ういうい、私の出番はあまりないのだ。(対ゾディアックファミリー編其の五)
ういうい、円なのだ。
今、私は単独で丘の上の洋館に向かっているの、だ。
それもこれも、気まぐれで助けた少女の頼みを聞くため。
全く、非公認とはいえ作戦中に寄り道とは・・・・・・。
ここが、まだ私が姉御に及ばない部分。
姉御なら、こんな事は絶対しないのだ。
終点だけを見つめ、最適で最効率な方法だけを取る。
もし、ここに姉御がいたら、とっくにゾディアックファミリーを追い詰めているのだ。
だが、そんな自分に少しだけほっとしている。
やはり姉御は至高だと、自分はまだまだだと実感できる。
簡単には追いつけない、だからこそ憧れた。
「今は、自分のできる全力を出す、の、だ」
洋館付近まで辿り着く。
見張りは数人。そもそも襲撃は想定されてない。
生け贄が迷い込む可能性こそあったが、来た所でまた追い返されるだけ。
街中に監視態勢は取られているはず。
私の行動はもう知られている可能性もある。
だからこそ、最速で、つねに先手を取ればいい。
見張りの目を盗み、中へ侵入。
さて、上流階級の屑共は、どこで遊んでるのか。
入った矢先、絶望に満ちた声が響いた。
なるほど、ここでは防音する意味はない。
何をしようが自由。
欲望の赴くまま、好きに遊べる。
私は、声のなる方へ。
中央の扉を開く。
そこには・・・・・・。
椅子に縛り付けられた女性。
鎖で吊されている少年。
血まみれで床に寝かされている男性。
その周囲に立つのは、小綺麗なスーツやドレスで身を包む、紳士淑女達。
皆、血がべったりこびり付いた刃物やノコギリを持っていた。
生け贄の腕、足は切られ。
腹は裂かれ。
目は抉られている。
これは、驚きなのだ。
ここにいるのは、殺人鬼達じゃない。
普段、表で悠々と生きてる一般人。
されど、やってることは私達と全く変わらない。
瞬時に腰のホルダーからナイフを抜いて。
裕福な男女に投げつける。
声を上げる暇も、状況を判断させる隙も与えない。
飛び立つナイフと同じタイミングで私自身が踏み込む。
先に到達したナイフは左右の男女の喉に突き刺さる。
後を追った私は一番近い男の手首を切り裂く。
すぐに口を塞ぐと、その勢いのまま、胸に得物を突き立てた。
シャク、シャク、シャクと林檎を刺した時のような音を感じながら、何度も抜き差し。
ぐったりした男を後ろの女へと突き飛ばし、その影から低い体勢で女の足を横に裂く。
血しぶきをあげながら崩れる女を、そのまま床へ押しつけた。
こちらも口を塞いで。
「どうやら、ここにはいなそう、なのだ・・・・・・」
女を押さえつけながら、周囲を見渡す。
すでに事切れそうな生け贄達。皆、目から血の涙を流して呆然としていた。
年齢的に、ここには対象の少女はいない。
「おい、女、色々聞かせてもらう、のだ」
多分、他の部屋でも同様のお楽しみ会は開催されている。
虱潰しは時間がかかる、なにか手がかりがあれば。
こうして、私はもう少しこの場に留まることに。
こんにちは、シストです。
今、僕達は・・・・・・。
廃墟ビルの屋上。
「ほら、お前ら、早くやれっ!」
「そうそう、早くしないと、君らがそっちになるよ」
タシイと目黒さんが、参加者を煽っています。
「は、はいっ!」
青と黄色の外套を纏った6人を端に立たせて。
全員、縄で手足が縛られてます。
足の方の縄は長く、屋上の瓦礫に繋がれていました。
これからするのは簡単に言えば、バンジージャンプです。
脅され手伝わされているのは、通りがかりの参加者達。
適当に痛めつけたら、素直に言う事を聞いてくれるようになりました。
「わ、わりいな、お前らに、恨みはないが・・・・・・」
参加者達が、ゾディアックファミリー達を順々に蹴り落とします。
「ひゃがああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぎゃがあっ!っ」
縄は計算されており、頭がギリギリ当たる位に調整してます。
「ようし、引き上げろっ!」
「ほらほら、急いで~」
落としたメンバー達を、また引き上げる。
そして。
「よし、またすぐ、落とせっ!」
「はいはい、きびきび動くっ」
これ、さっきから何回もやってるんですよ。
落とされる度、メンバー達の顔が変化していきます。
もう、真っ赤に染まって、誰が誰だかわかりません。
「あ、あの、すいません、こいつ、もう死んでますっ!」
お、漸く、死にましたか。
「あぁ~? まじか」
「じゃあ、もうこの辺にしときますかー」
二人が、参加者の近くに寄ります。
メンバーが事切れてるのを確認すると・・・・・・。
「他も、もう虫の息だ」
「そうだね」
そう呟き、タシイがバールを握り、目黒さんが千枚通しを。
「よし、こいつらの縄を切れ」
「はい、急ぐっ!」
協力者を急かし、足の縄を切られると。
「こいつらを抱きかかえろっ」
「はい、急ぐっ!」
参加者達は慌てて、死にかけのメンバーを抱えた。
そして。
「よし、一緒に落ちろっ!」
「はい、急いでっ!」
タシイがバールを振り上げて。
目黒ちゃんも同様に。
「え? え?」
驚く参加者共々。
屋上から突き落とした。
「ひあひああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・・・ごふあっ!」
二人は覗き込むように見下ろし。
「あ、まだ残ってるのに」
「最後にすれば良かったね」
まだ落としてないメンバーに目をやり。
二人は渋々、自分達で残りを放り投げた。
「うしし、結構集まった」
目黒さんが血が滲んだ巾着袋を広げ覗き込みながら笑ってる。
中には、これまで抉ったゾディアックファミリーの眼球がゴロゴロしてるんだろう。
「・・・・・・結構、殺ったね。これで、切り裂きの方を合わせれば・・・・・・」
そろそろ、出てくると思うのだけど。
そうこう考えていると。
ゾク・・・・・・。
「あぁ、やっと来ましたか」
タシイと目黒ちゃんも気付く。
屋上へと入ってきたのは。
黄色と青の外套。その切れ目から綺麗な足が伸びる。
顔は、何かの皮を縫い合わせて作られたマスク。
縫い目がまるで顔のように見える。
「ゾディアックファミリー。チェスメンバーが一人、クィーンと申します」
お供を引き連れ三人。
それにしても、いきなりナンバー2が来たのか。
クィーンは立場も関係なしに、ズカズカ一人で前に出てきた。
全くの無警戒。
「いきなりだけど、チェスでもしませんこと?」
クィーンは僕達の前に来ると、本当にいきなりそんな事を口にした。
コンクリートの地面に直にチェス盤を置き。
「いつもはね、色々賭けて勝負しているの・・・・・・」
「へぇ、そうなんですか」
僕とクィーンも同様に地面に腰を下ろす。
「ちなみに、いつもは何を賭けてるんです? お金とか?」
語りながらも手は止めずに駒を進める。
「やだわ、そんな訳ないじゃない」
クィーンはそう言うと、自分の胸を親指で示す。
「大抵は中身よ」
「あぁ、なるほど」
盤上、ここまではあっちが優勢。
「どうかしら、勝負は途中だけど、私達も賭けませんこと?」
それを見定めてからの提案。
狡いを通り越してもう図太いね。
「・・・・・・いいでしょう。では、何を賭けましょう?」
ここで退くのも面子に関わる。
劣勢だけど、その余裕な態度が少し気に入らないかな。
「そうねぇ、オーソドックスに腎臓にしましょう。これなら需要もあるしね」
「分かりました、じゃあそうしましょうか」
さて、受けたはいいけど。
「・・・・・・なかなかお強いですね」
「ええ、私、今まで負けた事ないのよ、非公式だけど数人のグランドマスターにも勝ってるの」
負けイコール死の賭けを自信たっぷりで提示してくるだけあって。
このクィーン、かなりやるね。
将棋なんかだと女性は中々上にはいけないけど、ことこのチェスに関しては女性のGMが数多く存在している。
うん、このままじゃ確実に負けるね。
そして、このままじゃ確実に勝てない。
「・・・・・・それなら」
軌道修正。
その後、ゲームは進み。
「ふふ、いつでもリザインしていいのよ」
「・・・・・・もう少し粘ってみますよ」
顔はマスクで見えないけども。
上機嫌で駒を動かしていたクィーンの手が。
止まった。
「・・・・・・ステイルメイト」
クィーンの小さな呟き。
それは今までのような口調では無かった。
「どうぞ、そのクィーンを取ってください。クィーンが盤上から消えた瞬間」
立ち上がる。
「ステイルメイトです」
勝てなく、負けたくもないなら。
引き分けに持ち込むしかない。
相手の方が力量が上で、さらに僕を見下してたからこそ成立した手だね。
「公式戦ではたしかステイルメイトは引き分けでしたよね?」
クィーンも立ち上がった。
わなわな身体が震えている。
そして、何を思ったか。
大型ナイフを二刀取り出し。
前を向いたまま両隣にいた仲間へと逆手で突き刺す。
深く突き刺さったナイフを力任せで一気に腹を割く。
「あああああぎゃあああああああああああぁああああぁあああ」
「ク、クィなああああああああがにあああああぁあああ」
仲間の腹から臓物が零れ落ちる。
「悔しい、クヤシイ、くやしいい、勝てなかった、カテナカッタ、この私ガガガ、クヤシイクヤシイぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
クィーンは叫びながら、お仲間の腹の中に手を突っこんだ。
「あさぁあ、あげます、これ、引き分けなら、私のじゃなくて、いいでしょ? だから、そっちも下さい、お仲間のでイイノデ、ね、ね、ね、そういうルールにしましょ?」
両手に握られ、引き出された内臓は手の中でぬめりと光る。
「引き分けでもこれなら、もし勝ってたらどうなってた事か」
それはそれで少し見てみたかったけど。
「いやぁ、いりません、そしてこちらも差し出すわけにはいかないので」
ここで、タシイと目黒ちゃんがチェス盤を蹴り上げ、前に出た。
「はぁあああああああああ? なにソレぇ、約束が違うじゃない、そういうルールだったのよ、そうよ、そういうルールだったはずだわ、ルール違反よ、反則よ、卑怯よ、それじゃあ、しょうがない、取り立てるしかないわ、そっちは貰っておいて、こっちにはやらないってそんな話ないでしょ、ええ? おかしいわ、狂ってる、あげるって言ってるのにぃぃ」
クィーンが頭をグラグラさせながら臓器を投げつけてきた。
それをタシイがバールを振って弾き、目黒さんがうまい具合に千枚通しに突き刺した。
「け、最初からこうすりゃ良かったんだ」
「そうそう、これはいらないけど、アンタの目には興味あるよ、マスク外してくれない?」
クィーンが肩が激しく揺れる。
「いいのよ、そうよ、私は負けない、引き分けすらなかった。今まで勝った事しかないの、だから、これもきっと幻・・・・・・幻想は消し去り、無かったことにしましょう」
あっちも殺る気満々。
いつ飛び出してきてもおかしくない状況で。
また、クィーンの身体が大きく痙攣した。
「あああああ、そんな、幻想は、あああああああ・・・・・・そ、う、ああああ、時間か」
その震えも急に収まる。
「・・・・・・もう充分」
妙に落ち着いた態度になったクィーンが踵を返す。
やはり、ただの時間稼ぎだったみたいですね。
「降りてきてー、みんなお待ちかねだからー」
くぐもった声でそう残し、クィーンが消えた。
後を追うように、下まで降りると。
そこには。
青と黄色の外套を纏った男女が目の前いっぱいに広がっていた。
事前情報、そして今まで排除した数を差し引いても。
ゾディアックファミリー、全員集合ってところでしょうか。
インフルにかかって、漸く完治しました。