#11
あれから一夜明け、今日も潜入捜査場所もとい職場の学校へ向かう途中、昨日のことを和と話がら学校へ行く。和は昨日のは部長のいたずらだと思うと話していた。圭はそれには疑問を思いながらも学校へ向かって行く。
「オイ、あれ」
和は学校の正門も前を指さす。そこにはパトカーが数台止まっており。学校の前には野次馬があふれていた。
「とにかく、中に入ろうぜ」
2人は学校の職員である事を説明して中に入って行く。するとすぐに警備員の橘と出会う。
「2人とも大丈夫かい?実はその・・・」
橘の何か言いたそうなその発言から圭は何かを感じ取り、旧校舎に向かって行く。
「オイ、圭・・・和泉くん」
和の呼びかけにも全く答えず走っていく圭。その表情は先程までの穏やかな表情とは違っていた。『何か起こった。しかも不吉なこと・・・・』そう圭は直感していた。
生物室の前は生徒で溢れていた。
「生徒は戻りなさい、校長先生が緊急集会を行う予定だから指示があるまで教室に戻りなさい」
教員から指示も全く聞こえていないのか生徒達はその場から全く動こうとしない。圭はそんな生徒や教師を押しのけ規制線の中に入る。そこには首吊り死体となっているミステリー研究会部長の柏木美琴であった。そして後ろの黒板には『カノジョノ タマシイハ ヤスラカナバショヘ』と書かれていた。
圭は驚いていた昨日自分達がミステリー研究会の部室から見た景色と同じ光景だった。その後、急ぎこの現場に駆け付けた時にはこの場所には誰も居なかったし柏木部長の首吊り死体も無かった。さらに言えばこの部屋は圭たちが来て壊す前までは密室の部屋だった。圭は昨日の事を整理して考え巡らせていた。
「ちょっと、あなた勝手に入ってはいけませんよ。それに学校関係者じゃない方は校内への不法侵入になりますよ」
規制線を越えて現場に入り込んできた圭を所轄の刑事達が外へ出そうとする。
「ちょっと待てって、俺はちゃんとした学校の警備員だって、別に怪しいもんじゃ」
「オイオイ、いつになったら外の連中は静かに出来るんだ。おまけに学校関係者じゃない奴を中に入れるとはここの所轄共はどんな仕事してるんだ」
中々、収まらない野次馬騒ぎに苛立ちを覚えていたのは警視庁の捜査1課の刑事である。中年の刑事で背はそこまで高くないが体つきはしっかりしている。
「そこのお前、部外者が勝手に中に入るな。まさかお前が犯人か?オイ、こいつをパトカーまで運んで署に連れて行け」
2人の刑事にあっという間に腕を取られて運ばれかける圭は声を上げる。
「だから!!俺はこの学校の警備員って言ってんだろう。おっさん!!」
「話は署で聞くから黙っていろ。それより、暴れたら余計な罪を重ねるだけだぞ」
重い忠告言われ事件現場から外に出される圭、その合間に昨日のミステリー研究会の面々の姿が見える。向うはこちらに全く気付いていないらしい、男子部員達はやはり学園の悪霊の事だと怪しんおり、弓永由美子は泣いてるようにも見え、それを隣で桜井雪子が落ち着かせているようにしている。
「これは面倒なことになったな」
若干ため息紛れに警察に連れて行かれる圭は自分達の依頼以外にも面倒事が増えてしまったことに浮かない顔をしていた。
「ハァ?警察に逮捕されかけた!!」
「オイ、声でけえよ」
学園の自販機前で電話で他のメンバーに今起きたことを話していた。他の3人もニュースで先ほどから流れている修學高校での殺人の報道を見ていた。
「呆れたわ、九十九君。あなた潜入捜査がどういうものか1年以上もやってまだ分からないのかしら?そこまで間抜けだったとは私も擁護の仕様が無いわ」
「前に私が注意したことを聞いてなかったのかしら?本当に圭は人の話を聞かないのか、感情に流されやすいのか、いい加減にして欲しいわ。とにかくしっかり署で反省しなさい」
「今回は流石に私も庇いきれない。とにかく圭ちゃん、頑張れ。必ず出所日にはお土産持って行くから」
「オイオイ、勝手に人が逮捕された扱いするなよ。何回も言わせるなって誤解だって」
結局あの後、橘や和の前に圭が警察に連行されている光景に慌てた橘が訳を聞いた。そうして、彼がこの学校の警備員であることをしっかり説明し誤解を説いた。勿論、圭が勝手に規制線を越えたことに関しては厳重に注意された。その後、橘からも気負付けるように指示され和からも釘を刺された。
「俺、これで怒られたのは4回目なんだけど・・・」
「自業自得でしょう。何度も言うけど、どうしていつもそう感情的に動くの?以前潜入した学園の時も危うく警察沙汰になりそうになったじゃない」
「またそれかよ」
「それで九十九君、事件現場を見て何か気になる事は無かったかしら?」
「そんな、じっくり見なかったけど、黒板に書き殴った字が書いてあったくらいかな?」
「それがどうしたの?」
「いや、チョークで書いてあったんで。普通はそういうのってさあ、壁に血の文字でおぞましい感じで書いてあって他の人に恐怖心を植え付けるみたいなことが多い気がすると思えてさあ」
「貴方にしては悪くない線ね。私としては是非この目で見ておきたいんだけど、残念ながら私達は今日はそちらに行けそうにないから。警察に怪しまれないように写真を取ってきておいてちょうだい」
「へーい」
「最後に透が何か言いたそうよ」
「良いかしら?これ以上面倒事を起こすようなら圭はその場で退職。以後は咲と一緒に職場待機よ。肝に銘じておきなさい」
「はい、はい」
そう返事して電話を終了する。圭自身本来は昨日事件を受けて構内の見回りしなければならないが、どうしても仲間に今の状況を伝えておきたかったのだ。現在、体育館では全校生徒を集めた緊急集会が行われていた。校長が今回の経緯を説明し、所轄の刑事から今回の事件で怯えている生徒たちに落ち着くよう説明し、必ず事件解明を約束すると告げた。その後教頭から昨日の事件の関係者はこの後聴取がある事や今日は昼までで部活もせず全員下校を命じていた。圭はその場を立ち去り構内の見回りの仕事に就いた。その後、橘と和と共に刑事の事情聴取を受けた。3人は昨日の夜起きたことをそのまま話した。途中、その時現場にいなかった和には疑いの目が向けられたが彼が警備員にいたことは監視カメラを見れば分かると橘が言った。監視カメラは後日こちらが確認すると告げひとまず和の疑いははらされた。
「今日は大変だな。ただでさえ一緒に居たくない奴らと半日一緒なんて」
休憩室で昼食をしながら2人は話していた。復讐探偵にとって警察は天敵、出来れば同じ場所にいたくない存在だ。
「仕方ねえだろう、おとなしくしてれば怪しまれえよ」
「お前が言えたセリフか」
「うるせえよ。それより和はあの黒板の字はどう思う?」
「何が?」
「いや、実は俺が見た時教室に黒板に殴り書きがしてあったんだ」
「それがどうした?」
「いやさあ、もし悪霊の仕業だったとしたらわざわざ黒板に字なんて書かないだろう。しかも、チョークで。俺は信じないけど幽霊さんが居たとしたらそんな犯行声明を律儀に黒板にチョークで書くか?普通は血でいかにも相手に恐怖心を煽るよう方法を取らないか」
「なるほど」
圭の推理に納得する和はこんな質問をする。
「じゃあ、霊じゃなくて人間の仕業ってことか?」
「俺は最初からそんな悪霊話信じちゃいねえよ。俺は間違いなく人間の手によるものだと思う」
「黒板に書いた理由は?」
「さあな、じゃあ俺は戻るわ」
食事を終え休憩室から出ようとする圭を和が呼び止める。
「オイ、また警察に目を付けられるなよ」
和の忠告に手を上げて答え、圭は旧校舎の生物室に向かう。
生物室では警察の捜査も片付いたのか遺体はすでになく、規制線も取り外そうとしている。
「とにかく、死亡推定時刻の9時から10時の間でこの学校に部外者が侵入した形跡があるか周辺を調査してくれ」
「あのう、すいません」
先程まで現場検証をしていた警視庁の刑事堀井が部下の所轄刑事に指示する生物室にまた勝手に上がり込む圭。
「また、お前か。さっきは悪かったな」
「いえいえ、落ち度があるのはこっちですから」
先程の無礼を詫びる堀井、しかし、圭自身も先程の自分の行いが感情的になったことを詫びている。
「だったら、何故また入ってくる。俺らをおちょくてるのか?」
「テープが張ってないから入って行かなと思って。テヘヘ、その刑事さん犯人がどんな人か分かりましたか?」
「どういうことだ?」
「いや、もうなんか撤収準備を始めてるじゃないですか?」
「それならとっくに分かったよ、ついでにこの密室の謎もな」
「いやー、流石に日本の警察は優秀ですね。伊達に警視庁の刑事さんでは無いですね」
「褒めてるのか?それは」
「いいえ、別に警視庁はそこら辺の県警と元々の立場は一緒ですから」
「随分、警察の事知ってるんだな?」
圭の事を若干怪しみ始めた堀井刑事。
「で、刑事さんその密室の謎って言うのは」
「ああ、それならあれだ」
堀井刑事の指さす先には窓の上の煙突窓である。この旧校舎には冷暖房の装備は供えられていない。かつてこの校舎が使われていた時にはストーブが使われておりその為にこのような煙突窓が旧校舎には備え付けられている。
「犯人はお前らが向うの校舎から旧校舎を見てこちらへ向かう間に死体を外に出し、この窓のカギにこのワイヤーを引っ掛け外に出て、外からワイヤーを引けばこのように窓のガキが締る。そして、お前らが帰った後に再び彼女を吊るして黒板に殴り書きをしたという訳だ。幸い、この窓の下は下駄箱前の玄関で屋根がついてるこの高さなら窓から降りても怪我はしないし、屋根上から下に降りても怪我をしない丁度良い高さだ。今回の犯人は外部の人間。しかもこの学校には隠し通路なるものがあるらしいな。それを知ってることから近隣住民で間違いないだろう」
堀井刑事は自信満々にそう告げた。
「へぇー、そうっすか。いや、なんて言うか推理が幼稚過ぎませんか?」
「何だと?」
「だって、こんな大胆な死体消失トリックをした人間がこんなワイヤートリックなんて・・・ショボ過ぎないっすか?」
「何が言いたい?」
「いや、ですから。普段は開かずの間の部屋を開け。しかも、僕らが向う間に校舎からこっちに来るまでのわずか5分間で死体共に消え、そして今日になって再び現れる。こんな誰も考えないようなことをした犯人が証拠がすぐ見つかるようなことをするとは到底思えないですよ。では、刑事さん僕らがここに来たとき犯人はどこに彼女を隠したんですかね?」
「それは、あそこにある黒い布だ。恐らく夜だから黒い布を掛けておけば気づかれにくいだろう、それに彼女の髪の毛があの布からいくつか発見された。まず使ったことには間違いない」
圭は堀井刑事が指さした場所を見た。かつての教壇に使われた机の上には黒い布があった。確かに布の大きさや机の大きさからして彼女を隠すには充分かもしれない。しかし、もし圭達が暗闇とは言え中を見回し時に盛り上がった場所があったら不思議がっていたと思う。
「いや、それも大胆ですけど。配慮が少ないような」
「だったら、どうやって消えたんだ。まさか学校の連中が言う悪霊の仕業とでも言うのか?」
「まさか、そんなことは黒板の字を見れば明らかですよ」
そうして全員が彼から目を外し黒板に集中した時に圭は携帯で黒板の文字を音も無く撮影した。
「これは明らかに犯人が人間だという証拠だと思うんですよね。普通幽霊が黒板に字何て書かないですし。仮にこの学校の悪霊の噂を利用したいなら普通はこんなことしないですよね。もしもし、そこの刑事さん」
いきなり圭に指名された刑事は戸惑っていたがそれでも圭は質問を続ける。
「もし、貴方が悪霊を利用するならどこにどのように書きますか?」
「えっと、その後ろの壁に血をみたてたように書きますかね。私だったら赤いペンキ類を使いますね」
「ありがとうございます。では、刑事さん先程死体隠しは黒い布を使ったと言いましたが・・・・では、もしそれ以外でしたらどういう方法を使いますか?」
「何が言いたい」
「例えば、窓の下の屋根上はどうですか?あそこなら誰にも見えませんよね」
「それは無いな。もし、そうなら遺体に泥などの汚れが付いているはずだが何もなかった」
「そうです。そう言えば刑事さん先程犯人は外部の人間って言ってましたけど、この学校の悪霊の事や旧校舎のことも知ってるなんて外部の人間なんてあり得ますかね?」
圭の発言に次第に苛立ちを覚えた堀井刑事は大声を上げる。
「いい加減にしろ。この学校にいた人間には全員アリバイがあるんだ。だったら外部の人間以外考えられないんだよ。いちいち素人が無駄な首を突っ込まなくていいんだよ。ほら、さっさと出て行け!!」
堀井刑事は圭を追い出した。圭はこれ以上の詮索は危険だとして生物室を後にする。
生物室を追い出された圭はその足でミステリー研究会の部室に向かう。ミステリー研究会の部室にはカギが掛かっているが圭はそんなことを気にしない。ポケットからピンセットとピッキングツールを取り出した。圭は手先の器用さを生かしてこのような鍵開けをすることもある。ものの1分程度でミステリー研究会の部室のカギを開ける。
そして、ミステリー研究会の部室にあるノートパソコンの電源を付け、そして咲から預かった特注USBを指す。データ読み込みが始まり3分ほどでデータのコピーが完了した。その後は普通に警備員としての職務をこなした。
夜、探偵事務所に帰宅した。圭は他の3人と夕食を共にし、今日の出来事を話す。
「咲、ほらこれ」
圭はデータをコピーしたUSBを渡す。
「上出来だ、良くやった」
早速、咲は自分のパソコンにUSBを指し中身のデータを見る。
「どれくらい、掛かりそうなの」
「中身を見た限りそこまでデータは多そうに無いから、うーん、1時間くらいかな」
「じゃあ、こっちは事件の話をしましょう」
透はひとまず例の殺人について3人で話すことにした。
「九十九君、写真の方は撮ってきたわよね」
「ほれ、これだ」
圭は携帯で撮った黒板に書かれた文字を見せる。
「書いてある内容や字体はそれっぽい気がするわね」
「でも、九十九君いう通りこれが悪霊を利用する為に書いたとすると説得力に欠けるわね」
「それで圭。警察の方はどういう結果を出したの?」
「それが外部の人間の犯行だって言うんだぜ、俺達が部屋に来た時は机の上にあった黒い布で隠して密室からの脱出にはワイヤートリックを使ったって刑事さんは言ってた」
「あまりにも陳腐な推理ね。私が捜査部長だったらそんな刑事は地方に左遷しているわね。密室の部屋で死体消失までやった犯人がそんなワイヤートリックなんて使う訳が無いわ。恐らく、そのワイヤートリックは最初から気付いて欲しかったと思うわ。多分、本当の犯行方法を隠すためにでしょうね」
「なるほど。ワイヤートリックはカモフラージュの為にわざと証拠が残るようなことをしたって言うのね」
「そうでなければ、こんな大掛かりなことはしないわ。九十九君、生物室の部屋は本当に開かずの間だったの?」
「ああ、警備員の橘さんの話だけどな」
「まあ、本当かどうかは明日確かめればいい話だけど」
「それより、依頼の方の調査内容はどうなってるの?」
警備員の仕事をしながら圭と和は桜井春香のことについて3年生、2年生から情報収集した。有益な情報はなかなか得られなかった。唯一手に入れた有力な情報は2つだけである。
「まず、桜井春香さんは生徒会長だったけど実は掛け持ちで2年までミステリー研究会にも所属してたらしい。そして、彼女が学校内の教師の答案売買に関することに首を突っ込んでそれから数日後に自殺したっていうことね」
「茉莉の方はどうなってるの?」
「向うもそこまで良い情報を集められていないらしいわ。ただ、答案売買に関しては全員があったと証言してるわ。中にはその答案売買を使用した子もいるらしいわ」
「なるほど春香さんは殺しに畑中という教員が何らかの関わりがあるみたいね。透、明日私達の会う人に畑中はいたかしら?」
「いいえ、明日の取材には顧問の先生は付いてこないわ」
「そう残念ね」
透の答えに悠は笑みを浮かべて紅茶の入ったカップに手を付けていた。
「なんじゃこりゃあ!!」
圭が抜き出したミステリー研究会のパソコンの中には活動日誌以外にやはり部長である彼女が秘密裏に調べていた内容のページがあった。
「どうしたの?中身の内容がもう分かったの」
「違うよ。中身はたいして無いけどこの部長さんのファイルにカギが掛かってるけど・・・」
パソコンには『ここに書かれてる内容は学校内の秘密が書かれている。この秘密は今無き魂を引き継いで彼女の意志を引き継ぐものである。偽りの差込口が表す真実』
そして下にはパスワードの入力画面が出ていた。
「あら、いつもの咲ならこんなのすぐ解けるじゃない」
「いや、パスワードが数字や英文字を使ったものなら分かるけど。これは完全な暗号だから情報不足。ここから先は私じゃあ限界だ」
「春香さんの名前は?」
「試したけど違うみたいだし、しかも間違えてもやり直しは1日3回までしか打てないみたい」
「おそらく、ヒントはこの前文なんだけど、これだけじゃあ分からねえな。悠は?」
「恐らく学校内に何かヒントがあるけど残念ながら私もそこまでしか分からないわ」
「咲、今日はそこまでお願い。パスワードは私達の方で何とかするから」
「面目ない。みんな明日は頑張ってきてね」
今週は月末なので2本連続で掲載します




