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第144話:金は、“今の価値”ではなく“未来の流れ”へ集まり始める

夏。


昭和五十八年。


朝。


蝉の声。


窓を開けると、一気に熱気が部屋へ流れ込んでくる。


扇風機。


畳の匂い。


台所から焼けるベーコンの音。


テレビでは朝のニュース。


「各地で再開発構想が相次ぎ――」


(増えたな)


恒一は新聞を広げる。


地方欄。


駅前整備。


大型複合施設。


歩道拡張。


さらに最近、少しずつ増えている言葉。


“将来性”。


(来てる)


まだ小さい。


だが、確実に。


未来を理由に金が動き始めている。


母が麦茶を置く。


「最近、土地の話する人増えたわねえ」


「景色変わってるから」


短く返す。


「お父さんの会社でも、“今のうちに買っとけ”って話してたわ」


(始まったな)


まだ投機じゃない。


だが、“期待”で土地を見る人間が増え始めている。


机の上。


大学ノート。


地方都市地図。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


さらに増えた分類。


・未来流入型

・期待先行地価型

・人流増幅型

・導線価値変動型


(かなり見えてきた)


未来の地価上昇構造が。


学校へ向かう。


朝の道路。


以前より、建設会社の車が増えた。


測量。


道路工事。


駐車場整備。


地方そのものが、“作り変わり始めている”。


乾物屋。


客は減った。


だが、駅前の喫茶店は朝から人がいる。


(分離進んだな)


“買う場所”と。


“集まる場所”。


完全に役割が変わり始めている。


教室。


夏休み前。


クラスの空気は浮ついている。


男子が騒ぐ。


「郊外にまたデカい店できるらしいぞ」


「映画館も入るって」


「最近あっちばっか発展してね?」


(典型だな)


未来でもそう言われる。


だが実際には、“全部が発展してるわけじゃない”。


“流れを掴んだ場所”だけが伸びる。


昼休み。


恒一は窓の外を見る。


校門前。


人。


車。


配送トラック。


全部が以前より増えている。


(地方の速度、上がった)


昭和五十八年。


まだ全国はバブルじゃない。


だが、“加速前”の空気が出始めている。


放課後。


今日は第二都市へ向かった。


電車の窓。


以前は空き地だった場所。


そこに大型駐車場。


ファミレス。


量販店。


さらに建設中の複合施設。


(早いな)


予想より。


だが止まらない。


第二都市へ着く。


駅前。


以前より若い人間が増えている。


喫茶店。


雑貨屋。


待ち合わせ。


イベント広場。


一方。


大型消費は郊外。


(住み分け固定化したな)


未来の地方構造へ近づいている。


会館へ向かう。


中へ入る。


煙草。


コーヒー。


紙資料。


昭和の空気。


だが今日は人数が多い。


商工会。


地主。


銀行。


不動産会社。


さらに今日は――。


証券会社の男までいた。


(そこまで来たか)


会長が苦笑する。


「最近、“この街まだ上がるか”って話ばっかだ」


(始まった)


まだ小さい。


だが未来へ繋がる。


証券会社の男が資料を広げる。


人口流入。


店舗数。


歩行量。


地価推移。


「最近、“地方でも伸びる場所は伸びる”って見方が増えてます」


(見え始めたな)


昔は違った。


“地方は全部同じ”。


そう見られていた。


だが未来では。


“勝つ地方”と“沈む地方”へ分かれる。


銀行の男も頷く。


「最近、本部でも“人流分析”かなり増えてます」


(完全に時代変わった)


土地単体じゃない。


“未来の流れ”。


そこへ金が動き始めている。


地主の男が腕を組む。


「昔は駅前の土地なら何でも強かったんだがな」


(今は違う)


「流れ無い場所、止まる」


恒一が言う。


会館が静かになる。


「未来感じない場所、金来ない」


「人増える場所だけ上がる」


それだけ。


証券会社の男が息を呑む。


「……最近、本当にそうなんですよ」


「“期待感ある街”だけ、投資話が増えてる」


(来たな)


未来の入口。


バブル前夜。


その時。


不動産会社の男が新しい資料を出した。


第二都市再整備案。


駅前広場拡張。


複合施設。


歩行導線。


「最近、“歩ける街”を作りたいって相談増えてます」


(面白い)


未来では一度壊れる概念。


だが今は強い。


“歩きたくなる街”。


そこに人が戻る。


会長が煙草を灰皿へ押し付ける。


「時代変わるの早いな」


(もっと早くなる)


数年後は。


夕方。


第二都市の駅前を歩く。


学生。


高校生。


サラリーマン。


以前より、“居る理由”を持った人間が増えている。


イベント。


喫茶店。


小さな広場。


その一方。


郊外では、大量の車が大型店へ流れている。


(役割完成し始めた)


駅前。


郊外。


もう別の生き物だ。


その時。


若い会社員たちの会話が聞こえた。


「最近この街、なんか伸びそうだよな」


「分かる」


「土地も上がってるらしいし」


(始まったな)


“期待で買う”。


未来の土地神話。


その入口。


夜。


家へ帰る。


静かな部屋。


蝉の声。


扇風機。


机へ向かう。


大学ノートを開く。


新しいページ。


・昭和58年夏

・期待先行投資開始

・人流分析型地価

・未来価値重視時代


さらに下。


・金は“未来の流れ”へ集まる


書き足していく。


(ここから危ない)


未来では。


この“期待”が暴走する。


人。


銀行。


投資家。


全部、“上がりそう”へ群がる。


そして。


本当に価値がある場所と、“雰囲気だけ”の場所が混ざり始める。


そこから狂う。


布団へ入る。


静かな夜。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


そして郊外。


全部浮かぶ。


変われた街。


流れを作れた街。


そこへ、少しずつ金が流れ込み始めていた。


そして恒一だけが知っている。


この静かな熱が、数年後、日本中を飲み込む巨大な狂乱へ変わることを。

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