書籍2巻発売記念SS:ノンノとバニー
本日6/5に、『妄想好き転生令嬢と、他人の心が読める攻略対象者』2巻発売です!
何卒よろしくお願いいたします!
いずれ書こうと思って早数年経ってしまった、バニーガール衣装のお直し業者の話です。
お直しされたバニーガール衣装が届き、一人ファッションショーをしていたら鼻風邪をひいた。どうやら私はあまり薄着が得意じゃないらしいな……(転生して十六年後の重大な気付き)。
しつこい鼻風邪が治った頃に、お直しをしてくれた業者から一通の手紙が届いた。
なんと、バニーガール衣装にインスピレーションを受けて、新作のお洋服を作ったらしい。そのきっかけをもたらした私をお店にご招待してくれるそうだ。
わーい! バニーガール衣装を参考にした新作のお洋服とか、スケベな予感しかしないよね!
というわけで私はアンタレスを誘って、お店を訪ねることにした。
▽
いつぞや待ち合わせ場所にした時計塔を近くに望みながら、私はアンタレスと一緒に目的地へ向かう道を歩く。
行き交う人々の姿は今はまだ貞淑一色であったが、これから一気にバニーガール衣装が普及されていくのだと思えば、心が躍った。
「お店のバニーガール衣装を買い占めたいな~。でも私一人で買い占めちゃったら、他の人に行き渡らなくなっちゃうから駄目だよね。なんて幸せな悩みなの……。ねぇ、アンタレス。これからシトラス王国のファッションの最先端はバニーガールになるんだね。ふへへ、とんだスケベ国家になったものだ……」
「ノンノの期待通りにいくかは分からないけれど。あ、あのお店じゃない? 大きな紙袋を下げている人がたくさんいるよ。入場待ちの列まであるね」
「大丈夫! 招待状があるからすぐに入れるよ! 待っていて、私のバニーガールちゃんたち!」
きっと店員さんたちもバニーガール衣装に違いないと思ったが、お店の入り口に立っていた店員さんはごく普通のお洋服だった。ブラウスの襟元は第一ボタンまでしっかりと留め、ロングスカートはもちろん足首さえ隠している。
けれどなぜか頭に、ウサ耳を生やしていた。
「???」
「ほらノンノ、店員さんがお店の中に入って良いって言ってるよ。こんなところで固まらないで」
「だって、ウサ耳だよ??? 不吉な予感しかしないよ???」
「そうだよ。きみが望むような破廉恥ものは、このシトラス王国では無理なんだよ」
アンタレスに背中を押されて店内に足を踏み入れると――……そこは、ウサギモチーフのお洋服で溢れていた。
定番のウサ耳カチューシャに、ウサ耳付き帽子、ウサ耳フード付きケープ、スカートの腰のあたりにふわふわのウサギの尻尾が付いていたりする。婦人向けの衣装だけじゃなく紳士向けの衣装まであった。
なんてメルヘンなの……!!!
お洋服のデザインも多種多様だが、ウサ耳のカラーも白や茶色や黒に灰色にピンク、垂れ耳バージョンまであって種類が豊富だった。
しかもお店の壁に張り紙がしてあって、そこには『第二段は猫シリーズを予定しております。』と予告が書かれてあった。
どうやらお店のオーナーがバニーガール衣装からインスピレーションを受けたのは、動物モチーフをお洋服に取り入れることだったらしい……。
呆然としていると、突然後ろから声を掛けられた。
「あれ? ノンノ様!? バギンズ様もこのお店にいらっしゃったのですねっ。とっても奇遇です!」
「まぁ、スピカ様……と、グレンヴィル様まで?」
なんと、同じ時間帯にスピカちゃんとプロキオンまで入店していた。
「こちらのお店のウサギシリーズがとっても可愛くて大人気とお聞きしたので、プロキオン様とやって来たんです!」
「私も、ウサギは好きだ」
ちょうど、二人はそれぞれ商品を選んでいたところのようで、それぞれの手にウサギモチーフの商品を手に持っていた。
スピカちゃんは白い垂れ耳のカチューシャとそれに合わせた尻尾付きのワンピースで、プロキオンは黒いウサ耳付きのケープだった。確かに二人なら、とっても似合いそうだ。
「ノンノ様とバギンズ様もウサギシリーズを買いに来たのですか? せっかくですから、四人でお揃いを着て遊びませんか?」
本当はそんな可愛い理由でこのお店にやって来たわけではないのだけれど……。
スピカちゃんの提案も楽しそうだから、乗っちゃおっか!
私はそんな気持ちでアンタレスを見上げると、彼も了承したように微笑んで頷いた。
というわけでシトラス王国にスケベなバニーガール衣装はまったく普及しなかったが、私は茶色いウサ耳のお洋服を選び、アンタレスは灰色のウサ耳のカチューシャをお買い上げし、そのまま四人でウサギコーデ姿でウサギカフェへ行って楽しく遊んだのだった。