2-12-3 第六十話 覚悟
天文十九年六月十二日 夜 場所:信濃国 諏訪 諏訪湖畔
視点:京四郎Position
律「急に夜中起こしちゃって、ごめんね~。明日も早いのに……」
深夜になって、急に律に起こされたと思ったら湖のそばまで連れ出された。
京四郎「いや……、気にしてない。どうかしたのか?」
嘘だ。未だ目にしたことが無い戦場が不安で、熟睡できていなかったのだ。
律「明日から……離れ離れだからさ……」
それはそうだ。俺は内藤様の小荷駄隊と行動を共にして、
律はそのまま諏訪に残って今後の情勢を見計らうこととなる。
律「アタシ……、やっぱり心配でさ……。戦場に行くってことが……」
京四郎「なんだよ~。オレの剣の腕前がまだまだだって言いたいのか?このっ!」
冗談めかして、軽く律の脇腹をつつく。
京四郎「内藤様も言っていただろ?小荷駄隊は非戦闘部隊だって、敵地とはいえ武田に着く豪族も増えている。心配する必要はないさ」
律「でも………………
律の言葉の続きを待ったが、そこで途切れる。
ジャリっ、足元の小石が動いた音がする。
オレは、ふと律の方に振り返った瞬間…………、
キスをされた。
恋愛ドラマみたいな長々しい濃厚なモノではなく、ほっぺたにチュッと軽く……いかにも慣れてないキスだった。
京四郎「!?」
突然のキスに、オレは言葉が出なかった。
いや、正確には……どう返したら良いのかわからなかったのだ。
律「これは……おまじないよ!おまじない!」
京四郎「おまじない??」
律「そう、おまじない!アタシと一緒に荒稼ぎをして、令和に戻って博士をぶん殴る。そうでしょ?」
真っ赤な顔をして、律は声高に答える。
ああ、そうだ。
右も左もわからないこの時代で、オレは律と二人三脚でここまで来たのだ。
京四郎「大丈夫だ。オレの運の強さはオマエが一番よく知っているだろ?」
律「でも前に内藤様が、合戦の前に女を近づけると不幸になるって……
さっき、いきなりキスをしてきた人物と一緒だと思えない静寂な口ぶりである。
感状がジェットコースターすぎないか、おい……。
京四郎『いいか、オレたちは戦国時代の人間じゃない。令和の人間だ!不幸がなんだ!穢れがなんだ!【自分のことくらい、自分でそうだと信じなくてどうする!!!!】』
興奮のあまり、転がっていた小石を湖に投げる。
京四郎「諏訪の御寮人様が、無事に帰ってきたら祝勝会をしてくれるってさ。帰ってきての楽しみにしよう」
律「うん。そうする!」
律はそう言うと、身体をオレに寄せてきた。
オレは小刻みに震えながら、そっとその身体を包み込んだ。
月の光だけがその光景を照らしていた。
▼▼▼▼
翌日、馬場様率いる別動隊に合流すべく、飯富兄弟率いる赤備え部隊と甘利様、それに内藤様の小荷駄隊は諏訪を出発した。
時は1551年6月、信濃国守護である小笠原家滅亡の時が近づいていた。
お読みいただきありがとうございます。
めずらしく(?)かなり真面目な恋愛回(?)でした。
対小笠原戦の前置きが長いのは承知の上なのですが、ここは書いておきたかったので……。




