20.ライバルはこいつか? ※ライナー視点
驚いた。とても驚いた……!!
ソアラに勧めてもらった小説を読んでいたはずが、俺はいつの間にかソファで寝てしまっていたらしい。
だが人の気配を感じて目を覚ますと、目の前にソアラがいた。
それもとても近い距離で、俺の顔を覗き込むようにしていたではないか。
一瞬混乱した。
俺はソアラと一緒に寝ていただろうか? これは夢か? 俺はまだ夢を見ているのか? それともこれは俺の強すぎる願望が作り出した幻想か――?
一気に鼓動が速まったが、平静を装って身体を起こした。
しかし自分が何を口にしたかは覚えていない。
変なことは言わなかっただろうか。
〝好きだ〟などと、心の声が漏れたりはしなかっただろうか。
彼女に、変だと思われるようなことは言っていないよな……?
ああ……それにしても、ソアラの寝間着姿はとても可愛かったな……。
少ししか見られなかったのが悔やまれるが、あれ以上同じ部屋にいたら、俺の気持ちは爆発していたかもしれない。
とにかく、とても元気をもらえた。
今夜はいい夢が見られそうだ。
*
翌日。ソアラとシシー、ニコと四人で朝食を終えた後、いつも通り魔法部屋にこもってしまったソアラを見送った俺は、ニコとともに自室へ戻った。
「どうですか? 順調ですか?」
「……何がだ」
「ソアラ様とですよ」
何か用があるのかと彼を招き入れたが、口を開いて出てきたのはそんな言葉。
「もう気持ちは伝えているんですか?」
「……まだだ」
「ええっ? 俺たちが来るまでずっと二人きりだったのに? 今まで一体何をしてたんですか!」
シシーもニコも俺がソアラに想いを寄せていることを知っている。
二人の親もうちに仕えてくれていて、彼らとは付き合いが長く、とても信用できる人物だ。
誰も近づきたがらない迷いの森にも嫌な顔一つせず来てくれると言ってくれたし、俺がソアラと結婚できるよう力になりたいとも言ってくれた。
「……彼女は突然この森に追放されたんだぞ? 王子に婚約破棄されたばかりだというのに、今度はいきなり俺が求婚してみろ。彼女を困らせるだけだ」
「……それはそうですけど」
ニコは俺と同い年の二十二歳で、友人のように親しくしている。剣の腕もいいから、昔からよくともに稽古をしてきた。
「でも、やっとあのソアラ様と再会できたのに、のんびりしていていいんですか? また誰かに取られちゃいますよ」
「今のところライバルになりそうな男はおまえくらいだ」
「ちょ……、勘弁してくださいよ……!!」
ニコに限ってそんなことはあり得ないとわかっているが、ソアラがどんな男が好みかはわからない。
もしニコのような男がタイプであったら、おちおちしていられないのは事実だ。
ニコはいい奴だし、俺より明るく人当たりもいいし、話が面白い。
……やはりライバルはこいつか?
「ま、まぁ、冗談はいいとして。せめて意識してもらったほうがいいと思いますよ? ライナー様、見た目はすごくいいのにその愛想のなさのせいで、ちょっと怖いし勘違いされやすいから」
「……」
そう言ったニコにじろりと鋭く視線を向けたら、
「ほら、そういうところですよ!」
と、怯えるように後退られた。
……まぁ、ニコの言うことも一理あるか。
だが、失敗はしたくない。
ソアラに嫌われてしまったら、俺は生きていけないのだから……。
ソアラは王都に来てすぐザビン王子と婚約したから、彼女がどんな男が好みなのかはまったくわからないのだ。
アプローチの仕方もわからない。
ニコの言うように、俺は興味のない女性から言い寄られることはあったが、こちらから女性を好きになったのはソアラが初めてだ。
誰かと恋仲になったことはない。
だから、どうすれば好きになってもらえるのかがわからない。
一緒に暮らせているから、もう夫婦になったような気分だった。
だが、現実は違う。
俺の想いを伝えることはできていないし、意味もなく一緒にいることもできない。
それにソアラは俺のことを監視役だと思っているのだ。
ソアラと同じ塔で生活できるだけでとてつもなく幸せではあるが、これで満足してはいけない。
俺はソアラと結婚したい。
いつでも堂々とこの気持ちを伝えられる関係になって、ソアラに俺のすべてを捧げたい。
何が食べたいか、何を見たいか、何がしたいか、どこに行きたいか……ソアラの要望をすべて聞いて、叶えたい。この俺が。
俺がソアラを幸せにしたい。他の男に渡したくない……!
ああ……ソアラ。好きだ。大好きだ。……結婚したい。
俺はいつだってそう思っているのに。
神よ、ソアラへの愛を伝える資格をどうかこの俺にください……!!
〝好きだ〟
言葉にすればとても短いこの気持ちを彼女に直接伝えるのは、とても難しい。
「とりあえず、気持ちだけでも確認しておいたほうがいいと思いますよ」
「なぜそう焦らせる」
「そろそろ国王が帰国するからです」
「……」
それも、わかっていた。
いくら神殿が許したとしても、聖女と認定されているソアラを勝手に追放しておいて、国王が黙っているはずがない。
あれはザビン王子の勝手な行いなのだから。
神殿の者は俺が聖女と一緒にいることを知っているし、定期的に手紙を書いてソアラの無事を伝えているが、国王がいつまでもこのまま聖女を魔女の森に追放したままにしておくはずがない。
息子のような、愚かな王でないのなら。
だからソアラが再び王都へ呼び戻されるまでには、俺の気持ちだけでも伝えたい。
いや、伝えなければ。
そしてできることなら婚約したい。
これからも近くでソアラを守っていけるよう、俺が、ソアラと――。
本日、
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