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父の怒り

「……なんと愚かな……。殿下は『覆水盆に返らず』という言葉をご存知ないのか。勉学も随分サボっておられるとは聞いていたが……、これはまた……」


 そこでリースハウト侯爵であるお父様は周りに良く聞こえるような独り言を仰りながら、片手で頭を抱えながら首を振った。



「……これは、何事か」


 そこに響いた深く低い声。

 

「……国王陛下の御成である! 皆の者、頭を下げられよ!」


 陛下の従者が声を上げた。会場の者は皆、頭を下げる。

 銀髪に青い瞳。我が国の国王陛下だ。

 王子妃教育の為ほぼ毎日王宮に来ている私を娘のように可愛がってくださる、ダンディーなおじさまなのだ。


「皆、今宵こうして集まってくれた事を嬉しく思う。……して、これはなんの騒ぎか」


 陛下はこの広間に広がる異様な雰囲気に気付かれ、全体を見回し尋ねられた。


「――国王陛下に申し上げます。たった今、ファビアン王子殿下より我が娘に『婚約破棄』を突きつけられたところにございます」


 そこに、すかさずお父様が声を上げ、陛下はその内容に顔を顰められた。


「……婚約破棄……!?」


 ……やはり、陛下もご存知なかったようね。あの第一王子の独断でのやらかしのようだわ。


「ちちう……陛下!! 違うのです! 実は、セシリアは私の婚約者という立場と侯爵令嬢という身分をかさにきて、ここにいる令嬢をそれは酷く虐めていたのです! 私はそれを諌めようとしていただけでして……!」


 第一王子は父である陛下に向かって叫ぶ。あら、お話を初期設定に戻されたのですか? 周りは皆白い目で見ておりますわよ?


「……恐れながら、陛下。先程そちらの令嬢は『生意気な婚約者に罪を着せて自分と婚約すると殿下が言った』と申しておりました。にも関わらず殿下は今度はまた我が娘を『罪がある』と仰る。まるで統一性がございませんし、何より我が娘がいつどこでそこの令嬢を虐めていたなどと仰るのか」


 今度は私のお父様が正論で攻める。

 ……そう。『いつどこで私がその令嬢をいじめたか』


「ッ! 陛下! それは、学園であります! 勿論、あちこちでのパーティーでも会えば何かしらしてきたようではありますが……。神聖な学舎で、将来王妃になろうという者の余りにも恥ずべき行為でありますが故に、私も苦渋の決断でこうして諌めているのです!」


 第一王子はまたしても三文芝居を始めたけれど、まあ、言うに事欠いて『学園で』とは……。

 広間中の方々の殆どがある真実を知っているので、皆様方は第一王子の発言が虚言だという事を確信されたようだった。


「……『学園』で、と。……王子よ。その方はそう申すのだな?」


 陛下のお声が心なしか低くなったのは、きっと気のせいではない。


「そうです! 私の婚約者という事で、彼女は主に学園のあちこちでそのような傲慢な振る舞いを! そのような者は私の……、未来の王妃として相応しくはない! そう思い、私は『婚約破棄』をしようとしていたのでありまして……!」


 陛下に話を止められなかった事で、第一王子は気を良くしたのか話をまた自分の都合の良い方にどんどん進めていった。……周囲の目がどんどん冷たくなっていることに気付かずに。


「……それでは、『学園』でお前の婚約者はそこにいる令嬢をいじめ、『学園』で未来の王妃として相応しくない態度を取ったと……。ファビアンよ。それはおかしな話だな」


「……? 何がおかしいのでございますか?」


 それまで話をそのまま聞いてくれていたはずの陛下の口調が変わった事に少し違和感を持ったのか、不安そうに第一王子は尋ねた。


「おかしいであろう。……何しろお前の婚約者は学園に通ってはおらぬのだからな」


「――――は?」


「彼女は幼き頃からの王子妃教育でかなり進んだ勉強をしており、学園を1年で飛び級で卒業している。もう1年以上前の話だ。…お前は婚約者でありながらそんな事も知らなかったのか?」


「……は? ……学園を、卒業……? 1年で……飛び級、…でございますか? ……まさか……!!」


 第一王子は信じられない、といった様子で呟く。


「……第一王子よ。其方は学園で一体何をしていたのか。幼き頃からの婚約者が居ない事にも気付かず、肝心の学業も疎かにしているようだ。そして、言うに事欠いて学園にはいない婚約者がそこで罪を犯したなどと虚言を吐き、浮気相手を公式のパーティーにエスコートするとは……!! ……更に、このような騒ぎを国の重鎮達が揃うパーティーで起こすなど……!」


 陛下は眉間に深い皺を作りながらも第一王子を厳しく糾弾した。

 ……もしも、第一王子が陛下に個人的に直接この件を話し婚約破棄をしようとしていたのなら。陛下に相当に叱られはしただろうけれどもきっと世間には知られる事はなく、穏便な処分がなされていたのだと思う。


 けれども、国内の大貴族たちが集まるこのパーティで。……第一王子は自らこの騒ぎを起こしてしまった。陛下はいくら我が子が可愛くとも罪に問わない訳にはいかないだろう。しかも、有力な侯爵家の娘である婚約者を蔑ろにするような事を大々的に皆の前でやらかしたのだから。


「父上……ッ! 私は……私は知らなかったですッ! そして、私は騙されたのです……。この女が……、この女が私の婚約者にいじめられたなどと、そう言うから! 私は騙されただけなのです!」


 第一王子は必死になってそう陛下に訴えるけれど、陛下は首を振り第一王子を見もしなかった。


「王様ぁ! 嘘じゃありませんッ! きっと……、きっと他の誰かに頼んで私をいじめさせたのですわ! そうよ、もしくは王子の恋人の私の話を聞いて悔しくてわざわざ学園に来てイジメに来ていたのですわッ!」


 王子の恋人を名乗る令嬢は、そう支離滅裂な事を一生懸命叫ぶけれども陛下の目配せで衛兵に猿轡をされて捕らえられた。

 ……そもそも、『私にいじめられたのを王子が慰めて恋人になった』設定ではなかったのですか?

 皆そう思ったのだろう。白けた目で衛兵に捕らえられながらも逃れようともがく令嬢を眺めた。


「父上……! コレで、お分かりになったでありましょう? 私はこの虚言癖のある女に騙されていたのです……!」


 第一王子は捕らえられ猿轡をされた恋人が余計な事は言えないと思ったのか、これ幸いと陛下に主張した。


「……百歩譲ってお前がこの者に騙されていたとして、それを確証もないまま信じ込み、婚約者にこのような対応をする事が問題なのだ。…………お前は、王の器ではない」


 一瞬苦しそうなお顔をされた陛下は、苦渋の決断をされたようだった。


「……そ、そんな……ッ! 父上ッ! 父上……ッ!! お聞きくださいッ!」


 第一王子は真っ青な顔で陛下に近寄ろうとする。けれども、衛兵に止められて進めない。


「お待ちください! 陛下!」


 あら。

 今割り込んでこられたあのお方は、第一王子の母の実家の公爵家、つまりファビアン王子の伯父様ではありませんか。

 ご自分の甥である第一王子に王位を継がせる為、あれやこれやと画策なさっているのでしたわよね。


「此度のこと、確かに第一王子殿下は騒ぎを起こされはしましたが、それもあの女に騙されてのこと……! しかも殿下はまだお若い。若い時の過ちは誰にでもございます。ここは、穏便にすまされてはいかがでしょう」


 公爵は全てをあの恋人の令嬢のせいにし、第一王子を無罪放免にしようとしているようだ。

 第一王子は救いの主が現れたと目を輝かせて公爵を見た。


「……それに、第一王子殿下はこのように深く反省されているご様子。婚約者であるリースハウト侯爵令嬢も殿下が罰せられ、婚約破棄をされた『傷物令嬢』となる事を望んではおられないでしょう」


 ……おや? 私に振ってきましたか。


 私の意見を言わせていただけるなら、こんな男と結婚なんて真っ平御免!

 婚約破棄? 上等です!!





お読みいただき、ありがとうございます!

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