ういうい、こいつも私と同じなの、だ。(殺人鬼決定戦其の三)
種ちゃんは凄いね。
種ちゃんは偉いね。
あぁ、姉様。
その言葉は上辺だけで、決して本心ではないのは知っていた。
可愛いねと頭を撫でてくれて。
いい子だねって髪に指を絡ませて。
ギュって、ギュって、抱きしめてくれるの。
でも姉様は嘘つきだから。
本当は、私の事なんてなんとも思ってない。
そんなのは最初から知っていた。
私はよく出来た人形。
姉様の都合で動くだけの。
私がどんなに気持ちを送っても、姉様には届かない。
行き場を無くした私の全ては、どこか遠くへ。
それでも、姉様だけが認めてくれる。
こんな私を。
偉いねって、凄いねって、よく出来たねって。
偽りの微笑みで、私を見てくれるの。
偽りの温もりで私を包んでくれるの。
一度でも、僅かでも期待に応えられなかったら。
私は捨てられる。いらないって。代わりはいっぱいいるから。
死んでって言われたら死ねるよ。
姉様の前で、笑顔で首を切ろう。
姉様の前で喜んで、腹を捌こう。
私は姉様の言う事ならなんでも聞くの。
だけど、だけどね。
姉様は本当に酷い人。
私にあの子の面倒を見てって言った。
何回も殺したいほど憎く。
目に映すたび嫉妬に狂う。
ただ一人。
この世でたった一人。
姉様の寵愛を受けた、あの子を。
どんなに尽くしても、どんなに愛しても、途切れる道を歩き続けて。
貴方は私を愛してはくれないけれど。
私は貴方を愛してやみません。
嘘つきな部分も、冷たいところも、なにもかも。
私の心はずっと貴方のもの。
ういうい、円なのだ。
私達の前に出てきたのは、ゾディアックファミリーの一人。
しかし、ただの下っ端ではなさそう、だ。
「ど~れに、しよ~かな~、ど~れに、しちゃお~かな~」
青と黄色の外套がそのままに、眼球だけがグルグル動く。
視線は糸。
綿飴のようにそれは体に巻き付いていく。
纏わり付く糸を引き剥がすように種が一歩進んだ。
お、やる気、か。
でも、こいつは今までの雑魚とは明らかに違う。
私達三人を前にしてなおも獲物と捉えている。
姉御の身体能力は決して高い方ではなかった。
それを補っていたのが、葵シスターズの実行役。
種は、姉御に認められて荒事を担当していたの、だ。
その実力は未知数。しかし、これで、ある程度は・・・・・・。
「ねぇ、貴方、ボスはその子を殺せって言ってたよ、貴方達にとってその子が最優先じゃないのかな?」
種がそんな事を言い出した。
それにより、牛刀女のギュルギュル回転していた黒い部分がこちらでピタリと止まった。
「おー、そうだ、そうだった、そうだ、そうだ、ボスはそう、お前は嘘つきと・・・・・・」
種が二歩下がる。
色々思う事もあるが。
ここで余計な思考は死に直結。
相手は、私に標準を合わせたの、だ。
それにより瞬時に攻撃が開始される。
だが、それはこちらも同じ事。
「しゃぁっ!」
牛刀の光。詰められた私とあいつの距離。
光は首があった場所、目掛けてすり抜けていく。
判断が遅れていれば、私の首は胴体とさよならバイバイ。
しゃがみ、かわし、ナイフはもう手の中、握ったまま手首だけで体を半回転、ついでに左足で顔面目掛けての蹴り。
「消え、速っ」
牛刀は空を切る、私の蹴りは相手の顔に。
「でも間に合う」
言葉通り、左手にも刃物。抜き出し盾に。
攻防一体、このまま打ち抜けば、今度は私の足首がさよならバイバイ。
緊急停止、私のつま先はピンと直角に。
蛇師匠なら今ので終わり、目で追えないスピードの蹴りは相手を容易に吹っ飛ばしていただろう。
私は逆立ち状態、両手は地面に、その接触していた両腕に力を込める。
血が一気に集まり、力いっぱい体を逆回転。
今度は逆の足で頭を狙うが。
「速っ、でも」
左手の牛刀を逆手に持ち替えて、またも盾に。
「間に合う」
またも防がれる。
否。
次は構わず、そのまま蹴りつける。
角度は変えた、つま先が当たるように。
私の靴には鉄が仕込んである。
これにより軽い攻撃も幾分マシに。
最初に止めたのは、あっちの反応が予想以上に早かったから。
あのままではクリーンヒットとはいかない。
だから、見送り。
それは結果、次のフェイントとなり、今度の攻撃は私の方が。
「っ!? んガアああぁああっ!」
牛刀を弾き、そのガラ空きの頬へ。
抉るように私の靴先がめり込んだ。
押し飛ばされる牛刀女の体。
床を削るように滑り込んだ。
追い打ち。
攻撃の勢いを利用して側転。
空中から握るナイフを振り下ろす。
これで終わり。
一夜の逢瀬のよう、深く絡んだ愛情。
でも、引き留める。
牛刀女は、両手の刃物をクロスさせ、私のナイフを倒れながらも受け止めた。
「あぁ~、やっぱお前、嘘つきだー」
じっと見つめ合う。
力の限り、ナイフを押し込むも。
震えるのは互いの体。これ以上進みはしない。
「いけー、いけー」「おしいなー」
奥の二人はただニヤニヤ見てるだけ。
全く加勢しようという気はない。
鍔迫り合いのような状態が続く。
押し込んでも押し込んでもナイフは先に行きたがらない。
それどころか。
「ぐっ・・・・・・」
相手が押し戻してくる。
やばい、のだ。
互いの切っ先は絶妙な位置で押し留まってる。
これが、外れると。
良くて相打ち。悪くて、私の首が飛ぶ。
「円ちゃん、大丈夫? このままじゃ死んじゃうよ。首がピューって、首がチョッパーって、首がねー、本当はついてるはずの付いてなきゃいけない首があ」
本当に嬉しそうに見てるの、だ。
どうする、助けを求めれば、こいつは動くか。
「ぐうぐ・・・・・・・・・」
いや、相手は隙だらけで、助ける気があるならとっくにやってる。
叶夜は・・・・・・。あぁ、もう早々にスマホ弄りだしてこっちを見てないの、だ。
さぁ、どうする。どうすればいい。
〈円ちゃん、なんでこの場に種ちゃんがいるか考えてみて〉
ここで幻想の姉御が声をかけてくれた。
これは、私への助け船。
種がいる理由。
それは姉御が私を生かすために・・・・・・。
種は葵シスターズの一人で。
なら、こいつが動いているのは姉御が命じたから。
こいつが動く理由は一つ。
姉御のため。
なら、こいつも私と同じ。
「・・・・・・うくく、なんだ、お前、本当に姉御のシスターズなの、か。全然、役に立たない、の。だ・・・・・・」
言った先で、ついに、支点が狂う。
均衡していた力が。
ふっと何もなかったかのように。
崩れた。
「っっ!」
左右から襲い来る刃物からどうにか逃げようと、首を傾げるが。
「・・・・・・・・・ん??」
変な声を出したのは牛刀女。
刃物同士の押し合いが止まったのは、ズレたからではなかった。
牛刀女の視線が自分の腕へ向かう。
そこには、手首から上がなく。
その上はどこか部屋の片隅に。
「あれ、おかしいぞ、なんで、私の手が、あれ・・・・・・」
状況を理解できてない牛刀女。
それはたしかな好機だった。
振り落とす。
きつく握ったナイフを牛刀女の胸元へ。
沈む切っ先。
「あっ、あっ、あ」
その後、何度も振り下ろす。
牛刀女は。
その最中、ずっと私を婀娜っぽい瞳で見つめながら。
「あっ、あぁ、ね、ねぇ、殺す、の? ああ、あぁ、あっ、殺しちゃう? ね、ね、あ、ああ、ねえっ、ああああぁ、あ、駄目、し、死んじゃう、ああ、だ、駄目ぇあえ」
最後に一際大きな声を出して、牛刀女は事切れた。
「はぁはぁはぁ」
息を切らせて立ち上がる。
「危なかったねー。私が助けてあげなかったら、円ちゃん死んでたかもだねー」
ニチャニチャ笑う種。
「なんとなく、お前の使い方が、分かってきたの、だ」
こいつは私と一緒だ。
姉御が絡むと、別のスイッチが入る。
「ん~? そうなの? でも一つ教えとくねー」
肌についたらこびり付く、そんな微笑みが変わる。
それはただただ憎悪に満ちた表情。
「私ね、円ちゃんが大嫌い」
今すぐ殺したいと、思いつく限りの悪態をつき、思いつく限りの苦痛を与え、何度も何度でも、と。
「そんなの最初から知ってるの、だ」
嫉み、辛み、苦しみ、悲しみ、数々の不の感情がごちゃごちゃにブレンドされたとても美しい顔。
「あー、終わった? なら、こっちもそろそろ動こうよ」
スマホに夢中だった叶夜の意識がこちらに戻って。
アンバランスな私たちはここで移動を開始する。
円達の移動が開始されてから数十分ほど先の出来事。
数ある部屋の一つ。
「知ってるぞ、お前、いくつも人格あるのだろう? なら、一番まともなのを出せ、さもなくばただただ蹂躙が行われるだけだぞ」
二つのグループが出会ってしまった。
青と黄色の外套が三つ。
ボスであるニルヴァーナを含むゾディアックファミリー。
もう一方は。
お揃いの軍服を羽織る三人の女達。
頭であるゾフィアベーゼを有するミドガルドシュランゲ。
「僕の目的は嘘つきの切り裂き円だけで、君達とはできればやりたくないんだよね」
「はっ、馬鹿め、それはこっちも同じだ。いづれ取り合いになるなら、仲間の少ない状態の今が一番よかろうよ」
ニルヴァーナとは対称に、ゾフィアはもう相手を敵だと認識していた。
「・・・・・・・・・じゃあ、一回だけ付き合おう。それで見逃して欲しいかな」
折れたニルヴァーナは、言葉を終えると体はそのまま魂が入れ替わる。
「・・・・・・はぁぁあああ、息苦しい、なんなんだ、胸くそわりぃったらねぇえ」
「・・・・・・名乗れ、私はミドガルドシュランゲのゾフィアベーゼ、お前の相手をしてやろう」
「あぁあ? 名前なんぞねぇ、あるのはただの識別、俺の場合はルークってつけられた」
「そうか、ならルーク。すぐにこい、今すぐにだ、次のドアが開く前に、終わらせねばなるまい」
それは円達が移動を開始してから数十分後の出来事。




