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第132話:中学生になると、見える世界も少し変わる

春。


昭和五十六年。


朝。


少しだけ暖かい風。


冬の冷たさが消え始めた空気。


台所から味噌汁の匂い。


焼ける卵の音。


窓の外では、商店街のシャッターが順番に開いていく。


変わらない昭和の朝。


だが恒一の部屋だけは、以前より少し広く見えていた。


小学校の机。


もう少し窮屈だ。


背が伸びた。


肩幅も変わった。


机の上には、相変わらず大学ノートが積まれている。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


工場都市。


さらに、新しく増えた分類。


・住宅流出型

・郊外吸収型

・工場依存型


(だいぶ増えたな)


以前の自分なら、一冊で十分だった。


だが今は違う。


地方ごとに崩れ方が違う。


だから整理が必要になる。


母が襖を開ける。


「恒一、朝ご飯冷めるわよ」


「今行く」


立ち上がる。


制服。


今日から中学生。


まだ少し違和感がある。


居間へ向かう。


父が新聞を広げていた。


「最近また郊外店増えるらしいな」


新聞の地方欄。


大型量販店。


幹線道路沿い開発。


ロードサイド化。


以前より記事が増えている。


(来てるな)


静かに。


少しずつ。


まだ誰も“地方崩壊”なんて言葉は使わない。


だが、兆候は見えている。


「中学、遠くなるんだろ?」


父が言う。


「まあね」


短く返す。


実際、行動範囲は広がる。


それは悪くない。


むしろ都合がいい。


電車に乗る時間も増える。


街を見る時間が増える。


学校へ向かう。


新しい制服。


少し大きい鞄。


駅まで歩く。


通学路。


乾物屋。


以前より朝の客が減った。


代わりに道路を走る車が増えている。


薬屋。


入口に“駐車場あります”の看板。


文房具屋。


隣の空き地が駐車場になるらしい。


(始まってる)


地方の形が。


静かに変わり始めている。


駅。


以前よりサラリーマンが多い。


学生も増えた。


車社会が進んでも、駅はまだ地方の中心だ。


だが未来では違う。


だから恒一は見ている。


“どこから崩れるか”を。


中学校。


校門。


新しい制服の生徒たち。


騒がしい。


小学校とは違う空気。


「うわ、校舎デカ」


「部活どうする?」


「先輩怖そう」


そんな声が飛び交う。


(懐かしいな)


前世を含めれば。


教室へ入る。


席に座る。


窓側。


悪くない。


先生が入ってくる。


自己紹介。


クラス分け。


全部流れていく。


だが恒一は、窓の外を少し見ていた。


駅前。


道路。


人流。


中学校の周囲ですら、“流れ”が見える。


昼休み。


クラスはまだぎこちない。


だが話題は似ている。


「駅前のゲーム屋潰れるらしい」


「マジ?」


「郊外にデカい店できたからじゃね?」


(早いな)


中学生でも分かるくらいには、変化が始まっている。


放課後。


恒一はそのまま第一都市へ向かった。


制服姿のまま。


駅を降りる。


(……変わったな)


以前より明るい。


人も少し増えた。


入口店舗には列。


喫茶店には学生。


雑貨屋にも客。


だが一方で、奥側はまだ弱い。


(完全じゃない)


だから見続ける。


会館へ向かう。


中へ入る。


「おお、制服変わったな」


会長が笑う。


「中学生か」


「今日から」


銀行の男も苦笑する。


「時間経つの早いですね」


(そっちはもっとだろ)


前世感覚だと。


だが言わない。


地図が広げられる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


さらに工場都市。


以前より資料が増えていた。


地方銀行の男が言う。


「最近、第二都市の駅前もかなり安定してきました」


(いいな)


導線整理が定着し始めている。


第三都市の男も頷く。


「港側から戻る人も増えてる」


「ただ、車流れが少し変わってきてます」


(郊外化か)


早い。


だが自然だ。


昭和五十六年。


地方都市は少しずつ“車中心”へ変わり始めている。


恒一は地図を見る。


道路。


駐車場。


大型店予定地。


全部繋がっている。


「ここ」


指差す。


幹線道路沿い。


「多分、流れる」


銀行の男が止まる。


「……やっぱりそう見えます?」


(見える)


未来では、ロードサイドが地方を変える。


駅前中心だった流れを壊す。


だから今のうちに調整が必要。


会長が煙草を置く。


「最近、他県の商工会も同じ話してるぞ」


(広がってるな)


以前は“特殊事例”。


今は“地方全体の問題”。


認識が変わり始めている。


夕方。


第一都市を歩く。


駅前。


喫茶店。


書店。


惣菜屋。


以前より人は戻った。


だが郊外へ向かう車も増えている。


(両方進んでる)


だから難しい。


単純じゃない。


地方再生は、“戻す”だけでは足りない。


“流れ続ける変化”へ合わせないといけない。


夜。


家へ帰る。


制服を脱ぐ。


机へ向かう。


大学ノートを開く。


新しいページ。


・昭和56年春

・中学生

・ロードサイド化進行

・地方駅前の二極化開始


さらに下。


・駅前単独再生は限界あり


書き足していく。


(ここからだな)


本当に難しくなるのは。


未来では。


地方はさらに郊外化する。


大型店。


車社会。


土地価格。


金融。


全部加速する。


だが今なら、まだ間に合う。


流れを読める。


先回りできる。


布団に入る。


目を閉じる。


第一都市。


第二都市。


第三都市。


さらに、まだ見ぬ地方都市。


全部浮かぶ。


少しずつ変わっている。


静かに。


だが確実に。


そして恒一だけが知っている。


この変化が、数年後、日本全体を飲み込むほどの大きな流れになることを。

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