能力者達の休日②
巨大な駅の中を数分歩いて外に出た鏡矢と神崎は、すぐ近くにあった喫茶店へと足を踏み入れた。
店員に案内され、二人座りの席へと案内される。横の窓から覗く景色からは駅からは巨大なショッピングモールが見えた。
鏡矢はカフェオレを、神崎はオレンジジュースを注文し、届けられた飲み物をストローで啜った。
「これからどこに行くかは決まったりしてる?」
ストローから口を離した鏡矢は神崎に行く先を尋ねる。
「鏡矢さんがよろしければ、一緒に西ノ宮グリーンパークに行きたいんですけど」
「グリーンパークか。話に聞いた事はあるけど、まだ一度も言った事がないな」
西ノ宮グリーンパークはこの近隣で最も巨大なレジャー施設だ。絶叫マシーンが多い事でも有名だが、注目すべきは敷地内の自然。敷地の半分は自然公園になっていて、カップルの憩いの場になっている。
絶叫マシーンが有名としか知らない鏡矢は、神崎に微笑みかける。
「神崎さんは絶叫マシーンが好きなんだね。俺もあの手の乗り物は好きだよ」
「じゃあ、一緒に行ってくれるんですか!」
「もちろん」
頷きながら大きめのコップに入れられたカフェオレをかき混ぜる。カランと氷同士がぶつかり、涼しげな音を響かせた。
「あ、ありがとうございます! まさか了承してもらえるとは思ってなかったので嬉しいです!」
「神崎さんの中の俺は、結構いじわるだったりするのかな?」
苦笑を浮かべながら言う鏡矢に、神崎はいえいえと首を振る。
「私の中の鏡矢さんはとても優しくて、頼りになる素敵な人です。いや、これは私の中だけの話ではなく、周りの人物から見てもそうじゃないかと思いますよ?」
「ほ、本人の目の前で言える君はすごいね」
神崎と視線が合わないように窓の外へと視線を向け、鏡矢は右手で頬を掻く。その仕草を、神崎はしばし見つめていた。
「ああ、順番がおかしくなっちゃったけど、どうして神崎さんは俺を誘ってくれたんだ? グリーンパークになら、同じ学校の友達とでも行けば良かったのに」
「あ、え、ええと、それはですね……」
さっきまで快活な調子だった神崎の言葉が急に淀んだ。持っていたオレンジジュースのコップをテーブルに置き、視線を下へと俯かせる。
「……もしかして、能力絡みで友達と何か問題があったりした?」
「いえ! 友達とは仲良くやってます! それもこれも鏡矢さんのおかげです!」
「う、うん、それならいいんだけど」
勢いに押され、鏡矢はそれ以上の追求を放棄する事にした。もし彼女に悩みがあったのだとしても、無理に聞き出すのは良くない事だと判断したからである。
だが実際の所、鏡矢の考えは的を外していたのだが。
しばしの沈黙。お互いに言葉もなく飲み物を啜っていると、神崎がゆっくりと視線を鏡矢へと向ける。その瞳は潤んでいて、熱っぽさの感じられるものだった。
「……たかったからです」
「ん? 今なんて?」
囁かれた言葉を聞き取れず、鏡矢は首を傾る。
神崎はワンピースの裾をきゅっと握り、恥ずかしそうに視線をわずかに下へと向けた。
「鏡矢さんと、一緒に行きたかったからです」
言われた言葉の意味が分からず、鏡矢は数秒間その言葉を頭の中で反芻する。
それがさっき神崎へと聞いた質問の返答だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。
◇ ◇ ◇
「イツキ。あれどう見てもカップルに見えるよね? 見えちゃったりするよね!?」
「瓜生。お前はもう少し落ち着け」
鏡矢、神崎の座席の近くに、村雨と瓜生は座っていた。気付かれないよう身を低くしているその姿は、傍を通りかかった店員の首を傾げさせる。
「関係ない話だけどよお。よくもまあ知り合って一日目の男を一緒に同行させてストーキングを決行しようという気になったよな」
「カガミンの友達は私の友達なの! それに、友情に日数なんて関係ない!」
「良い事言ってるように思えてくるけど、その結果がストーキングじゃ笑えないわ!」
瓜生と村雨が知り合ったのは、つい昨日の事だった。
何度か村雨と鏡矢が仲良くしているのを見ていた瓜生は、偶然廊下に居合わせた村雨に話掛け、友好関係を築いたのである。
(まさか知り合ってすぐこんな事に付き合わされるとは思わなかったぜ)
小さく溜息をつき、村雨は鏡矢達へと目を向ける。
「で、お前はストーキングなんかしてどうする気だよ? ただ見てるだけじゃ、結局何の意味もないんじゃねえ?」
「ふふん、心配ご無用だよ。いざとなったら二人の前に飛び出して昼ドラのような現場を構築するから!」
「解決策になってねえ!」
ノリでストーキングを引き受けてしまった(一緒に出かけようと言われて頷いた結果、瓜生に騙された)昨日の自分を恨みながら、村雨はもう一度溜息をついた。