おや、これは便利なアイテムです(分岐 続人形争奪戦 其の八)
こんにちは、蓮華です。
シストくん達間に合ったようですね。
あの一族には極力関わりたくなかったのが本音ですが・・・・・・。
今回、とても大きな収穫を得られました。
それはマキナバイブル。
私ですら入れないような機密情報にもアクセスし放題。
これは凄い、空の上の上、ヘドロの底の底まで覗けます。
今、これを間借りする事であちらの動きはこちらと同期。
円さんやシード、そして他の勢力の誰と誰がどこで何をしているのか丸わかりです。
これに一度ロックされたらもう終わりでしょう。
今、主要人物のほとんどがある一定の範囲に留まっております。
双方総力戦に等しい。
はてさて、どちらが勝つのか。
私はそれを見守りつつ。
折角なのでこのマキナバイブルで今のうちに色々しておきたいと思います。
◇
数年前。
「これが候補者の一覧でございます」
書類の一部が手渡された。
「すでにかなり絞り込まれております」
血は薄いど、数年ごとに一族の中から傍付きを選ぶ。
本家に出入りを許されるのは一族だけ。
それも常駐となればその中でもさらに一部。
「・・・・・・どいつもこいつも代わり映えしないねぇ」
数値的には確かに優秀。
でも、どれもいまいちピンとこない。
「ん、そっちの書類はなんだい?」
「あぁ、こちらは落伍者のリストですね。一応確認のためにあるだけでございます」
スペック的にラインへ届いてない者達。
「そっちも見せとくれ」
「いやしかし、こちらは見るまでもないかと。中には障害を持った者も・・・・・・」
「私が見ると言ってるんだ」
「は、申し訳ありません」
書類を開く。
事前に行われたテストの結果も書かれている。
身体的、学力、思想など。
なるほど、先ほどのリストと比べればのきなみ数値は低い。
盲目、難聴などの者もいるね。
そんな中。
「ん、歳のわりにこの子の身長えらい低いね。記載ミスかい?」
「いえ、その者はいわゆる小人症と呼ばれる障害でございます」
聞いた事はある。実際この年齢の平均身長を大きく下回っていた。
しかし、特異すべき点はここではない。
「この数値も記載ミスではないと?」
運動能力は決して高くはない。
だが、一点とんでもない数値をたたき出している。
「あ、いえ、どうでしょう、確かに、これは・・・・・・」
当主の勘か。
「今すぐ、この子をここへ呼びな。私自身が見極める」
かくして彼女は現当主の目に留まる事となり。
そして。
「この子は今日から私の傍に置く」
一族に産まれ、それゆえその見た目は想像以上の過酷さを突きつけただろう。
だが、それが逆に作用したか。
散々好奇の目に晒され続け。
それでも前を見てきた結果。
「この子は化けるよ」
過去は過去。
未来はここから。
◇
様々な者が一堂に会したこの場所で。
いの一番に瑞雀が吠える。
「イプシロンからイオータ、タイミングCNO、私に追従せよっ!」
瞬時に見極めた。
この場の戦況。
5、5、6、5、4、5、5、5、8、7、7・・・・・・。
同時に脅威を数値化。
3、5、6、23。
「別格っ!」
指示を飛ばす声と共に飛び込む。
目標は。
「血色。まさかこんな形で相まみえるとは」
誰よりも小さく。
誰よりも大きい者。
正面、瑞雀。
左右を取り囲むように数人の瑞雀部隊。
完璧にずらされた攻撃タイミング。
それにより高速の攻撃、連携が可能となる。
が。
先に仕掛けた者の顔面が潰れる。
それはほぼ同タイミングで隣でも。
的は小さい。
ナイフでの振り下ろし。
直撃する寸前でのカウンター。
瑞雀は直前で蹴りへと切り替え。
そして激痛が走る。
脛に衝撃が走った。
インパクトが最大となる、その刹那。
そこを確実に捉えた反撃。
瑞雀の戦闘経験がその矛盾を伝える。
どう考えてこちらの攻撃を見てから反応してからでは遅い。
これはもう先読みの次元。
「人の顔色ばかりうかがって、散々裏の裏まで見てきたからね。なんとなく分かるんだ、気付かないだけで情報は満載。視線、仕草、見えてるよ」
すでに、入れ替わりの増員も反撃により地面を舐める。
強力な攻撃がそのまま返ってくる。
まるで鏡。
それも禍々しいほどの。
魔鏡。
「プラン変更、445から666へ」
同時攻撃にメリットはもうない。
ならばと、他の隊員ではついて来られない領域へとシフト。
ここからは瑞雀のみ。
「魔鏡・・・・・・っ」
正真正銘の全力。
怪我の影響は著しい。
それでも越える者は数えるほどしかいない。
血色の本気。
右手には銃。左手にはナイフ。
最初の指示を無視した訳ではない。
体がそう反応したのだ。
魔鏡の手にもナイフが握られる。
切れないはずの大気が切り裂かれる。
周囲の人間の動きが一斉に止まった。
中央で激突する両者を見て。
皆、理解したのだ。
今、自分達が争うことの無意味さを。
これはどちらが勝つかで。
自分達の運命は決まる。
それほどかけ離れていた。
突き突き、蹴り、銃弾。
魔鏡はその全てを返せない。
それほどの速度。
いくつかは魔鏡の身体に触れる。
「抜けてくるかっ!? 私が戦闘で触れられたのは君が初めてだっ」
称賛、驚き。
攻防ではなく、攻撃には攻撃。
互いに繰り返す。
攻撃、反射、それすら躱して、さらに攻撃、反射。
「・・・・・・・・・・・・化け物」
魔鏡は銃弾すら避ける、否、銃口の向きを強制的に変更させられる。
弾はあらぬ方向へ、お返しとばかりにナイフの切っ先が飛んでくる。
あまりにも小さい。
一撃でも直撃すればその身体、軽く吹っ飛ぶ。
でも、決して当たらない。
互いの体格差も本来の感覚ではない。
瑞雀にとってこれほどやりにくい相手もいない。
どうしてもパターンがかぶる。
ハイ、ロー、フェイント、その切り替えが全く機能しない。
ただでさえ動きを読まれているのにこれでは。
こちらの攻撃が速いほど、力を込めるほど。
反撃も速く、より強力になる。
強者の戦い、当然、身体の負担も重くなる。
すでに両太ももの傷口は開き、感覚すら失いつつある。
だが、ここで自分が負けるわけにはいかない。
この場にいる者の中で、この魔鏡と戦えるのは自分だけだと。
自身の敗北は自軍の敗北と同義。
戦況分析、未知数の者も多く。
ただそれでも確実に断言できるのは。
「魔鏡っ!」
この者が間違いなく最強という事。
もう当たらない攻撃も。
無駄な読み合いも終わり。
覚悟は決まった。
飛び込む、全力でナイフをその首目掛けて振り抜く。
予想通りそこに手応えはなく。
全てを込めた攻撃にはお返しが届く。
腹部に突き刺さる魔鏡のナイフ。
だが。
それは想定内。
カウンターにはカウンター。
ナイフが肉を突き進む中。
瑞雀の蹴りもまた。
魔鏡の幾層にも重なっていた防御壁を割るように。
顔面へと到達していた。
ゴム鞠のように後方へ跳ねる魔鏡。
瑞雀は背中から地面へ沈む。
互いに動かない。
数秒の時を経て。
先に辛うじて立ち上がったのは。
「ぐぅ、化け物はどっちだろうね」
膝を伝って全身が笑う。
「見事、でも浅かった。君が万全なら今ので首は後ろを向き私は死んでいただろう、だがそれは君も同じ。お互い命拾いしたね」
相手が強ければ強いほど。
魔鏡もまた強大になる。
◇
ういうい、円、だ。
思わず見とれてしまっていた。
中央でいきなり始まった頂上決戦。
いまさらながらあんなのと戦って生き残ってる自分達が奇跡に思えた。
しばらく双方の動きが止まっていた。
それはどちらが勝つかで各勢力の戦力にとんでもない差ができるからに他ならない。
そして、今どちらも倒れた。
なら。
私の相手は決めている。
奇しくも目が合う。
「蚕と揚羽をやったのはお前か?」
「あぁ、あの白い子と黒い子? うん、私だよ~。教えて欲しい? どんな殺され方したか? なんて叫んだか、どれほど苦しんだか」
「いや、必要ない。お前はすぐにそれを語れるような状態ではなくなるから」
きつくきつく握り締める。
蚕、揚羽、こんな私をよく支えてくれた。
当初私を快く思っていないメンバーの中でお前達だけは最初から最後まで私に付いてきてくれた。
私が不甲斐ないばかりに大事なお前達を失ってしまった。
私はもう少し生きなければならない。
それが姉御の願いと知ったから。
だから、謝るのはもう少し先になるけれど。
先にこいつを送るから。
暇つぶしにでも使って欲しい。
「あぁ、二人がお前にしがみついている、ぞ」
早く。
早くと。




