能力者
駅の中は広く、様々な路線で入り乱れている。普段から駅を使っていなければ迷ってしまいそうな程である。
しかし、鏡矢は迷うことなく目的の路線のホームへと向かう。インテリジェント・デバイスであるセーラが道案内を行ってくれるので、駅の中を迷わずに済むというわけだ。
「セーラにはいつも助けてもらってばかりだな」
「いえ、ご主人様のサポートを行うことが私の役目です。それに、私自身もあなた様のお役に立てる事を心から嬉しく思っていますので」
駅のホームは外界から遮断された地下空間にある。季節は夏だが、外とは違って駅のホームは冷たい空気で満たされていた。
ホームで待つこと数分、トンネルの暗闇の中から二点のライトが姿を現した。徐々に速度を下げ、電車がホームに停止する。
電車に乗り込み、扉のすぐ近くの手すりに捕まる。発車を知らせるけたたましい音がホームに響き渡り、電車の扉が閉まった。
乗り物が動き出すのを体で感じながら、鏡矢は肩につけていたインテリジェント・デバイスを手に取り操作する。
セーラがあらかた口頭で情報を教えてくれたが、能力者の現在地を見るなら送られてきたデータの中にあるマップを見た方が早い。指で画面を操作しながら、送られてきたデータの中からマップを探し、クリックする。
「……駅からそう遠くないな。大通りは流石に避けて移動しているみたいだ」
画面上のマップには赤く点滅した点が記されていた。それが時折マップの中を移動する。
「それにしても、どうやってターゲットの現在地をタイムリーで更新してるんだろうな?」
「推測ですが、持ち物か何かに発信機が付いているのではないかと。能力者専門学校は能力者の行動に注意を払っていますから」
「ああ、俺自身がよく知ってるよ。休日以外は学校から外に出させてもらえないからな。まあ、SCGに所属させられてからは大分規制が緩んだけど」
能力者専門学校は文字通り能力者のみを集めた学校だ。
能力者という存在が世間で認知されてから数十年。日本だけでなく世界中に能力者専門学校は設立されている。
そこに属している学生は殆どが学校の寮で生活をさせられている。消灯時間は十時、食事の時間も六時から八時と管理されていて、人によっては施設の整った刑務所のようだと発言する者もいる。
もちろん、能力の使用も厳しく取り締まられている。能力使用が許されるのは模擬戦や能力測定試験の時のみ。例外として学校を取り締まる教師陣とSCGに所属している生徒だけが能力発動許可を出されている。
しかし、設備はどの能力者専門学校も整っていて、不自由に感じる事は少ない。
「神崎はどうやって脱走したんだろうな? やっぱり軌道迷走を使ったのか?」
「おそらく。軌道迷走なら接近してくる警備員や教師人を近寄らせませんし、能力による攻撃の軌道も逸らせますから」
「だけど、なんでそんな行動に出たんだろう?」
「それは本人に聞いてみるのが一番早いでしょう。電車も、どうやら目的地に着きそうです」
気づけば駅を一つ越え、目的駅である瓦河駅が窓の外に見えてきていた。
◇ ◇ ◇
瓦河の景色は、先ほど鏡矢達がいた街、東原と特に変わりが無い。
背の高い建物に、アスファルトの道路、多くの人々、騒音に満ちた空間。
昔鏡矢が過ごしていた場所とは正反対の場所だ。
ふと昔いた場所の景色を思い出す。山に囲まれた村に透き通るような美しい川。竹やぶの中に立つ、趣のある屋敷――。
「昔の事を思い出していたのですか?」
不意に掛けられた言葉に、鏡矢は過去の回想を中断する。
「インテリジェント・デバイスの機能に、人の心理を読むという機能はなかった筈だけど」
「私が何年ご主人様に使えていると思っているのです? あなた様の表情を見ればすぐに分かります」
「……俺はそんなに分かりやすい奴か」
「はい。それでいて芯が強く、ぶれないあなただからこそ、私はあなたに仕えられる事を誇りに思うのです」
「……芯が強い、か」
セーラの言葉を反芻して、鏡矢は上を見上げる。
建物に囲まれたこの曇天の空の下、昔の自分の様に能力で苦しんでいる奴がいるのなら、助けてやりたい。
その思いを胸に、鏡矢はターゲットの元へと向かう。




