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第143話:街の価値は、“土地”ではなく“流れ”で決まり始める

梅雨。


昭和五十八年。


朝。


雨音。


窓を叩く水の音が、静かに部屋へ響いている。


湿った空気。


畳の匂い。


扇風機の回る音。


テレビでは朝のニュース。


「地方都市再整備の動きが各地で拡大――」


(早いな)


恒一は新聞を広げる。


地方欄。


駅前再開発。


歩道整備。


郊外型施設。


さらに最近増えてきた言葉。


“地域活性化”。


(まだ軽い意味だけどな)


未来では。


この言葉が日本中に溢れる。


母が洗濯物を畳みながら言う。


「最近、駅前の土地また上がったんですって」


(来たか)


「第一都市?」


「そうそう。お父さんが驚いてたわ」


(始まったな)


まだ小さい。


だが、流れは確実に変わり始めている。


机の上。


大学ノート。


地方都市地図。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


さらに追加された分類。


・流動価値型

・期待先行型

・滞在投資型

・空洞化加速型


(見えてきた)


未来の土地価値の正体が。


学校へ向かう。


雨の通学路。


駅前。


以前より若い人間が増えた。


喫茶店。


雑貨屋。


待ち合わせ。


一方。


大型消費は郊外へ流れている。


(役割固定化始まったな)


地方都市が、“用途”で分かれ始めている。


駅へ着く。


以前なら通勤だけだった流れ。


今は、“寄り道する人間”が増えている。


それだけで街は変わる。


教室。


雨の昼休み。


クラスメイトたちが騒いでいる。


「駅前のイベント、また人すごかったらしいぞ」


「最近あの街だけ空気違うよな」


「店も増えてるし」


(広がったな)


噂が。


未来でも。


地方は“評判”で変わる。


人が来る街には、人が集まる。


放課後。


今日は第三都市へ向かった。


港町。


雨に濡れた港。


灰色の海。


コンテナ。


工場。


だが以前より、“暗さ”が減っている。


(変わったな)


かなり。


駅前から港への歩道。


広場。


小型店舗。


人の流れが出来始めている。


商工会の男が走ってくる。


「最近、土地の問い合わせ増えてるんですよ!」


(やっぱりか)


「どこ」


「港側導線沿いです!」


(流れ読まれ始めたな)


未来では。


“人が流れる場所”へ金が集まる。


それが土地神話の入口。


会館へ向かう。


中へ入る。


煙草。


雨の湿気。


紙の匂い。


昭和の会館。


だが今日は空気が違う。


銀行。


地主。


商工会。


さらに今日は――。


不動産鑑定士。


(そこまで来たか)


会長が笑う。


「最近、“どこの土地が伸びるか”って話ばっかだ」


(始まった)


まだ小さい。


だが未来へ繋がる。


不動産鑑定士が資料を広げる。


地価推移。


人流変化。


歩行量。


「正直、昔の評価基準が通じなくなってきてます」


(当然だ)


未来では。


“駅前だから価値がある”時代が終わる。


銀行の男も頷く。


「最近、本部でも“人流”と“滞在時間”を重視し始めてます」


(完全に流れ変わったな)


土地そのものじゃない。


“人が流れるか”。


そこへ変わり始めている。


地主の男が腕を組む。


「昔は駅前の土地持ってりゃ勝ちだったんだがな」


(まだそう思ってる奴多い)


だが、未来では違う。


「流れ無い土地、弱い」


恒一が言う。


会館が静かになる。


「人止まらない場所、価値落ちる」


「人集まる場所、上がる」


それだけ。


不動産鑑定士が息を呑む。


「……本当にその通りです」


「最近、“道路一本違うだけ”で評価変わるんですよ」


(始まったな)


未来の土地評価。


導線。


滞在。


期待感。


全部込みで動く時代。


その時。


銀行の男が新しい資料を出した。


「最近、本部が“導線投資”って言葉使い始めてます」


(早い)


歩道。


広場。


駐車場。


交流空間。


“人を流す設備”へ投資する。


未来では当たり前。


だが今はまだ珍しい。


会長が苦笑する。


「時代変わったなあ」


(変わる)


しかも、かなり大きく。


夕方。


第三都市の港側を歩く。


以前は暗かった。


人も少なかった。


だが今は違う。


学生。


会社員。


カップル。


喫茶店。


小さなイベント。


“流れ”が出来始めている。


(強いな)


未来では。


土地価格は、“未来の人流予測”で動く。


つまり。


“未来がありそうな流れ”。


そこへ金が集まる。


その時。


高校生たちが話していた。


「最近この辺、前より来やすいよな」


「なんか歩きやすい」


(それだ)


歩きやすい。


止まりやすい。


それだけで街は変わる。


夜。


家へ帰る。


静かな部屋。


雨音。


机へ向かう。


大学ノートを開く。


新しいページ。


・昭和58年梅雨

・流動価値型土地評価開始

・導線投資拡大

・“人流”重視時代


さらに下。


・土地の価値は“流れ”で決まる


書き足していく。


(面白い)


未来では。


土地神話が暴走する。


だが、本当に強い土地は限られる。


“人が流れる場所”。


そこだけ。


布団へ入る。


静かな夜。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


第四工場都市。


全部浮かぶ。


変われた街。


流れを作れた街。


そこへ、少しずつ金が集まり始めていた。


そして恒一だけが知っている。


この小さな変化が、数年後、日本全体を飲み込む“土地狂乱”へ繋がっていくことを。

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