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SCGの魔眼使い  作者: 西城優
第一章
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幕開け

 西ノ宮グリーンパークに入ってから少し時間が経った。近くにあった時計塔へと視線を向けると、針は十二時を指していた。


「ここは遊園地のエリアと違って静かだね」

「はい。空気もおいしいし、なんだか穏やかな気持ちになれます」

 

 グリーンパークの代名詞とも言われているジェットコースター。そして外の景色を一望出来る巨大な観覧車の二つに乗った鏡矢達はグリーンパーク内の自然公園へと足を運んでいた。

 様々な乗り物が置かれていたエリアに比べると自然公園のエリアは人が少ない。喧騒とは程遠いその場所は、とても穏やかで過ごしやすい空間だった。

 夏の日差しは木々によって遮られ、時にそよそよと流れてくる風が心地いい。

 

「いい所だね。グリーンパークは絶叫マシーンが有名だと聞いていたから、こんな風に落ち着いた場所なんてないと思ってたよ」

「鏡矢さんは自然公園の事をご存知じゃなかったんですか?」

「ああ、グリーンパークに足を運ぼうと思った事がなかったから」

「……お気に召さなかったですか?」


 しゅんと顔を俯かせた神崎に、鏡矢は慌てて首を振る。


「いや、そういう意味で言ったわけじゃないよ。一緒に行くような相手がいなかったし、一人でこういう所に来るのもどうかと思っていたからさ。でも、神崎さんがそのきっかけを作ってくれたわけだ。感謝こそすれ、不満を口にするような事は何もないよ」

「そ、そうですか。それなら良かったです」


 ほっとしたように胸を撫で下ろす神崎。鏡矢はそんな様子を見て微笑を浮かべた。

 二人の間にあった妙な緊張感は時間が緩めてくれた。最初の方こそ神崎を意識し過ぎていた鏡矢だったが、今では自然と会話する事が出来ている。


「そろそろどこかで休憩しようか。歩き回ってばかりだったし」

「あそこなんてどうですか?」


 神崎が指さした場所は巨木の下だった。地面には黄緑色のふわふわとした芝生の生えている。

 神崎の提案に頷いて、鏡矢達は巨木の下へと歩みを進めた。


「ここで少し待ってて。何か飲み物を買ってくるよ」

「あ、それなら私が――」


 それ以上神崎の言葉を聞かず、鏡矢は近くの自動販売機へと駆け出した。

 インテリジェント・デバイスを自動販売機にかざすと自動販売機のボタンが点滅し始める。小銭を入れなくても、携帯端末に支払い機能が付いているためだ。

 鏡矢は最初にお茶のペットボトル。次に五百ミリ缶のオレンジジュースのボタンを押した。

 順番に音を立てて飲み物が落ちてくる。鏡矢はその二つを手にとって神崎の下へと向かった。


「お茶とオレンジジュース、どっちがいい?」

「じゃあ、オレンジジュースで」


 買ってきたオレンジジュースを神崎に渡し、鏡矢はキャップを開けてお茶を喉に流し込む。乾いていた喉が潤う爽快感を味わって、小さく息をついた。

 巨木へと背を預け、周りに視線を移す。自然公園内にはまばらに人の姿が見受けられた。


「あの、鏡矢さん。今日は一緒にグリーンパークに来てくださって、ありがとうございました!」


 神崎へと視線を向け、鏡矢は首を傾げる。


「どうしたんだ急に? お礼を言われるような事ではないと思うけど」

「い、いえ。SCGの任務などで忙しい筈なのに、こうして私のわがままに付き合わせてしまって……」


 鏡矢は神崎の言葉に首を横に振り、やがて苦笑を浮かべた。


「俺は好きでSCGに入ったわけではないし、忙しいからこそこういう息抜きは必要だと思っている。だから、これが例え神崎さんのわがままだったとしても、俺はとても助かっているんだよ」

「…………」

「まだまだ時間はあるし、せっかく来たんだから遠慮なんてしないで楽しもうよ。俺に気を遣う必要なんてないからさ」

「……はい」


 申し訳なさそうだった神崎の表情が、次第に笑みへと変わっていく。鏡矢はそれに安堵して、ペットボトルに口をつけた。


(さて、午後はどのアトラクションを巡ろうか)


 だが、鏡矢が午後どのように活動するかを思案しようとした瞬間、事件は起きた。

 近くにあった無人のベンチが、音を立てて爆発した。

 それは同時に、鏡矢を標的としている人間達の行動開始を意味していた。

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