能力者達の休日
土曜日を迎えた鏡矢は、待ち合わせ場所である西ノ宮へと向かっていた。
電車に揺られながら過ぎていく窓の外の景色を眺め、鏡矢は小さく溜息をつく。
「なんだか緊張するな。瓜生さんにデートとか言われたからか?」
「ご主人様は女性との交際経験がおありではありませんから、緊張してもおかしくないかと」
まるで独り言の様に呟かれた言葉だったが、鏡矢の二の腕付近に装着されているインテリジェント・デバイスが丁寧に返答する。
「……なんだか少し馬鹿にされたような感じがする」
「いえ。そんなつもりは全くありません。ただ、ご主人様がなぜ緊張するのかを考えた結果でございます」
傍から見れば一人で話しているように見えるにも関わらず、電車に乗っている人達は鏡矢の事を見もしない。それはただ単純に、インテリジェント・デバイスの普及によるものである。
インテリジェント・デバイスは世界的に普及している携帯端末だ。人工知能を搭載している上に、インターネットに接続可能、容量も従来の携帯端末と比べ物にならなくらい増えている。
よってたくさんの人々がインテリジェント・デバイスを使用するようになった。鏡矢の周りにこそ使っているものはいないが(便利さゆえに多少値が張るため)、この電車内にも何人かインテリジェント・デバイスを使っている人物の姿が見受けられる。
西ノ宮のホームへと電車が到着すると、扉が滑るように開かれた。人の流れに乗るようにして、鏡矢は電車から降りる。
ホームには大勢の人が降りてきた。ここ西ノ宮はレジャー施設や巨大なショッピングモールを有する都市で、休日になると学生やカップル、家族連れで大変賑わうのである。
近くにあった階段を上がって改札口を目指す。大きな駅ではあるが、改札口を探すのにそう時間は掛からなかった。
交通機関無料パスで改札をくぐる。待ち合わせ場所の改札口前は見渡して、鏡矢は会う約束をしている人物を見つけた。
白のワンピースに足の細さを強調するかのようなニーソックス、そして長く伸びた黒い髪。
「おーい、神崎さん」
オブジェの様な物が立っている場所に神崎はいた。鏡矢の声に顔をあげ、ぱあっと花が開いたかのような笑みを浮かべる。
「ごめん。早く来たつもりだったんだけど、待たせちゃったみたいだね」
時刻は九時二十分。待ち合わせの時刻よりもは四十分も早い。しかし、待たせてしまった事には変わりがないで鏡矢は申し訳ない気持ちになった。
「いえ、私もさっき来たばかりですから気にしないでください」
神崎は待たされた事を気にはしていないようだ。むしろ上機嫌な様子で、声も先週初めて会った時に比べれば弾んでいる。
「女の子を待たせてしまったんだ。せめて奢らせてくれないかな? それにここで立ち話もなんだし、どこか近くにあるお店にでも入ろうよ」
オブジェはどうやら待ち合わせ場所の目印として使われているらしく、多くの人がオブジェ付近に集まっている。その中から神崎をすんなり発見できたのは、彼女が一際輝いて見えたからだ。
鏡矢の提案に神崎は頷いた。
「そうですね。それでは行きましょうか!」
横に並んで二人一緒に歩く。その姿は傍からすれば若いカップルのようだった。
◇ ◇ ◇
そんな二人の後ろ姿を眺め、悔しそうな声を上げる人物が約一名。
「くぅううううう! あれが例の彼女候補か! すっごい可愛いじゃん! 奏ちゃん大ピンチだよおおおお!」
「……なあ、何で俺までお前のストーキングに付き合わされる事になってんだ?」
瓜生に向かって疑問をぶつけたのは村雨樹だ。黒のジーンズに水色のシャツという夏に合う清潔感のある服装である。
対して瓜生はフリルのスカートを着用している。端正な顔立ちと相まって、通り過ぎる際に幾人もの人物が瓜生へと視線を向けていた。
「理由なんて単純だよ。カガミンのお嫁さん候補がどんな子か確かめるために決まってるじゃん!」
「だから、それになんで俺が同行させられてるかって聞いてんだよ! しかも何だよお嫁さんって」
「イツキはカガミンの親友でしょ? 親友がどんな女の子とデートしてるか気にならないの!? それに昨日まではノリノリだったじゃん!」
「そ、それはそうだけどよお」
「はい、じゃあ異存なしって事で! カガミン追跡作戦開始!」
「人の話を聞けえ!」
鏡矢、神崎ペアの消えた方へと走り出す瓜生。ツッコミながらも、村雨は瓜生を追いかけた。




