表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/191

第39話:価値が形になるとき

朝、机の上に並べた三枚の紙を見ながら、恒一は軽く息を吐いた。


簡単なもの。

標準のもの。

少し詳しいもの。


三段階に分けた作文のまとめ。


「……とりあえず、これで回すか」


そう呟く。


ここ数日の試行錯誤で、形はできた。


一対一ではなく、一対多。

その中でズレを減らすための形。


完璧ではない。

だが、動かしながら直せる状態にはなっている。


それで十分だ。


学校へ向かう道で、恒一は少しだけ周囲を見ていた。


前と同じ景色。

だが、見ているポイントが変わっている。


人の流れ。

立ち止まる場所。

視線が集まるところ。


「……これ、やっぱり同じだな」


小さく呟く。


文章でも、価値でも同じ。


どこに人が集まるか。

どこで止まるか。


そこに意味がある。


教室に入ると、すぐに声がかかった。


「持ってきた?」


「ああ」


三種類の紙を机に並べる。


「どれがいい?」


「簡単なやつ」


「俺もそれ」


まずは一番簡単なものから動く。


それは予想通りだった。


入り口は広くする。


そこから必要な分だけ深くする。


数人がそれを持っていく。


しばらくすると、一人が戻ってきた。


「これ、もう一枚もらえる?」


「誰の分?」


「妹」


その一言で、恒一は少しだけ手を止めた。


(外に出たな)


教室の外。


別の学年。

別の場所。


広がり始めている。


「いいよ」


そう言って渡す。


そのとき、相手が少しだけ言いづらそうに続けた。


「……あのさ」


「うん」


「これ、お金取ってる?」


「取ってないけど」


「じゃあさ」


少しだけ間を置いてから、言った。


「今度ジュースおごるわ」


その言葉に、恒一はほんの少しだけ目を細めた。


前世なら、すぐに計算していた。


単価。

継続性。

回収方法。


だが今は違う。


まだ、その段階ではない。


「いいよ、別に」


そう返す。


相手は少し驚いた顔をした。


「マジで?」


「うん」


「じゃあ、今度なんか奢るわ」


「気が向いたらでいい」


それだけ言う。


そのやり取りの中で、一つだけはっきりしたことがある。


(価値として見られたな)


無料かどうかではない。


“何かと交換できるもの”として認識された。


それが大きい。


昼休みには、さらに広がっていた。


別のクラスの子が声をかけてくる。


「それ、もらえる?」


「どれ?」


「一番簡単なやつ」


渡す。


反応を見る。


問題なく理解されている。


「これならいけそう」


そう言って、持っていく。


(入り口はこれで固定だな)


一番簡単なもの。


それが基準になる。


そこから上に行くかどうかは、相手次第。


そのほうがズレが少ない。


だが、その一方で別の反応もあった。


「もうちょっと詳しいのない?」


同じクラスの、少しだけ真面目なタイプの子。


「あるよ」


二枚目を渡す。


相手はそれを見て、すぐに頷いた。


「こっちのほうがいい」


その違いがはっきり出ている。


(やっぱり分かれるな)


全員に同じものは通じない。


だから分ける。


それだけだ。


放課後、帰り道でふと考える。


(これ、どうする)


広がっている。


少しずつだが、確実に。


そのままにしておいてもいい。

だが、それだとどこかで崩れる。


量が増えれば、管理が必要になる。


「……数、数えるか」


ノートを取り出す。


今日渡した枚数をざっと書く。


簡単なものが一番多い。

標準が少し。

詳しいものはさらに少ない。


(この比率か)


これは、そのまま需要だ。


入り口は広く。

深くするのは一部。


投稿と同じ構造。


「……やっぱり繋がってるな」


自然にそう思う。


家に帰る。


机に向かい、ノートを開く。


今日のまとめを書く。


・価値として認識された

・広がりはコントロールが必要

・三段階で対応


ペンを止める。


そのあと、少しだけ考えて書き足す。


「対価はまだ取らない」


今は信用と再現性。


それを積む段階だ。


焦る必要はない。


前世で急ぎすぎて崩れた経験が、はっきりと残っている。


「……今はこれでいい」


そう整理する。


続いて、原稿に向かう。


今日の流れをそのまま使う。


広がる。

ズレる。

分ける。

整える。


それを文章に落とす。


書きながら、自然と手が動く。


前よりも迷いが少ない。


何を残すか。

どこを削るか。


それがわかってきている。


書き終える。


「……これでいいな」


前よりも、少しだけ精度が上がっている。


確実に。


封筒に入れる。


その動作も、もう迷いはない。


外に出る。


ポストの前に立つ。


(これも、見られる)


自然に思う。


もう、その前提は当たり前になっている。


投函する。


音がする。


その音が、少しだけ軽く感じた。


「……慣れたな」


そう呟く。


最初は重かった。


だが今は違う。


一枚一枚が、流れの中にある。


特別ではない。

積み重ねの一つ。


家に戻り、布団に入る。


目を閉じると、今日のやり取りが浮かぶ。


ジュース。

妹。

別のクラス。


少しずつ、外に広がっている。


投稿だけではない。


自分の持っているものが、別の形でも動き始めている。


「……面白いな」


そう思う。


前世では、全部が別だった。


仕事。

金。

人。


それぞれが分断されていた。


今は違う。


全部が繋がり始めている。


その感覚がある。


「……次、どうするかだな」


小さく考える。


広げるか。

締めるか。


その選択も、もうすぐ必要になる。


目を閉じる。


価値が形になる。


その最初の段階に、確実に立っていた。

私の2作目

「神様転生したはずが赤ん坊の自分に転生していた件」

この作品は一言で言うと神様に笑われた男が世界を笑えなくするです。(自分でも導入で笑ってしまいました)

良かったらどうぞよろしくお願いします

感想や評価をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ