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ういうい、なんとしても生き残るの、だ(人形争奪戦 其の漆)

ういうい、円、だ。


 種の言葉を受け、考えるよりも先に。


 私は叫んでいた。


「撤退っ! 皆バラバラに逃げるの、だっ!」


 あれが何なのか、そんなことはどうでもいい。


 血色との戦いでこちらのダメージはかなりでかい。


 このままあれと戦えば全滅する。


 全方位に発せられる殺気、そして狂気。


 他とは違う、色々混じった未知なる者。


 ここは私が殿になり皆を逃がす。


 なの、に。


「て、撤退、なの、だっ! なにをしてるの、だっ!?」


 誰も動かない。


「いやいや、あれ一人なら私だけで充分」


「いいえ、私が残りますので、他の皆さんはお先にどうぞ」


 螺苛と刺苛はやる気充分。


「あ、ああ、あああ」


「な、なんです、あれ」


 揚羽と蚕は足が竦んでいる。


「あれは私が残るしかない。だから他は円ちゃんを護りながら逃げて」


 種が構えた。


 全員の思考が別々に動いた。


 螺苛と刺苛は相手の脅威を感じ取れてない。

 だから、痩せ干せたただの女と思っている。


 逆に揚羽と蚕は感じ取れたせいで動けない。

 ここがこれまでの生き様の差。


 そして種だけは相手の狂気をまともに受けても耐えている。


 とにかくこのロスは致命的であった。


「ぎゃあああああああああああああああああああ」


 女が動いて。


「あ、揚羽っ!?」


 揚羽の喉元に噛みつく。


 あっという間の出来事。


 種が即座にハサミで攻撃。


 私もナイフを向けていた。


 が。


 体が蜃気楼のように揺らめいて。


 相手は後方へ。


「き、貴様っ!」


 下がった相手目掛けて螺苛が突進。


 両手で掴みに掛かる。


 相手も同じように両腕を広げ。


 互いに組み合いになった。


 指と指が絡みあう。


 体格は螺苛の方が圧倒的にでかい。


 力比べなら螺苛が有利なのだが。


 ロックアップになる直前。


「ああぎゃあああああああああああ」


 螺苛の指が折れ曲がる。


「あひゃあっぴゃっ!」


 さらに追い打ち突き上げるように頭突き。


 螺苛の顔面から血が飛び散る。


「こいつっ!」


 刺苛のジャブ、左右からのハイキック。


 相手はその全てを完璧なタイミングで頭突きで合わせた。


 そのまま懐に飛びこみ、刺苛の腕を掴む。


 そして。


「ひぎゃあああああああああああああああ」


 めり込む。


 相手の握りしめた手が刺苛の腕を万力のように潰した。


「あああああ、あああ」


 刺苛をそのまま後ろに吹き払うように飛ばすと。


 今度は目の前で棒立ちの蚕の髪を掴んだ。


「あっぴゃぴゃっ!」


 顔を引き寄せ、耳に噛みつく。


「いやぎゃあああああ」


 引き千切る。


「くっ! いい加減にっ!」


 種が両手に握ったハサミで突き刺しに行く。


 しかし、それもがっちり掴まれ塞がれる。


 相手はハサミを両手で掴んだままブリッチ。


 種は背中から地面へと叩き付けられた。


「あぴゃぴゃおっぴゃぴゃ」


 凄い勢いで反っていた上半身が定位置に戻る。


 視線が私と交わる。


「ぺっぺっ」


 血だらけの口元から赤い何かが吐き出される。


「私は糞長女とは違う。こんなの喰わない」


 揚羽の喉元の肉と、蚕の耳。


「お前、一体、何者、だ・・・・・・」


 殺人鬼連合の隠し玉か。


 いや、こいつは、仲間とかそういう感じではない。


 ただ、本能のまま暴れるだけの獣。


 戦うしかないのか。


 すでに相当な時間が過ぎている。


 ここにはこちら側の主力がほぼ揃っている。


 あのキラキラがこいつだけ送り込んだとは思えない。


 より、確実に仕留めるための要員が。


「お、まだいた」


「それは良かったです」


 後方、新たなる人影。


 あれは。


 一方は白と黒半分ずつの髪。


 もう一方は黄色と青半分ずつの髪。


 殺人鬼連合、キラープリンス叶夜。


 ゾディアックファミリー、殺戮のベアトリス。


 最悪なの、だ。


 どちらも各所属の最高戦力。


 キラキラはここで確実に私達を殲滅する気だ。


 今、まともに動ける仲間はいない。


 私もこいつら相手では時間稼ぎすらできない。


 どうする、どれが最適解か。


 姉御ならすでに逃げているだろう。


 瑞雀を倒した時点で時間も聞かずに仲間を置いてこの場から去っていたか。


 5分経った時点で戦闘を放棄していたか。


 いづれにせよ、確実に生き残る選択を取る。    


どれほど考えても答えはでない。


 詰んだ状態ではこの先のルートは全てデッドエンド。


「皆、お願いだ、なんとか、ここから逃げて、くれ」


 雲美が逃走ルートをいくつか確保してくれている。


 全員がバラバラに逃げれば一人くらいは生き残れるかもしれない。


「逆だよ。王が残ればまた立て直せる。だから逃げるのは円ちゃん一人だけ」


 種がよれよれにながらも立ち上がる。


「お前らぁあああああああああああああああ、よく聞けぇええええええええ、うちの王に指一本触れさせるなぁあああああああああああっ!! 私達はここで死ぬ。でも喜べぇえ、旅立った先には姉様が待っているだろうっ! きっと私達を褒めてくれるっ!」


 種が吠えた。


 全員が私の前に立つ。


「そういうわけだから。円ちゃんは逃げて」


 振り返り種が微笑む。


「そ、そんな、こと、できる、はずが」


 分かってる、のだ。


 ここで私が残っても結果は一緒。


 種の選択が一番現実的。


 こうなった以上、生き残れる可能性は私が一番高い。


 でも、足は動かない。


「何してるっ!? 早くっ! 早く行ってっ!」


 こうしてる間にも叶夜とベアトリスが近づいてきている。


 逃げるならこのタイミングしかない。


 何故か、骨皮女は先ほどから叶夜とベアトリスの方を向いているし。


「・・・・・・お前ら、なんだ?」


 ここで骨皮女が妙な事を口走った。


「え、仲間だよ」


叶夜が当然そう答える。

 そう、こいつらは同じ殺人鬼連合側の者のはず。


 なのに、骨皮女は予想外の行動に出た。


「そうか、お前ら、こいつらの仲間か」


 言い放つやいなや、骨皮女は叶夜達の方に向かって飛び出す。


「え、ちょっとっ!」


「なんですか、理解不明!?」


 一体どういう事なの、だ。


 いやいや、これがチャンスなの、だ。


 なんだか知らんが同士討ちしてくれている。



 向かってきた骨皮の女の攻撃を叶夜は軽く躱す。


 ベアトリスが横から切り込む。


 それを骨皮女が指で摘まんで止める。


 叶夜の蹴り、骨皮女は先ほどと同様に頭で相殺。


 押さえつけているベアトリスの刀身を引き寄せ噛みつこうとするがベアトリスもうまく避ける。


 凄まじい攻防が続いているのだ。


 正直、このまま見ていたいとさえ思える。


 だが、そんな訳にもいかない。


「種っ! この隙に今度こそ逃げる、ぞっ! 全員で、だっ!」


「よしっ! 皆、散れっ!」


 種の号令の元、満身創痍の私達は命辛々この場から逃げ出したの、だ。



 

 なんとか拠点に戻ってこれた。


 先についたのは、私、次いで種。


 他の四人はまだだがすでに迎えを出しておる。


 しかし、帰ってきたとはいえ仲間達のダメージは大きい。


 血色との戦闘、加えて謎の女からの攻撃。


「一体、あの女、何者だったの、だ」


 まるでバーサーカー。


 理性を限りなくゼロにしたキラキラの母ちゃんのような。


「・・・・・・もしかして、シストくんの一族かも。あそこはヴァセライーター以外はノーマークだし。そうだったらさらに状況が悪くなる。ヴァセライーターは三姉妹。ならもう一人いる」


せっかく血色を無効化したというのに。


 あんなのがまだ三人残っている、というの、か。


 

  ◇


高き場所から下を覗きこむ。


「なるほど、なるほど。ちゃんと尾行にも対応済みってわけね」


 あの場にいたがわざと逃がした。



 切り裂き、シードはうまくまかれたが。


 一番手負いのこいつは捉えたまま。


 愚妹に喉を噛みきられよたよたと歩いている。


 こいつは見捨てられたか。


 それとも自ら囮をかって出たか。


「どうせ吐かない、どうせ戻らない。なら・・・・・・」


 姉は食べる事しか考えない。


 妹は殺す事しか考えない。


 私は違う。


 苦しませて生かして、苦しませて生かして。


 涎を垂らす口元が好き。


 浮き出る血管が好き。


 真っ赤に色づく顔が好き。


「いっぱい楽しんじゃお」

 話進まない。多分次から展開早くします。

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― 新着の感想 ―
[一言] トリム伯母さんやはりヤバかった。いや既にヤバイのは分かっていましたけど。しかもあだ名は骨皮女だし。 初手に喉元喰らうとは。やはり三姉妹、インパクトがデカすぎる。瑞雀ちゃんとの戦闘で満身創痍だ…
[一言] 今週もありがとうございます。 まさかの同士討ちに驚きました。 それでもシスターズに犠牲が出ちゃいましたか。 冒頭から緊迫した状況だったのでどうなるかと思っていましたが、なんとか全滅は免れた…
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