外伝 小笠原家反省会
小笠原sideです。
天文十九年四月上旬某日 昼頃 場所:信濃国 深志 小笠原氏館
貞種「も、申し訳ございませぬ!長時兄上!」
少しやつれた姿で若武者は、評定に現れた。
小笠原長時「来るのが遅い!自分で追跡に出ると申したのは三日も前のことではないか!」
主君の長時は、弟を叱責する。
家老A「まぁ、そうお責めになりますな。貞種様もお疲れでしょう」
右わきにいた家老が、主をなだめにかかる。
この家老、二木 重高[1]は小笠原家の支流である。
長時「そうやって甘やかすから、こやつは成長せんのだ!我、自ら出ていればこの弓で仕留められたであろう!」
長時は、置いてあった弓を構えて矢を放つ素振りをする。
家老B「そうやって自ら出撃された塩尻の戦いで、大惨事になったのではないのですか???」
長時「なにぃ!そち、今なんと申した!」
長時は、構えていた弓を床にガシャンと叩きつけて怒りを露わにする。
主君を戒めたこの家老は、平瀬 義兼[2]である。
家老C「落ち着きなされ~落ち着きなされぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
長時・平瀬・二木「「「うるさい!」」」
貞種「あ、被った」
理不尽に三人の連携攻撃をくらったのは、犬甘 政徳[3]である。
長時「もう、よいわ!」
長時は憂さ晴らしできたようで、ドカッと座る。
長時「それで、武田の動きはどうなっておる?」
二木「特に大きな動きはございませぬ。上田原の戦いでの影響が大きいのでしょう」
長時「だが、和平の案にも乗ってこないのだろう?」
二木「武田が和平に応じるように、高遠に働きかけておりますが……成果は無いようですな」
長時「う~む。では今、武田を攻めるのに適しておると思うか?」
平瀬「おやめなされ」
ピシャリと平瀬は、長時の案を切り捨てる。
犬甘「に、仁科の動きは、いかがでござる!」
長時が起こる前に、犬甘は場を濁す。
平瀬「仁科は……ごねてござる」
貞種「なんと!塩尻の戦で勝手に退きながら、何という言い草!」
貞種は、いら立ちを隠さない。
平瀬「村上の助力もあまり……あてに出来ませぬ」
長時「村上もか!武田に大勝しておるのに!?他所に力を貸す余裕は無いということか!」
犬甘「攻められたらよろしくないのは、村上も同じ……ということでしょうな」
犬甘は小笠原の内情に詳しい訳でもないが、同情する。
長時「そうだ!山家、山家はどうしておる!」
山家氏は、その名の通り山家城の城主である。
この山家城は、林城の東側の守りを担っている。
二木「山家殿は……頭痛とのことでございます」
長時「頭痛!?この家中はケガ人と老人しかおらんのか!」
長時の怒りゲージが再び上昇する。
犬甘「あ、そうです!奉行の中島殿が、新しい陣羽織をご用意されたとのこと!早速試し着なされては??」
長時「おっ、やっと完成したのか!前のやつはボロボロになっておったからな……」
長時の関心は、すっかり陣羽織に移ってしまったようだ。
長時「評定は終わりじゃ!解散!」
犬甘・二木・貞種・「「「ははーっ!」」」
平瀬「……」
長時は、そのまま部屋を出て去ってしまった。
貞種も慌てて後を追う。
平瀬「はぁ……」
平瀬は、ついため息が漏れてしまう。
二木「貞種様が追われていた不審な者どもが、武田の密偵でなければ良いのですが……」
犬甘「仮に武田の間者であっても、武田の軍勢が動くときは必ず、晴信は諏訪に入るでしょう。今は静観で様子を見ましょうぞ」
平瀬「わしは平瀬城[4]に戻り、仁科の動きに備える。長時様のそばにわしがいても得にはならんようじゃからな……」
犬甘と二木は、平瀬に対して慰めの言葉を言おうとしたが、上手い言葉が見つからなかった。
犬甘・二木「「よろしくお願いしまする……」」
静寂を取り戻した館に夕雨が降り始めていた。
長時「なんで我が、館から出ると雨が降り出すんだ!」
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[1]二木重高:小笠原家臣。中塔城主。中塔城は長野県松本市、松本城から西に15キロの所にある。生年不明。
[2]平瀬義兼:小笠原家臣。生年不明。平瀬城主。
[3]犬甘政徳:小笠原家臣。生年不明。犬甘城主。犬甘城は松本城の北北西2キロの所にある。
[4]平瀬城:長野県松本市の城。犬甘城の北方6キロの所にある。
お読みいただきありがとうございます。
書いといてなんですが、小笠原家臣って記録も多くなく地味な感じが抜けきれないですね。
生年不明ばっかりだし……。




