その2
「よくも、よくも…。村人たちを平気で殺しやがって…」
敬太は、村人たちを皆殺しにしたことを平然と言い切った獣人たちに対する怒りが爆発しました。感情を抑えられなくなった敬太は、真正面から頭領格の獣人に向かって右肩から強く体当たりしました。
「えいっ! えいっ! えいえいえ~いっ!」
「わわわっ! 敬太め、いきなり体当たりしやがって!」
頭領格の獣人は、敬太による体当たりが何度も命中したはずみで、そのまま地面に倒れ込みました。これを見た部下の獣人たちは、すぐさま敬太への反撃を開始しました。
「よくも、おれたちの頭領を痛めつけてくれたな! これでも食らえ!」
「どりゃあっ!」「どりゃあっ、どりゃあっ!」
獣人たちは軽くジャンプすると、右手で握っている木の板の棒を強く振り下ろして敬太に襲い掛かりました。しかし、敬太は小さい体を生かした身のこなしで獣人たちの攻撃をかわしていきます。
「こんな攻撃ぐらいだったら、そんなに恐くないぞ!」
「ちょこまか逃げるようにかわしやがって…。どりゃああっ!」
獣人たちは、何としてでも敬太に攻撃を加えようと必死になっています。敬太は、獣人たちがあせっているのを見計らうと同時に真上へ飛び上がりました。そして、敬太は獣人が振り下ろした木の板の上でもう一度ステップすると、そのまま右足で強烈な蹴りを食らわせました。
「獣人め、これでどうだ! えいえ~いっ!」
「グエグエッ、グエグエエッ!」
敬太の蹴りは、一撃であっても命中した獣人にはその威力が強烈です。強烈な蹴りが胴体に命中した獣人は、後方から地面に倒れてしまいました。
でも、敬太と戦う獣人は1人だけではありません。今度は、もう1人の獣人の部下が木の板の棒を使って、敬太の真後ろから強く叩きつけるように殴打しようとしています。
「ふはははは! 敬太め、おれたち獣人に逆らったらどういうことになるかを今から教えてやるわ!」
獣人の部下は敬太の頭にタイミングを合わせると、木の板の棒を素早く振り下ろしました。しかし、敬太はその動きを察知して間一髪で獣人の攻撃をかわすと、今度は振り向きざまに左足で強烈な回し蹴りを繰り出しました。
「えいえ~いっ! どうだ、ぼくの回し蹴りの威力は!」
「うぐぐっ、うぐぐぐぐっ…。よくも、わしのみぞおちに蹴りを入れやがって…」
獣人は敬太からの回し蹴りがみぞおちに食らった瞬間、そのあまりの激痛に前方から地面へぐったりと倒れ込みました。獣人を襲った激痛は、すぐに立ち上がることができないほどの凄まじい痛みです。
地面に倒れ込んでいる獣人の部下たちをよそに、敬太は頭領格の獣人に攻撃の照準を合わせようとしたそのときのことです。
「獣人の頭領め、このぼくが村人たちに代わってかたきを…」
「ふはははは! それはどうかな」
獣人の頭領は、両手でキツネとタヌキを逃げないように強く握るとともに、ワンべえを左足で踏みつけています。ワンべえたちは、獣人の頭領に捕まっている状況に泣き叫んでいます。
「敬太くん、助けて! 助けて!」「放してよ! 放してよ!」
「おめえらが泣こうがわめこうが、そんなこと知ったこっちゃないわ!」
キツネたちは泣きながら敬太に助けを求めていますが、頭領格の獣人はそんな悲痛な訴えに耳を傾けようとしません。これを見た敬太は、かわいい動物たちを痛めつける頭領格の獣人に対する怒りで体が震えています。
「獣人め、よくも動物たちをいじめやがって! とりゃあっ!」
「うわっ、うわっ! いきなり何をしやがる…」
「えいえいっ! えいえいっ! ええ~いっ!」
敬太は、頭領格の獣人に向かって飛びかかりました。そして、敬太は獣人に対する怒りをぶつけるかのように、獣人の胴体に強烈な蹴りを何度も繰り返しました。
「グエッ、グエエッ…。こんなに凄まじい力があるとは…」
「敬太くん、恐かったよ~」「助けてくれて本当にありがとうワン!」
「みんな、もう大丈夫だよ。ぼくは、みんなのことを絶対に守ってあげるからね!」
頭領格の獣人は、敬太の凄まじい蹴りの威力に背中からドシンと倒れ込みました。敬太が凄まじい力の持ち主であることは獣人界で知れ渡っていましたが、強烈な蹴りを何回も食らったことで改めて敬太の力を思い知ることになりました。
一方、獣人に捕まっていたワンべえたちは、自分たちを助けてくれた敬太にへばりつきながら感謝の気持ちを伝えました。敬太は、動物たちの気持ちに応えるためにも獣人たち3人をやっつけることを心に誓いました。
そのとき、敬太の強い蹴りを受けて倒れ込んだ獣人たち3人が痛みを押しながら立ち上がりました。その顔つきはまさに鬼の形相そのものであり、敬太に対して鋭くにらみつけています。
「敬太よ…。よくも急所に蹴りを入れやがって…」
「おれたちを本気で怒らせたら、どうなるか分かっているだろうな…」
獣人の部下たちは、右手で持っている木の板の棒を地面に何度も叩きつけながら、敬太に向かって威嚇するような口調で言い放ちました。
しかし、敬太はそんな獣人の脅し文句にひるむことはありません。そして、今度は敬太が獣人たち3人に向かって挑発しました。
「そんなに言うなら、ぼくが獣人3人まとめてやっつけてやるぞ!」
「まとめてやっつけるだと? よくもまあ、おめえはそんな生意気なことをおれたちに言いやがって…」
獣人たちは、敬太の言葉を聞くたびに、自らの拳を握り締めながら震えていました。それは、自分たちに対して挑発した敬太への怒りを如実に示すものです。
そうは言っても、獣人たちが力ずくで叩き潰そうにも、敬太に獣人たちの動きが読まれてすぐさまに反撃を食らうのは目に見えています。
「それなら、ここから移動しておめえと戦うとするかな。おめえにとって地獄送りにぴったりの場所になるだろうけどな」
「地獄送りの場所だと? 獣人め、ぼくはどんなところであっても絶対にやっつけてみせるぞ!」
獣人たちは農家の庭先から離れると、引き続き敬太と戦うために道のど真ん中へ移動することにしました。敬太は、獣人たちが言ったある言葉が気になりましたが、とにかくどんな場所であっても全力で戦うことに変わりありません。
一方、獣人たちは頭領格を中心に、耳元でゴニョゴニョと小声で話しています。その内容を聞いた獣人たちは、ニヤリとしながら不気味な笑みを浮かべました。
単に敬太と戦うためだけだったら、獣人たちがわざわざ他の場所へ移動する必要はありません。獣人たちの本当の狙い、それは別のところにあります。
「敬太はおれたちを絶対にやっつけると自信満々のようだけど、その自信がいつまで続くのかな? ここが敬太にとっての最後の場所になるとは知らずになあ、ふはははは!」
「あれを放てば、あの敬太といえどもイチコロさ。ふはははは!」
獣人たちがひそかに話していたのは、敬太を始末するためのある秘策についてです。その秘策があれば、あれだけ元気に動き回る敬太であっても一撃で息の根を止めることができるからです。
獣人たちがヒソヒソと話す姿は、農家から道のほうへ出てきた敬太の目からみてもはっきりと分かります。しかし、敬太はその内容を全く知りません。
「獣人め、何もしないのならこっちから行くぞ!」
「おいっ、いきなり何をしやがる…」
「えいっ! えいえいっ! えいえ~いっ!」
敬太は、獣人が3人固まって集まっているのを見ると、素早い動きで立ち向かって行きました。そして、敬太は自ら強く握り締めた拳を繰り出すと、獣人たちの胴体に次々と命中させました。
「ウゲッ! いてててて、いてててて!」
「いてててっ、よくもあのチビめ…」
「くそっ、あんなに小さい子供相手に何度もやられてばかりじゃ、大権官に合わせる顔がないし…」
獣人の部下たちは敬太の強烈な拳を食らうと、あまりの激しい痛さに地面をのた打ち回っています。そんな中、頭領格の獣人はこの場で敬太を始末するための秘策として、あるものを出そうと着物の中に手を入れました。
すると、その様子を見た敬太が右足を踏み込んで飛び上がると、自らの左足で頭領格の獣人の胸元へ思い切り蹴りつけました。敬太からの攻撃を受けた頭領格の獣人は、そのはずみで後方に倒れこみました。
しかし、敬太の攻撃はこれで終わるわけではありません。敬太は、倒れこんだ頭領格の獣人の顔面に飛び乗るようにお尻から座った途端、お腹からいつものあの音が聞こえてきました。
「ギュルルッ、ギュルルルルル、ゴロゴロゴロゴロッ」
「何だかお尻がムズムズしてきたぞ。もうガマンができない…」
敬太は、いきなり襲ってきた顔をゆがめるほどの腹痛にガマンできない様子です。それなら、敬太はここから獣人へのさらなる攻撃を加えようとある方法を思いつきました。
「プウウッ! ププウウウッ! ププウウウウウウウッ!」
「敬太め、おれの顔にくさいおならをしやがって…」
敬太は、最初にでっかくて元気いっぱいのおならを3回続けて頭領格の獣人の顔面に命中させました。
これには、さすがの獣人も鼻をつまみたくなるほどのくさいおならです。そして、敬太は額に汗を浮かべながらお腹にたまっているものを一気に出し切ろうと、お尻に力を入れながらいきみ続けました。
「うんっ! ううんんっ! ううんんっ! うううんんんんんん~っ!」
「わっ、わわっ、何をするんだ! よくもおれの顔にでっかい大ぐそをしやがって…。やめろ! やめろ!」
「獣人め、どうだ! いつもイモをいっぱい食べるおかげで、ぼくはこんなに元気なおならやうんちがいっぱい出たぞ!」
敬太は大好きなイモをよく食べるので、こんなに見事なうんちがいっぱい出たことを獣人たちの前で笑顔を見せながら喜んでいます。一方、頭領格の獣人は自分の顔面にとぐろ巻きのうんちをした敬太に対して怒りが沸々とたぎりました。
その間にも、敬太は喜び勇んで獣人の部下たちへ飛びかかりました。敬太は獣人たちに反撃する暇を与えずに、獣人の部下を2人まとめて強烈な拳と蹴りを繰り出しました。
「とりゃあっ! えいえいっ! とりゃあっ!」
「うぎゃああっ! いててっ、いててててっ!」
「ぐえっ、ぐえええっ…。おのれ、あのチビめ…」
獣人の部下たちは、小さい体であらゆる技を繰り出す敬太の力に押され気味です。獣人たちが反撃に転じようとしても、その前に敬太がいきなり攻撃を仕掛けられたらどうしようもありません。
そのころ、獣人の頭領は顔面にたっぷりついた敬太のうんちを払い落とすと、敬太への怒りは最高潮に達しました。
「くそっ! くそっ! あのチビめ、おれの顔に汚い大ぐそをしやがって!」
頭領格の獣人は怒りに満ちた表情を見せるとともに、強く握り締めている右手の拳が震えるほどの凄まじい殺気が宿っています。
「敬太め、ただで済むとは思うなよ…。今からおれたちがこの手で始末して地獄送りにしてやるからな…」
声を震わせながら怒りをあらわにした獣人の頭領は、再び着物の中から何かを出し始めました。これさえ使えば、敬太を一気に地獄送りにすることが可能です。
大権官に良い知らせを伝えるためにも、頭領格の獣人は数少ない好機を逃すわけにはいきません。
「これを放てば、あの敬太といえどもイチコロで命を落とすことになるぜ! 今から敬太の死に面を見るのが楽しみだなあ、ふはははは、ふはははは!」
頭領格の獣人が放ったもの、それはどう猛で鋭い牙を持ったマムシです。マムシは敬太の背後に向かって地面を這い続けています。
そのとき、ワンべえをはじめとする動物たちは、敬太の様子を見ようと農家の庭から道のほうへ出てきました。キツネとタヌキは敬太の背後に迫るマムシの姿を見ると、すぐに叫ぶように言いました。
「敬太くん、気をつけて! 気をつけて! 後ろからマムシが近づいてきたよ!」
「えっ、マムシだって?」
敬太は動物たちの忠告を聞いて後ろへ振り向くと、マムシが地面を這いながら目の前まで近づいてきました。マムシはまるで血に飢えたような様子で、鋭い牙を出しながら敬太を狙っています。
しかし、獣人が放ったマムシはこれだけではありません。
「ふはははは! マムシは1匹だけと思ったら大間違いだぜ! おめえの息の根を止めるためには、どんな手段でも使うのさ!」
獣人の部下たちは、痛々しい表情を見せながら何とか立ち上がると、頭領格の獣人と同様に着物の中からマムシを地面に放ちました。
獣人たちが放ったマムシは、敬太を始末するために鍛えられたものです。普通のマムシとは違って、強力な毒を持った牙で積極的に噛みついてくる非常に恐ろしいヘビです。
「前からも後ろからもマムシがいるとは…。どうすればいいんだ」
敬太を狙っているマムシは、前から1匹、後ろからも2匹います。本来なら、しっぽを踏んだりとかしなければ、マムシが人を襲うことはありません。しかし、獣人が放ったマムシは狙った獲物に飛びかかる攻撃的な性格を持っています。
当然ながら、マムシが一番の標的としているのは敬太の両脚です。敬太はいつも金太郎みたいな赤い腹掛け1枚だけの格好なので、両脚は常に露出している状態になっています。
「さすがの敬太も、おれたちが放ったマムシにはひるんでいるようだな。今から一斉に敬太を叩きのめしてやるか!」
「行くぞ! うりゃああっ、うりゃああっ!」「おりゃああっ、おりゃああっ!」
獣人たちは、マムシに囲まれて身動きができない敬太を見て、すかさず3人一斉に飛びかかりました。しかし、敬太は獣人たちの動きを察知すると、すぐに真上へ高くジャンプしました。
「いてててて! どこ見ているんだ!」
「そんなこと言ったって、おれは敬太をこの手で始末しようと思って…」
「うわっ、敬太が急に消えたぞ! どこへ行ったんだ?」
敬太が姿を消したことに気づかない獣人たちは、一斉に攻撃を加えようとしてそのまま同士討ちになって頭を強く打ってしまいました。敬太が突然いなくなったことに戸惑っている獣人たちを横目に、真上へ飛び上がった敬太は自らの存在を獣人たちにアピールしています。
「ぼくはどんなやつであってもひるんだりなんかしないぞ! とりゃああっ!」
「わわわっ! やめろ、やめろ!」
「えいえ~いっ! とりゃあっ! とりゃあっ!」
敬太は真上から急降下すると、その勢いで獣人たち3人の頭部を次々と強く蹴りつけました。頭部を強く蹴られた獣人たちは、地面にうずくまるように倒れました。
「本当におれの頭を強く蹴りやがって…。いてててて…」
「お、おのれ…。敬太め、戦いが終わったと思ったら大間違いだぞ…」
敬太から続けざまに攻撃を何度も命中されれば、ここで獣人たちが降参してもおかしくありません。それでも、獣人たちはまだまだ降参するつもりはありません。なぜなら、獣人たちが放った見えざる敵の存在があるからです。
「そういえば、おれたちが放ったマムシは?」
「それは心配することはないぞ。この水路の脇に草が生い茂っているけど、ここにマムシが3匹そろい踏みで潜んでいるからな」
田んぼの前に生い茂る草むらの中に、マムシたちが毒牙を出しながら待ち構えているのを獣人たちが確認しました。獣人たちは一気に形勢逆転を狙うべく、敬太を何としてでも草むらに誘い出す作戦を思いつきました。
「いくら敬太といえども、あの草むらから襲いかかるマムシの牙に噛み付いたら、体の中に毒が回ってその場で息絶えることは間違いないからなあ! ふはははは!」
頭領格の獣人は、自分たちの放ったマムシの毒牙で地面に倒れたまま永遠の眠りにつく敬太の姿を想像しながら不気味な笑い声を上げました。
そして、獣人の部下たちも敬太に蹴られて痛めた頭を押さえながら立ち上がりました。目の前には、自分たちにとって目の上のたんこぶである敬太がいます。
「敬太め…。このまま無事でいられるのも今のうちだぞ」
「それってどういう意味なんだ?」
「どういう意味だと? それは間もなく分かることになるさ」
獣人の部下の1人は、敬太に対して警告をほのめかすようなことを言い始めました。それは、間もなく訪れるであろう状況を先取りするような内容といえるものです。
「おめえは、この場でのた打ち回りながら苦しみ続けるのをたっぷりと思い知ることになるだろうなあ。ふはははは!」
「何だと! 獣人の思い通りになってたまるか! とりゃあっ!」
獣人は、敬太がひん死の状態で苦しみ続けるかのような願望を口にしながら、不気味な笑みを浮かべています。これを聞いた敬太は怒りをにじませながら、獣人に向かって再び立ち向かっていきました。
「んぐぐぐっ、んぐぐぐぐっ! え~いっ! とりゃああっ!」
「うわっ、わわわっ!」
敬太は両腕に力こぶを入れながら獣人の部下の1人を持ち上げると、そのまま力いっぱいに高く放り投げました。獣人は、とてつもない力持ちである敬太の勢いに負けて、真っ逆さまに水路の中にドボンと落ちてしまいました。
「ゴボッ、ゲゲゲッ、グエエッ…。息が、息が苦しいぜ…」
獣人の部下の1人は、敬太によって水中へ投げ落とされたときに思わず水を飲み込みました。そのため、水路から田んぼの淵へ上がる最中も、かなり苦しそうな表情で口や鼻から入った水を吐き出そうとしています。
「よくもおれたちの仲間をこんな目に…。今度はおめえの頭をこの手でかち割ってやろうか! おりゃああっ!」
獣人の部下は小走りをしながら飛び上がると、木の板の棒を両手で持ちながら敬太の頭に強く叩きつけようと試みました。しかし、敬太はその動きを見て素早くかわすと、今度は後方に回って両手で胴体をつかみました。
「んぐぐぐぐ! 獣人め、これでどうだ!」
「このチビめ、おれたちを相手にするよりも、地面にいる見えざる敵に気をつけたほうがいいぞ」
敬太は、両腕に力を入れながら獣人の部下の体を真上まで持ち上げると、獣人を高く投げ飛ばす体勢に入りました。そのとき、敬太の足元には獣人たちが放ったマムシ3匹が毒牙を出しながら接近してきました。
「敬太くん、足元に気をつけてワン! マムシがすぐそばに近づいているワン!」
「マムシに噛まれたら大変なことになるよ!」
ワンべえをはじめとする動物たちは、毒牙を持つマムシに気をつけてと敬太に注意を促しました。しかし、獣人を倒すことに集中している敬太は、マムシが自分の足元に迫っている様子にまだ気づいていません。
そして、敬太が獣人を田んぼの草が生い茂ったところへ投げ飛ばした次の瞬間です。
「ガブリッ!」
「うっ、いてててっ、いてててててっ…」
敬太の両足には、水路脇の草むらから飛びついてきたマムシ3匹が牙を出してガブリと噛みついてきました。そのうちの1匹は敬太の右足のすねに、残り2匹は左足の太ももとすねにそれぞれ噛みつきました。
敬太は、マムシにかまれたことによる激痛に見舞われながらも、獣人の部下を草が生い茂る田んぼのところまで投げ飛ばしました。しかし、マムシに噛まれたことによる激痛で、敬太はかなり痛々しい表情になりながら地面に倒れこんでしまいました。
「いてててっ! いてててっ、いてててててててっ!」
「敬太くん! 敬太くん!」
「まさか、マムシに噛みつかれたのでは…」
敬太があまりの激痛でのた打ち回っている光景に、ワンべえたちは敬太のかなり痛そうな表情を見ただけでも本当につらそうな様子です。
一方、敬太を始末する最大の好機と見た頭領格の獣人は、マムシに噛まれて腫れ上がっている両足を集中的に狙い始めました。
「うりゃあっ! うりゃあっ! うりゃあっ!」
「いててててっ、いててててっ、いてててててててっ…」
「うりゃあっ! うりゃあっ!」
頭領格の獣人は、敬太の腫れ上がった両足を何回も踏み続けました。ただでさえ顔をゆがめるほどの激痛が続く敬太にとって、獣人による集中攻撃はガマンできないほどの強い痛みを伴うものです。それでも、敬太はガマンできない激痛が続く状況であっても、歯を食いしばって必死に耐え続けています。
「おれたちが放ったマムシの毒で、おめえはもうすぐこの世から去ることになるなあ。おれたちにとっては、邪魔者であるおめえがいなくなったほうがいいのさ。ふはははは!」
「いててっ…。よくも、ぼくのことを邪魔者扱いしやがって…」
獣人たちにとって、目の前に立ちふさがる敬太は邪魔な存在でしかありません。頭領格の獣人は不気味な笑みを浮かべながら、マムシに噛まれて痛々しい表情をしている敬太が目の前で死ぬのを望んでいるようです。
しかし、敬太は自分の足が腫れて思い通りに動けない状況であっても、それを言い訳にするようなことはありません。敬太は必死に歯を食いしばると、痛々しい表情を見せながらも何とか立ち上がることができました。
その姿は、マムシに噛まれた足が腫れあがっても、獣人を倒すために最後まで戦うという気迫を強く感じるものです。
「ぼくは、まだまだ降参しないぞ…」
「あれだけ赤く腫れあがった足で立ち上がるとは…。しかし、マムシの毒が回っている体で、おれと本気で戦うことができるかな? ふはははは!」
敬太はどんなに自分の体がボロボロになっても、目の前にいる頭領格の獣人をやっつけるために気力を振り絞っています。これを見た頭領格の獣人は、マムシの毒牙で腫れ上がった足で立ち上がった敬太が本当に戦うことができるはずがないと不気味な笑い声で突き放すように言いました。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、敬太はマムシを地面に放った頭領格の獣人に対する怒りをあらわにしました。
「たとえ、マムシの毒でぼくがここで倒れても、村人たちを皆殺しにした獣人たちにはこの手でやっつけてやるぞ!」
敬太は、目の前にいる頭領格の獣人に怒りをぶつけるように、素早く走りながら立ち向かいました。これには、頭領格の獣人も驚きを隠せない様子です。
「あれだけ足が腫れれば、走ることなんかできないはずなのに…」
「獣人め、ぼくはどんなことがあっても絶対あきらめないぞ!」
普通なら、とっくに地面に倒れて意識を失う状態になってもおかしくありません。しかし、敬太は腫れ上がった足の激しい痛みがあるのを忘れて、頭領格の獣人に対して全力で戦っています。
そして、敬太は頭領格の獣人の胴体を両手でつかむと、力こぶを入れた両腕を使いながら真上まで持ち上げました。
「え~いっ! んぐぐぐぐ! んぐぐぐぐっ!」
「ひええええっ! まさか、おれを本気で投げ飛ばす気か!」
敬太は、獣人たちに対する怒りを込めて持ち上げると、獣人の部下がいる田んぼの草むらに向かって思い切り投げ飛ばしました。
「よけろ、よけろ! ぶつかっても知らんぞ!」
「うわああっ! 押しつぶされる、押しつぶされる!」「わわわっ、わわわっ!」
投げ飛ばされた頭領格の獣人は、田んぼにいる獣人の部下に向かって落下しました。そして、獣人たちは頭領格の獣人の下敷きになってしまいました。
「どうだ、これでもまだぼくと戦う気か!」
「いてててて…。おぼえてやがれよ! 今度また会ったら、ただでは済まないからな!」
「おめえを血祭りにあげて始末するからな! 覚悟しやがれよ!」
敬太のあまりにも凄まじい気迫に、獣人たちは圧倒されっぱなしです。獣人たちは、水路の向かい側にいる敬太に恨みつらみを言い放つのが精一杯です。
そんな獣人たちに対して、敬太が元気な声で何か言おうとしたそのときのことです。
「獣人がどんな手を使って攻撃しようとも、僕は絶対にやっつけ…」
敬太は、突然意識を失って地面に顔からぐったりと倒れてしまいました。これを目撃した頭領格の獣人は、自分の口から最後の言葉を倒れている敬太に向けて言い放ちました。
「ふはははは! おめえはここで息絶える可能性は限りなく高いだろうなあ。マムシの毒がどんなものか、おめえは死ぬまでずっと苦しむことになるぞ。ふはははは!」
それは、敬太にマムシの毒がもとで命を落とすことを予言するかのような内容といえるものです。頭領格の獣人は、敬太への最後の言葉を残すと部下とともにこの場から去っていきました。
獣人たちが立ち去ると、意識を失って倒れている敬太のもとへワンべえをはじめとする動物たちがやってきました。敬太の姿を見たワンべえたちは、思わず泣きだしました。
「うえええええ~ん、うえええええ~ん! 敬太くん! 敬太くん! 目を覚ましてワン! 目を覚ましてワン!」
「ううううっ…。あのマムシに噛まれたのがもとでこんな姿になるとは…」
ワンべえたちは、ぐったりと倒れたままの敬太のそばでずっと泣き続けていました。




