1-2-2 第十六話 二人目の武田五名臣
視点:律 Position
天文十八年四月上旬 昼 場所:甲斐国 甲府 原虎胤屋敷 庭
「まぁ、そう急くことはあるまい」
そう言って、原虎胤をもう一人の老将が制止する。
原さんよりも髪に、白髪が多い。もっと年上だろうか。
「申し遅れましたな。某は横田高松[1]と申す」
矢を片付けながら、首を垂れる。
横田「褒美を期待するのであれば、もっと上の身分の者に届け出れば良いこと。何より信虎様の代から当家に尽くしてくれている平蔵殿に失礼ではござらんか?」
原「うぐっ……。少々早まり申した……すまん」
律「いえ、急に来て信用してくれという方が無茶なので……」
こうして、これまでの次第を説明した。
原「そういうことならば、わしが預かろう」
歌集を原さんに渡した。
ちょっと読んでみたけれど、ダメ出しが凄かった。特に義元さんに。
どれだけ下手な詠み手なんだよ、義元さん。
と、同時に歌集を今川家臣の人たちに見られたくなかった理由もわかる。
原「されど、褒美が欲しいのも実際のところだろう?」
要らないと返事をしようとしたアタシを制して、
京四郎「されば、願いがございます」
原虎胤「申してみよ」
京四郎「今、当店では小山田殿に不当な買いたたきを受けております。」
横田「ふむ」
京四郎「小林屋に比べて当店の馬は決して負けることはないと思います。そこで小林屋と不二家の馬を競う機会を与えてほしいのです」
原虎胤「なるほど、競馬[2]の勝負と申すか。面白い!」
なるほど、公衆の面前で富士屋の優秀な馬を証明できればこれに勝ることは無い。
横田「馬場は板垣[3]様が整備を命じた物があるはずじゃ。詳しくは、おぬしらの座の神社の者に尋ねよ」
京四郎・律「「はっ!」」
原「で、勝算はあるのか?」
そうだ。やったところで勝たなければ意味がない。
京四郎「わかりませぬ。勝負は時の運ゆえ」
原・横田「「ふっ……アハハハハ!」」
二人には大ウケだ。こちらにしてみれば笑いどころではないが。
京四郎「しかし、勝つ手立てはござる」
原「言ったな小僧」
二人と相談した結果、詳細が決まった。
直線コースで三番勝負。場所は韮崎氷川神社[4]の馬場でということになった。
期日は五月十五日の午の刻。
横田「わしの好意じゃ。一人、乗り手を出そう。」
律「そんなぁ、なんだか悪いです……」
横田「おぬしの綺麗な目に免じてじゃ。のう、美男子殿」
律「ア、アタシは女子です……」
横田「そ、それは、すまんことを申した。詫びだぁ。この通りじゃ……」
まぁ、髪型はショートだし、見るからに男装っぽいからね……。
京四郎「小山田殿は、この勝負乗ってくるでしょうか」
原「小山田信有[5]殿は、まだ若くて気性も荒い。必ずやこの勝負受けて立つだろう」
二人の老将に礼を述べて、その日は退散した。
京四郎「まあ、《《うま》》いこといくだろう、ウマだけに!」
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二日後 甲斐 躑躅ヶ崎館[6]
横田と原の両将は、先日預かった歌集を渡しに、館へと参上していた。
「おや、原殿に横田殿。今日は参上する日では無かったはずだが。どうしてここにおる?」
この妙に偉そうな口ぶりの男は、南部宗秀[7]。武田家のナンバー4である。
横田「実は冷泉卿の歌集を預かりましてな。献上しようと思い参った次第。」
南部「なるほど……」
原虎胤から歌集を強引に南部が奪うと、
南部「これは、わたくしが預かりましょう。御屋形様は今、昼寝をされておる」
そう言って、二人の老将を追い払った。
せっかくの手柄の機会を逃してなるものか。
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[1]横田高松:武田五名臣の一人。年齢は60代。出身は甲賀。
[2]競馬:馬を競って走らせる競技。元々は神事として行われていた。
[3]板垣:武田家家臣。
[4]韮崎氷川神社:架空の神社です。
[5]小山田信有:ここでは小山田信茂の父の出羽守を指す。ちなみに息子の名前も、養父の名前も信有で紛らわしい。
[6]躑躅ヶ崎館:武田信玄の父の代からの居城。というか館。今の武田神社の辺りにあったとされる。
[7]南部宗秀:武田家臣。今の岩手を治めていた南部家とはルーツが同じ。
お読みいただきありがとうございます。
メジャー武将を出し渋っている感は否めないかも……




