第76話:三つ目は、もっと悪い
翌日。
学校が終わると、そのまま田中の店へ向かう。
もう足は迷わない。
流れも頭に入っている。
(……ここは終わりだな)
店の前に立つ。
人が止まる。
入る。
回る。
昨日と同じ。
いや――
昨日より安定している。
(崩れない)
そう判断する。
「来たか」
田中が出てくる。
「はい」
短く答える。
「見ての通りだ」
腕を組みながら言う。
「もう俺いらないだろ」
(……そうだな)
そう思う。
だが――
「必要」
短く言う。
「え?」
「広げる」
それだけ。
田中が少し笑う。
「やっぱりそこ行くか」
(……行く)
そう思う。
一つじゃ意味がない。
二つでも足りない。
「三つ目ある」
田中が言う。
(……来たな)
そう思う。
「どこ?」
「ちょっと離れてる」
短く言う。
「条件悪い」
それだけ。
(……いいな)
そう思う。
むしろ望んでいる。
条件が悪いほど――
本質が出る。
「行く」
短く言う。
それで決まる。
少し歩く。
通りを抜ける。
人通りが減る。
明らかに。
(……弱いな)
そう判断する。
店の前に着く。
小さい。
古い。
看板は色あせている。
入口も狭い。
そして――
人がいない。
(……これはきつい)
そう思う。
二つ目よりさらに悪い。
「どうだ?」
田中が聞く。
(……いい)
そう思う。
問題が多い。
つまり――
やることが明確。
「入る」
短く言う。
中に入る。
「いらっしゃい……」
弱い声。
店主が一人。
客は……ゼロ。
時間帯的に、完全にアウトだ。
(……止まってるな)
そう判断する。
席に座る。
メニューを見る。
(……同じだな)
多い。
弱い。
選べない。
だが――
それ以上に問題がある。
暗い。
空気が重い。
(……入口前で負けてる)
そう思う。
二つ目は“見られていた”。
ここは――
見られていない。
「どうだ?」
田中が聞く。
(……三段階じゃ足りないな)
そう思う。
「四つ」
短く言う。
「四つ?」
「存在」
一つ。
「入口前」
一つ。
「入口」
一つ。
「中」
一つ。
それだけ。
田中が少し黙る。
「……そんなにか」
「そんなに」
短く言う。
(ここが本当のテストだ)
今までとは違う。
条件が悪い。
流れもない。
つまり――
“ゼロから作る”
「できるか?」
田中が聞く。
低い声。
(……試してるな)
そう思う。
答えは決まっている。
「できる」
短く言う。
それだけ。
田中が小さく笑う。
「いいな」
そう言う。
「やってみろ」
それだけ。
(……やる)
そう思う。
だが――
すぐには動かない。
まず見る。
外に出る。
通りを見る。
人の流れ。
速度。
視線。
(……速いな)
二つ目よりさらに速い。
しかも――
そもそも少ない。
(止めにくい)
そう判断する。
「どうする?」
田中が聞く。
(……シンプルじゃ足りないな)
そう思う。
二つ目と同じ“500円”では弱い。
ここでは埋もれる。
(……少し強くするか)
紙を出す。
ペンを取る。
考える。
(何で止まるか)
値段だけでは弱い。
では何か。
一瞬でわかるもの。
一瞬で判断できるもの。
「……これだな」
小さく呟く。
書く。
“大盛り無料”
それだけ。
さらに下に。
“500円定食”
それだけ。
(……二つで止める)
値段。
量。
両方で引っ掛ける。
「これでどうだ」
田中が聞く。
「止まる」
短く言う。
それだけ。
入口の前。
少し手前。
視線が流れる位置に貼る。
高さ。
角度。
調整する。
(……これでいい)
「開ける」
短く言う。
店主が戸惑う。
だが、田中が頷く。
「やれ」
それで決まる。
開店。
最初の数分。
変化はない。
人は流れる。
止まらない。
(……まあな)
そう思う。
だが――
一人、視線が動く。
通り過ぎる途中。
“500円”を見る。
その下。
“大盛り無料”。
「……マジ?」
小さく呟く。
(……来るか)
足が止まる。
一秒。
それだけ。
だが――
止まった。
入口を見る。
中を覗く。
そして――
入る。
(……通ったな)
そう思う。
一人目。
それで十分だ。
田中が横で呟く。
「……やるな」
小さく。
(……まだだ)
そう思う。
一人じゃ意味がない。
再現。
それが必要だ。
数分後。
また一人。
同じ動き。
止まる。
見る。
入る。
(……いける)
確信する。
条件が悪くても通る。
やり方が合っていれば。
「……マジで通るんだな」
田中が言う。
本気で。
(……当然だ)
そう思う。
やることは同じ。
迷いを消す。
詰まりを消す。
それだけ。
夜。
店を閉める。
売上はまだ小さい。
だが――
ゼロじゃない。
昨日までと違う。
「……客、入ったな」
店主が言う。
信じられないように。
(……ここからだ)
そう思う。
入口前。
通した。
次は入口。
そして中。
全部通せば――
同じになる。
「……やるか」
田中が言う。
(……やるな)
そう思う。
答えは決まっている。
「やる」
短く言う。
それだけ。
夜。
家に帰る。
机に向かう。
ノートを開く。
書く。
・店③(開始)
条件悪。
流れなし。
だが――
「……いける」
小さく呟く。
やることは変わらない。
ただ、難しいだけだ。
それでも――
通す。
そのためにやっている。
「……面白いな」
そう思う。
ここを超えれば、本物だ。
どこでも通る。
それが証明できる。
その段階に、入った。




