、貫吉と扇助も敬太のそばへやってきましたが、2人は腹掛けの下を両手で押さえながら顔を赤らめています。さらに峰七も恥ずかしそうにモジモジしながらやってきました。


 「敬太くん…。今日もおねしょしちゃったんだ」「お布団にやっちゃった…」

 「峰七くんたちも? ぼくもこんなに元気なおねしょをしちゃったぞ! 見て見て、すごいでしょ!」


 峰七たち3人はお布団におねしょをしてしまったので、表情が曇りがちになっていうます。これを見た敬太は、自分がやってしまったおねしょ布団を堂々と見せることで3人を笑顔で励ましています。


 「敬太くんは、おねしょしても泣いたりしょんぼりしたりしないの?」

 「ぼくを育ててくれたじいちゃもばあちゃも、ぼくの元気なおねしょを見て褒めてくれるんだよ! それに、おっかあも元気なおねしょは当たり前のことと言ってくれたぞ!」


 敬太はお布団へおねしょをしても、常に明るい笑顔で元気いっぱいであることに変わりありません。そんな敬太の明るい笑顔に励まされて、峰七たちも次第に笑顔を取り戻しました。



 「おっかあ、みんなのおねしょ布団を干したからね!」

 「ふふふ、この中でも敬太くんのおねしょは、でっかくて元気いっぱいであることが改めてよく分かるね」


 お寺のお庭には、敬太をはじめとする男の子4人のおねしょ布団が干されています。お布団にやってしまったおねしょは見事なものですが、やっぱりおねしょの大きさと元気さでは敬太にかなうものはいません。


 そこへやってきたのは、今まで庫裏の土間にいたワンべえです。ワンべえは、いつものようにやってしまった敬太のおねしょ布団を眺めています。


 「ワンべえくん、今日もこんなに見事なおねしょをしちゃったよ!」

 「敬太くんがいつもおねしょをして元気であれば、ぼくもうれしいワン!」


 ワンべえは、敬太が元気である証拠といえるものが毎日のおねしょであることをよく知っています。おねしょ布団を見たワンべえは、敬太が今日も元気であることがうれしくてたまらない様子です。


 「ここに新しい腹掛けがあるから、おねしょしちゃった腹掛けをたらいに入れてからつけてね」

 「おっかあ、いつも腹掛けを洗ってくれてありがとう!」


 敬太たちは、おねしょでぬれた腹掛けをたらいの中に入れると、おせいが用意した腹掛けを手に取りました、敬太は赤い腹掛けをすぐにつけると、貫吉と扇助にも腹掛けをそれぞれつけさせました。


 「それじゃあ、みんなといっしょに畑へ行くからね!」

 「敬太くん、そんなに急がなくても…」


 敬太は早く大きなイモを掘り出したいという欲求に駆られて、すぐに隣にある大きな畑に向かって駆け足で走り出しました。この様子を見た他の男の子たちも、敬太の後を追うように走って行きました。


 「ふふふ、元気いっぱいで無邪気なところは敬太くんにぴったりだわ」


 おせいは、敬太のあまりの元気っぷりに振り回されながらも、自由自在に動けるほどの驚異的な回復を見せた敬太を見てうれしさを隠せませんでした。


 一方、お寺に隣接する大きな畑へ行った敬太は、牛助がいる牛小屋のほうへ向かいました。敬太は、今から牛助とお相撲をするのが楽しみでたまりません。


 その牛小屋は稲わら屋根に覆われた簡易な造りですが、牛助のような大きな牛であっても十分に入れる大きさです。


 「あっ、牛助くんもぼくと同じように大きなイモを食べているんだね」

 「もしかして、敬太もこのサトイモを食べているのか?」

 「うん! ぼくはどんなイモであってもお腹いっぱい食べるよ! 昨日も、おっかあが作ってくれた大きな親イモの塩ゆでを3つも食べたよ!」


 牛助は、自分のエサであるサトイモを茎といっしょに食べています。敬太は、自分と同じようにイモをたくさん食べる牛助の様子を見ています。


 それに気づいた牛助は、敬太にイモが大好きかどうか聞いてみました。すると、敬太は大好きなイモのことを自慢げに元気な声で言うと、あまりのうれしさに足をピョンピョン跳ねながら喜んでいます。


 この様子を見ている牛助は、敬太がいつも元気なのもイモをたくさん食べるおかげと目を細めています。そして、牛助は同時に気になっていることを敬太に話し始めました。


 「敬太くんみたいにイモを食べてくれる子がいたらもっとうれしいのになあ…。この畑ではおせいがサトイモを丹念に育てているけど…」

 「牛助くん、それってどういうことなの?」

 「こんなに丹念に育てたのに、おせいと敬太以外の男の子たちが全然食べてくれないんだ。こんなにおいしい食べ物なのにどうして口にしないのか、わしは不思議でならないんじゃ」


 牛助は、こんなにおいしいサトイモを男の子たちが全然食べてくれないことに嘆いていました。敬太が大好きな親イモを晩ご飯や朝ご飯のときに食べても、他の男の子たちはサトイモに手をつけようとする気配は全く見られません。


 「その点、敬太は大きな親イモをよく食べるおかげで、こんなに元気いっぱい動き回れるからすごいなあ、ところで、敬太は大ケガが治ったら、わしとお相撲がしたいと言っていたけど、覚えているかな?」

 「覚えているよ! マムシに噛まれたところも治ったし、ぼくといっしょにお相撲をしようよ! しようよ!」


 牛助は、相変わらず元気いっぱいの敬太がお相撲をしたがっていることを思い出しました。大ケガが完全に治った敬太も、大好きなお相撲をいっしょにしたいと牛助に何度もせがんでいます。


 敬太にせがまれた牛助は、自ら牛小屋から出て4本足で歩き出しました。


 「それなら、今から敬太とこの場でお相撲をしようかな。だからといって、わしは決して手加減はしないからな!」

 「ぼくは、どんなに強い動物であっても堂々と立ち向かって戦うぞ!」


 敬太と牛助は、すでに収穫を終えたサトイモ畑のところへやってきました。ここなら、敬太たちがお相撲を取っても何の支障もありません。


 すると、いっしょに畑へやってきた男の子たちが敬太のところへやってきました。


 「ねえねえ、ぼくもお相撲がしたいよ!」「お相撲しよう、お相撲しよう」

 「でへへ、そんなに言うのなら先にお相撲をしようかな」


 紺次郎は自分も敬太とお相撲がしたいと言うと、貫吉と扇助も敬太の体にしがみつきながらせがんでいます。


 小さい子供が大好きな敬太は、最初に紺次郎たちとお相撲をすることにしました。敬太はサトイモを収穫し終えた畑の中に、木の枝で大きな円を描いて簡単な土俵を作りました。


 土俵に入った紺次郎たち3人は、敬太と向かい合って1対3の取組が始まります。


 「はっけよい、のこった!」

 「うわっ、どんなに押しても敬太くんを動かすことができないよ」

 「動かないよ、動かないよ」

 「どうちて(どうして)、どうちてなの(どうしてなの)?」


 紺次郎たちは、目の前にいる敬太を力いっぱい押し出そうとします。しかし、どんなに押しても敬太の体はビクともしません。


 この様子を見た敬太は、紺次郎たち3人をそのまま土俵の外へ押し出しました。


 「今度はこっちから行くよ! それそれそれっ!」

 「わわわっ、土俵の外へ出ちゃった」「敬太くん、ちゅおい(強い)、ちゅおい(強い)」

 「やっぱり、敬太くんの強さにはかなわないよ」


 紺次郎たち3人は、どんなに押してもビクともしない敬太の力強さに改めて感心しています。すると、今度は菜八と居六が敬太に勝負を仕掛けました。


 「はっけよい、のこった!」

 「う~ん! う~ん! 押しても押しても全然動かないよ…」


 菜八と居六が何度も力いっぱいに敬太の体を押し続けても、その場から動かすことができません。そして、2人は敬太に土俵の外へ押し出されてしまいました。


 力士並みの強さを誇る敬太の前では、男の子たちは全く歯が立ちません。しかし、ここにいる男の子で忘れてはいけないのがあと1人います。


 「敬太くん、今度はぼくと勝負だ! お相撲では今まで負けたことがないぞ!」

 「峰七くん、ぼくも絶対に負けないからね!」


 峰七は、これまで村のちびっこ相撲の大会で負けたことがありません。ぽっちゃりした体型で腹掛け1枚だけという格好で土俵に入ると、目の前にいる敬太に絶対に負けたくないという気迫を見せています。


 「はっけよい、のこった!」


 敬太と峰七は土俵の上でぶつかり合うと、お互いに右四つを組みながら相手の出方をうかがっています。峰七はちびっこ相撲の横綱というだけあって、敬太に自分の力強さを見せようと張り切っています。


 しかし、敬太はここで格の違いを峰七に見せつけます。敬太は、上手を取ってから峰七の腹掛けを引きつけると、そのまま上手から峰七を投げ倒しました。


 「今までお相撲では負けなかったけど、やっぱり敬太くんの前ではかなわないよ」

 「そんなことないよ! 峰七くんは本当に強かったよ!」


 これまで向かうところ敵なしだった峰七も、敬太の前では自らの強さをくじかれる結果になりました。それでも、敬太は四つ相撲となったときの峰七の力強さをすぐに感じ取りました。


 敬太は地面に尻餅をついた峰七を起こすと、お互いに握手を交わしました。握手を交わすことは、2人にとって友達であるシンボルというものです。もちろん、敬太にとっては、他の男の子も大切な友達であることに変わりありません。


 すると、牛助が敬太のいる土俵の中へ入りました。牛助は、他の男の子たちと相撲を取った敬太の様子をずっと眺めていました。


 「ここでお相撲しているのをずっと見ていたけど、敬太の力強さが本物であることは間違いないようだな。これなら、わしも土俵の上で堂々と戦うことができるぞ」

 「それじゃあ、ぼくも本気を出して戦うからね!」


 牛助は敬太の力強さを認めているからこそ、敬太に自分の力を見せつけたいとの心意気を持っています。一方、敬太のほうも牛助には絶対に負けたくないという強い思いで土俵に上がっています。


 「見合って、見合って! はっけよい、のこった!」


 敬太と牛助は、ともに正面から向かってぶつかり合いました。土俵の上では、牛助のほうが図体の大きい体格で敬太を圧倒していますが、敬太も足腰に力を入れながら牛助の突進を食い止めています。


 「真正面からの強い突進を小さい体で食い止めるとは…」

 「牛助くん、ぼくはどんなに強い動物であっても負けないもん!」


 牛助は、敬太をそのまま突進しながら押し出そうと試みても、敬太の力強さの前に土俵の外へ出すことはできません。すると、今度は敬太が足腰に力を入れながら、図体の大きい牛助を自らの力で押し出そうとします。


 牛助の体重は約16貫(約600kg、1貫=3.75kg)もあり、さすがの敬太もこれだけの重量がある動物を持ち上げるのは極めて難しい状況です。しかし、自らの力で力強く押し続ければ、これだけの重量がある牛助であっても土俵の外へ押し出すことが可能です。


 「なかなかやるなあ。だが、わしの体はそう簡単に押し出すことなんかできないぞ」

 「牛助くんは体がでっかくてとても強いけど、お相撲では絶対に勝つからね!」


 敬太と牛助は、互いにガマン比べの状態で一進一退を繰り返しています。すると、敬太はお腹にも力を入れながら、下半身全体の力で牛助を思い切り押し切ろうとします。


 そのとき、敬太のお腹から何やら音が聞こえてきました。


 「ギュルギュルル、ギュルルゴロゴロゴロッ、ギュルルギュルルゴロゴロッ…」

 「うっ、急にお尻がムズムズしてうんちが出そう…」


 敬太は、晩ご飯と朝ご飯のときにたくさん食べた大きな親イモが効いたのか、お尻がムズムズしてうんちが出そうになりました。しかし、ここで少しでも手を抜いたら、あっという間に牛助に押し出されて負けてしまいます。


 「敬太、これでどうだ! えいっ! えいっ!」

 「こんなところで負けるものか! んぐぐぐぐぐっ!」


 ここで、牛助が一気に勝負を決めようと、何度も突進しながら敬太にぶつかってきました。しかし、敬太もすぐさまに牛助の突進を力いっぱい食い止めています。


 「んぐぐぐぐっ! ギュルギュルゴロゴロッ、ギュルゴロッ、ギュルルゴロゴロッ…」

 「こ、こうなったら…。最後の力を振り絞って一気に行くぞ!」


 この間にも、敬太のうんちは次第にガマンの限界に近づいてきています。そんな中、敬太は牛助とのお相撲に決着をつけるために、全身の力で牛助に体当たりしながら一気に押し出そうとします。


 「え~いっ! えいえ~いっ! んぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ!」

 「うわわっ! あんなに体が小さい子供がなぜこのわしを…」


 敬太は、自分よりも図体が大きい牛助を力強く押し出そうと懸命にがんばっています。夏の暑い盛りとあって、敬太の顔や体からは汗がにじみ出ています。


 そんな中にあっても、敬太は凄まじい力で牛助を土俵の外へ出る一歩手前まで押し続けました。そして、敬太は足腰の力で踏ん張りながら、全身を使って最後の力を振り絞りました。


 「え~いっ! ええ~いっ! えええ~いっ! んぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐぐっ!」

 「うわっ! わわわっ! こ、これ以上踏ん張ることができない…」


 敬太は全身に凄まじい力を込めると、牛助の体を思い切り強く押し出しました。敬太の気合を込めた力強い押しに、さすがの牛助もついに土俵を割ってしまいました。


 「うわ~い! お相撲で体がでっかい牛助くんに勝ったぞ! 勝ったぞ!」

 「敬太の力強い押しには本当に参ったなあ。あんなに小さい子供なのに、このわしを見事に土俵の外まで押し出すとは…。これだけの凄まじい力が出せる人間は今まで見たことが無いぞ」


 敬太は、一進一退を繰り返した牛助とのお相撲に勝ったので、足をピョンピョンさせながら大喜びしています。これを見た牛助は、敬太による気合の入った凄まじい力にすっかり降参している様子です。


 しかし、敬太が大喜びでピョンピョン飛び跳ねているそのときのことです。


 「プウウッ! プップップウウウウウ~ッ! ギュルルギュル、ギュルゴロゴロッ…」


 敬太は、あまりの喜びように高く飛び上がったときに、でっかいおならが思わず出てしまいました。それと同時に、敬太はうんちのガマンがついにできなくなりました。


 「わわわっ! わわわわっ!」


 敬太は、うんちをガマンしていることに気を取られてそのまま落下しましたが、しゃがみ込む形で何とか着地することができました。しかし、敬太は今までムズムズしていたお尻が急にすっきりしたことに少し違和感があります。


 「あれっ? 今まで、ずっとうんちをガマンしていたはず…」


 そのとき、周りにいた男の子たちが、敬太のしゃがんだところを見ています。


 「敬太くん、でっかいうんちが出ちゃったの?」「わあっ、うんちだ! うんちだ!」

 「でへへ、お腹にたまっていたうんちがこんなにいっぱい出ちゃったよ!」


 敬太がしゃがんだところには、とぐろ巻きになったでっかくて元気なうんちがありました。そのうんちは、大きな親イモをたくさん食べている敬太らしい立派なうんちです。


 男の子たちは、敬太のうんちを見ながら大喜びではしゃいでいます。敬太もその場で立ち上がると、足元にあるでっかくて元気な黄色いうんちを見て笑顔を見せています。


 そこへやってきたのは、さっきまで敬太とお相撲を取っていた牛助です。牛助は、敬太の足元にあるでっかいうんちを感心するように見ています。


 「はっはっは! こりゃあ、敬太らしい立派なうんちが見事にいっぱい出たなあ。これを見ると、お相撲でわしに勝った理由がよく分かるなあ」

 「ぼくは、いつも親イモをいっぱい食べているし、おっかあが作ってくれたご飯は残さないできれいに食べているぞ!」


 牛助は敬太のうんちを見ながら、お相撲で自分に勝った敬太の姿に目を細めています。敬太はお相撲で勝つのも、うんちがいっぱい出るのも、普段から好き嫌いしないで何でも食べているおかげと元気な声で言いました。


 すると、敬太の周りにいた男の子たちが敬太の声を聞くと、次々と何か言おうとしています。


 「これからは、ぼくもサトイモが食べられるようにがんばるよ!」

 「ぼくも、嫌いなニンジンや長ネギを食べるからね!」


 男の子たちは、敬太のように好き嫌いしないで何でも残さないで食べることを誓いました。これを聞いた敬太は、みんなから自分を目標にしていることに少し照れた表情を見せています。


 「あれだけ強い男の子である敬太がいれば、わしにとっても頼もしいものじゃ」


 お相撲での凄まじい強さと、元気いっぱいのうんちという立派な証拠を兼ね備えているからこそ、牛助は敬太の凄まじい強さに期待しながら見つめています。

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