第32話 社会勉強
遥は刀の鑑定が出た日は何も手がつかなかった。プリシラと行ってきた渋谷ダンジョンの報告書を書こうと思ったが刀が気になりすぎて手が動かなかった。その日はおっぱいを揉まれている間も刀のことで頭がいっぱいだった。
翌日になってようやく落ち着いたので報告書に手をつけた。刀の他にも風魔法のスキルオーブもあるが刀に比べれば大したことはない。
遥が書類仕事をしているためプリシラは折笠と一緒にいる。検査を終えて研究所にあるダンジョンでハイキングだ。研究所のダンジョンはプリシラが使うようになってからは一般に解放されていないのでほぼプリシラ専用である。
午後になって書類仕事を終えた遥とハイキングから返ってきたプリシラに探索者協会から人が来ていた。内容はダンジョンから取ってきた素材の査定が終わったとのこと。二人が応接室で査定額一覧を見た。合計金額に遥は驚いて聞き返した。
「あの………これ…6億?」
「すこしサービスしましてちょうど6億ですね」
「ナンデロクオクナンデスカ?」
完全に棒読みになってしまう遥。協会の女性職員は構わず理由を述べた。
「ランク4のキュアポーションが今凄く高騰してるんですよ。あと魔石もですね。元々最下層ボスの魔石は高価ですね。他にも下層の素材は高値で取引されます。いくつか武器があったのも理由の一つですね」
言われてみればそうだなと納得する遥。思い出すと確かに武器もいくつかドロップしたのだ。プリシラも遥も使わない武器だったため普通に買取に出した。その結果が八億である。
「プリシラ………八億だけどいい?」
「………高いのかよくわからない」
「…そうよね。まあ………とにかく凄く高値で取引されるわ。副会長に借りた分のお金を返してあとはプリシラの口座に入れてもらうわね?」
「………じゃあ半分は寄付して。スタンピードの災害復興に使うようにしてもらって」
「え? 寄付するの?」
「………スタンピードが起きた時の被害は大きい。それで足しになるなら使って貰えば良い」
「……わかったわ。じゃあ本人がそういうので半分は自治体に寄付してください」
「わかりました。そのように手配しておきます」
タブレットに打ち込み記録していく職員。振り込みの手続きをして作業を終えるとプリシラが一言追加したいと言った。
「何とつけましょう?」
「………”私腹を肥やさないように”と入れておいて」
「ブッフ! ……わかりました」
女性職員が噴き出した。予想外の内容に驚いたのだ。すぐに咳払いをしてタブレットに入力していく。他に何かないかを確認し終えてから職員は帰っていった。
「とりあえず金銭感覚を身につけることが必要なのはわかったわ」
「………私もそう思う」
「手っ取り早く買い物がいいかしらね。渋谷ダンジョンの周りにあったショッピングモールみたいなところがいいかしら。折笠さんにも相談してみるわ」
「………わかった。それと一つ聞きたい」
「ん~?」
プリシラはわからないことが多いからか自分のやりたいこと以外は受身なことが多い。社会勉強について要求があると遥は思っていたのだが予想外の内容だった。
「………パーティメンバーを募集するにはどうしたらいいの?」
「…ダンジョンに潜るパーティメンバーのことでいいのよね?」
「………うん」
「う~ん…いくつかあるんだけど……プリシラの場合大変なことになりそうなのよね。探索者協会で募集ってなると何万人も来そうなのよね」
「………そんなに来るの? でも今はどんな方法があるか知りたいだけだから人数はいい」
そう言われて遥はいくつか説明した。探索者協会で募集、もしくは野良のパーティ募集に入って勧誘、募集しているパーティやクランに自分から行くこと。他にも紹介してもらうなどを話した。インターネットを使った方法もあるがプリシラが理解できるかわからなかったためそれは省いた。他には今”お誘い”が来ている企業にやってもらうなどがあると話した。
「こんなところかしらね~。どれもこれもプリシラの場合は大変よ。絶対取り合いになるもの。ていうかもう取り合いになってるもの」
「………今はそれで十分」
「わかったわ。じゃあ私は折笠さんに相談してくるわ。プリシラは今日はどうするの?」
「………ジョブの資料を読む。まだ全部読めてない」
互いのやることを確認し、プリシラは部屋に戻り遥は折笠の元へと向かった。
遥と折笠の相談の結果、渋谷など人が多い都会のショッピングモールではなく田舎のショッピングモールが良いのではないかということになった。人が多いと落ち着いて見られないだろうという判断だ。スーパーなども考えたが田舎のショッピングモールならそういうものもある。向かうのに時間はかかるが道中も車の中で話しながらゆっくり出来る。
問題はマスコミだがカモフラージュで先に何台か出て別方向に行ってもらうことになった。手伝うのは研究所の職員。仕事という名のマスコミをおちょくる仕事ということでノリノリで手伝ってくれた。
翌日、研究所から車で1時間半ほどの場所にあるショッピングモールにプリシラと遥がいた。幸いにもマスコミは大半を撒けたようで二組だけだった。さらに遥とよく話すことがある記者だった。むしろよく当てたなと感心したくらいである。当日になって時間差と別の目的地で他の人物を出すという二段構えだったのにも関わらずである。
「本当によく気づきましたよね」
「遥さんの取材に命かけてますので」
「私は運が良かっただけです」
「ストーカーはやめてくださいね。あとプリシラは極度の男性嫌いなのでストーカーさんは近づかないでください。あと、私たちの邪魔は絶対にしないでください」
「ストーカーじゃありません。邪魔はしません」
「遠くから見るだけにします」
ストーカーが混ざっていたが気にせずにプリシラを連れてショッピングモールにあるスーパーのほうへ歩いていく。プリシラはガントレット無しのダンジョンに潜る時のいつもの格好で遥は自衛隊の制服だ。プリシラは髪色もあって遠くから見ればコスプレイヤーでしかない。遥は女性警察官に間違えられるだろう。見方によっては女性警察官にしょっ引かれているコスプレイヤーだ。
こんな二人が目立たないわけはなく注目の的である。幸い平日の午前中ということで見ているのは大半は店員である。
遥は今回のショッピングモールでの社会勉強を楽しみにしていた。プリシラの服と一緒に自分の服も買ってしまおうと考えていたのだ。ここは有名ブランドの服屋がある。最近買えてなかった服を買うには良い機会だった。そしてプリシラというファンタジーの世界にしかいないエルフを着せ替え人形にできるのが楽しみだった。
(今日はついでに楽しむわよ~♪)
楽しむ気満々だが、それは叶わないのだ。これからプリシラが引き起こすことによって………。
スーパーで食材の類を見ていた時はプリシラはおとなしく値段を見ていた。そして億という単位がいかに高額かを理解していた。順調に行っていると思っていたがそれは簡単に崩れ去る。
スーパーでのちょっとした買い物を終えて二階に向かおうとしていた時だった。
「じゃあ食品とか生活用品とかは終わったから次は服とか見に行きましょうか。値段とかどんなのがあるかとかね。試しに着ることもできるから着てみると良いわ」
「………わかった」
次の内容を話して歩いていたのだが、遥はエスカレーターに乗る前に振り返った。そこにはプリシラはいなかった。
「え?」
振り返ると誰もおらず遠くに記者が見えただけだった。二人とも困惑している様子だ。
「ど………どこ行ったのよーーーーー!」
◇
プリシラは遥に付いていかずに神速で別の場所に移動していた。エスカレーターに乗る前にとある案内看板を見つけたのだ。その看板はアリスバーガーの看板だった。矢印方向が示されており向かっていた。つい最近食べたあのハンバーガーをまた食べたくて仕方なかったのだ。
脳内ではララベルが焦っていた。
(ちょっとプリ! ダメだよ勝手に動いちゃ!)
(アリスバーガーの看板があった。きっとこっちにある)
(あとで遥と来ればいいでしょ!)
(食べたい)
(もー!)
こうなったプリシラは止まらない。目的に一直線になったらもう止められないとララベルはわかっている。あとでどうやって遥に謝ろうか考えるのだった。
そしてアリスバーガーの店舗まで来た。店内はピーク前の平日なため数人いるくらいだった。だがそこへプリシラという今一番世間を騒がせているエルフが来れば店内の数人たちは視線を奪われた。
プリシラは歩いてカウンターへと向かう。女性店員はいきなり現れたプリシラに驚いて口が開いたままだった。目の前にプリシラが来て慌てたように声を上げる。
「い…いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」
プリシラはカウンターにあるメニューを眺めて前に食べたものを探すがあれが一体なんだったのかを知らないことに気づいた。ただ美味しかったということしか覚えてなかったのだ。
喋らないプリシラに困る女性店員。焦りながらオススメのセットメニューを指差した。
「こちらのセットとナゲットの組み合わせがオススメですよ…」
「………じゃあそれにする」
言われるがままに了承するプリシラ。オススメは照り焼き風味のハンバーガーにポテトと飲み物と5つ入りのナゲットだ。飲み物はお任せすると支払いをする。つい先ほどもやった流れなのでカードを使いスムーズに支払いをした。
「こちらの番号札をお持ちになってお待ちください」
女性店員が1番の番号札をプリシラに渡す。普通ならここで番号札を持ってカウンターから離れるのだがプリシラは一向に離れなかった。
「あ…あの~……」
「………これを持って待ってる」
「あ…あちらのお席にお掛けになってお待ちください~……」
手で空いている席を示されたので番号札を持って移動し着席して待つ。きっとここで待っていれば持ってきてくれるだろうと店内を見渡しながら待っていると予想通り店員が持ってきた。
「お待たせしました~」
「………ありがとう」
店員にお礼を言って付属のおしぼりで手を拭いてさっそくハンバーガーの包みを剥がしていくプリシラ。勢いよく齧り付く。
(これも美味しい)
(前のよりは野菜が多そうだからさっぱり食べられそうかなぁ)
(シャキシャキした野菜とソースが良い)
諦めたララベルに感想を言いながら食べ続ける。時にはポテトを食べて飲み物に口をつけて食べているとナゲットに目がいった。まだ食べていないと思い手に取り口に運んだ。
(これは………肉)
(空いてない小さい箱があるよ。味が薄いんならそれが何か関係あるんじゃない? ていうかソースって書いてあるよ)
ララベルの言う通りソースと書いてありソースが入っているであろう小さな箱が置いてあった。手に取るがどうやって開ければいいのか二人にはわからなかった。ソースと書いてある面を見ても裏を見てもどうすればいいのかわからないプリシラとララベル。
(…ナイフがいる?)
(この世界便利なのがいっぱいだから道具なしで開けられるんじゃない?)
(最悪風魔法で………)
(最悪それだね~)
店員に聞くと言う選択肢はない二人。だがプリシラを見ていた先ほどの女性店員が歩いてきてソースを開けて食べ方を教えてくれたのだった。お礼を言ってさっそくナゲットにソースをつけて食べる。
(これも凄く美味しい)
(それソースが美味しいんじゃない?)
ララベルのツッコミを無視して夢中で食事を続けるプリシラ。
プリシラが夢中になっている中、店内にいかつい派手なスーツを着崩したガラの悪い男性が二人入店してきた。片手にはビール缶を持っている。カウンターに向かって歩いていると彼らはプリシラを発見した。
「お! こんなところに噂の美人エルフがいるじゃねぇか! ヒューついてるぜ!」
「マジ美人っすね兄貴!」
「一緒に遊びにいくか! いくぞ!」
「うっす!」
すでに酔っ払っている二人はプリシラをナンパしにいく。テレビでもネットでもプリシラの強さは大々的に扱われていて誰もが実力を知っているはずだった。特に自衛隊との模擬戦は衝撃だった。しかし二人はあれを信じていなかった。酔っていることもあり自分の欲を満たすことしか考えていない。
「よーエルフのネーちゃん。俺たちと遊びに行こうぜ! 楽しいところに連れてってやるからよ!」
「気持ち良くなれるぜぇ~!」
下品な言葉をプリシラに浴びせる二人の男。店員は不安な眼差しで見ている。店員の一人は警察に連絡しようと後ろに下がっていった。
一方、男二人に声をかけられたプリシラはハンバーガーに夢中だった。意図して男二人を無視しているのではない。ハンバーガーに夢中で気づいていなかったのもあるがとるに足らない相手だというのもある。
「おいおい無視はひどいんじゃねぇかネーちゃんよ。傷つくぜ」
「いいから行こうぜー!」
それでもまったく気づかないプリシラ。プリシラにとってアリスバーガーはそれほど衝撃的な味だったのだ。ハンバーガーを一度置いてナゲットを食べ始めた。
男たちはさらに無視されたことに激昂した。
「いい加減にしろよオラァ!」
怒鳴りながらプリシラの前にあるテーブルを蹴り飛ばした。当然テーブルの上に置いてあったハンバーガーも一緒に飛んでいき床の上に落ちてしまった。それを見てプリシラは固まってしまった。
「おーいネーちゃんよ。許して欲しけりゃ股開きな」
「おとなしくしておいた方が身のためだぜぇ」
自分に声をかけられていることに気づき、大事なハンバーガーを台無しにされたことにプリシラは激怒した。次の瞬間、男たちに顔を向けると店内はプリシラの殺気に包まれた。




