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0-2-4 第九話 甚内、乱闘のあと

視点:京四郎 Position

天文十八年??月某日 夜 場所:駿河国 駿府城下 甚内さん宅


甚内「狭い家ですが、お上がりくだされ」

「「お邪魔します」」


甚内「いやぁ、助かりもうした。一人で四人を相手にするのは流石に無理でしたわ」

律「いえいえ、礼を言われるほどのことでもありません。」

京四郎「こっちもスカッとしたので、問題ないです」

甚内「ハハハッ。そういえば、自己紹介がまだでしたね。」


 危ない危ない。また名前を聞きそびれるところだった。


甚内「拙者、甲斐の生まれで桑原甚内くわはらじんないと申しまする。雪斎様に師事しております」

律「山本律です。生まれは武蔵の国です。こちらは松本京四郎。幼馴染です。」


 普段は名前で呼ばれないから、フルネームで呼ばれるとなんか嬉しい。


律「雪斎って人は、今川家の軍事と内政と外交を受け持つスーパー僧侶なのよ」


 スーパー僧侶!?なにそれ強そう。リシュリュー[1]とどっちが強い?


京四郎「実は……その、今日……今川家に仕官しようとしたのですが、残念ながら縁が無かったようでして」

甚内「でしょうな」

律「即答ぅ!」


甚内「実は今川家中は、あまり他国者を歓迎していないのですよ。織田や北条とぴりぴりしている今は尚更、間者が紛れ込まないか疑っておるのです」

京四郎「なるほど、さっきの乱闘はそういう要素もあったんですね」

甚内「ええ」


 床板がことさらに冷たく感じた。


甚内「この後、どうなさるのですか?」

律「実は、甲斐の武田か相模の北条への仕官を試みようかと……

甚内「武田になされ」


 返事が早い。


甚内「もちろん、拙者の出身が甲斐であるというのはありますが、このところ北条領にて農民の逃亡が続いているようで」

律「北条で!?いったいなぜです?」


甚内「今年の一月、もう先々月になりますが、武蔵や相模で大きな地震がありまして……。それに来年の税の取り立てが厳しくなるという噂が広まっているようなのです。

あ、これは雪斎様の受け売りですけどね」

京四郎「なるほど」


律「じゃあ、甲斐に先に向かいましょう。最悪その後に相模に行けるし」

京四郎「甲斐へと向かう道ってわかりますか?」

甚内「駿河から甲斐へ入る道筋は二つ。河内路かわうちじ右左口路うばぐちじでござる」


 そう言って、甚内さんは筆と墨を取り出して、紙に地図を描き始めた。


甚内「ここが駿府で、北東の方向にあるのが富士山。駿河湾沿いに歩いて、富士川にぶつかったところで北上、川を渡ると富士の大宮があります。」

律「富士浅間神社ふじせんげんじんじゃ[2]ですね」

甚内「さよう。あとは富士浅間神社から山の方へ北進し続ければ大丈夫。本栖もとすの関所、右左口峠を越えれば府中[3]の街の南へと続きます。これが右左口路です。」

京四郎「簡単な道ですね。これなら《《未知》》でも大丈夫そうです」

甚内「ええ、最短経路ですからね」


 スルー。気づいてくれない時ほど、つらい物はない。


甚内「もう一つの道は、道が険しいのと関所が多いのでやめておいた方が良いかと」


 かくして明日からの行程は決まった。


甚内「ところで、甲斐の府中に行くのでしたら一つ、お使いを頼んでも良いですか?」


 なかなかしたたかだな、甚内さん。その調子で早死にしないで欲しい。

甚内さんは、丁寧そうにしまわれていた箱を持ってきた。


甚内「実は、冷泉為和れいぜいためかず[4]卿が身体のお加減があまり優れないので、今までの連歌をまとめて晴信様にお渡しをと、用意されて拙者が預かった物にございます。」

京四郎「えっ!?そんな大切なもの甚内さんが渡した方が良いのではないですか!」

甚内「そうなのですが、拙者は訳があって甲斐には戻れない身なのです。私の見知った人に頼もうにも、あの義就たちが嫌がらせをしてくるに決まっています」

律「それはそうね……」


甚内「もし何か困るようでしたら、原虎胤はらとらたね[5]という人を頼ってくだされ。きっとお力になってくれるはずです。」

律「わかりました、お預かりします。」

甚内「かたじけない」


 おつかいクエスト発生!

【公家の歌集を晴信様(?)にお届けしよう!】デデン!


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[1]リシュリュー:ルイ14世の父、ルイ13世に仕えた人物。フランスのカトリック教会のトップでありながら、宰相としても活躍した。ナイフの先を丸くするように命じたという話がある。

[2]富士浅間神社: 今の富士宮市にある全国の浅間神社の総本山。

[3]府中:ここでは甲斐の府中。現在の甲府を指す。

[4]冷泉為和:戦国時代の公卿。駿府に滞在しており、武田家や北条家を訪ねて、連歌の指導を行っていた。

[5]原虎胤:武田家家臣。


お読みいただきありがとうございます。

そろそろ序章を終えられそうです。

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