静寂を破る絶叫なの、だ(人形完成編 其の二)
休んだ分書き足しました。
広いフロアの中央に。
有名な芸術家がデザインした真っ赤なピアノがあった。
「・・・・・・誰かね?」
綺麗な旋律が部屋を巡る。
「・・・・・・静かに。もうすぐ終わる」
巧みな指捌きで鍵盤を叩く。
周りにはいくつもの死体。
そこから流れ出る真っ赤な血がピアノの色とマッチしていた。
一曲弾き終え。
少女は満足げに立ち上がる。
「・・・・・・テンドウだ、な。人形は返してもらう」
男を見据える。
「・・・・・・どうやってここへ入った?」
その質問。無言で答える。
椅子の上にあったモノを投げつけた。
「・・・・・・これはっ」
「見覚えあるだろう?」
明らかに女性の手首。
「死体で認証を突破するのは少し前までは無理だったが。今の技術革新でそれも可能になった」
この部屋は男のコレクション部屋。
入るには色々面倒ではあったが。
「人形はさらに奥か。案内してもらう」
◇
円、だ。
三姉妹の一人はもうこの国にはいない。
今や完全に孤立し好き放題やっていた。
最初を飾るには丁度よい。
海に浮かぶ古城。
奴はこういう人を惹きつける場所を好む。
内部の一部。
光が差し込む神秘的な空間。
本来なら観光客でごった返している。
だが、ここに人気はない。
人間の本能か。
ここには近づいてはいけないと警告する。
「・・・・・・おかしいぞ、どういう事だ」
ステンドグラスの美しい色彩。
ゆえに女は汚したかった。
人の血と肉片でこの場を染めたかった。
だが、ここに標的はいない。
選びたい放題のはずなのに、ただの一人も。
遠ざけるは、この女の狂気。
そして。
もう一つ。
「・・・・・・ここまで随分かかってしまった、の、だ」
静かに女に近づく。
「ん・・・・・・お前、知ってるぞ、確か、逃げた奴」
あの時からいくらか様変わりしたとはいえ女は私にすぐ気付いた。
「うぴゃうぴゃ、なんだ、今度こそ殺されにわざわざ来たのか」
女の10本の指がそれぞれ別々に動いた。
合図はない。
挙動もない。
女は一瞬で私の前へ。
飛びかかる腕。
横に逸れてそれを掴んだ。
取った腕を支点に飛びつき旋回。
そのまま腕十字。
勢いそのまま即座に腕を破壊。
「うがああああああああああああああああああ」
澄み切った空気の中、濁った女の声が木霊した。
「ほら、どうした、立て」
一度距離を取る。
「ううううう、殺す、ここここうぴゃあああああああああああああ」
女は懲りずにもう片方の腕を伸ばしてくる。
全く同じ動作で。
「ああぴゃああああああああああああああああああ」
もう一つも壊す。
「なんだ、どうした、立て」
女の両腕は垂れ下がっていて使い物にならない。
そうなると。
「うがあぁああああああああああああああああああ」
口を大きく開けて突進してくる。
繰り出した私の膝が女の口を強制的に塞ぐ。
めり込み、打ち付けられた女は空中に浮かぶ。
膝を伸ばし、つま先でさらに女の顎を蹴りつけた。
短い間隔で行われた二連撃。
斜めに吹っ飛ぶ女。
備え付けてあった長椅子を派手に巻き込みながら倒れる。
「まだ、だ。立て」
「う、うぴゃあああああああああああああああああ」
欠けた歯を見せてまた大きな口を開く。
再度襲いかかってくる女。
恐ろしく早い。
されどただの直進。
軽く躱すと、そのがら空きの背中へ。
「あうぎゃあああああああああ」
ナイフを突き刺す。
女は悲鳴を上げるがすぐに切り返すとまたも猛突進。
私はそれをマタドールのようにいなすと。
今度もまた背中へナイフを突き刺す。
「あぴゃああぁあああああああああああ」
女はそれでも怯まない。
何度でも向かってくる。
その都度増える背中へのナイフ。
まるでコリーダ。
血が飛び散り、流れ出ても。
女は諦めない。
私の喉元をつねに狙って急接近。
何度目だろうか。
すでにナイフは肩や首元まで隙間がない。
「まだ来る、か」
呆れと、ほんの僅かな称賛を。
もう持ち合わせのナイフは尽きた。
最後に握るは。
一本のハサミ。
開く。
これで終劇。
タイミングは合わせた。
私の腕、女の突撃。
二つの刃が。
女の両目に深く埋まる。
「二年前の忘れ物、だ」
手に力を込めて。
開いていた刃を一気に閉じた。
「う、うぴ、ゃ」
静かに崩れていく女。
「これを幕とするの、だ」
ようやく始まる。
◇
トリム、マキナ。これで、三姉妹の内、二人は片付いた。
マキナの死体を派手に晒したのは宣戦布告、そして。
ここからキラキラ、そしてレンレンも関わってくるだろう。
「このまま、あちらの準備が整う前に他の殺人鬼連合、ヴィセライーターを狙い、相手の戦力をできるだけ削ぐ。人形回収は最終段階」
[と、あの二人ならそう思うだろうねぇ]
確かにその方が都合はいいが。
[あっちはまだ今の円ちゃんの力を知らない。それが誤算となる]
レンレンは私を必ず止めに来る。
それは以前の私が見せた甘さ、それによる葛藤が招いた事。
二人が協力したら二年前の私なら太刀打ちできるわけもない。
今現在も双方、強力な戦力を有しているから。
[順番は好きにするといいよぉ。今の円ちゃんならそれが許される]
なら、早めに人形を取り返すとする。
スマホを取り出し。
「・・・・・・私、だ。人形は今どこ、だ?」
誰かに教えられた訳ではない。
考えたすえに出した答え。
私には前々から協力者がいる。
私の意図していない間に。
「・・・・・・そうか、そこへ入るには何が必要だ?」
予定が変わった。人形を得るにはやはりもう一段階必要みたい、だ。
◇
私の前に人形が映る。
以前と違うのは目があること。
片方の目は姉御のか。
もう片方が、私。
残った目から涙が流れた。
それは現存する私の瞳。
髪を握り引き摺っていた男の体を離した。
「わ、私の、人形・・・・・・、誰にも、わた・・・・・・」
確認した以上、もうこいつに用はない。
「これは、今も昔も姉御の、だ。お前のモノになった時など・・・・・・」
ナイフを首元に振り下ろす。
「一度も、ない」
息絶えた男を見下ろし、もう一度人形に目を移す。
「終わったかい?」
「外に回収車を用意させた。今ならまだ大丈夫」
後ろから二つの声がかかる。
「お前ら、か」
現れたのは。
キラープリンス叶夜。
そして目玉こと眼球アルバムの二人。
そう、この二人が私の協力者。
色々話したいことはあるが。
それをさらなる影が邪魔をする。
「切り裂きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
途轍もない狂気を全身から発して身をさらしたのは。
第二関節から利き腕を無くした。
ヴィセライーター。
ここまで追いかけてきたか。
[後でじっくり殺すためにとりあえず必要な腕だけ取ったのが仇になったねぇ]
姉御はそういうが、逃げられないようしっかり幽閉してきたはずなのになぜここにいる。
「あぁ、おばさんは僕達が逃がしたんだよ」
「そうそう、この人はアタシ達の獲物でもあるから」
二人の発言に一番驚いていたのは、当のヴィセライーターであった。
「あんた達、どう言うことなの~? 私を助けてここまで一緒に付いてきた訳じゃないのかしらぁ~???」
ヴィセライーラーは単純にこいつらが自分を助けたと思っている。
「冗談、僕達は一度あんたに殺されかけた」
「そう、それにお前はシストくんにとってもう害でしかない」
二人はヴァセライーターに向かって構えた。
「あぁ、あぁ、そうなのね、いいわ、じゃあ、殺してあげる、お前らも一緒に殺してあげるわぁああああああああああああああああ」
ヴァセライーターの両目が見開く。
全てを呑み込むような禍々しいオーラ。
だが、誰も怯まない。
思えば、あれは随分昔の事。
私がちゃんリョナさんの先輩一派に捕まった時。
一緒に捕まっていたのは。
沙凶とかいう元拷問士。
そして、叶夜と目玉だった。
沙凶は早々にあの元特級拷問士によってあらゆる苦痛を与えられ絶命。
拷問相手が眼球アルバムに変わり、片目を抉られた場面で姉御達が助けにきた。
姉御がうまく纏めたかに見えたが。
この一言で状況は一変する。
「ねぇ、この子達とても美味しそうねぇ、間に合わなかったって事で食べちゃおうかしらぁ」
椅子に縛られた極上の獲物達。
ヴァセライーターにとってここにいる者達はそれほど助ける義理もなく。
むしろ欲望が勝った。
姉御にとって私以外は全員敵。
ヴァセライーター以上にどうでもいい存在。
だが、そこは姉御だ。
ヴァセライーターから守ることにより一つの借り、そして契約を取り付けた。
白頭巾も契約内容こそ違えど基本は同じ。
こうして姉御は他の勢力とのパイプを持った。
それもこれも最終的には。
愛する妹。
私のために、だ。
◇
気迫こそ均衡していたが。
叶夜の蹴りが脳を大きく揺さぶる。
眼球アルバムの千枚通しが相手の眼球へ綺麗に差し込まれ。
私のナイフが心臓を貫く。
そのまま力いっぱい上へと引き上げる。
裂かれる上半身。
胸を上がり、喉を上がり、顎で一旦止まるが。
さらにありったけの力を込める。
顔が半分に別れていく。
三人がかりでは流石のヴァセライーターも為す術もなく地に伏せた。
だが、本番はここから。
「・・・・・・さて、もう借りは充分返した」
「うん、ここからは殺人鬼連合としてのアタシ達に戻ろうか」
今まで影ながら私を守っていてくれた二人が私と向き合う。
私は馬鹿だから。
ついこの間まで全然気付かなかった。
種が代わりにこの二人と繋がってくれていたの、か。
少し考えれば分かったかもしれない。
目玉はキラキラの命令の前に私を助けてくれた。
叶夜もいつくかの場面で私達を何度も見逃してくれた。
それもこれも姉御のお陰。
「円ちゃんが一人前になるまで力になってあげて」
そうか、ここで漸く二人に認められたのか。
ナイフを取り出す。
「感謝する。今まで世話になったの、だ」
◇
人形は取り戻した。
後はその偽りの瞳をすり替えるだけ。
ちゃんリョナさんの目、か。
以前、種が単独で奪おうとしたが。
とても強い気配が漂っていたと。
それは思うに。
下見のはずだったが。
やはり警戒されていた。
「まず、一人」
全員では現れまい。
必ず奴の周囲に援護が潜む。
ちゃんリョナさんの住まいの近く。
黒髪1、金髪4。
一見全メンバー揃っているように見せかけてはいるが。
この二年で変化したのはこちらだけではない。
ミドガルドシュランゲ。
知っているぞ。
五人の前に姿をさらす。
「・・・・・・よもやこのような形で悲願を叶えるとはな」
中央、黒髪。
ミドガルドシュランゲのリーダー、ゾフィアベーゼ。
以前にも増した風格を漂わせておる。
「・・・・・・今のうちに言っておくが援護は期待する、な。全部排除した」
私の一言にミドガルドシュランゲのメンバー達の表情が変わった。
いや、一人だけ平常心。
「・・・・・・そうか。なら小細工は無しだ」
それが合図だったのか。
誰から動いたのか。
その場全員の膠着を一斉に解いた。
銃を取りだそうとするミドガルドシュランゲのメンバー。
その前に。
私に二本のナイフが飛ぶ。
ゾフィアの隣、額に刺さる。
4。
ナイフを追うように駆ける。
もう一本はゾフィアを狙ったが。
流石に躱された。
その間、私は五人の前に。
ゾフィアの正面。
ナイフを額に突き刺したままのメンバーはまだ斜めに傾き始めた所。
すでに取り出していた新たなナイフがゾフィアの顔目掛けて下から振り上げる。
しかしゾフィアの銃口が私の顔へ。
火花、反転、銃弾を避けナイフの軌道は下から横へ。
ゾフィアが倒れかけていた仲間を掴み影に隠れる。
ナイフの切っ先はそれに遮られる。
他の三人も攻撃態勢に入っていた。
だが、このほぼ密着状態、銃での攻撃は躊躇われる。
その隙が命取り。
ゾフィアの攻撃を瞬間的に中断。
しゃがむ、足を払い、別の相手のバランスを崩した。
そのまま重力に引き寄せられる体にナイフを一突き。
3。
逆側、もう一人は構わず銃を放とうとする。
それをナイフで刺した女を掴み盾とすると背中を蹴りそちらへと押し出す。
視界を塞ぎ、上半身から倒れ込む女。
そのタイミングとほぼ同時にナイフを飛ばした。
見えた先は私ではなくナイフの先端。
ゾフィアはそれでも回避。
銃を構えていた後ろの仲間は避けきれず喉に深く食い込んだ。
2。
滑り込む。
またナイフを追うように今度は下から攻める。
ゾフィアの膝目掛けて低い体勢で蹴りを放つも。
「ちぃっ!」
ブーツの裏で防がれた。
それでもゾフィアをその場から退かす事はできた。
両腕を地面に、蹴りの反動を利用して体を一回転。
体は宙に、足先は相手の頭上。
斧を振り下ろしたような浴びせ蹴りを相手の後頭部に直撃させた。
攻撃はまだ止まらない、回転はやまない。
相手が倒れ、崩れ、地面にその身をつける前に。
さらにもう一撃。
左の足で後頭部を、今度は右の膝が顔面を捉えた。
首が弓のようにしなった。
1。
その最中でも。
ゾフィアの銃が私を狙う。
今の体勢から強烈な飛び跳ねで後方へ。
私がコンマ数秒前までいた場所に銃弾が弾いた。
やはりこいつが最後まで残った。
最初からここまでこいつを狙い続けていたのに、だ。
確実に数年前より成長している。
だが、それはこちらも同じ。
以前のダイアグラムなら、7.3で私の性能が劣っていただろう。
今ならどうだ。
それを決めるのは。
秘めていた力の差。
ゾフィアが肩にかけていた軍服を投げ捨てた。
銃を捨てこちらに急接近。
あえて距離を取らずに近距離戦に持ち込んだか。
お前も結局姉御に心を捕らわれたのだ。
見えない亡霊を追って。
行き場のない悲しみを背負って。
まるでそれは。
ゾフィアの鋭い蹴り、突き、流れるようなコンビネーション。
避けられなかった。
全てくらっていたそれらが。
今はよく見える。
反応出来なかった。
読めなかった次の行動。
今はよく分かる。
全く同じ動作でそれを相手に返す。
違うのはスピード。
私の蹴り、突きがゾフィアの体を叩く。
重さを速さでカバーして。
最後に太股から抜き出す二本のナイフ。
高速で交差させゾフィアの体に線を描いた。
0。
「その死は無駄では、ない。今の私の力が量れた」
ミドガルドシュランゲ、ゾフィアベーゼ。
まれに見る高い戦闘技術を持った相手だったが。
それでも、やはり霞む。
あの二人は今、どれほどになってる。
ダイアグラムでいえば9.1。
絶対負ける相手。
ミドガルドシュランゲ無き今。
すぐに出てくる。
とても近く。
感じるの、だ。
懐かしくも。
ただただ圧倒的までの存在感。
M-1のミルクボーイめちゃくちゃ面白かった。




