第59話「討伐隊」
地下180メートル。女王蟻の間。
包囲網の報告が流れ込んでいた。
ドラゴンは90メートル帯の包囲を力ずくで突破した。中型兵隊蟻12体を殺して通路を開き、85メートル方向へ後退している。衝撃波で通路の壁面ごと蟻を粉砕し、爪で大型兵隊蟻の外骨格を引き裂き、圧縮空気弾でエリートの脚を吹き飛ばした。1体倒すごとに体液を吸収し、その場で筋繊維の密度を上げている。
包囲網が——巨大な食卓になっている。
女王蟻の指令で蟻が群がるほど、ドラゴンの餌が増える。殺した蟻の体液で回復し、成長し、さらに強くなる。追い込んでいるつもりが——肥え太らせている。
包囲だけでは殺せない。
女王蟻は結論を出した。この爬虫類を排除するには、蟻の「数」ではなく「質」が必要だ。蟻1万体を投入しても、個々の戦闘力がドラゴンの爪の1振りに及ばないなら、食料を差し出しているに過ぎない。
必要なのは——ドラゴンを上回る個の力。
女王蟻は、100メートル以深に棲む「彼ら」に指令を送った。
100メートル以深の最深部。通常の冒険者が到達したことのない領域。
ここには——人間がいた。
かつて人間だったものたちだ。
限界突破の果てに自我を失い、ダンジョンの深層に住み着いた元冒険者。特濃フェロモンの使用で肉体が根本的に作り変えられた怪物。歪んだ骨格、膨張した筋肉。知性はほぼ失われている。名前を呼ばれても反応しない。言葉を発することもない。
だが——戦闘本能と格闘技術の残滓は、身体の奥に刻まれている。
そして彼らの体内で生成されるフェロモンは、蟻と同質の組成だ。女王蟻のネットワークに組み込まれた存在。指令を受ければ、蟻と同じ精度で反応する。
現在、100メートル以深に確認されている元人間は14体。うち戦闘可能な個体が9体。フェロモン指数に換算すれば30から35の範囲。巖道征四郎に匹敵するか、上回る者もいる。人間の限界を超えた身体能力を持ちながら、蟻のように意思を持たず、命令に従う。
失っても巣の中核戦力に影響しない。人間が深層で限界突破に失敗するたびに自然と補充される、消耗可能な精鋭だ。
これまで女王蟻は彼らを積極的に「運用」したことがなかった。巣を侵す脅威がなかったからだ。門番と深層のエリートで十分だった。
今は違う。
女王蟻は彼らに「装備」を与えることを決めた。
100メートル以深の宝箱には、次元の異なるアーティファクトが格納されている。品質スコア75から100。成長を重ねたスミス・アントが最高精度で製造したAF——既存の概念を組み合わせ、複合概念を一つの物体に結晶化させた現時点の最高傑作。人間の手には一度も渡ったことのない、強力なAF。
門番にはAFの概念を卵の段階で外骨格に融合させている。門番の力は生体とAFが一体化したものだ。だがモンスター化した元人間は、人間の身体構造を保っている。手がある。指がある。道具を「持つ」ことができる。
人間がAFを装備するように——彼らにも装備させる。
女王蟻は9体の中から5体を選抜した。
先頭の個体が、宝箱から取り出された太刀を手に取った。
断界の太刀。品質スコア92。銀灰色の金属に琥珀色の文様が脈動する刀剣型AF。骨断包丁の斬撃概念と切断のナイフの切断概念を融合させた上位互換。刃渡り70センチ。直接的な切れ味は骨断包丁を大幅に超え、振り下ろせば斬撃波が15メートル先の空間を切り裂く。
この個体は——かつて黒木健太と呼ばれていた。
元陸上自衛隊普通科連隊。34歳。好きな食べ物はカレー。フェロモン指数23で限界値に近づき、特濃フェロモンを使って限界突破した。指数26.3に到達した後、自我が崩壊し、ダンジョンの深層に消えた。
今、黒木だったものの力量を指数換算にすれば35に近い。歪んだ骨格に膨張した筋肉。人間から明確に逸脱した肉体。だが——太刀を手にした瞬間、身体が自動的に構えを取った。自衛隊の格闘術の型。身体が覚えている動きだった。
2体目。崩撃の戦棍。品質スコア89。打撃と破壊の複合概念を結晶化した棍棒型AF。全長120センチ。黒い金属に赤い稲妻状の文様。着弾点で衝撃が爆発的に拡散する。指数換算にすると31近い力量の元冒険者が、両手で構えた。
3体目。豪散魔銃。品質スコア87。追尾射出と面制圧を融合させた射撃型AF。散弾の一つ一つが岩盤を粉砕する威力でありながら、更に追尾機能を持ち、扇状に広がった弾丸が標的に向かって軌道修正する。射撃時の反動は指数25以上の筋力がなければ制御できない。指数換算で30に相当する元冒険者が、片手で銃身を掴んだ。
4体目。品質スコア90の鉄壁の盾。そして、鋼壁の全身鎧。品質スコア91。守護のヘルメットや鉄壁の盾の概念を掛け合わさり、つくられた鎧型のAFで、体長3メートルを超えるエリート兵隊蟻の突進を受け止められる防御力を持つ。指数換算は33相当。身長2メートル、体重130キロ超。最も巨体の個体が、盾を構えた。
5体目。生命の泉杯。品質スコア90。癒しの泉水と癒しの絆創膏の治癒概念、そして境界の銀盤の結界の概念を融合させた杯型AF。持っているだけで周囲5メートルに治癒場が形成され、致命傷以外なら数十秒で回復する。指数換算にして30に相当する元冒険者が、杯を胸に抱えた。
更に5体それぞれが力のブレスレットの上位版AFとして生み出された剛力のブレスレットを装備している。
5体は知性を持たない。会話はできない。個としての判断もできない。だが女王蟻のネットワークを通じた指令に即座に反応し、蟻と同じ精度で連携する。個としては人間の最高域。集団としては蟻の統制力。
女王蟻がかつて学んだことがある。門番を設計する際、血の主の情報処理パターンから「パーティ」の概念を受け取った。前衛、後衛、支援の三機能を組み合わせた編成。門番はそれを外骨格に内蔵した。
今度は——人間の身体を使って、同じことをする。
5体が100メートル以深から地上方向へ移動を開始した。通路の蟻が道を開ける。女王蟻の指令で全ての兵隊蟻が退路を確保する。
移動先は——ドラゴンが現在いる85メートル帯。包囲網の中心。
地下85メートル。
ドラゴンは通路の広間で天井に張り付いていた。
眼下に蟻が群がっている。広間の3つの入口全てに蟻が密集し、4つ目の通路からも増援が流れ込んでいる。中型、大型、さらに奥からエリートの気配。
ドラゴンは嬉々として戦っていた。
天井から急降下し、蟻の群れに突っ込む。前肢の爪で3体を同時に薙ぎ、尾で通路の壁ごと大型を叩き潰し、圧縮空気弾で入口を塞ぐ蟻の壁を吹き飛ばす。1体殺すたびに体液を吸い、筋繊維が僅かに太くなる。
鱗に傷が増えていた。腹部の薄い箇所に浅い切創が3つ。大型兵隊蟻の大顎が掠めた痕だ。致命傷ではない。癒しの概念で少しずつ塞がっている。だが回復速度と新たな損傷のペースが——ほぼ拮抗している。
無限に戦い続けることはできない。
ドラゴンの知能がそう判断した。蟻の数は際限がない。1体倒して2体来る状況が、もう数時間続いている。体液の吸収で成長は続いているが、消耗も蓄積している。
——だが、逃げるつもりはない。
逃げれば、蟻は追ってくる。包囲網は浅層まで広がっている。地上に出なければ包囲から抜けられないが、ドラゴンはまだ地上に出る準備ができていない。翼は通路内の滑空には使えるが、地上での長距離飛行に必要な筋力が足りない。
ここで戦い続けて、蟻を食い尽くすか。あるいは——
4つ目の通路から、異質な気配が近づいてきた。
ドラゴンの金色の瞳が動いた。
蟻ではない。
蟻のフェロモンを発している。だが歩き方が違う。二足歩行。足音が——重い。人間に似ているが、人間のリズムではない。もっと均一で、もっと機械的だ。
5つの気配。
ドラゴンの知能が瞬時に分析した。フェロモンの濃度は、これまでに食った人間の誰よりも高い。エリート兵隊蟻と同等か——それ以上。しかも5体がチームとして統制された動きをしている。蟻のネットワークに組み込まれた、人間に似た存在。
そして——金属の匂い。AF。複数の、これまでに嗅いだことのない高品質のAF。
ドラゴンの本能が二つに反応した。
「最強生物」の警戒——あれは脅威だ。蟻とは違う。人間の身体構造を持つ、指数30超の5体。未知の武装。
「お宝に目がない」の興奮——あのAFが欲しい。あの品質のAFを食えば、さらに一段階強くなれる。
5つの気配が広間の入口に現れた。
先頭の個体。歪んだ骨格に膨張した筋肉。身長は180センチ程度だが、筋肉の質量が常軌を逸している。——そして右手に、太刀を構えていた。
銀灰色の刀身に琥珀色の文様が脈動している。刃渡り70センチ。構えは——人間の剣術のそれだった。右足を半歩前に出し、太刀を正眼に。体の中心線に刃を合わせ、重心を落とす。
身体が覚えている動き。かつて自衛隊で叩き込まれた格闘術の型。自我は失われても、筋肉と骨に刻まれた反射は消えない。
2体目が横に並んだ。黒い棍棒を両手で構えている。赤い稲妻状の文様が走る金属の塊。3体目が後方に立ち、片手で銃型のAFを構えた。4体目が全身を覆う鎧と巨大な盾で前面を固めた。5体目が最後方で、琥珀色に光る杯を胸に抱えている。
前衛。打撃。射撃。盾。治癒。
——パーティだ。
ドラゴンの知能が、人間の知識の断片からその構成を読み取った。人間が蟻と戦う時に使う編成。前衛が敵を引きつけ、射撃手が削り、盾役が攻撃を受け止め、治癒役が損傷を回復する。
だがこの5体は人間ではない。指数30超の肉体。最高品質のAF。蟻のネットワークによる統制。
ドラゴンが天井から飛び降りた。4メートルの体躯が床を震わせる。広間の中央に着地し、5体と対峙する。
先頭の個体——かつて黒木健太と呼ばれていた男——が、太刀を振った。
斬撃波が空間を裂いた。
15メートルの距離を飛翔する不可視の刃。ドラゴンは本能的に翼を広げて跳び退いた——だが斬撃波の速度は、ドラゴンの反応を上回った。
右翼の翼膜が——裂けた。
5センチほどの切創。薄い膜が切り裂かれ、赤銅色の血が滲んだ。
ドラゴンの金色の瞳が見開かれた。
翼に傷がついた。初めて。
蟻の大顎も、中堅冒険者のAFも、ドラゴンの鱗や翼膜に有効な傷をつけることはできなかった。この太刀は——違う。品質スコアが、ドラゴンがこれまで食ったどのAFよりも高い。
棍棒を持った2体目が突進してきた。速い。指数31の加速。棍棒が振り下ろされ、ドラゴンの左前肢の鱗に着弾した。
衝撃が爆発的に拡散した。
鱗の表面にひびが入った。守護のヘルメットの概念で防護された鱗が——ひびを入れられた。破壊の概念が、防護の概念を上回っている。
ドラゴンが尾で反撃した。棍棒の個体が盾役の後ろに退く。盾が尾の一撃を受け止めた。品質スコア90を超える全身鎧と盾が、ドラゴンの打撃と正面から拮抗する。
3体目が発砲した。
散弾が扇状に広がり——一つ一つがドラゴンに向かって軌道修正した。追尾散弾。7発が同時にドラゴンの胴体に着弾する。鱗で2発が弾かれたが、5発が腹部の薄い箇所に命中し、鱗を砕いた。
痛み。
ドラゴンが唸った。腹部の鱗が3枚剥がれ、赤黒い肉が露出した。散弾の威力が——鱗の防護概念を貫通している。
棍棒の個体がドラゴンの尾の反撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。左腕の骨があらぬ方向に折れている。棍棒の個体が——盾役の後ろを通って後方に退いた。最後方で杯を掲げている5体目の傍まで下がる。琥珀色の光が棍棒の個体を包み、骨が数十秒で癒合していく。指数にして31相当の肉体が持つ高い治癒速度と、生命の泉杯の治癒概念が相乗し、通常であれば数日かかる骨折の修復が数十秒で完了する。棍棒の個体が立ち上がり、再び前線に戻って棍棒を構えた。
戦線復帰。
ドラゴンが唸った。腹部の鱗が3枚剥がれ、赤黒い肉が露出している。散弾の威力が——鱗の防護概念を貫通している。
こちらの傷は塞がりが遅い。向こうは——壊しても後ろに退いて回復し、何度でも前線に戻ってくる。後方の杯を持った個体が鍵だ。あれを潰せば回復は止まる。
だが杯の個体は常に最後方にいる。盾役と前衛の背後。射撃手のさらに後ろ。4体を突破しなければ届かない。
ドラゴンの知能が分析を加速させた。
この5体は——強い。個々の戦闘力はエリート兵隊蟻を大幅に超えている。装備のAFは、ドラゴンがこれまでに食った全てのAFの上位互換だ。しかも5体が連携している。前衛が斬撃波で牽制し、打撃がこちらの防御を崩し、散弾が弱点を撃ち抜き、盾が反撃を受け止め、治癒が損傷を回復する。
だが——ドラゴンは退かなかった。
傲岸不遜にして何者にも縛られない、最強の生物。
そして——お宝に目がない。
あのAFが欲しい。あの太刀。あの棍棒。あの銃。あの鎧。あの杯。全部食えば——ドラゴンは次の段階に進化できる。今まで摂食してきたすべてのアーティファクトを上回る強力な代物。これまでの成長の全てを凌駕する飛躍が、目の前にぶら下がっている。
ドラゴンが前肢の爪を振り下ろした。衝撃波が太刀の個体に向かって飛ぶ。太刀の個体が——斬撃波で迎撃した。2つの衝撃波が通路の中央で激突し、空気が弾けた。壁面のコーティングが吹き飛び、天井に亀裂が走った。
互角。
ドラゴンの衝撃波と、断界の太刀の斬撃波が——拮抗している。
ドラゴンが前方に跳んだ。太刀の個体に肉薄する。直接爪で引き裂く。斬撃波は中距離の武器だ。零距離に入れば——
盾役が割り込んだ。全身鎧と盾でドラゴンの突進を正面から受け止めた。130キロの巨体が床を滑るが——止まった。ドラゴンの突進を止めた。
棍棒が横から振り下ろされた。ドラゴンの右脇腹に着弾。鱗が砕け、肉が裂けた。
散弾が翼を狙った。追尾弾3発が右翼の膜に命中。翼膜がさらに裂ける。
太刀の個体が、盾の横から刺突を繰り出した。斬撃波ではなく直接の突き。刀身がドラゴンの左肩の鱗と鱗の隙間に——差し込まれた。3センチ。
ドラゴンが吼えた。
初めての——本気の吼え声だった。
喉の奥の射出器官が振動し、圧縮空気弾が至近距離で太刀の個体に撃ち込まれた。太刀の個体が5メートル吹き飛んだ。全身鎧が衝撃を吸収したが、体勢が崩れた。
ドラゴンが後退した。翼を広げて天井に飛び上がる。右翼の裂傷が広がり、滑空の安定性が落ちている。
天井に張り付いて、5体を見下ろした。
傷だらけだった。腹部の鱗が3枚剥がれている。右脇腹に深い裂傷。左肩に刺突痕。右翼の膜に複数の穴。
だが——目は輝いていた。
あのAFを。全部。食う。
この5体を殺して、AFを奪い、全て食う。そうすれば——ドラゴンは次の段階に到達する。門番を超える力を手に入れる。地上に出るための最後の壁を越えられる。
戦闘は続いている。決着はまだつかない。
だがドラゴンは確信していた。——食う。何があっても、あの宝を食う。
渋谷。冒険者ギルド本部。地下1階。
レイド決行前日。午後7時。
田所勝が会議室のテーブルに地図を広げた。品川ダンジョンの断面図と通路構造図。高梨が横に立ち、封鎖ポイントに赤い印をつけている。
佐々木参事官から連絡が入った。
「鬼庭としての参加はできません。ただし、巖道先生が個人として観察者の立場で同行されます」
田所が電話を置いた。高梨を見た。
「巖道個人が来る。観察者だそうだ」
「観察者……。戦力として期待していいんですか」
「仮にも冒険者を殺し続けている脅威を目の前にして、黙って見てると思うか?」
高梨が沈黙した。
「レイドの編成に入れろ。名目は観察者だが、実質的には——最強の遊撃手が加わったと思え」
レイド参加者の最終確認。
1stチーム、高梨以下5名。2ndチーム、宗形以下5名。3rd残存、神保と1名で2名。その他、ベテランの民間チーム。巖道征四郎、個人参加。合計30名。
「品川ダンジョンの60メートルから85メートル帯の通路を5箇所で封鎖する。主要な逃走経路を制限し、それ以外の方向にドラゴンを誘導して——1stの待ち伏せ地点に追い込む。2ndと民間チームが封鎖維持。3rd残存は通信と後方支援。巖道先生は高梨の後方に配置する」
「了解です」
高梨が頷いた後、声を落とした。
「一つ懸念があります」
「何だ」
「ダンジョン内の蟻の行動が、ここ数日で変わっています。品川入口の浅層を偵察した冒険者の報告では、蟻の巡回パターンが全面的に変更されている。中層の蟻が深層方向に大量移動しているという情報もあります。通常の巡回とは明らかに異なる動きです」
田所の目が細くなった。
「蟻が何をしているか分かるか」
「分かりません。ただ——蟻の移動が、ドラゴンの活動域に集中しているように見えます。まるで蟻もドラゴンを排除しようとしているかのように」
「ダンジョンがドラゴンを敵と見なした、ということか」
「推測ですが、可能性はあります。ダンジョンが何なのかは諸説ありますが、我々、人間にとってダンジョンは都合の良いシステムになってます。そんなシステムを、宝箱を壊され、蟻を食われ、人間まで食われている。ダンジョンそのものの構造を破壊されている。排除を決断しても不思議ではない」
「仮にそうだとして——レイドにどう影響する」
「最悪のケースは蟻の包囲網とレイドが同時にドラゴンを追い込み、ドラゴンが暴走することです。追い詰められた獣は最も危険です。——あるいは、蟻が人間のレイド部隊を邪魔な侵入者として排除にかかる可能性もある。蟻にとって人間は味方ではない」
「三つ巴か」
「はい。人間。ドラゴン。ダンジョンの蟻。——その場合、30名で持ちこたえられるかどうか」
沈黙が落ちた。
田所が地図を見つめた。赤い印が5箇所に打たれた断面図。60メートルから85メートルの通路。その中のどこかに、4メートルのドラゴンがいる。そしてドラゴンの周囲を、女王蟻の包囲網が締めつけている。
その包囲網の中に——30名の人間が突入する。
「レイドは予定通り決行する」
田所が言った。
「蟻の動きは変数として織り込め。交戦規則を追加する。蟻がドラゴンを攻撃している場合、蟻との交戦は最小限にとどめ、ドラゴンに集中しろ。蟻が人間を攻撃してきた場合は——撤退を優先する。ドラゴンの排除より冒険者の生存が最優先だ」
「了解です」
「全チームに通達。明日、午前6時。品川入口集合」
田所が地図を畳んだ。
「——ドラゴンを、仕留める」




