第79話:一人でやる段階は終わった
三つ目の店を出たとき、空気が少し違っていた。
夜の通り。
人は少ない。
だが――
店の前で足を止める人間がいる。
“大盛り無料 500円定食”
その紙を見る。
少し考える。
そして――
入る。
(……回り続けるな)
振り返らずにそう判断する。
もう見なくてもわかる。
入口前。
入口。
中。
全部通っている。
崩れる理由がない。
「……終わったな」
田中が横で言う。
低い声。
だが、確信がある。
「終わり」
恒一は短く答える。
それでいい。
三店舗。
全部通した。
条件が違っても。
場所が違っても。
結果は同じ。
(……証明は終わりだ)
そう思う。
やることは変わらない。
迷いを消す。
詰まりを消す。
流れを作る。
それだけで、店は動く。
それだけで、金が動く。
「で」
田中が言う。
「次はどうする?」
(……来たな)
そう思う。
ここからだ。
「増やす」
短く言う。
「どれくらい?」
「一気に」
それだけ。
田中が少し笑う。
「具体的には?」
(……数字だな)
そう思う。
今までは検証。
ここからは実行。
「十」
短く言う。
「え?」
「十店舗」
それだけ。
沈黙。
数秒。
「……本気か?」
田中が聞く。
低い声。
(……当然だ)
そう思う。
「できる」
短く言う。
「同じだから」
それだけ。
田中が頭をかく。
「いや、理屈はわかるけどよ」
一拍。
「人が足りねえだろ」
(……そこだ)
そう思う。
一人でやる段階は終わった。
「増やす」
短く言う。
「人も」
それだけ。
田中が少し黙る。
「……どうやって?」
(……簡単だ)
そう思う。
やることは同じ。
「できるやつを使う」
短く言う。
「え?」
「見たやつ」
それだけ。
田中が考える。
「……ああ」
小さく言う。
「店主か」
(……そうだ)
そう思う。
すでに三人いる。
実際にやった人間。
理解している人間。
「任せる」
短く言う。
「それで回る」
それだけ。
田中が少し笑う。
「……お前、怖いな」
小さく言う。
(……普通だ)
そう思う。
仕組みは作った。
あとは回すだけ。
「金は?」
田中が聞く。
(……そこもあるな)
そう思う。
「出す」
短く言う。
「どこから?」
「ここ」
テーブルの上の売上を思い出す。
「回す」
それだけ。
田中がため息をつく。
「全部それだな」
(……全部それだ)
そう思う。
変わらない。
規模が変わるだけだ。
店の前で立ち止まる。
三つ目の店。
弱い立地。
古い建物。
だが――
人が入る。
回る。
(……これで十分だ)
そう思う。
条件は関係ない。
やり方がすべて。
「やるか」
田中が言う。
低く。
だが、迷いはない。
(……やるな)
そう思う。
答えは決まっている。
「やる」
短く言う。
それだけ。
夜。
家に帰る。
机に向かう。
ノートを開く。
書く。
・店①(成功)
・店②(成功)
・店③(成功)
その下に。
・人(3)
・流れ(完成)
そして――
・次(10)
(……ここからだ)
小さい店の話は終わり。
次は違う。
数。
組織。
金。
全部を動かす。
「……一人じゃ無理だな」
小さく呟く。
だが――
問題じゃない。
一人でやる必要はない。
「使う」
短く言う。
人を。
仕組みを。
流れを。
それだけ。
布団に入る。
目を閉じる。
今までの流れが浮かぶ。
学校。
店。
三店舗。
すべて繋がる。
「……次は」
小さく呟く。
もっと速く。
もっと大きく。
一気に動かす。
そのために――
何をするか。
もう決まっている。
「……始めるか」
そう思う。
これは終わりじゃない。
本当のスタートだ。
その段階に、入った。




