その1
ここは、敬太がいた浜岸村から遠く離れた険しい山奥です。その山奥には、岩壁にぽっかりと穴が開いている小さい洞窟が点在しています。
その小さい洞窟の中からは、何か言っているような声がかすかに聞こえてきました。そこには、立派な体つきの男と穏やかな顔つきの女がいます。2人は、耳を近づけないと聞こえないほどの小声で何やら話しているところです。
「あなた、そろそろここから離れないと…」
「その気持ちはよく分かるけど…。獣人はこれでもかと言わんばかりに狙ってくるし、どうしたらここから逃れることができるのか」
その男女は、しつこく狙ってくる獣人たちから逃れるためにこの洞窟に隠れています。男は、洞窟の入り口までやってくると、その入り口から左右を見渡すようにのぞいています。すると、何か気配を感じた男は再び洞窟の奥のほうに戻りました。
「獣人がこっちにやってくるぞ」
「あまり声を出さないようにしないと」
「獣人が去って行くまで、声を出すんじゃないぞ」
男が感じた気配は、獣人が複数でこの洞窟の前を通り過ぎるというものです。もし、その男女が獣人に気づかれれば、2人の命の保証はありません。
2人は、獣人の足音が次第に大きくなるにつれて、自分たちが息を潜めても見つかるかもしれないと不安を感じるようになりました。
洞窟の外には、獣人が頭領格を先頭に部下2人を従えて歩いています。そして、獣人たちは3人一組で必死に何かを見つけようと探しているところです。
「おい! あの2人め、どこへ逃げやがったか!」
「確か、この辺りにいると思うけど…」
「そんなあいまいな答えをしているから、いつまでたってもあの2人を始末することができないじゃないか!」
獣人たちは、自分たちの手で始末しようとする人物を探しています。頭領格は、その人物がなかなか見つからないことへのいら立ちを部下の獣人にぶつけています。
「おのれ…。鋼吾とおあゆ…。見つけたら、即刻ズタズタに殺してやるからな…」
頭領格の獣人は、鋼吾とおあゆの2人の名前を出しながら、怒りをこみ上げるような口調で言い切りました。獣人たちにとって、鋼吾とおあゆは絶対に許せない存在であるようです。
「頭領の気持ちはよく分かるけど、ここは気持ちを落ち着かせて…」
「黙れ! 鋼吾とおあゆはなあ、われわれの掟を破ったんだぞ! 人間の姿になったままで子供を産みやがって…」
冷静になるように部下が諫めても、頭領はそんなことを聞く耳を持とうとしません。頭領にとっては、獣人たちの掟を破った鋼吾たちの名前を出すたびに怒りで口元が震えています。
「とにかく、何としてでも鋼吾とおあゆを探し出せ! これはわれらの大権官さまからの命令だ! 分かったか!」
「はっ!」
獣人の頭領が部下に強い口調で命令を下すと、鋼吾たちを探すべく3人が一斉に再び歩き始めました。
部下はもちろんのこと、頭領にとっても大権官が下した命令は絶対服従です。もし、命令に従わなかったら、拷問にかけられて死を覚悟しなければならないからです。
「ほっ…。ようやく獣人たちが去って行ったか」
「あなた、大丈夫なの?」
「大丈夫さ、おあゆのことはおれが絶対に守ってやるからな」
おあゆは、獣人から常に狙われていることに不安を隠せません。その様子を見た鋼吾はずぐにおあゆを抱きしめながら、自分が絶対におあゆの命を守ってやると決意を新たにしました。
おあゆは、鋼吾に抱きしめられて温かい感触を感じると、ふと自分の子供のことを思い出しました。
「敬太くん、敬太くん、うううっ…。本当に、本当にごめんね…」
「おあゆ…。ぼくも、おあゆが敬太くんを想う気持ちがよく分かるよ」
おあゆは、敬太の名前を言いながら泣き出しました。鋼吾は、おあゆが感じている複雑な気持ちを察さずにはいられません。
「だけど、ぼくたちが禁を破って赤ちゃんを産んだということが獣人たちの知るところになってしまったんだ。おれたちは、獣人たちが出歩かない真夜中のうちに、寝ている敬太くんを置いたままで逃げざるを得なかった…」
鋼吾とおあゆは、獣人としての禁を破ったことで獣人たちから追われる身になりました。
この5年もの間、鋼吾たちはあらゆる場所に隠れるように転々とする放浪生活を送っています。それでも、自分たちが生んだ敬太のことは決して忘れることはありません。それ故に、敬太を置き去りにしたままで逃げざるを得なかったことに自責の念を2人とも抱いています。
そのとき、おあゆが急に気持ちが悪くなって吐き気を催してきたので、もしかしたらと思い自分のお腹のところをやさしくさすりました。そして、お腹に手をさわった途端、おあゆはすぐにどういう状況にあるのかということを確信しました。
「あなた、私のお腹に赤ちゃんができたみたいなの」
「おおっ、赤ちゃんがおあゆのお腹にいるのか! これからは、お腹の赤ちゃんも守らないといけないなあ」
おあゆのお腹に新たな命が宿ったことは、常に獣人たちから追われている鋼吾たちにとって数少ない明るい出来事です。おあゆは、自分のお腹から生まれた敬太のことを思い出しながら、いずれ生まれるであろう新しい赤ちゃんのことに思いをはせています。
鋼吾にとって、これからはおあゆ本人だけでなく、お腹にいる赤ちゃんもいっしょに守るという大きな責務を背負うことになります。
鋼吾もおあゆも、敬太といっしょに楽しく暮らせる日々が再び訪れることを願っています。しかし、鋼吾たちが暮らしていた小さい家へ戻ることも、敬太と再び会うこともいまだに目途が立っていません。
鋼吾たちは今日も身を潜めながら、獣人たちから逃れるために終わりなき道のりを進んでいます。
一方、人間たちが誰も立ち入らない切り立った険しい山々の中に、不気味さを漂わせる大きな城が突如として現れました。その大きな城は、五重にそびえ立つ天守閣を中心に構築されており、外観はまるでエンマ様が鋭くにらむような威圧感があります。
そのころ、大きな城の本丸からは獣人たちのすすり泣く声が聞こえてきました。その泣き声は明らかに尋常なものではありません。
「ううううっ…。あんなチビによってこんな変わり果てた姿になるとは…」
「胴体をものの見事に背中から突き抜かれるとは…。うううっ、ううううっ…」
畳敷きの本丸には、変わり果てた姿で顔に白い布をかけられた獣人の遺体があります。その遺体には、敬太が胴体をモリで突き抜いた跡がくっきりと残っています。
頭領格の獣人たちは、その遺体を見ながら泣き崩れるとともに、獣人の命を奪ったやつはたとえ子供であろうと絶対に許さないと声を震わせました。
「おれたちの仲間をこんな姿にしやがって…。そのチビの名前は誰じゃ!」
「名前と言われても…。まあ、われわれもあのちびっ子の笑顔を見せられるたびに憎たらしくなるばかりだからなあ」
敬太の容姿を見て「チビ」「ちびっ子」であることは分かっても、肝心の名前そのものは獣人たちの間でもまだ知らないそうです。いずれにせよ、獣人たちは自分たちの仲間を倒した敬太をこの手で徹底的に始末しなければならないという思いは共通しています。
すると、御簾が掛けられた向こう側から威厳のある野太い声が聞こえてきました。その声は、頭領格の獣人たちに対しても常に威圧するかのような口調で発しています。
「おい! どいつもこいつもウダウダ言っているようだが、あんなチビを誰一人として始末することができないとは…」
御簾を上げると、そこにはいかにも厳格かつ悪そうな顔つきをしている獣人が現れました。その獣人は他の獣人たちとは異なり、緑色の短い着物に赤色のふんどしをそれぞれ着用しています。
「いつも以上に大権官さまは機嫌の悪い顔つきになっているぞ…」
「大権官さまを怒らせたら何をされるか分からないし…」
頭領格の獣人たちの目の前に現れたのは、獣人界の最高権力者である大権官です。獣人たちは、威圧感のある顔つきをしている大権官を見ただけでビクビクしながら恐れをなしています。
そのとき、偵察を終えた獣人が本丸へやってきました。獣人は、大権官に何やら新しい情報が入ったことを伝えようとするところです。
「大権官さま、われわれ獣人の命を奪ったチビの名前が分かりましたぞ!」
「あのチビの名前が分かっただと? それで、その名前は?」
「そのチビの名前は敬太というものであり、いつも金太郎みたいな赤い腹掛け1枚だけつけているそうです」
獣人たちを次々と倒す小さい男の子の名前を初めて知ったことで、大権官はこれまでの恨みを一気に晴らそうと感情を高ぶらせています。さらに、獣人は敬太に関する情報を大権官の耳元へゴニョゴニョと小声で話しています。
「ぐはははは! あれほど凄い力を持っているといっても、そこはまだまだ小さいチビだからなあ」
大権官は、獣人の偵察情報で敬太の弱点を聞くと、不気味な笑い声を本丸全体に響かせました。その笑い声を聞いた頭領格の獣人たちは、それがどういう意味を持つものかをすぐに感じ取りました。
そこへ、獣人が2人がかりで大きな木を切った丸太を持ってきました。その丸太の重さは、推定で約24貫(約90kg、1貫=3.75kg)ぐらいあります。
「大権官さま、大きな丸太を持ってきましたけど…。これをどうするんですか?」
「どうするかだと? 今からこのおれが何をするのか、この目でよく見ておくんだな!」
獣人たち2人は、大権官に直接目を合わせないように丸太を持ち続けています。この様子を見た大権官は、獣人をにらみつけながら威圧的な口調で言い放ちました。
そして、大権官はそのまま立ち上がるや否や、獣人2人が片方ずつ持っている丸太を右手の強い拳でいとも簡単に打ち破りました。
「うりゃあっ! うりゃあっ! うりゃうりゃうりゃあっ!」
大権官は、間髪を入れずに丸太へ何度も殴ったり蹴ったりを繰り返しました。それは、激しい剣幕を見せながら、目の前の人物に強い殺意を示すかのような攻撃です。
すると、大きな丸太はいくつもの大きな塊として頭領格の獣人たちのところまで飛び散りました。
「こ、これが大権官さまの凄まじい威力というものか…」
「あれだけ食らったら、おれたちもこのような姿になってしまうかも…」
打ち砕かれた丸太の塊は、これから敬太を倒すためにはどういった攻撃を加えるべきかを大権官が強く示唆するものです。頭領格の獣人たちは、目の前に転がっている丸太の塊を見て一様に震えあがっています。
そのとき、大権官は自ら打ち砕いた丸太を見ている頭領格の獣人に、ある意味を持つことわざについて答えるよう求めました。
「飛んで火にいる夏の虫ということわざ、どういう意味か分かるか?」
「要は自分から進んで災いの中へ入っていくということですか?」
獣人はいきなりことわざを出してきた大権官の意図が分からなかったので少し戸惑いましたが、とりあえずことわざの意味を答えることにしました。すると、大権官はこの場であえてことわざを出した意図について話し出しました。
「おめえ、よく知っているな。敬太というチビは、おれたちを全く恐がらずに立ち向かって戦うそうだ。しかし、それは同時に敬太が自分からわざわざ災いの中に入って行くことでもある」
「ということは?」
「それ以上はおめえらが考えることだな。敬太がどういう攻撃をするのかを考えれば、おのずと分かってくるはずだ」
大権官は、ことわざの意味から敬太の弱点となるヒントを出しましたが、それ以上のことは獣人たち自身でよく考えることだと言いました。敬太の攻撃に対して、どのような方法で弱点を狙うかは獣人たちに委ねることにしました。
「いいか! どんな手を使ってでも構わん! 敬太というチビを絶対に始末して地獄送りにしろ! それも手加減せずに徹底的にな!」
大権官は、恐れをなしている獣人たちを鼓舞するために、自らが打ち砕いたばかりの丸太の塊を左手でわしづかみにしました。そして、獣人界にとって最も憎むべき相手である敬太を徹底的に始末するよう、大権官は配下である獣人たちに命令を下しました。
敬太によって自分の手下が何人もやられている状況に、大権官は黙って見ているわけではありません。その顔を見ると、まるで血に飢えたエンマのように怒りをにじませた顔つきとなっています。
「敬太め、いままでおめえから受けた数々の屈辱…。今からおれの手下たちを差し向けてそのままお返ししてやるからな。敬太の死に顔を見るのが今からとても楽しみなってきたぞ! ぐはははは! ぐはははは!」
大権官は、獣人たちによって始末されて血まみれになった敬太の死に顔を自分の目で見るのを不気味な笑い声を上げながら楽しみにしているようです。
小さい子供1人にやられっ放しで大権官のいら立ちが最高潮に達している中、敬太はワンべえといっしょに、自分のお父さんとお母さんである鋼吾とおあゆを探すための旅を続けています。
そして、今日も早朝から鳴り響くセミの鳴き声と小鳥のさえずりで一日が始まろうとしています。いくつもの農家が集まっている中で、外観が少しボロボロになっている小さい1軒の農家から敬太とワンべえが出てきました。敬太は、いつものように両手でお布団を持ちながら小さい庭へ出ると、慣れた手つきで物干しにお布団を干しました。
「でへへ、今日もこんなにでっかいおねしょをお布団にやっちゃったよ! ワンべえくん、すごいでしょ!」
「敬太くん、いつもすごいんだワン!」
敬太の朝は、お布団へのでっかくて元気いっぱいのおねしょで始まります。敬太は、おねしょをしちゃっても物干しに堂々と干してからワンべえに見せています。
「おっとうとおっかあに会うことができたら、今日みたいな元気いっぱいのおねしょを見せることができたらいいな」
「ぼくも、敬太くんのお父さんとお母さんが早く見つかるように応援するワン!」
おねしょは元気な子供のシンボルなので、敬太は鋼吾たちにも自分のおねしょ布団を見せたいと今でも思っています。敬太の両親に対する強い思いは、ワンべえにも十分に伝わったようです。
すると、家の近くから子供のはやしたてる声が聞こえてきました。
「あっ、ここにおねしょしているちっちゃい子がいるぞ」
「わ~い! おねしょ、おねしょ、おねしょたれ!」
敬太が家の外を見ると、そこにはおねしょしちゃった敬太をからかう子供たち2人の姿がありました。いつも赤い腹掛け1枚だけで過ごしている敬太と違って、子供たちは普通に袖なしで丈の短い着物を着ています。
しかし、敬太はそんなことを気にするどころか、自分のおねしょ布団を自慢するために子供たちを呼びました。
「こっちへきてきて! 寝ているときに悪いやつの顔にぼくがおしっこを命中した夢を見て、お布団に元気いっぱいのベチョベチョおねしょを描いたぞ!」
敬太がうれしそうに足をピョンピョンさせながら呼んでいるので、子供たちは急いで敬太のいる農家の庭へ行こうとしました。ところが、子供たち2人は敬太のおねしょ布団を早く見ようと急いで庭に入ろうとするあまり、あわてて地面に転んでしまいました。
子供たちは地面に転ぶと、敬太の目の前でそのままドロンと煙を上げました。そこに現れたのはキツネとタヌキの男の子だったので、敬太も思わずびっくりしました。
「うわわっ、子供たちに化けていたのはキツネくんとタヌキくんだったのか」
「えへへ、人間の子供に化けていることに気づかないように庭へ入りたかったけど」
「庭でこけちゃって、元の姿に戻っちゃった」
キツネとタヌキは、たまたま農家の家屋から出てきた敬太を見て、人間の子供たちに化けて驚かせたかったそうです。でも、家の庭で転んでしまった2匹は、敬太の前で正体をばらしてしまうことになりました。
「きみの名前は?」
「ぼくは敬太という名前だよ! いつもこんなに力強くて元気いっぱいの7歳児の男の子だよ!」
敬太は自己紹介を元気な声で言うと、両腕を曲げて力こぶを入れている姿をキツネとタヌキに見せました。力こぶは、敬太にとって力強さを示すとともに、いつも健康で元気な男の子である証拠といえるものです。
「敬太くんは、いつも元気いっぱいで力強いね」
「でも、7歳になってもまだおねしょが治らないね」
「でへへ、ぼくは昨日スイカをいっぱい食べちゃったおかげで、お布団に元気いっぱいのおねしょをやっちゃったよ!」
敬太は7歳になっても、いつもお布団と赤い腹掛けへのおねしょを欠かすことはありません。お布団に描かれたおねしょは元気な子供のシンボルなので、敬太は少し赤らめながらもお布団に描かれたおねしょをキツネとタヌキに堂々と見せています。
どうやら、敬太がお布団にでっかいおねしょをしたのは、スイカをたくさん食べ過ぎたのが原因です。
「ぼくがいつもこんなに元気いっぱいなのは、お布団にいつもでっかいおねしょをしちゃうおかげだよ!」
「敬太くんがいつも元気なのはいいけど、あんまりスイカを食べ過ぎるとおねしょをするから気をつけてね」
「でへへ、これから気をつけます」
お布団におねしょしちゃっても、敬太はいつも元気で笑顔いっぱいです。敬太のあまりの元気さに、キツネもタヌキもすっかりたじたじとなっています。
敬太たちの周りでこれだけにぎやかであれば、他の家々からも声が聞こえてくるはずです。しかし、敬太は旅の途中でこの小さな農村へやってきたときから、何やら異様な雰囲気に包まれていることが気になっていました。
「そういえば、この近くにある水路は田んぼの水として使うはずなのに、周りの田んぼはこんなに草が生い茂ってばかりだし…」
敬太は、いくつもの小さな家屋がある農村であるにもかかわらず、突然誰もいなくなったかのような静けさに違和感を感じました。ここには、大人たちの農作業や子供たちのお手伝いといった農村だったら当たり前の風景が全く見当たりません。
敬太が耳をすまして聞こえてくるのは、鳥のさえずり声やセミの鳴き声ばかりであり、農民たちの声は全く聞こえることはありません。
「おかしいなあ、普通だったら子供たちの元気な声がいっぱい聞こえるはずなのに…」
敬太たちが一晩泊まっていた農家も、少しボロボロになっているだけであり、ここで暮らすことに何の問題もありません。それにもかかわらず、ここでは小さい子供たちの元気な声も全く聞こえません。敬太は、大好きな子供たちが誰一人もいないことにがっかりしています。
そのとき、その様子をあざ笑う不気味な声が敬太の背後から聞こえてきました。
「その笑い声は、まさか獣人どもか?」
「ふはははは! 敬太め、よく分かったな!」
敬太が後ろを振り向くと、目の前にある大きな木にいた獣人が地面へ飛び降りました。敬太は、今まで「おめえ」とか「このチビ」とか言っていた獣人たちが、どうして敬太という名前を知っているのか少し驚いています。
「どうしてぼくの名前を知っているんだ?」
「ふはははは! おめえが言わなくても、敬太という名前なんかもうとっくに獣人界では知れ渡っているんだよ!」
獣人は、大権官を頂点とする獣人界で敬太の名前がすでに知れ渡っていると不気味な笑いを含ませながら言いました。これを聞いた敬太は、自分の歯をむき出しにしながら怒りをにじませています。
すると、今度は農家の茅葺き(かやぶき)屋根の上から別の獣人が2人組で飛び降りると、敬太の目の前にそのまま着地しました。この2人組の獣人は、先に現れた頭領の配下に属しています。
獣人たちは、物干しに干されている敬太のお布団を見ると、敬太の顔を見ながら責めるような口調で言い始めました。獣人たち2人の右手には、拷問やお仕置きに使われる木の板の棒をそれぞれ握っています。
「敬太よ、おめえのお布団をおれたちがたっぷりと見させてもらったぜ!」
「敬太! よくもまあ、こんなにでっかい寝小便を見事にやりおって…。寝小便が治らない子供は、死ぬまでこの場でたっぷりと拷問を加えないといけないようだなあ」
獣人たちは木の板の棒を地面に強く叩きながら、おねしょをしてしまった敬太に怒りをにじませた口調で責め続けています。しかし、敬太は獣人からどんなに言われても、決して明るい表情を変えることはありません。
「獣人め、ぼくはいつもお布団へのでっかいおねしょのおかげで、こんなに元気いっぱいだぞ! ぼくが生まれ育った村でおねしょしちゃったときも、じいちゃとばあちゃがちゃんと褒めてくれるぞ!」
敬太は、元気な子供のシンボルであるおねしょをしちゃっても明るい笑顔を獣人たちの前で見せています。そして、敬太は獣人に立ち向かうために、自らの両腕を曲げて力こぶを入れました。
「ちっ、まあいいだろう。おめえは、これからおれたちの手で地獄へ落とすことになるだろうからなあ、ふはははは!」
どんなに責め立てても表情ひとつ変えない敬太の姿に、獣人たちは敬太を倒すための戦術を見直すことにしました。恐ろしい獣人が目の前にいても、敬太はひるむことなく平然としています。
そんな中、頭領の獣人は部下を従えて敬太の前へやってくると、子供好きの敬太に精神的なダメージを与えようと自らの口を開きました。
「ふはははは! おめえの大好きなガキどもがここにいないのか、その理由を教えてやろうか!」
「何だって? それはどういうことだ?」
「どういうことかって、おれたちが村人たちをこの手で皆殺しにしたのさ。それが大人であろうとガキであろうと関係ないぜ! ふはははは! ふはははは!」
頭領の獣人は、農村で暮らしていた村人たちを何十人も皆殺しにしたことを不気味な笑い声を上げながら誇らしげに言い切りました。これを聞いた敬太は、子供も含めて村人たちを皆殺しにした獣人たちへの強い憤りを表情に出しています。




