うん、そういう事でしたか。(対ゾディアックファミリー編其の七)
こんにちは、シストです。
今はそうですね、集結したゾディアックファミリーの方々を。
蛇苺さんが、千切っては投げのメッタメッタのギッタギッタにしている最中です。
ここまで来ると、もう誰も向かって行きません。
だって、何人でかかろうが、すぐに全員地面に叩き付けられるから。
皆、うぐぐと奥歯を噛みしめ二の足を踏んでおります。
「おーおー、どうした~? 来ないなら、こっちから行くぞー」
蛇苺さんが腕をグルグル回しながら近づきます。
それにより、ゾディアックファミリーの面々がジリジリと後ろに下がる。
だけど、一人だけ前に進む者が。
「この、腰抜け共が・・・・・・退きなさい」
ビショップ。
大規模殺人集団ゾディアックファミリーの大幹部。
しかし、存在感こそあるものの、身体は華奢でどう見ても強そうには見えない。
「ん~、なんだい、君が相手してくれるのかな? 私には分かるよ、君は狂ってはいるけど全然強くはない」
僕が抱いた印象、それは蛇苺さんも同じだったようで。
特に警戒する様子はない。
「そうね、私じゃ無理かな、私は可愛いものが好きで、料理やお裁縫は得意だけれども、そういう荒事には向いてないの、だから・・・・・・」
ビショップが俯く。
そして、今つけているマスクを脱ぐ。
顔は見えない、そして、また別のマスクを。
今度の縫い糸は蛍光色の青。
被り物を変えた瞬間。
僕は目を疑った。
その場にいたはずの女性が消えた。
正確には入れ替わった。
体型は同じ、だけど他は・・・・・・。
「・・・・・・はぁー、できればこのままお楽しみまで休んでいたかった」
まず発せられた声が違う、とても渋い低音。
さっきまで女性らしい仕草をしていた身体は。
一気に荒々しく。
そして、顔を上げた途端。
蛇苺に向かって飛び出した。
その動きはとても俊敏。
瞬時に二人の距離が縮まり。
「がぁああああああああああああああああああああ」
獣のような雄叫びをあげ、蛇苺に掴みかかる。
一瞬の油断か。
簡単に腕を取られ、次の瞬間には蛇苺の身体が宙に浮いていた。
変則的な背負い投げ、勢いはそのまま蛇苺は背中から地面に強く叩き付けられる。
はずだったが。
「おっと、危なーい」
凄まじい音、蛇苺は両膝を曲げ足でしっかり地面を捉えてそれを凌いだ。
ブリッジをしているような形、しかし地についていた両足はすでに離れた。
今度は逆に、蛇苺の膝が相手の顔面目掛けて・・・・・・。
いや、当たらない。
直撃の瞬間、掴んでいた手を離し、後ろへと避けた。
蛇苺はそのまま着地、体勢を整えるも、身体はしっかり相手の正面に向けていた。
「・・・・・・なんだお前、普通なら今ので終わってる」
「いやいや、それこっちのセリフ。でも、さぁ、どうなってんの、君、さっきとまるで別人じゃん」
そう、まるで別物。イリュージョンかなにかで人が入れ替わったと思えるほど、この何かは先ほどのビショップとはかけ離れている。
蛇苺も油断などしていなかった、ただ余裕があっただけ。なにが起ころうが対処できるという自信があるから。
「・・・・・・俺はルーク。他に危険が及ぶとこうやって呼び出される」
呼び出されるか。
てことは、大幹部チェスは元々・・・・・・。
「潜った先の先、椅子が6つ。テレビのリモコンみたいなものだ。それを持ってるのはキングだけ、つまりキングの裁量で俺らは表に出られる」
なるほど、キングという人格が統括し、他を支配する多重人格。
なかなかゾディアックファミリーのトップ構造が把握しづらかったのはこのせいか。
それぞれの人格によって性格や得意分野は異なるだろう。
クイーンのチェスが得意というのもその一つ。
他の人格ができない楽器による演奏や、絵の心得など、知識によってバラバラ。
ここで、少しだけメイン人格のキングに共感を覚えた。
表に出せば、それぞれが好きに立ち振る舞う。それを見越してチャンネルを切り替えていくしかない。中々、大変だろうね。でもうまく纏めているのだ、それだけでもキングという人物が伺え知れる。
「俺達は、全員性格も考えていることもそれぞれ違う。だが・・・・・一つだけ」
ルークが両手を広げながら構えた。
どうやら、この人は、なにかしらの格闘技に長けているのだろう。
「キングも含め、全員、人を殺すのが大好きで、お得意なのさぁあああああああああ」
先ほどの動きからして、蛇苺といえど今度は簡単にはいかないかもしれない。
そうなると、参ったね。
今は他のメンバーの意識が別に向く。
それは勿論。
「ほらぁあ、お前らはいいから、そっちを捕まえとけっ!」
ルークが蛇苺と対峙しながらも声を上げた。
それにより、また青と黄色の外套が翻った。
蛇苺さんが減らしてくれたとはいえ、まだそっちの数がこちらを上回ってる。
ただでさえ平均的な力では劣っているのに。
ポケットに手を入れる。
仕方ない、まだ最良のタイミングではないけど、ここで次の一手を・・・・・・。
いや。
まだ少し時間は稼げそうだね。
肌を突き刺すこの感覚。
「お姉ちゃんっ!」
僕と同時か、それより先か。
彼女の登場に気付いたのは白頭巾。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、様子がおかしい。
彼女が遅れてきた理由は分からないが、僕の思惑とは別になにかあったか。
「お姉ちゃん?」
「切り裂き・・・・・・」
それには、白頭巾やタシイ達にもすぐに気付くほど。
一歩一歩、こちらに近づいてくる彼女は。
闇を背負ったように混沌としていた。
「お、ちょ、ちょっと」
僕を囲んでいた殺人鬼連合のメンバー達が勝手に動き出す。
後ろへ、後ろへと。
「あ、あああ」
「や、やば、やばああ」
まぁ、無理も無いか。
あれはまさに死神。
この僕でさえ。
恐ろしく感じる。
次は多分派手にいくざます。