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まぁ、ちゃんと戦う戦国軍記 ~めざせ!御屋形様と経済勝利~  作者: 東木茶々丸
第三章 小笠原家攻略~林城の戦い~
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3-2-2 第六十七話 蜉蝣(かげろう)

今回の話はダークな話になります。

前置きが長くなっております。ご了承ください。

作者には奴隷制や人身売買を肯定するつもりは一切ないのでご理解ください。

天文十九年 六月二十八日 昼頃 場所:信濃国 林城 城外

視点:京四郎Position


 林城が開城した時点で城に残っていた人は三種類に分けられる。


 まずは、開城する側の代表を務めた中島や各砦の頭などの上位武官やその一族。

彼らは開城の条件として開放されることが含まれているので、攻め手がだまし討ちにしない限り無事に解放される。


 彼らは武功を認められているため小笠原に戻るにしろ、武田家に仕官するにしろ、ある程度身分が保障されている立場である。

仮にも敵として戦いあった間柄ということだろうか?


 二番目のグループは人質として林城に差し出されていた妻女や子息などである。

その他、足軽頭以上の武士階級とその一族も含まれる。


 彼らは捕虜として捕らえられ、身代金と引き換えに開放される。

捕虜という立場ではあるが、扱いは比較的まともで例えるなら世界大戦時の上位将校の物に近い。


 その身代金の金額は2~10貫(約16~80万円)[1]くらいだと聞いた。


 もっとも不遇なのはそれ以外の人々である。

身代金が他の一族などから出される見込みがない場合、人買の対象となるらしい。


 男の場合は金山などの肉体労働、女の場合は遊女として男の相手をさせるために売り飛ばされるとのことだ。


 その金額は、極端に低く10~20文(約800~1600円)[2]程だというから驚きだ。

もっともこの金額は略奪された人々の値段らしいので、城に籠れていた人々は少しばかり高値がつくとのことだ


 正直、こうした人身売買は現代の人権的に見て明らかにアウトである。

だが……さすがに、この場にいる全員をオレらが買い取るのは不可能だ。

それは口惜しいし、どうにもならないことへの歯がゆさもある。


▼▼▼▼

 オレは、人買の競売の進行役の男に話しかける。


進行役「なんでぇ、兄ちゃん。人買に文句つけに来たのか?」

京四郎「じゃあ聞くが、わざわざ不満を言われかねないことをしているのか?」

進行役「う、うるせぇ!武田さまから許可は得ている。久々の大人数だ。邪魔しないでもらいてぇ!」


 むきになる辺り、この男にも少しばかり罪悪感はあるようだ。


京四郎「いや……人買自体にどうこう言うつもりは無い」

進行役「ほう……」


京四郎「だが、見た目や筋肉の付き具合だけで金額を決めて欲しくなくてな。絵が上手な男を金山送りにしたくないし、裁縫が出来るのにそれを無下にはして欲しくない」

進行役「それで……?」

京四郎「各個人の技術や特技を聞き出したい。お前にとってもそれで高値がつくのならば文句はあるまい?」

進行役「…………いいでしょう。その話に乗りましょう」


 その後、解放される人と自己申告での聞き取りでプロフィールが完成した。


▲▲▲▲


半刻のち(一時間後)、 人買いの競売の会場の近くに智様の姿を見つけた。

目の前では競売が着々と進められている。

縄に縛られた人々が次々に連れられては競り落とされていく。


智様「お主は、もっと近くで見なくていいのか?京四郎殿」


 智様は冷たい目をして、その光景を眺めている。


京四郎「あっちには律が行っています。アイツ、より多くの人を助けたいって必死になっているんです。智様は見ていて心が痛まないんですか?」

勘助「京四郎殿、それは智様の判断を責めているのか?人買は武田に限らず他の大名家でも行われていることだぞ?」


 すかさず、勘助さんが言葉を返す。


京四郎「いや……そうして苛烈な処置を志賀城しがじょうで行った結果、怒りを買って上田原の戦いで大敗をしたのに同じ過ちを繰り返すのかな……と思いまして」

智様「……痛いところを突くな」


京四郎「前事ぜんじわすれざるは後事こうじなり……」

信繫「『史記』しん始皇しこう本紀ですな。」

智様「以前のことを心に留めておくと、後にすることの役に立つ……」


いつの間にか後ろに立っていた信繫様は、解説要らずだ。


京四郎「あれを見てください。」


 ちょうど三十代後半くらいの女性の番だった。


「母上!」


 堪えられなかったのだろう。後ろに捕らえられていた女の子が立ち上がる。


母「………………」


 母上と呼ばれた女性は黙って首を振る。

ローマ帝国の話で見るようなやり取りが、今まさに目の前で繰り広げられている。


京四郎「彼女たちは労働力としてしか見られていません……」


比較的、目鼻立ちが良いからだろうか?値段はどんどんと上がっていく。


律「その後ろの娘と一緒で!十二貫!」


 アイツの大声と高値の相乗効果で辺りが静まり返る。


進行役「け、決定!決定!」


 結果として富士屋としては男性三人、女はさっきの母娘を含む四人の買い取りとなった。


●●●●

 律もオレや智様のところに合流する。


律「今回は不本意ながら、こうするしかなかった……。でもあの人たちも人間なんです。アタシたちは人として彼ら・彼女らに接するつもりです」

京四郎「全部を変えることは無理でも、まずは身の回りのことから始めることなら出来ると思います」


 やがて智様が口を開く。


智様「そうだな……。変化しなければならない時が来ているのかもしれないな」

高坂「難しい話ですね……」



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[1]この金額は、武田晴信の志賀城攻め(1547年)の際の解放金の金額を基にしています。

[2]この金額は、上杉謙信の小田家攻め(1566年)の際の値段を基にしています。




お読みいただきありがとうございます。

金額の現代換算は『戦国 経済の作法』小和田哲男監修(出版G.B.)を参考にしています。

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