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21.バレたらまずい

 立派な魔女になるため、私は今日も魔法部屋で秘薬作りに取りかかっていた。


「……よし! これで最後に、なりたいものの一部を入れれば……完成ね!」


 今日は変身薬を作ってみることにした。

 私が好きな物語、『心優しき呪われた魔女』に出てきた憧れの魔女はドラゴンに変身していたけれど、ドラゴンの一部はさすがに入手できない。

 なので、バルコニーに落ちていた鳥の羽根を一本、持ってきた。


 鳥になって空を飛んでみたい。それは誰しも、一度は憧れる夢!


「ふふ、この薬があれば空を飛べるのね……! 魔女っぽい……とても魔女っぽいわ……!!」


 まずは自分で試すため、効果の時間は短めに作ってみることにした。


 その調整は難しいのだけど、私には強い魔力がある。だからそれくらいの調整はお手のもの!


 小鍋で材料を煮て、あとはこの羽根を入れるだけ。

 そう思って羽根を顔の前に掲げたとき。


「は……ふぁ……っくしゅっん!」


 ふわふわしている羽根に鼻がむずむずして、くしゃみが出た。


「あ……っ! 大変!! 羽根がなくなってしまったわ!?」


 改めて顔を上げると、手に持っていたはずの羽根が消えていた。

 くしゃみをした拍子に落としてしまったみたい。


〝ぶくぶくぶく――〟


 けれど。

 鍋の中の変身薬は反応を示した。

 大きな泡が立ち、それが落ち着くと澄んだ紫色の液体が出来上がる。


「完成した……?」


 羽根はきっと、鍋の中に落ちたのね。


「うん、そうね! とにかく試してみましょう!」


 出来上がった変身薬を小瓶に移し、空を飛ぶためこっそりと広間のバルコニーに移動する。今日は快晴。そよそよと心地よい微風が吹いていて、絶好の飛行日和!


「……よし、誰もいないわね」


 ライナー様はお部屋にいるようだったし、ニコは魚を釣りに行っている。シシーはお料理中のはず。

 今がチャンスと思った私は、バルコニーに出て早速薬を飲んでみた。


 さぁ、鳥になってこの大空を飛ぶのよ……!!


 薬を一気に飲み干した途端、身体が熱くなる。

 そして〝ぼんっ〟と、一瞬白い煙に包まれたと思ったら、次に視界が開けたときには目線が先ほどよりも少し高くなっていた。


「……鳥よ! 鳥になったんだわ――……あれ?」


 けれど。手で顔に触れてみると、それは明らかに人の肌だった。


「……失敗したのかしら?」


 腕を見ても人のもの。足もそう。


 なぁんだ、鳥の羽根は鍋の中に入っていなかったのね……。


「あれ……?」


 そう思いつつ、広間に飾ってある鏡の前に行ってみたら、そこに映ったのは私ではなく、シシーの顔だった。

 シシーは私より少しだけ背が高い。


「そういえばこの間シシーが魔法部屋の掃除をしてくれていたわよね……」


 そのときに、シシーの髪が鍋の近くに落ちたのかしら。くしゃみをした拍子に舞い上がって、鍋に入ってしまった……とか?


「とにかく、成功ね!? すごいわ!!」


 今シシーに出会したら大変なことになるけれど、効果はすぐに切れるから大丈夫。

 早く魔法部屋に戻りましょう。


 そう思い、うきうきしながら廊下に出た。


 空は飛べなかったけれど、実験は成功した。

 これで私は、いつでも好きなものに変身できる薬が作れるということ。

 それって本当にすごいことだわ。実に魔女っぽい……!!


「シシー。ここにいたのか」

「ラ、ライナー様……!?」


 スキップしそうな足取りで魔法部屋に向かっていた私の背後から、ライナー様の声が聞こえて心臓が飛び出しそうになった。


「シシー、聞いてくれ」

「は、はい……! なんでございましょう……!」


 どうしましょう……!?

 困ったわ。でも、ここはシシーのふりを貫き通さなければ……!

 魔女の秘薬である変身薬を作っていることがライナー様にばれたら、大変だもの……!


「ニコに言われたのだが……、やはり俺は、この気持ちをすぐに伝えたほうがいいのだろうか」

「……?」


 ライナー様は、なんの話をしているのだろうか。

 何か深刻そうな表情で、シシーに相談事を持ちかけてきた。


「だが、俺はまだ早いと思うんだ……。今伝えても、彼女を驚かせ、困らせてしまうと思うんだ」

「は、はぁ……」


 まだ早い? 驚かせる? 困らせる? 一体なんの話……?


「シシーはどう思う? 彼女と仲がいい君の意見を聞きたい」

「……申し訳ございません……あの、なんのことでしょう……?」

「え?」


 正直に、おそるおそる笑顔を浮べながら聞いてみた。今はシシーなのだから、適当なことは言えない。

 すると、ライナー様は少し驚いたように目を見開いた。

 本物のシシーなら、きっとすぐにわかるようなことだったのかしら?

 まずい……。


「彼女……ソアラのことだ」

「えっ、私?」


 思いもよらない名前が出てきて、今度は私が驚いてしまう。


「……? いや、君ではなく、ソアラだ」

「あ、ああ、そうか……ソアラ……様、のことですか!」

「ああ、彼女以外にいないだろう? どうしたシシー、今日はなんだか変だぞ。具合が悪いのか?」

「いいえ! 大丈夫です! そうですよね、ソアラ様のことですよね! それ以外ないですよね!!」

「……? ああ」


 まずい。ライナー様が変に思っている……。ライナー様は鋭い方。ちゃんとシシーを演じないと……!


「私も、お伝えしたほうがいいと思います!!」


 だからとりあえず、堂々と肯定してみた。

 でも何を? 何を伝えるの??


「やはりシシーもそう思うか……。しかし、彼女は困らないだろうか?」


 ライナー様は、私が困るようなことを伝えようとしているの……?

 一体何かしら。私、ライナー様の迷惑になるようなことを無意識のうちにしているのかしら……。

 それならやっぱり聞きたい。ちゃんと伝えてほしい。


「……困ってしまうことだとしても、きっとソアラ……様、は聞きたいと思います。ライナー様の思っていることを」


 この返答は的外れではないかしら……?


 でも、ライナー様が私に伝えたいことがあるのなら、聞きたいと思うのは本心。

 だからドキドキしながらもライナー様からの視線を逸らさず見つめ返すと、小さく息を吐きながら「そうだよな」という言葉が返ってきた。


「ありがとう、シシー。やはり近いうちに伝えようと思う」

「はい、お待ちしております」

「え?」

「あ……っ、ソアラ様が、待っていると思います!」

「そうか? そう思うか?」

「はい!!」


 危ない。私はシシーなのだった。


「それではライナー様、私はこれで……」

「ああ、邪魔したな。……彼女はまだ魔法部屋にいるのだろうか?」

「えっ? ああ、ソアラ様ですね、はい! 今日は集中したいとおしゃっていましたので、お声はかけないほうがよろしいかと!!」

「……そうか」


 今ライナー様に行かれると、私がいないことがばれてしまう。

 ライナー様はなぜか少し残念そうな顔をしたけれど、早く部屋に戻ろう。

 もし今ここに本物のシシーがやってきてしまったら、元も子もない。


「それでは、ライナー様。ご機嫌よう!」

「え? あ、ああ……ご機嫌よう」


 思わず淑女らしいお辞儀をしてぴゅーっとライナー様の前から逃げるように去った私だけど……今のはシシーっぽくなかったかしら……?



「――ふぅーーー」


 その後は誰にも会わずに、なんとか魔法部屋に戻ってくることができた。


「……こうなったときのために、すぐ私に戻れる薬も作っておいたほうがいいかもしれないわね……!」



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