ういうい、やはりこいつは化け物なの、だ。(人形争奪戦 其の禄)
ういうい、円なの、だ。
それは殺人鬼連合と本格的にぶつかる数日前。
拠点で大型モニターと睨めっこ。
戦闘要員全員がその画面に釘付けなの、だ。
「これが、血色こと瑞雀、だ」
以前、蛇師匠との戦闘を録画したものを映しておる。
「・・・・・・なんだ、今の動き」
「どっちも化け物ですね・・・・・・」
目を疑う光景。
なまじ色々経験している分、二人の実力がよく分かる。
「しかもこれで数年前、だ。なの、で、今はこれ以上のはず」
蛇師匠がそうなの、だ。
日々休まず精進している。
「この時点で勝てる気がしねぇ」
「これを相手にしなきゃならないんですか・・・・・・」
そう、殺人鬼連合と殺りあうならこいつは必ず私達の前に立ちはだかる。
それがどのタイミングかはまだ分からん、が。
◇
その血色が私達の前におる。
「五分、だっ。 五分で倒す、じゃなきゃ、キラキラが即座に動く、ぞっ!」
私達に与えられた時間は五分なの、だ。
この好機は、キラキラの油断ではない。
瑞雀に対して絶大な信頼を置いている証。
時間をかければ逆に不利な状況になる。
これは賭けなの、だ。
ここで血色を無力化できればその後相当有利になる。
しかし、しくじれば全滅するという諸刃の作戦。
それくらいやらなければ殺人鬼連合には勝てない。
「いくぞっ! 血色っ! 私を蛇師匠と思って相手するの、だっ!」
最初からフルスロットル。
飛び込む。
周り込むように、螺苛と刺苛も左右に散る。
血色の瞳が上下左右に細かく動いた。
刺苛の素早いジャブ、軽く首を振るように躱され。
螺苛は掴もうとするが、それも背を逸らされ外される。
私の両手のナイフ、斜め、横薙ぎ、高速の切り込み、持ち手をころころ変える、逆手、順手、背を縮め、腹、足、顔、喉、その全てが空を切った。
刺苛の撓る腕、足、反転しての肘、そこに手応えはなく。
螺苛は必死に掴みに掛かるが握った手の中は空気のみ。
残像というのは本当にあるのか、と。
確かにあるはずの、存在しているはずの体が攻撃の瞬間にはすでに消えている。
血色の強さを改めて再認識する。
それと同時に蛇師匠の凄さも体感。
血色は開戦からここまで位置を変えていない。
つまり、私達は血色を初期位置から動かせてすらいない。
血色が私達の攻撃を回避しながら。
攻撃に転じた。
左右の手には銃が。
「グロックっ! 気をつけるの、だっ!」
二丁拳銃、本来現実的ではない使用方法。
大抵の銃は右利き用。命中率は当然下がり、リロードも不可。
しかし、それをするのが血色の場合、その常識も覆される。
螺苛がすでに攻撃の体勢に入っていた。
それを狙っての完璧なタイミングによるカウンター。
刺苛がそれに反応、その螺苛を狙い撃つ銃を持つ腕に上からの肘打ち。
だが、それすら血色には予定調和、もう片方の銃口は刺苛の顔に向いていた。
滑り込む。
三人の体をすり抜けるように私は地を這い、血色の真下へ。
両手はそのまま地面、足だけを天に伸ばした。
股を広げ、両足で血色の腕を下から突き上げる。
その刹那、銃声が2発、轟く。
間一髪、血色の銃弾は二人を避けた。
グロック17。
装填数は複列弾倉で18発。
残り、両方で34発。
勿論、私達はそれに供えての装備はしてきている。
しかし、それは血色も予見している。
だから、狙うのは確実に致命傷になり得る箇所。
つまり、あと34回の死の可能性。
それを全て回避し、そして相手を行動不能に追い込まなければならない。
頭が痛くなるの、だ。
そんな事が脳裏に過ぎった。
本当ならそんな事を考える余裕など無かったの、だ。
私の腹部に激しい痛み。
血色の銃撃を外せた代償。
私の蹴りによる反動すら利用した血色の膝蹴り。
私はそれにより数メートルも吹っ飛んだ。
「た、種っ!」
地面を倒れながらも叫んだ。
先ほどの経験通り、血色には二人がかりでは即座に落とされる。
つねに三人がかりで攻撃し続けなければ誰かに隙ができる。
こうして戦闘に穴が開けば、間髪入れずに補充する。
多すぎると逆に邪魔になる。
三人がかりが基本だが、実際にはここにいる葵シスターズ全員が相手なの、だ。
蚕が刺苛の。
揚羽は螺苛の。
それぞれスイッチ要員。
そして、私の代わりが。
「はいは~い」
ハサミが空気を切り裂きながら血色に襲いかかる。
種の足下にはハサミが腹部に突き刺さり血を流しながら倒れる殺人鬼連合の二人。
そっちはすでに勝負は決したようなもの。
なら、ここからは6人なの、だ。
どうしても銃に気をとられる。
すると、血色の足技が容赦なく打ち込まれる。
螺苛の腹に、一撃、いや二撃、いやいや三撃、短い間隔、狭い箇所に三回鈍い音。
私も瞬時に戦線復帰。
相手のチャンスを潰すように、ナイフを振り続ける。
避けながらも血色は刺苛に銃弾を浴びせる。
標準がぶれるお陰か、弾丸は刺苛の体は貫かない。
それでも私の方に顔は一切向けていない。
「・・・・・・人間、か。こいつ」
これだけ同時に攻撃を仕掛けているのに顔色一つ変えていない。
螺苛の顔面に高く上がった血色のつま先が通り過ぎる。
「スイッチっっ!!」
螺苛が後ろに押し出されると、横から揚羽が割り込む。
血色の肘、腕を伸ばして銃撃、腕を降ろしてまた肘、今度は手の甲。
全ては躱し切れない、刺苛は最後の甲を受けて体を大きく横へ逸らした。
「スイッチっっ!」
斜め下から待機していた蚕が入れ替わる。
囲むようにそれぞれ攻撃の手は緩めない。
其のかいがあったか、ついに血色の銃弾が底をついた。
残りの段数はこの混戦の中でも把握していたのか、両手の銃を後ろに投げ捨てると今度は腰から二本のナイフを取り出し。
「こなくそっ!」
私との斬り合いに発展。
火花と甲高い音が周囲に響く。
高速の攻防。
私の最も得意な攻撃手段、それでも相手の方が上をゆく。
上から抑えつけられ、私の二本のナイフが相手のナイフに地面へと引きつけられる。
体も同様に下がる。
当然顔も下がる。
そこに待ち受けていたのは、血色の膝だった。
「っがっ!」
また強制退場。
名を叫ぶ余裕などない。
だが、そこに心配もない。
開いたスペースに種が入った。
両手のハサミが血色のナイフを封じる。
後ろに吹っ飛びながら意識が飛びそうになる。
やはり血色は別格、だ。
今の私では到底敵わない。
一瞬諦めかけた。
能力で劣っているのにさらに心でも。
そういえば。
何故か過去の映像が目に映る。
こんな事が前にも・・・・・・。
怖かった。
足が竦んだ。
どう足掻いても勝てないと思った。
それはマーダーブリゲードの。
アリア・アクアマリン。
とてつもない狂気。
それを当てられ体は石のように固まって。
でも、そうだ。そうなの、だ。
それでも私は勝った、の、だ。
何故、だ。
あの絶望的な状況で。
後ろには姉御がいて。
私の背中をそっと押してくれた。
「さぁ、行っておいで。円ちゃんならできるよ」
って。
想像しろと姉御は言った。
今が駄目なら未来の自分を。
蛇師匠よりも、この場にいる血色よりも。
「円はいずれ私を越える」
そう、蛇師匠も言ってくれた。
なら。
二人の影が私の背中を左右から押さえてくれた気がした。
上半身は反りながらも足はしっかり地面につけ踏ん張る。
滑りながらもなんとか体勢を整えた。
想像するの、だ。
数年後の自分を。
蛇師匠に与えられたメニューは毎日こなしている。
支えてくれていた二人の腕に力がこもる。
そして、今度は押し出す。
行ってこいと。
倒してこいと。
私ならできる、と。
踏み込む。
体がぶれる。
うまく制御できない。
だが、確実にいつもより早い。
リミット、何層もの限界を超えた。
そう実感した。
四方八方絶え間なく動いていた血色の瞳が。
こちらに向かれ固定された。
より脅威な者へと。
振り分けられていた配分が。
この瞬間、私に全て移った。
「っ別人っ!?」
血色の左右から挟み込むような二刀の斬撃。
私の首は真っ二つ。
血は噴水のように吹き上がり。
無残に首は地面を転がる。
しかしそれはほんの数秒前の私だったなら、なら、だ。
屈んだ私。
掴むナイフは両方とも血色の太股に突き刺さっていた。
これを逃す他のメンバーではない。
刺苛の連撃、顔面、ボディ、綺麗に入った。
同時に種のハサミが両肩へ。
最後に螺苛が掴むと血色の体を高く持ち上げる。
そして、地面へと頭から叩き付ける。
「種っ! 時間はっ!?」
血色は動かない。
勝利の喜び、止めを差すとかの考えは二の次。
今は更なる脅威に備えるのが先決。
「・・・・・・13分43秒」
予定の五分はとうに過ぎていた。
今のでもう体はとんでもない疲労感に襲われている。膝が笑い、立っているのもやっと。
それは他のメンバーも似たようなもので。
交代でなんとか凌いでいたが、ダメージは蓄積されている。
ここで新手が来たらもう対処できない。
それなのに。
体に雷が落ちた。
振り向かなくても分かる。
やばいのがいる。
「ババア、糞姉は嫌い。でも甥っ子と姪っ子は可愛い。今すぐ殺したいほど」
殺人鬼連合でこれほどの狂気を出せるやつはいたか。
見たくはないが、確認せざる、えまい。
長い髪、顔を完全に覆う。
骨しかないような腕、足。
「円ちゃん・・・・・・今すぐ撤退するよ。それでも・・・・・・」
種の声がいつもと違う。
「何人かはここで死ぬ」




