5.エンディングになっちゃった
アタシは大人達に連れられてとある場所まで移動することになった。車に乗り、目的地について降りると目の前には映画で見たことのあるような宮殿がそびえ立っていた。
今までは王子様と分かっていてもどこか現実味がなく喋ってみると意外と普通の人だから平気に接することができたけど、目の前の宮殿を前にすると自分が接していたのは紛れもない王家の人間だったことを実感する。
さすがに緊張するなぁ、と思いながら宮殿の中へと入る。黒いスーツを着た男の人の後ろを付いていく形で宮殿の中を歩いていく。男はある部屋の前で立ち止まると、扉を開け、アタシに中へ入るようにと声をかける。
部屋の中には大きな円形のテーブルとそれを囲んでたくさんの椅子が配置されていた。
既に多くの人が部屋の中で待機していた。中にはアタシの両親、フィアナの婚約者の両親、第一王子がおり、既に席に着いていた。
アタシが席に座ると、一番奥の背の高いイケオジっぽい人が喋りだす。
「みんなに集まってもらったのは朝から国を騒がせている件についてだ。俺の息子のレオクが最近婚約破棄したいとか言い出してるからまあちょっとみんな集めて話を聞いてみようかってことでな。まずはレオクの口からもう一度気持ちを話して欲しい」
「はい、お父様。私はフィアナ・ルクレシア様を愛しております。ですので、現在の婚約者であるセレーノ・ヴァランティア様との関係を白紙にしていただきたく考えております」
「レオク様、あなたはこの国の第一王子、つまりは将来的に国王になられる立場でございます。急にそのような庶民の子どものようなことを言い出されては困りますよ」
「セレーノ嬢の父親であるお前にとってはまあ困る話だわな。急に婚約の話なくしたいなんて言われたら。とりあえず息子が好きなフィアナさんの話が聞きたいな俺は」
「陛下、ルクレシア家は貴族の中では皇族に関わることなどない程度の身分でございます。そのような家の娘の話など聞く必要はありません。レオク様の一時の気の迷いでの発言など相手にしなくてよいのでは?」
「確かお前は側近になってわりと日が浅いよな。あんまり下手な口聞かないほうがいいぞ」
「さすが俺の右腕であるレシットだ。そこの新入り、お前は俺の息子の真剣な気持ちを一時の気の迷いって言ったのか? 別に多少の無礼くらいならそこまで俺は怒んねぇけどさ、自分の息子を舐められるのは多少の無礼じゃ済まないかもな。もう一度聞くが、俺の息子の発言がなんだって?」
「⋯⋯、大変申し訳ございません。レオク様のお気持ちを軽んじる発言をしてしまいました」
「まぁ分かればいいよ。さて、変な横槍が入ったがフィアナさんの気持ちを教えてもらおうか」
このイケオジ王様が新入りの人へ強く言ってくれたおかげでアタシへの強い視線が弱まったのを感じる。
(フィアナ、アタシからは喋らないよ。ここはアンタの口から話すべきだ)
(分かっております。⋯⋯、分かってますよ)
「陛下、私フィアナ・ルクレシアはレオク・ゼルヴィス様を心からお慕い申しております。私にも婚約者がおりますし、身分がレオク様とは違いすぎていることも理解しております。しかし、私の嘘偽りの無い思いは今申し上げた通りでございます」
フィアナの言葉をアタシが代弁した、というわけではなかった。
アタシは喋っていなかった。
この身体がアタシの意思と関係なく勝手に言葉を放っていた。右腕を動かそうとしてみても腕が動くことはない。
つまりはそういうことなんだ。
「なるほどねぇ。もし、フィアナちゃんが歯切れの悪い言い方するようだったらこの国を任せられないなってなってたとこだけどよ、中々気持ちの良い嬢ちゃんじゃねぇか。レオク、お前いい子を好きになったな。俺が許す、この子と結婚しな」
「陛下、それでは私の娘の婚約はどうなるのですか? こんな重大な話をそんな簡単に決めてよいはずがないでしょう!」
「お前の娘が代わりにそれなりの家の息子とまた婚約できるよう動いてやるよ。あと、さっきと同じで俺の息子の決断が簡単なんて言ってんじゃねぇぞ。俺の息子を舐めるのは俺を舐めてるのと一緒だからな」
王様のその発言の後、周囲の大人達は口を開くことができなくなり、その場は解散となった。
宮殿からの帰り、アタシ、いやフィアナとその両親が車に乗り込む。
「フィアナ、好きな人と結ばれて良かったな」
「お父様、ありがとうございます。私のワガママを受け入れてくださりまして」
「貴方、私にはもうなにがなんだか⋯⋯。私の娘がこの国の第一王子と結婚なんて全然理解できませんの」
「確かにとてつもない話だからな。ただ、親として娘の幸せを喜んでもいいんじゃないか? 今は頭の整理ができないかもしれないが」
「そう⋯⋯、そうね⋯⋯」
父親はフィアナの恋を純粋に喜んでいるみたいだ。頭の硬い母親の方はまだ状況を理解するのに時間がかかりそうだ。
車は家に着き、フィアナは自分の部屋へ戻る。
(フィアナ、どうやらもうこの身体は元通りアンタの意思で動くようになったみたい。なぜかアタシはまだ中にいるみたいだけど)
(そのようみたいですね。私の意思で話せますし身体も動かせます。⋯⋯、あなたには感謝しなければいけません。あなたがいなければ私はレオク様に思いを伝えることも決してありませんでした)
(まーアタシも結構学校で友達の恋愛相談に乗ってきたからね。アンタみたいな奥手なタイプは押さなきゃ動けないってわかんだよね)
(その図々しさを少しは見習わないといけないのかもしれませんね)
(そうだよ。アンタはこの国の次期王様のお嫁さんになるわけなんだからさ。もっと強くならないとやってけないって)
(本当にとんでもないことになっちゃいましたね)
フィアナはそんな返しをしながら笑っていた。
その笑顔はアタシではできないものだった。やっぱりこの身体はアタシのじゃないみたいだ。
濃い一日が終わり、次の日がやってきた。
いつも通りの教室へ入ると、周囲はフィアナへ視線を集めていた。
「おはようございますフィアナさん、いやフィアナ様の方が良いでしょうか」
「ベローチさん、いつも通りでいいですよ。私は私ですから」
「でも、あのレオク様と婚約されたって聞きましたわ。フィアナさんはもう私が話しかけていい存在じゃなくなってしまったように感じますの」
「そんなこと言わないでください。私はあなたの友人です。周りがなんと言おうと変わるものではありません」
「なんか昔のフィアナさんに戻ったみたいで嬉しいですわ。最近は話し方まで変わって人が変わってしまったのかと思っておりましたの」
「それは、ちょっとした事情がありましたので。心配させてごめんなさい」
アタシじゃなくなったことで赤髪のベローチちゃんも安心したようだ。アタシが素で話せる相手も欲しかったからベローチちゃんとはフィアナじゃなくアタシとして話していたんだけど、やっぱりベローチちゃんはずっと気になってたみたいだ。
そして、昼休みがやってきた。
(フィアナ、あの王子と話しさせてくれない?)
(⋯⋯、わかりました。レオク様のところへ向かいますわ)
フィアナはアタシに目的を聞かずに王子の元へ向かってくれた。
王子はどうやらこの学校の中でも特に身分の高い人達が集められた特別クラスで授業を受けているらしい。その凄い教室へ行くと、扉の前で女二人組がフィアナに声をかけてきた。
「見ない顔ですわね。この教室に何の用かしら?」
「レオク様にちょっとお話がありますので」
「レオク様に? あなたお名前は?」
「フィアナ・ルクレシアです」
「あなたがあの」
「レオク様に色目を使って婚約者のヴァランティア様から横取りしたと噂の低級貴族の女狐だったかしら」
「なんとでも言ってもらって構いませんが、そこをどいていただけませんか?」
「貴方のような低い身分の人間を通すわけには行きませんわね」
めちゃくちゃに腹が立つ。アタシが身体を動かせたらこんな奴ら無理やりどかしてやるのに。フィアナは困った様子で二人の女の前を動けずにいた。
しばらく膠着状態が続いた後、女達の後ろの扉が開く。
「フィアナ、ちょうどよかった。ちょうど君の所へ向かおうとしていたんだ。君達はここで何しているんだ?」
「え、私達は、えっと⋯⋯」
「こちらのフィアナさんのお話を少し聞いておりました。ね、フィアナさん?」
「いえ、この二人は私のような低級貴族をこの教室に入れられないとおっしゃっていました」
「そうなのかい?」
「い、いや、そんなこと言っておりません」
「そ⋯⋯、そうですわ。ちょっとした勘違いをされているのですわ」
「それでは私達はここで失礼いたします」
二人組は居心地が悪そうにこの場から立ち去っていった。
「フィアナ、私のクラスメイトが無礼なことを言ってしまっていたようだね。申し訳ない」
「いえ、レオク様に誤っていただくことではありません。今後もこのようなことは何度も起きるでしょうね。それも覚悟しております」
「フィアナは強くなったね。それで私の元へ君から訪ねてきた理由はなんだ?」
「私の中にいるもう一人の存在があなたに話があるらしいのです」
「ああ、あの悪霊⋯⋯、いや悔しいがあいつのお陰で私は君に向き合うことができた。あながち悪霊とは言えないかもしれない。あいつはまだ君の中にいるのか?」
「はい。今からその人の言葉で話しますね。⋯⋯、王子様、久しぶりっていうのも変だけど久しぶり」
「お前なんだな」
「そう、アタシだよ。ちょっと王子様に頼みごとがあってさ」
「何だ?」
「アタシを除霊してくれないか?」
「お前は悪霊じゃないんだろ? 私もお前には借りができた。わざわざ自分で退治される必要はないんじゃないか?」
「アタシだって自分が消えるのは怖いよ。でもさ、もうこの身体はフィアナの意思で動いてる。アタシは本当にただフィアナの中にいる邪魔者なんだよ。アンタとフィアナがこれから仲を深めていくのにアタシは絶対いらないじゃん。前に言ってたエクソシストって奴呼んでアタシを除霊できないか試してもらえないかな」
「そうか、エクソシストは悪霊を専門としているから、もっと幅広い分野の霊能力者に頼んでみることにしよう」
(みりむ、私は別にあなたがずっと私の中にいても良いと思っております。最初はがさつなあなたのことをよく思っておりませんでしたが、今は違います。あなたは私にはなかった強さを持っておりました。その強さを私はあなたからもらったのです。私と一緒に生きてみませんか?)
「王子様、頼んだよ。アタシのこととフィアナのこと」
王子はアタシのお願いを了承した。
除霊が行われる日は一週間後にしてもらった。
そこからの一週間、アタシはフィアナに自分の世界の話をした。アタシがよく聞いていた曲を歌って聞かせたりした。友達の話、アタシの家族の話をした。代わりにフィアナの悩みの相談にも乗った。フィアナと王子の婚約は王様の力で成立はしたものの周りがみんな納得できているわけじゃない。というか、大体の人は困惑しており、変な憶測を立てたり妬んだりする人も当然いた。フィアナは強い子だが、アタシに対しては弱音を吐いてくれた。それがなんとなく嬉しかった。価値観も性格も違うアタシとフィアナだったけど、同じ身体で一緒に生活を送るうちに短い間だったけど姉妹のような感覚になっていた。フィアナとの仲が深まると同時に別れの日が近づくのがつらく感じてしまう。自分から言いだしたことなのに。
約束の日がやってきた。
除霊師を呼んでいる宮殿にフィアナとアタシはお邪魔した。
「フィアナ、君の中の存在を取り除かせてもらう。除霊師さん、後はお願いします」
「任せてください。私がどんな霊でも消し去ってあげますよ」
「レオス様、準備してくださりありがとうございます」
「じゃ、ちゃっちゃと始めちゃいまっすよ~」
「は、はい。お願いします」
「それじゃあ────────────────、ピョ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
なんだよそれ、ふざけてんのかって。そんなんで消えるわけないじゃ⋯⋯
「みりむ、みりむ!」
近くで声が聞こえる。
久しぶりに他人から名前を呼ばれた気がする。
目を開けると視界にはお母さんとお父さんが映ってた。フィアナの両親ではなく、西園寺ミリムの両親だ。アタシはベッドで寝ているようだ。特におかしなこともない日本の病室のベッドだ。
「お母さん、アタシ生きてんの?」
「アンタは生きてるよ。何日も寝たままですっごい心配したんだから。本当に生きてて良かった」
「お父さん仕事は?」
「今日は休みだから大丈夫。そんなことより自分の心配をしなさい」
アタシはどうやら車に轢かれた後、生きていたようだ。医者から今の状態を聞かれたり、診察を受けた後、無事に退院が決まった。
フィアナ達はただの夢だったのかな。
そうだったら⋯⋯、少しさみしいな。
身体も良くなり、また学校へ通えるようになった。
久しぶりの教室では友達から身体の調子や病院での生活についていろいろ聞かれた。
「そういえば、みりむ知ってる? なんか有名な王妃が最近死んだんだって」
「へぇ最近動画ばっか見てたからそういうの知らないわ」
「ゆり意外とニュースとか詳しいよね。ウチ全然ニュース興味ねぇわ」
「SNS見てたら勝手に情報入ってくんのよ」
「その王妃はなんで死んだの?」
「フツーに寿命らしいよ、94歳だってさ。なんかその人はわりと玉の輿で王様と結婚したらしくてさ、この人と王様で国の身分格差をかなりなくしたらしいよ」
「そうなんだ。何ていう名前なの?」
「フィアナ・ゼルヴィスって人。なんか王様は元々の婚約者振ってまでこの人選んだらしい。なんかかっこいいよね」
「フィアナ⋯⋯、いい名前だね⋯⋯」
「早く彼氏欲しいわー」
「結局それじゃん」
良かったね⋯⋯、フィアナ




