その3
「う、う~ん…。あれっ、もう夜になったのかなあ」
敬太が気づいたときには、すでに真夜中になっていました。真上を見ると、紺色におおわれた夜空が広がっています。しかし、敬太が周りの様子を見ると、今までとはかなり雰囲気が違うことに気づきました。
「あれっ、ここはどこなの? こんなところ、今まで見たことないぞ」
敬太は凄まじい気迫で獣人たちの一団をやっつけましたが、その直後にマムシの毒牙がもとで意識を失って地面に倒れていました。でも、敬太が気づいた場所には、いっしょにいるはずのワンべえもキツネもタヌキもいません。
「ワンべえくんもいないし、キツネもタヌキもいないし…。どうして、ぼくはここにいるのかなあ?」
敬太は暗い夜空の中で、なぜ自分だけが1人ここにいるのか戸惑っています。すると、敬太の目の前に小さい子供たちの姿が見えてきました。
「あそこで子供たちが何か拾っているけど、どうするのかな?」
敬太は、大きな川のほとりで地面から拾い集める子供たちの姿を見ると、すぐに子供たちの近くまでやってきました。しかし、そこで見た子供たちは、敬太が今まで見た明るくて元気な子供とは明らかに違います。
「ここにいる子供たちは、どうしてあんなに悲しい顔をしているんだろう…」
敬太は、漁村でいっしょに暮らした新吉をはじめとする村の子供たちの笑顔を覚えています。それ故に、ここにいる子供たちが悲しい顔つきをしているのがいまだに信じられない様子です。
大きな川のほとりには、10人ほどの男の子たちが2~3人ずつに分かれて集まっています。男の子たちをよく見ると、そのかわいい顔つきから敬太と同じくらいの年齢か、それよりも下の年齢であるようです。
その中には、おんぶされている赤ちゃんや、ハイハイしている赤ちゃんもいます。そして、男の子たちは全員着物らしきものを着ておらず、敬太と同じような腹掛け1枚だけしか付けていません。
男の子たちは、河原にある様々な石を拾いながら高く積み上げています。積み上げた石が倒れないようにしながら、男の子たちは黙々と石を積み上げ続けています。その積み石を高く組み立てることで、塔のようなものを築き上げています。
そのときのことです。突如として図体の大きい赤鬼が現れると、いきなり男の子が積み上げていた石の塔を破壊しました。
「うりゃああっ! うりゃああっ!」
「うええええ~ん! うええええええ~ん!」
「そんな積み石の塔なんぞ、おれたちが壊してやるわ! ふはははは!」
積み石の塔を鬼が破壊された男の子は、その場で大声を出して泣き始めました。しかし、赤鬼は不気味な笑い声を上げながら、自らが破壊したことを正当化するがのような冷酷な言葉を発しました。
この様子を見た敬太は、男の子をいじめた赤鬼への強い憤りを感じました。そして、敬太は男の子の背後にいる赤鬼に向かい合いました。
「赤鬼め、せっかく小さい男の子が積み上げたのを壊しやがって…」
「おい! 小さい子供のくせに、おれにそんな生意気なことを言うとはなあ…」
「わわわっ! 何をするつもりだ!」
敬太は、男の子をいじめて泣かせた赤鬼に怒りの言葉をぶつけました。しかし、赤鬼はそんな敬太の言葉に逆上すると、右手で敬太の胸ぐらをいきなり強くつかみました。
敬太は手足をバタバタさせながら抵抗しましたが、赤鬼はそれに動ずることなく自分の顔の手前まで敬太を持ち上げました。
「おめえは、ここがどこなのか今から教えてやろうか?」
「どこなのかって言われても…」
敬太は、ここがどんな場所であるか全く知りません。
紺色の夜空が広がって大きな川に面しているのと、男の子たちが積み石で塔を作っていることは敬太も知っています。でも、敬太からしたら、こんな夜中に子供たちが川のほとりで石積みをしているのが不思議でなりません。普段だったら、敬太も含めて家の中でぐっすりと寝ている時間だからです。
戸惑っている敬太を見た赤鬼は、現在いる場所がどんな場所なのかを恐ろしい声でこう言い切りました。
「いいか! おめえがいるのは三途の川の手前じゃ!」
「三途の川?」
敬太は、向こうの大きな川が三途の川であると赤鬼が言ってもピンときません。そこで、赤鬼は敬太に追い打ちをかけようとある言葉を言い放ちました。
「わかりやすく言えば、おめえはもうすぐこの世からいなくなるということじゃ! ふはははは!」
「この世からいなくなる? じゃあ、ぼくはもうすぐ死ぬということ?」
赤鬼は敬太に対して、間もなくこの世からいなくなると冷酷な笑い声で言い放ちました。これを聞いた敬太は、自分があの世へ行く寸前の状況であることに気づきました。
「おめえはマムシに何か所も噛まれて、その毒がずっと体中に巡り続けるからなあ。まあ、おめえはすでに意識を失ったままだし、間もなく死ぬという運命に変わりないだろうけどね。ふはははは! ふはははは!」
赤鬼は、マムシに噛まれて意識不明となっている敬太のこの世の状況を不気味な笑みを交えながら言いました。それは、まるで獣人たちと戦っていた敬太の動きを知っていたかのような感じです。
一方、敬太はあの世へ行ったら二度と自分のお父さんとお母さんに会うことができなくなります。絶対にあの世には行きたくない、そして早くこの世に戻りたいと敬太は強く思うようになりました。
「ぼくは絶対にあの世に行きたくない! 行きたくない!」
「そんなに行きたくないのか! それだったら、賽の河原であの子供たちと同じように石を集めて積んでみるんだな」
敬太は、まるで赤ちゃんみたいに手足をバタバタさせながら、あの世へは行きたくないと大声で叫びました。その叫び声を聞いた赤鬼は、自分の右手で胸ぐらをつかんでいた敬太を地面に下ろしました。
その代わり、赤鬼は男の子たちがやっているのと同じように、敬太にも賽の河原で石を集めて積み上げるよう命令しました。
「そんなことぐらいだったら、ぼくだって簡単にできるぞ」
「まあ、おれたちに壊されないようにせいぜいやってみることだな。ふはははは!」
赤鬼は、簡単に石積みの塔ができても自分たちが壊すぞという威圧感を敬太に見せつけました。これを見た敬太は、歯を食いしばりながら赤鬼に対する怒りをにじませました。
敬太は他の男の子たちに交じって、河原でいろんな石を拾い始めました。石の大きさは千差万別ですが、敬太は自分で集めた石を下から順に積み上げていきました。
すると、さっき赤鬼に壊されて大泣きしていた男の子が敬太のそばへやってきました。男の子は、敬太が石積みをしているところをずっと眺めています。本当は、自分もいっしょに手伝いたいけど、どうしても敬太に遠慮してなかなか言い出せません。
「あのう…。ぼくもいっしょにやっていい?」
「いっしよにやろうよ! 2人でやれば早くできるよ!」
男の子は、勇気を出して敬太にいっしょに石積みをしたいと言い出しました。これを聞いた敬太は、2人で石積みをいっしょにしようと男の子に呼びかけました。
しかし、男の子は赤鬼に壊された石積みのことを思い出すと、再び不安そうな顔つきになりました。
「早く積み上げても、鬼にまた壊されるのはいやだなあ…」
「そんなこと言わなくても大丈夫だよ! 鬼がこっちにきても、ぼくが絶対に守ってやるからね!」
敬太はその場で立ち上がると、赤鬼を見ておびえる男の子の右肩にポンと軽くたたきました。そして、敬太は男の子を絶対に守ってあげるとやさしい眼差しを見せながら言いました。
すると、男の子は敬太の明るい笑顔に触発されて、次第に明るい顔つきになりました。こうして、敬太は男の子といっしょに様々な石を置きながら積み上げていきます。
敬太は、三途の川のほとりにいる男の子たちも間もなくあの世へ行ってしまうことを考えると、少し切ない思いを感じざるを得ません。
「ここにいる子供たちも、ぼくといっしょにこの世へ戻ることができればいいなあ」
敬太は、河原で石積みをしている男の子たちも、この世に戻ってほしいとつぶやきました。石を積み上げて塔を作っても、そのたびに鬼たちが壊されて男の子たちが大泣きするのを見るたびに、敬太は切ない思いになります。
そうするうちに、敬太たちは積み石を上へ次々と高く積んでいます。それは、高さにして約3尺(約90cm)ほどに達するものです。
「さあ、あと少しで積み石の塔が完成するぞ! え~いっ!」
「うわあっ、こんなに重い石を載せることができるなんてすごいなあ!」
敬太は、河原にある大きくて重たそうな石を運んでくると、それを何重に組み立てた積み石の真上に載せました。
敬太にとっては、かなり重量のある岩石であっても楽々と持ち上げることができます。しかし、男の子にしてみれば、自分と同じくらいの年齢の小さい子供が重たいものを平気で持ってくるだけでも驚きを隠せません。
積み石の塔が完成した敬太たちですが、すぐそばには赤鬼と青鬼が2人に迫ってきました。鬼たちは、敬太たちが積み上げた石の塔を今にも壊そうとするところです。
「うわああっ、鬼たちに壊されるのはもういやだ! うえええええ~ん!」
男の子は、鬼たちに再び壊されるかもしれないと再び大泣きし始めました。しかし、そんな子供の泣き声やわめき声が聞こえようとも、鬼たちにとっては目の前にある積み石の塔を自分たちの手で壊すことに変わりはありません。
「こんなのなんか、どうだっていいんだよ! うりゃあ…」
「おりゃああっ! おりゃ…」
赤鬼と青鬼は、敬太たちが作った積み石の塔を一斉に壊そうと腕を振り下ろした、まさにそのときのことです。
「んぐぐぐぐ…。せっかく作った積み石の塔を鬼なんかに壊されてたまるか!」
「いっしょに作った積み石の塔を守ろうとしているんだ…。がんばって!」
敬太は、赤鬼と青鬼が振り下ろした腕を両手で握りながら必死に食い止めました。これを見た男の子も、積み石の塔を守ろうとする敬太を応援しています。
一方、鬼たちにとっては、自分たちに立ちふさがる敬太がどうしても邪魔になってしょうがありません。
「放せ、放せ! おめえは小さい子供のくせに、おれたちの邪魔なんかしやがって…」
「子供たちをいじめるやつは、このぼくが絶対に許さないぞ!」
鬼たちは、敬太につかまれた自分たちの腕を何とか放そうとしますが、敬太のあまりにも強い握力になかなか放すことができません。敬太は、鬼たちが自分のことに気を取られている隙に、赤鬼と青鬼の胸に思い切り強烈な頭突きを食らわしました。
「えいっ! えいっ! えいっ! えいっ!」
「いたたたっ、いたたたたっ…」
「いててっ…。よくもやってくれたな…」
鬼たちは、敬太から頭突きを食らったときの強烈な痛みでよろけています。これを見た敬太は、すかさず赤鬼に飛び蹴りを何度も胴体に命中させました。
「えいえいっ! えいえいっ! え~いっ、とりゃあっ!」
「うわあっ! わわわっ、わわわっ…」
敬太が凄まじい右足の蹴りを命中させた瞬間、赤鬼はそのまま一直線に三途の川へ落下しました。しかし、この間にも青鬼が敬太の背後から攻撃を仕掛けようとしています。
「ふはははは! まだ青鬼がいることを忘れてもらっちゃ…」
「青鬼が後ろにいることなんか、ぼくにはすぐ分かるぞ!」
青鬼の動きを察知した敬太は、すぐさまに青鬼がいる後方へ向きました。そして、敬太は青鬼に攻撃する暇を与えることなく、そのまま胴体を両手でつかみました。
「これでどうだ! んぐぐっ、んぐぐぐぐっ!」
「わわっ、わわわっ…。早く下ろせ! 早く下ろせ!」
敬太は、自分よりも一回りも二回りも大きい青鬼の体を持ち上げました。持ち上げられた青鬼は、自分の真下にいる敬太にわめき叫んでいます。
それでも、敬太は子供たちをいじめ続けた鬼たちを許すわけにはいきません。
「青鬼め、これでどうだ! え~い、とりゃああっ!」
「うわああっ、わわわああっ…」
敬太は、真上に持ち上げた青鬼を三途の川に向かって思い切り投げ飛ばしました。敬太が投げ飛ばしたときの勢いは、青鬼が三途の川を越えて向かい側のお花畑にまで達するほどです。
「ドッシイ~ンッ!」
「ウゲゲッ…。いてててっ、いててててっ…」
青鬼は、あの世にある美しいお花畑に真っ逆さまに落下すると、自分の背中を地面に強打しました。そして、青鬼は死ぬほどの強烈な痛みでのたうち回っています。
敬太は、その間にほかの子供たちといっしょに三途の川の河原からこの世へ戻ることを決意しました。
「みんな、ぼくといっしょにこの世へ戻ろう!」
「ぼくも戻りたい!」「おっとうとおっかあに会いたいよ!」
「あの世へ行きたくないよ!」
敬太の呼びかけに、河原で石積みをしていた男の子たちもすぐに反応しました。敬太と同様に、ここにいる子供たちもまだ死にたくありません。
「あっちの道へ行けば、この世へ戻ることができるよ」
「教えてくれてありがとう!」
男の子たちは石積みをするのをやめて、敬太の周りにみんな集まりました。そして、男の子の1人がこの世へ戻るための道を敬太に教えました。
「今のうちに、この世へ急いで戻るよ! 少しきついかもしれないけど、みんながんばってね!」
「どんなにつらくても、みんなといっしょなら大丈夫だよ!」
敬太は、自分のお父さんとお母さんに会うためにも、再びこの世へ戻りたいという強い思いがあります。男の子たちも、この目でお父さんやお母さんの顔が見たいという願望に変わりありません。
「ねえねえ、きみはこんな坂を歩いても平気なの?」
「ぼくは、これくらいのきつい坂道をいつも歩いているからへっちゃらだよ!」
敬太と男の子たちは、この世の出入り口まで行く途中にある険しい坂を上っています。敬太にとって、このような山道や坂道を歩いたり走ったりすることはお手のものです。しかし、他の男の子たちは険しい道を歩き慣れていないこともあり、歩くだけでも相当苦労しています。
それでも、このくらいでへこたれているようではこの世へ戻ることはできません。男の子たちは、この後も先頭を歩いている敬太の後をついて行きました。
「あっ、何か出口みたいなのがあるぞ」
「そこに入れば、この世へ戻ることができるのか」
男の子たちはこの世の出入り口がある場所を見つけたので、敬太より先に駆け足で走り出しました。しかし、敬太はその出入り口を見た途端、すぐに男の子たちを呼び止めようと声を上げました。
「みんな、ちょっと待って! その出入り口には…」
「そんなことを言っていたら、1人だけそこに取り残されて…」
すぐ先には、2本の柱の上に冠木を貫き通して屋根をかけた冠木門があります。これが、男の子たちが言っていたこの世の出入り口です。
男の子たちは、早くこの世へ戻りたいという一心で冠木門へ行こうとしました。そのとき、先頭のぽっちゃりとした男の子が冠木門の目前で何かにぶつかりました。
「いてててて…」
「ふはははは! おまえらがこの世へ戻ろうたってそうはいかないぞ!」
「石積みをするのをやめて、この世へ戻ろうとするとはいい度胸だな、ふはははは!」
男の子は、ぶつかったはずみで思わず尻餅をついて倒れてしまいました。すぐに上半身を起こした男の子ですが、目の前にはさっきまで賽の河原にいたはずの赤鬼と青鬼が待ち構えていました。
鬼たちは、子供たちがこの世へ戻るのを阻止するために、冠木門の手前へ先回りしていました。
「あわわっ…。わわわっ…。ど、どうしてここに…」
「恐いよ、恐いよう…」「うええええ~ん、うええええ~ん!」
「これからおれたちがたっぷりとかわいがってやるからなあ、ふはははは!」
再び出くわした鬼たちを見て、男の子たちは腰を抜かしておびえています。中には、大声で泣き叫ぶ小さい男の子もいます。そんな中にあっても、鬼たちは冷徹な態度で手の指をポキポキと鳴らす仕草をしながら、子供たちに心理的な圧迫を加えています。
そして、尻餅をついたままのぽっちゃりとした男の子が、鬼たちの恐い顔を見ておびえているそのときのことです。
「わわわっ…。あっ、おしっこをもらしちゃった…」
「鬼たちが恐くてもらしちゃったの?」「うん…」
男の子は目の前にいる鬼たちがあまりにも恐くて、地面におしっこを大量にもらしてしまいました。おしっこをもらしてしまった男の子は、腹掛けの下を両手で当てながら恥ずかしそうな表情を見せています。
「ふはははは! おれたちを見ただけで見事におもらしをするとは、本当に情けない男の子だなあ」
「ううううっ、ううううっ…」
鬼たちは、おもらしをしちゃった男の子を見下すように大笑いしています。ぽっちゃりした男の子は、自分のおもらしを鬼たちに笑われているのを見て泣きそうになりました。
そのとき、後ろからやってきた敬太はこの様子を見た途端、冠木門を通さないようにしている鬼たちへ大声で叫ぶように言いました。
「鬼たちめ、よくも子供たちをいじめやがって! 絶対に許さないぞ!」
敬太の言葉に、鬼たちにおびえている男の子たちは自分たちを助けにきてくれたことにとてもうれしそうです。一方、鬼たちにとっては、自分たちの思い通りにできない敬太の存在に苦々しい表情を見せています。
「おめえもこの門を通るつもりか?」
「ぼくも、ここにいる子供たちもみんなこの世へ戻るためにここにきたんだ!」
苦虫を嚙み潰したような表情を見せる鬼たちを横目に、敬太は男の子たちと冠木門を通ってこの世へ戻るためにここへやってきました。
「そういえば、おめえの名前を聞くのを忘れていたな。おめえの名前はなんだ!」
「ぼくの名前は敬太! まだ7歳児で、こんなに元気いっぱいの男の子だぞ!」
敬太は、鬼たちの前で自分の名前を元気な声で堂々と言いました。男の子たちも、振り向いて後ろにいる敬太の姿を見て笑顔で喜んでいます。賽の河原で石積みをしているときの無表情だったり、黙り込んだりする姿はなく、いつもの子供らしい元気で明るい顔つきに戻っています。
すると、ぽっちゃりした男の子が恥ずかしそうな表情で敬太を呼びました。男の子は顔を赤らめながら、おもらししてぬれちゃった腹掛けの下を両手で当てています。
「敬太くん、ごめん…。おもらししちゃったの…」
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ! ぼくなんか、いつもお布団にこんなにでっかいおねしょをしているぞ!」
ぽっちゃりした男の子がおもらししたことをモジモジしながら言うと、敬太は自分が毎日のようにでっかくて元気なおねしょをしちゃうことを明るい笑顔で言いました。これを聞いた男の子も、敬太の笑顔を見てすっかり明るい顔立ちに戻りました。
この間、鬼たちは怪訝そうな面持ちで2人の様子をずっと見ていました。そして、鬼たちはおねしょやおもらしをする敬太たちをバカにしました。
「何を話しているかと思ったら、おもらしとかおねしょのことなのか。こんなことを言って恥ずかしくないのかなあ、ふはははは!」
「よくも、おねしょやおもらしをバカにしやがって! おねしょだって、おもらしだって、元気な子供だったらそんなことくらい当たり前だぞ!」
鬼たちは、敬太たちのおねしょやおもらしを怪しげな笑い声で大笑いしています。すると、敬太はおねしょやおもらしをするのは元気な子供なら当たり前と言い返しました。
「ええい! よくもじゃましやがって! おめえがどう言おうと、この世へ戻る門は絶対に通さねえからな!」
「鬼たちがこの門を塞いでも、ぼくは絶対に子供たちをこの世へ戻るようにしてやるからな!」
鬼たちは、子供たちをこの世へ戻らせないように冠木門を2人で塞いでいます。しかし、こんなことでくじける敬太ではありません。
「えいえ~いっ! んぐぐぐぐっ、んぐぐぐぐっ!」
「おいおい…。ま、まさかおれたち2人を一度に持ち上げるとでも…」
敬太は、冠木門を塞いでいた赤鬼と青鬼をそれぞれ片手ずつで持ち上げています。鬼たち2人の体重は合わせて約44貫(約165kg、1貫=約3.75kg)もあり、普通の大人の場合には1人すら持ち上げられないほどの重さです。
しかし、敬太はこのくらいの重量であっても、両腕に力こぶを入れることで堂々と持ち上げることができます。凄まじい力で持ち上げられた鬼たちは、敬太の真上であたふたしています。
「みんな、今のうちに門を開けてこの世へ戻って!」
「敬太くんを置いてこの世へ戻るなんてできないよ」「いっしょに戻ろうよ」
敬太は、自分が鬼たちを持ち上げている間に冠木門を通ってこの世へ戻るよう男の子たちに呼びかけました。しかし、男の子たちは敬太をここに置いたままで戻るのをためらっています。男の子たちにとって、自分たちがこの世へ戻ることができるのは敬太のおかげであると感じているからです。
でも、このままためらっていると最悪の場合、敬太とともに鬼たちによって地獄送りということにもなりかねません。その間にも、敬太に持ち上げられている鬼たちの怒りが充満してきました。
「おれたちのじゃまばかりしやがって、早く下ろさんかい!」
「じゃまばかりしていると地獄へ叩き落すぞ!」
「鬼たちめ、これでどうだ! え~い! とりゃああっ!」
力持ちの敬太にしても、ずっとこの状態で鬼たちを持ち続けるわけにはいきません。敬太は、坂道の両側にある岩壁に鬼たちを思い切り投げ飛ばしました。
「うげげっ、うげげっ…」
「いててて…。よくも、おれたちにたて突きやがって…」
岩壁に強打した鬼たちは、そのまま地面にぐったりと倒れました。赤鬼と青鬼は背中をかなり強打したこともあり、のたうち回るほどの激しい痛みを伴っています。
「敬太くん、早く早く!」「急いで、急いで!」
「みんな、ありがとう! ぼくもすぐ行くよ!」
男の子たちは、この世へ戻るために冠木門の扉を開けようとしているところです、しかし、それはかなり重い扉であり、男の子全員そろって力を合わせてもなかなか開けることができません。
「ぼくがこれからこの扉を開けるから、開いたらすぐ入ってね」
「うん、分かったよ!」「敬太くん、ありがとう!」
敬太は冠木門の扉の前に立つと、左右の扉を自らの力で開けることにしました。男の子たちは、鬼たち2人を自らの力で持ち上げた敬太の腕力に掛けることにしました。
「んぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ!」
敬太は腰に力を入れながら、目の前の扉を力いっぱいに開けようと試みます。しかし、その扉は敬太の力であっても、ちょっとやそっとで開くものではありません。
「この扉さえ開けることができれば…。んぐぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐぐっ!」
それでも、敬太はいっしょにいる男の子たちのためにも、冠木門の扉を絶対に開けなければなりません。必死に扉を開けようとする敬太の姿を見て、男の子たちも敬太に声をかけながら応援しています。
「敬太くん、がんばって!」「敬太くんだったら絶対にできるよ!」
「よ~し! みんなのためにも絶対にこの世へ戻ってみせるぞ! んぐぐぐぐぐっ!」
敬太は、男の子たちからの応援から力を得ると、お相撲の稽古で鍛えた力強い押しで思い扉を開けようとがんばり続けています。
そして、敬太がありったけの力を入れて扉を押したときのことです。
「んぐぐぐぐっ! んぐぐぐぐっ! えいえ~いっ!」
敬太は、この世へ通ずる冠木門の重い扉を見事にこじ開けることができました。これを見た男の子たちは、あまりにも凄まじい力で扉を開けた敬太の姿に歓声を上げました。
「わ~い! 扉が開いたぞ!」「敬太くん、ありがとう!」
「敬太くんのおかげで、この世へ戻れるぞ!」
男の子たちは、冠木門の扉を開けることができた敬太に感謝の気持ちを伝えました。その気持ちは、敬太にも十分伝わっています。
そのとき、敬太は鬼たちが痛みをこらえながらも、少しずつ立ち上がろうとしているのを目撃しました。
「みんな、急いで! 鬼たちが起き上がってきたぞ!」
「わわわっ! 鬼に連れ戻されるのはいやだ!」「早くここを出ようよ!」
男の子たちは、敬太から鬼たちが起き上がってきたことを聞くと、敬太が扉を開けているうちに冠木門へ次々と入っていきました。
敬太は重そうな扉を支えながらも、この世へ戻っていく男の子たちを見守っています。ところがそのとき、敬太は急に苦しそうな顔つきになると同時に、両足をバタバタし始めました。
「お、おしっこが出る…。も、もれそう…」
敬太は、おしっこが出るのを必死にガマンしているところです。男の子たちが全員無事にこの世へ戻ることができるまでの間、敬太はできるだけ平静を保とうとしています。
しかし、鬼たちは男の子全員が冠木門に入るのを阻止しようと素早い動きで突進してきました。これを見た敬太は、赤ちゃんを背負った男の子が最後に冠木門へ入るのを確認しました。
「敬太くんも早くこの世へ戻って!」「いっしょにこっちへきてよ!」
「先に鬼たちをやっつけてから、ぼくもみんなのいるこの世へ戻るからね! それまで待っててね!」
「敬太くん、必ず戻ってね! 約束だよ!」
先にこの世へ戻った男の子たちは、敬太にも早く戻ってほしいと呼びかけました。しかし、敬太は目の前に迫った鬼たちを撃退するのが先決であり、男の子たちがいるこの世へ戻るのはそう少し先になりそうです。
「よくも、子供たちを全員この世へ戻しやがって…。おれたちはおめえを絶対に許さないからな!」
「許さないだと! 許さないのは鬼たちのほうだぞ! え~いっ! とりゃあっ!」
敬太はすぐに冠木門の扉を閉めると、突進してきた鬼たちに向かって素早く飛び蹴りを食らわせました。
「うげっ、うげげげっ!」
「どうだ、ぼくの飛び蹴りの…」
敬太は、青鬼の胸元に強烈な蹴りを命中させました。その蹴りを食らった青鬼は、その場で尻餅をつきながら倒れ込みました。
しかし、仲間である赤鬼はすぐさまに敬太の後ろに回りました。敬太が気づいていない隙に、赤鬼は右足で敬太の後頭部を強く蹴りつけました。
「いててててっ…。赤鬼め、何をするんだ!」
「よくも子供たちをこの世へ逃がしやがって! おめえには、ここでたっぷりと地獄を味わなければならないなあ!」
強く殴られてその場で倒れました敬太に対して、赤鬼は続けざまに敬太の背中を何度も右足で強く踏み続けました。しかし、敬太は痛みをこらえながらも何とか体を起こそうとしています。
敬太の目の前には赤鬼が形勢逆転と言わんばかりに、敬太からこれまで受けた攻撃の仕返しを一気に行おうとしているところです。
「おれたちが力技だけではないことを、今からおめえに教えてやるぜ! それっ!」
「わわわっ! 鬼の口からいきなり火を吹いてきた!」
赤鬼は、敬太めがけていきなり火の玉を次々と吹き出しました。敬太は、まだ完全に立ち上がれない状態ですが、素早く横になって間一髪でかわすことができました。
「ちっ、おれの火の玉攻撃をよくかわしたな! だが、次はどうかな」
「そんな攻撃ぐらいどうだって…。お、おしっこがもれる…」
赤鬼の攻撃をかわした敬太は、痛めた背中を右手で押さえながら立ち上がりました。しかし、敬太のおしっこは次第に限界に近づいており、赤い腹掛けの下を左手で押さえながらガマンし続けています。
「ふはははは! あれだけ凄まじい力があるおめえといえども、おしっこをガマンしているようではおれたちの攻撃などかわせないだろうな!」
「んぐぐぐぐっ…」
赤鬼は、おしっこを必死にガマンしている敬太の姿を見ながら、不気味な笑い声で勝ち誇るように言い放ちました。敬太はすぐにでも反撃に転じたいところですが、おしっこがもれるのをガマンしている状態ではそれもおぼつきません。
「そりゃあ! 今のうちにこの場で叩き潰して始末しようぜ! ふはははは!」
「ふはははは! ここがおめえにとっての地獄だぜ!」
赤鬼と青鬼は、敬太がおしっこガマンに気を取られている隙にとどめを刺すために、両側から敬太を狙い撃ちしようと高く飛び上がりました。
「うりゃああっ! これがとどめだぜ!」
「おめえはこれから行くであろう地獄で、ずっと死ぬほどの苦痛を味わうことになるからなあ、ふはははは!」
鬼たちは高く飛び上がったところで互いに片手を組むと、そのまま急降下して真下にいる敬太を一気に押しつぶしました。
「ふはははは! ふはははは! これであのじゃまな子供を始末したことだし…」
「おいっ、おれたちが押しつぶしたはずの子供がいないぞ! どういうことだ!」
鬼たちは、目の上のたんこぶである敬太をついに倒したことに不気味な笑い声で喜びを感じているところです。青鬼は、すぐに敬太の死に顔を見ようとしましたが、そこに敬太の姿は全く見当たりません。
すると、真上から敬太の元気な声が聞こえてきました。敬太は鬼たちに押しつぶされる直前に、右足を踏み込んで真上へ高く飛び上がりました。
「鬼たちめ、今度はこっちからだ! とりゃあっ! えいえいっ! えいえ~いっ!」
「わわわっ! いててててっ! いててててっ!」
「いててっ! いててててっ!」「グエッ! いててててっ! いててててててっ!」
敬太は、そのまま急降下しながら右足で赤鬼の背中に強く踏みつけると、飛んだり跳ねたりしながら両足で何度も踏み続けました。同じように、隣り合っている青鬼の背中にも何度も飛び跳ねながら踏み続けました。
さすがの鬼たちも、敬太による背中への集中攻撃にかなり痛そうな表情を見せています。 それでも、これ以上耐えられない状況であっても、鬼たちは決して音を上げようとはしません。
敬太は、続けざまに飛び跳ねては鬼たちの背中に踏みつけるという攻撃を加えていますが、その途中でついにおしっこのガマンができなくなりました。
「こ、こうなったら…。これでどうだ! え~いっ!」
「わわわっ、やめろ! やめろ!」
敬太は、鬼たちの背中を強く踏んでから高くジャンプしました。ジャンプした敬太は、最高到達点からお尻を下に突き出すように急降下すると、隣同士である赤鬼と青鬼の後頭部に思い切り踏みつけました。
「いててっ! いてええええっ!」「いてええええっ! いてええええっ!」
敬太による後頭部への攻撃は、鬼たちにとって死ぬほどの激痛を伴うものであり、これ以上戦うのはほとんど不可能となりました。そして、敬太が鬼たち2人の後頭部に尻餅をつくように座ったその瞬間のことです。
「ジョパジョパジョジョジョ~ッ、ジョパジョパジョジョジョ~ッ」
「うわあっ! おれたちの頭におしっこをしやがって…」
「おれの頭におしっこをするな! やめろ! やめろ!」
敬太は、ついに鬼たちの後頭部にガマンしていたおしっこを見事にもらしてしまいました。敬太のおしっこは、背中や後頭部を敬太の攻撃で痛めた鬼たちにとどめを刺すことになりました。
「でへへ、おしっこがもうガマンできずにおもらししちゃったよ。でも、これで鬼たちをやっつけることができたぞ!」
敬太は、おしっこがガマンできずにおもらしをしちゃったことに照れています。でも、最終的に鬼たち2人を見事にやっつけたことに敬太は満足している様子です。