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SCGの魔眼使い  作者: 西城優
第一章
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神崎綾

大通りから逸れた建物の路地、そこがインテリジェント・デバイスのマップに記されたターゲットの現在地だった。

 駅から徒歩で十数分程度の裏路地、鏡矢は現在、一人の人物を前にしている。


「君が神崎綾さんで間違いないか?」

 

 黒く長い髪で、前髪は綺麗に統一されている姫カットという髪型にプリーツスカートの制服。シャツの胸元に刺繍された花びらの中央にSの記されている校章。

 全てが送られてきたデータにぴったり当てはまる。強いて違う所があるとすれば、データに記載されているターゲットの写真の表情ぐらいだ。

 穏やかで優しそうな写真の様子とは違い、今の彼女は不安や怯えといった感情に侵食されていて、見ているこちらが胸を締め付けられる。

 

「……わ、私を捕らえに来たんですか?」


 警戒している様子を隠そうともしないこと、そしてその答え自体彼女が神崎綾であるということを決定づけた。


「乱暴な言い方をすればそういう事になる。ただ、捕まった所で能力者専門学校の寮に帰されるだけだ。まあ、その後罰則が与えられるのは目に見えているけど」

「私は絶対に帰らない! 絶対に!」


 自分の抱える感情を吐露するように神崎は声を張り上げる。

 大通りなら周囲から注目を浴びていただろうが、幸いここは人気のない裏路地だ。

(ここなら能力を使っても問題ないか)

 出来れば能力を行使したくない。が、相手がレベルAの能力者となると自分の都合を用意には通す事など出来ない。

 しかし、追い詰められている様に見える神崎を能力で強引に屈服させるのは気が引ける。

 男としての観点で考えるなら、なるべく女性には暴力を振るいたくないとも鏡矢は思っていた。


「少し質問をさせてもらってもいいかな?」


 神崎を落ち着かせるために、鏡矢は彼女へと問いかける。


「…………」

 

 こちらを睨みつける以外何のアクションも起こらない。

 鏡矢はそれを了承のサインだと受け取り、会話を始める。


「どうして、君は能力者専門学校から逃げ出したんだ? 確かにあそこは休日以外外には出れないが、劣悪というよりは良質な環境だと思うけど」


 この問いかけに答えてもらわないくても、それはそれで構わなかった。

 まずこの質問を行うのは、相手から情報を得るのが本当の目的ではない。相手の警戒心を少しでも和らげ、やり取りをスムーズにする為だ。

 能力を使えばやり取りなど必要ないという輩もSCGには存在するが、鏡矢はそんな横暴な考え方が嫌いだった。

 しかし、神崎は睨みながらも鏡矢の質問に答えた。


「……私は、少し前まで能力が発現しきっていなかった。能力測定ではレベルD評価。せいぜい近くにある物体を動かしたり出来る程度だった。でも」


 途端、神崎の表情が悲しげになる。顔を裏路地の地面に俯かせ、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「一週間前に能力が完全覚醒した。扱える力が今までと桁外れで、最初は嬉しさを覚えたけど、次第にその力の強大さが怖くなって。……仲の良かった友達も、接し方がどこか違っていて、不安で溜まらなかった」


 完全覚醒を起こした能力者が精神的に不安定になるのは珍しくない。

 世界中で確認されている能力者の大半が完全覚醒へと至らずに生涯を終えるため、能力とも上手く折り合いをつけて生活しているが、完全覚醒に至った者の殆どは、最初にその自分が得た力の強大さに恐怖する。

 神埼綾も、言ってしまえばその内の一人でしかない。


「だからと言ってこんな行動を起こした所で意味なんてないだろ? 君が能力者であるという事に変わりはない」

「分かってる! 分かってるけど怖かった! じっとしているだけでも不安が募ってゆく。いつか、この力で人を傷つけてしまうんじゃないかって!」


 根が優しいのだろう。その分、人を傷つけたくない、だけど傷つけてしまうかもしれないという不安が次第に積み重なっていき、能力者専門学校からの脱走という手段を取った。

 だが、それは逆に人を傷つけてしまう可能性を大きくしただけだ。能力者の多い学校よりも、一般人ばかりの外の方が能力を使った時の被害は大きい。

 そう思いながらも、鏡矢はそれを指摘しない。精神的に参っている相手をこれ以上攻め立てても不安や警戒を増幅させるだけだ。


「……君の気持ちは分かった。けど、だからこそ君を迎えに着たんだ。逃げれば逃げるほど、君は自分自身を追い詰めていくからね」

「…………」

 

 神崎の瞳から警戒の色が抜けていくのが分かる。

 能力者と言ってもあくまで人間だ。会話を経て問題が解決するという事もある。

(今回は、能力を使わずに事が済みそうだな)

 こちらにゆっくりと近づいてくる神崎へ微笑を浮かべながら鏡矢は安堵の溜息をつく。

 しかし、事態はそう簡単に収拾しなかった。

 裏路地に響き渡る、多数の人間の足音がそれを知らせていた。

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